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【和風NL】忌み鬼に嫁いで山に登ります  作者: 夕凪 瓊紗.com
遥かな山脈

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24/40

【24】魂の記憶



――――side:鳴砂


力なく崩れ落ちた村長はゆっくりと口を開く。


「社の奥、祭主の子飼いの鬼たちが守る地下への扉の向こう……そこが儀式の場です。どうか……躑躅を」

「言われなくとも!」

あそこには雛や一華も囚われているんだ。


俺たちは社に辿り着く。


「案の定鍵が……」

「任せてくれ!」

紅鳶は氷雨と眼を合わせると、2人で同時に体当たりをして扉をぶち破る。


「目的地は社の奥だったな」


「ええ!でも奥と言っても……」

「分かるよ、三雲さん」

「鳴砂……?」

「鬼の本能が方角を示してくれる」

スッと指を示せば。


「私もです」

「そうだね」

椿さんと紅鳶が示した方角も同じ。


「氷雨、お前もか」

「……まぁ、そうだ」

相変わらず素直じゃないが、これで疑いようもない。


「行くぞ」

「ええ!」

奥へと走れば鬼たちが侵入者を排除しようとするが、紅鳶や氷雨たちがみねうちにしていく。


「コイツらここに転がしておくんでいいの?」

「ああ、氷雨くん。そこら辺は手配が済んでる」

手配って何だよ、完次さん。

そして奥の扉の番をしていた鬼たちが何事かと身構える。


「ここは私が行くわ!女鬼だからってナメられちゃぁ困るのよ!」

三雲さんが刀を抜く。


「では私も」

椿さんは短刀を抜く。


「す……鈴弥」

鬼のひとりがそう呟く。


「申し訳ありませんが……」

椿さんはドゴンと短剣の柄で鬼の頬を殴る。


「あなたのことは覚えておりませんので」

この期に及んでその名を呼んだとて、生け贄になる彼女を扉の向こうに通したのはこの鬼だろう。フラれるのも当然の報いだろうな。


俺たちは地下へと続く扉をぶち破り階段を下る。


「岩の扉……っ」

これは刀では破れないぞ。


「任せて」

氷雨が腕を捲る。そして勢いよく。


「崩れろ!」

ズドオォンッと拳をぶつければ、岩が崩れていく。


「ほんとヤバイねー、氷雨くん。さすがは猛獣が逃げていくだけのことはある」

「それはそうだけど、早く先に進むわよ!完次さん!」

「了解、三雲殿」

こうして俺たちは辿り着いたのだ。忌まわしき儀式の場。雛たちが囚われている場所へ。


※※※


――――side:雛


儀式の場に鳴砂たちが乱入する。既に律華さんの姿はないが、鳴砂たちが来てくれたのなら百人力である。


「さぁ、雛たちを返してもらうぞ!」

「くそ……あれを連れてこい!」

祭主が命じると、鬼のひとりが連れてきたのは。


「花ちゃん!」

「花!」

蛍さんとほぼ同時に悲鳴を上げる。


「このガキがどうなってもいいのか」


「なんてことを!」

三雲さんが憤る。


「子どもを人質にだなんて、ひとの心がないのか!」

鳴砂が叫ぶ。

「ふん……これも村のためだ」

祭主がほくそ笑む……が、その時。

氷雨さんの前にまたふわりと白い髪が舞う。その顔面は穢れに覆われて見えないが。


「な、何だお前は!」

「律華」

脅える祭主に対し、氷雨さんは冷静にその名を呼ぶ。氷雨さんも知っているの……?


「うわあぁぁぁっ!」

その時祭主や花ちゃんを人質に取る鬼たちの肌を、着物を穢れが蛇のように駆け巡る。


「チャンスだ!」

氷雨さんが叫ぶ。

「ああ!」

その隙に鳴砂とお兄ちゃんが鬼を突き飛ばし、三雲さんと椿さんが花ちゃんを取り戻す。

氷雨さんは祭主をぶっ飛ばし、完次さんが素早く取り押さえた。


鎮命山の儀に臨んできた彼らが穢れを恐れるはずなどなかった。


「ちょ……何なのよ!こうなったらアイツらを!」

鶯がこちらに目を向けるが、鶯も穢れに纏われ悲鳴を上げる。


「大人しくしてもらおうか」

「ひ……っ」

鶯の首に氷雨さんの手がかかる。


「完次さん、コイツら取り敢えず縛るぞ!」

「オーケー。縄なら準備万端さ!」

祭主や鬼たちは縛られ鳴砂たちが私たちの縄を解いてくれる。


「無事で良かったわ」

「三雲さま……」

躑躅さんは申し訳なさそうに三雲さんを見る。


「雛、怪我は?」

「大丈夫だよ、鳴砂」


「しかし……お前何でそんな姿なわけ?」

氷雨さんが不機嫌そうに一華を見る。

「私にも原因が……」

その時、律華さんが私の傍らにそっと腰を下ろす。


「そっか……浄化だ」

律華さんはそれを望んでいる。


「律華さん」

律華さんの両頬に手を添えれば、その理由を教えてくれるように肌が白く戻っていく。


「そっか……怨鬼になれなかった魂は、ずっと浄化を望んでいたんだね」

律華さんがこくんと頷く。


「律華さまは怨鬼となり、魂を浄化できぬまま、私たち巫女が封じ長い時間をかけてゆっくりと薄めて来たのです」

「だから似た境遇の彼女たちを助けようと……?」

それを肯定するように律華さんは微笑むと、すうっと姿が一華に溶けていく。

一華はすっかりもとの白い髪に戻っていた。


「律華さまにも同調するものがあったのでしょうね」

だからこそ身を呈して私たちを助けてくれたのか。


「まるで奇跡のようだ」

「そうんじゃないかしら、完次さん」

「三雲殿……」

そして2人の視線はもうひとつの奇跡に注がれる。


「椿さん」

「蛍さま」

椿さんは膝を付くとゆっくりと蛍さんを抱き締めた。


「椿……さん」

蛍さんが驚きながら呟く。

「蛍さま。私には記憶がありません。蛍さまが大切に思っていた鈴弥さまの記憶が」

涙ながらに告げるその言葉は震えている。

「……それは」

「だけれど覚えている。あなたが何より大切だったことを、私は覚えてる」

椿さんは蛍さんの首筋に深く、深く涙をうずめる。


「ああ……俺もだよ。忘れることなんて出来ないんだ」

蛍さんはそっと抱擁を解くと優しく微笑む。


「たとえこの世から鈴弥が消えたとしても……俺はまた、椿さんに……椿に恋をする」


「ええ……ええ。私もです。記憶を失っても、怨鬼となったって、何度だって……何度だって」

2人は再び固く抱き締め合う。そんな光景に花ちゃんは涙を流し、お兄ちゃんがあやしてやっている。


「そんな……そんな嘘よ……記憶を失えば、鈴弥のことなんて……」

鶯がわなわなと震える。


「忘れねえよ。忘れるはずなんてねえんだよ」

鳴砂が語調を強める。

「俺たちはそれを……何度も見送ってきた」

「そうよ。そうして何度も、何度だって愛するの」

鳴砂と三雲さん……2人の忌み鬼の言葉に鶯が崩れ落ちる。


「私は間違っていたのね」

躑躅さんが項垂れる。

「私も……記憶を忘れても何度だってもうこの世にいない夫に恋をし続ける」

「躑躅さま」

椿さんが躑躅さんの前に立つ。


「まだあなたに大切な方の記憶があるのなら。どうか忘れないであげてください」

「椿さん……あなたから記憶を奪ってしまったのは私よ!」

「躑躅さまのせいではありません。それでも自身に責任を感じるのなら、どうか忘れないで。あなたが忘れてしまったら、あなたの大切な方はきっと悲しむから。私は記憶を失っても蛍さまが覚えていてくださったから……だからとても幸せなのですよ」

「うう……ああ……ごめんなさい……ごめんなさい」

躑躅さんは椿さんに抱き締められながら涙を大粒のように溢した。


「お前も……」

「氷雨さま?」

一華が氷雨さんを見上げる。

「忘れたくはないのか」

「ええ、大切なお兄さまの記憶ですもの」

「愚かしい……本当に愚かしい」

「それでも私はあなたがいるから生きていくのです。この記憶を持って生きていくのです」

そう……みんな、生きていかねばならない。


※※※


夜が白む中、軍服の集団が鬼たちを連行していく。その中には商人に見た顔がいた気がするのだが。


「完次さん、いつの間に潜入させていたんだよ」

鳴砂が苦笑する。もしかして完次さんはこの近辺に待機させていたのだろうか?そうなれば……完次さんって本当にただの憲兵なのかと言う疑問が過るが。それに後ろ楯のない蛍さんを憲兵隊にまで推挙した……?

うーん……何だかそれ以上の側面を持っているとも考えられてしまう。


「私たちはもう、怨鬼を無理矢理作ることはいたしません」

村長が頭を下げる。


「我々が間違っていたことを後世にも伝えていく予定です」

「ええ、そうしてちょうだい」

三雲さんが頷く。

花ちゃんや花ちゃんの両親にも度々感謝され、三雲さんはまた来年も来ると手を振っていた。


そうして私たちは村を後にし、山を越えまた北部の街に戻ってきた。


「そうだ、帰ったら手合わせしなさいよ。氷雨」

「はぁ?まだやる気?」

「当然よ」

街で少し休息をとる間、氷雨さんは三雲さんと手合わせをし、私たちはお茶を差し入れる。


「三雲さん、強いなぁ」

「ええ。だからこそ北部の女鬼たちも強いのですね」

一華が感心したように告げる。思えば椿さんも。


ふと見れば、仲良さげに微笑み合う椿さんと蛍さんの姿を見る。


「2人が幸せになれるといいな」

「ええ。今回の件、ご両親も荷担したとはいえ花ちゃんを人質にとられてのこと。ほかの村人たちも祭主一族に逆らえなかったのでしょう」

「でもこれからは……」

「悪は去った……そう見なしていいでしょう」

村を離れる際、泣いていたのは蛍さんのご両親だけではなかった。

そのひとたちは何となく、椿さんに面立ちが似ていた。


「私はここにお世話になることになって」

そう語ったのは躑躅さんだ。

「三雲さまに誘われて……。来年は私も鎮命山に同行しようと思ってる」

「はい。私たちも登ります。だからまた会いましょう」

「ええ、雛ちゃん。一華ちゃん」

そうしてひとときの休息を終えれば三雲さんたちに別れを告げ、都に戻った。


――――そして暫くすると蛍さんと椿さんが結婚すると言う知らせが届き、鳴砂たちと喜んだのは言うまでもない。


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