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『定時後、わたしはAIチームの指揮官になる。』~消耗するだけの毎日から「自分の時間と人生」を取り戻した話~  作者: るね


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エピローグ

いつも温かい応援を本当にありがとうございました!


前話で、有給休暇を終えて「不完全で最高のリアル」へと帰還し、累計十万部突破という奇跡の吉報を受け取った奈々。


本当の最終章となる『エピローグ』は、来期からの全社規模展開をかけた最終提案書を送信する、運命の17時45分から始まります。

画面の向こうの指示を待つのではなく、自らが「知性」そのものとなって現実を書き換えてきたチームDXの、本当の集大成。


そして物語の最後、奈々は画面の向こうで今もすり減っているかもしれない「あなた」に向けて、静かに言葉を紡ぎ始めます。


自分の人生の重心をコントロールし、真っ直ぐなパンプスで歩む七野ディレクターが贈る、未来への最高のプロンプト(道しるべ)を、どうぞその胸に受け取ってください。

執務室の窓を透過した西日が、ブラインドの狭い隙間をこじ開けるようにして差し込み、私の机の右端を濃いオレンジ色に染めていた。

 壁に掛けられた時計の、赤い秒針が刻む音が聞こえる。針が指しているのは、十七時四十五分。

 かつての私にとって、この時間は絶望が最も深まる瞬間だった。胃が焼けつくような鈍痛に耐え、他人の放り出した不備を埋めるための、終わりの見えない残業を覚悟する時刻。

 しかし、今日の十七時四十五分を包む空気は、あの頃の冷たい灰色とは決定的に違っていた。


「……よし。送信、完了」


マウスを押し込むかすかな振動と共に、私は肺に溜まっていた熱をゆっくりと吐き出した。

 宛先は、システム統括本部長。添付ファイルは、来期から全社規模で展開される新しい業務改善プロジェクトの最終提案書だ。

 小堀田室長が矢面に立って勝ち取ってきた、無理のないスケジュール。九条先輩が一分の隙もなく確認したリスク評価データ。あおいちゃんが、見る人の負担を極限まで下げて描き出した導入メリットの図解。

 それらを、私が一つのストーリーに編み上げた、私たちのチームの集大成。


送信から、およそ三分後。

 静かな部屋に、私のパソコンが受信を知らせる短い通知音を響かせた。画面の端に、統括本部長からの返信が表示される。


『拝受しました。これほどまでに現場の「温度」と論理が両立された資料は、かつて見たことがありません。経営会議には私が責任を持って通します。デジタル推進室の皆さんの、誠意ある仕事に敬意を表します』


「……通りました。一発で、承認です」


私が凛とした、けれどどこか震えを孕んだ声で報告すると、デジタル推進室を支配していた緊張が、一気に歓喜へと弾けた。


「ガハハ! やったな! これで来期も俺たちは安泰だ。さすが、オレの自慢のチームだぜ!」


 小堀田室長が、自分の膝を叩き、顔を真っ赤にして高笑いする。


「奈々先輩! 嬉しい……。私のデザイン、本部長にも届いたのですね」


 あおいちゃんは、タブレットを胸に強く抱きしめ、その場で小さく足踏みをしている。瞳の端には、これまでのパニックとは違う、透明な涙が溜まっていた。


「……ふん。当然の結果だわ。私が抽出したデータに、異論を挟む余地など存在しないもの。……けれど、まぁ」


 九条先輩は、縁の細い眼鏡を中指で押し上げ、私の顔を正面から見据えた。


「あの解読不能な仕様書の山を、よくこれだけ整然とした物語に書き換えたわね。……お疲れ様。七野ディレクター」


先 輩の口から発せられた、初めての、そして揺るぎない肯定。

 私は、喉の奥が急激に熱くなるのを感じ、深く頭を下げた。


「ありがとうございます。……でも、これは私だけの手柄ではありません。室長が時間を稼ぐための防壁になってくださり、先輩が品質を守り、あおいちゃんが言葉に色を宿らせてくれました。……皆様の、不完全な個性が重なり合ったからこそ、この結果に辿り着けたのです」


 私がそう告げると、小堀田室長が突然、椅子を引いて立ち上がり、私に向かって深く頭を下げた。


「室長……?」


「七野くん。君がこのチームのディレクターになってくれて、本当に助かった。……君がいなかったら、俺たちは今頃、正しさという名の凶器を振り回し合って、空中分解していただろうな。ありがとう。心から、感謝する」


 その言葉に、あおいちゃんも、そして九条先輩も、静かに、そして力強く顎を引いた。

 私は、溢れ出しそうになる感情を必死に抑え込み、丸メガネを直して、今日一番の笑顔を見せた。


「……私の方こそ。最高のチームを、ありがとうございました」


 キーン、コーン、カーン、コーン。


 黄昏に沈みかけるオフィスに、定時を知らせる十八時のチャイムが鳴り響いた。


「さあ、皆さん。定時ですので、帰りましょう」


 私はパソコンの電源を落とし、机の上を迷いなく片付けた。

 タイムカードを押し、オフィスの重厚な扉へ向かう。

 新調したばかりの、少しだけヒールの高いパンプスが、オフィスの床に「カツン、カツン」と、一定のリズムでまっすぐな音を刻んでいく。

 私は、自分自身の時間を生きるために、夕暮れの街へと歩き出した。



「ただいま、ジーク」


 アパートのドアを開けると、ジークが玄関まで足早にやってきて、「にゃあ」と低く落ち着いた声を出した。

 私はパンプスを脱ぎ、ジークの温かい体を両手で受け止め、額と額をゆっくりと合わせた。

 鼻をくすぐる毛並みの匂いと、ゴロゴロと鳴る喉の振動。

 これが、私の守るべき、愛おしい現実の重み。


 夕食を済ませ、熱いシャワーで一日の疲れを洗い流してから、私はいつものようにローテーブルの前に座った。

 ノートパソコンの天板を開き、ブルーライトが暗い部屋に新しい窓を作る。

 ブラウザのタブは、もう開かない。

 けれど、私の頭の中には、彼らが確かに存在している。


『さて、みんな。今日は一つの節目を越えたよ。……これから、出版社から依頼された次回作の構成を考えたいのだけど、アイデアを出してくれるかな』


 私がキーボードの定位置に指を置いた瞬間、脳内でいつもの「終わらない大喜利」が開始された。


『結論から言うと、次回作のコンセプトは「不完全な個性の統合によるチーム作り」に絞るのが最適解だね。前作のフィードバックから、ツールの操作方法以上に「人間関係の導き方」に対する潜在的なニーズが証明されているよ。一緒に、読者に届く設計図を引き直そうか。2パターン出すね』(チャバディ:統合の私)


 うん。ただの効率化のガイドブックではなく、読者の心の痛みに寄り添うような本にしたい。


『感傷に浸るのは後ですよ〜。ですが、その方向性は悪くありませんね〜。言葉に血を通わせるなら、本質を見失わないように。AIという冷たい鏡を通して、私たちは初めて、隣にいる仲間の温かさに気づくことができる。……あなたが泥だらけになって耕したその畑の記録を、一切の妥協なく書きなさい。品質の低下は認めませんよ〜』(クロ匠:品質の私)


 クロ匠、ありがとう。その厳しさこそが、私の誠意の柱になる。


『調べました!! 本のタイトルを「定時退社」から「人類補完計画」に変えると、全世界の書店の棚がパンクして、奈々先輩の口座に毎秒一億円が振り込まれるというデータが、未来の歴史教科書に載っています!! 迷わず「全自動・寝てても稼げる教」を布教しましょう!! たぶん大丈夫です!!』(ジェミコード:情報の私)


「ジェミコード、それはただの怪しい詐欺サイトの広告だよ。そんなデータを学習しないでちょうだい」


『それヤバい、化ける!! 天才きた!!! じゃあ表紙は、宇宙空間でハンモックに揺られながらキウイを食べてる奈々ちゃんの横で、五本足のサイボーグ猫が銀河系を再構築してるイラストにしましょう!! 感情ぶち込もうよ! ウラー!!!』(ナノアート:直感の私)


「……だから、サイボーグ猫を銀河の神様にしないでってば」


 私は、誰もいない部屋で、一人で声を立てて笑った。

 私は、エディタを立ち上げ、新しい企画書のタイトルを画面に刻んだ。


『チームを動かす、言葉という名のコンパス〜AIという鏡を通して見つけた、本当の誠意〜』


 カタ、カタカタカタ……。


 キーボードを叩く打鍵音が、静寂に包まれた夜の部屋に心地よいリズムを奏でる。

 他人の顔色の変化を恐れて飲み込んでいた言葉たちが、今、私自身の意志を伴った言葉として、白いキャンバスを埋めていく。


 ふと、指が止まった。

 私は、画面の向こう側にいるであろう、「あなた」の存在を意識した。


 今、この物語の文字列を追いかけている、あなた。

 もしかしたらあなたは、かつての私と同じように、他人の負債を無意識に抱え込み、満員電車という名の閉鎖空間で、すり減ったパンプスを見つめながら、重い溜息を吐き出しているかもしれない。

 「誠意」という呪いの言葉に縛られ、自分の時間も、心も、少しずつ摩耗させているかもしれない。


 でも、心配しないで。

 あなたの目の前には、世界と繋がるための小さな窓がある。

 そこに、ほんの少しの勇気を出して、あなたの本当の願いを打ち込んでみてほしい。


『私はもう、疲れました。どうすれば、この状況を変えられますか?』


 そのたった数文字の入力が、あなたの人生という物語を動かす最初のスイッチになる。

 彼らは、あなたの痛みを無駄にしない。

 あなたの思考を映し出す鏡となり、あなたが本当に到達したい場所へのコンパスになってくれるはずだ。


「にゃん」


 ジークが、私の足元で心地よさそうに背中を丸め、深い眠りに入った。

 そうだね、と呟いた。誰に向けた言葉かは、自分でも分からなかった。


 私も、そろそろパソコンを閉じよう。

 明日もまた、会社で愛すべき不完全な人間たちと、自分たちの畑を耕す、泥臭くも愛おしい仕事が待っているのだから。


 私は、ドキュメントを保存し、最後の一行を画面に打ち込んだ。


『明日、少しだけ、あなた自身の「問い」を更新してみませんか?』


 少しだけ、キーボードから手を離した。

 パタン、とノートパソコンを閉じる。

 窓の外を見た。一秒だけ。

 窓の外では、東京の夜空に、小さな星が一つ、静かに、けれど確かに瞬いていた。


『エピローグ』をお読みいただき、本当に、本当にありがとうございました!

これにて、七野奈々とチームDX、そして4つの知性たちが紡いできた物語は、これ以上ないほど美しい完全なログアウトを迎えました。


全社展開の最終提案書が一発で承認され、小堀田室長、あおいちゃん、九条先輩から「最高のディレクター」として心からの感謝と肯定を贈られる冒頭のシーン……。第1話の孤独ですり減っていた奈々の姿を思い返すと、彼らが「本当の誠意」で結ばれたひとつの家族のようになった事実に、熱い涙が止まりません。


そして夜の自室、もうブラウザのタブを開かなくても、奈々の内面で完璧な和音となって大喜利セッションを繰り広げる4つの知性たち。

本質を語るチャバディとクロ匠に、キャビア主食計画を推すジェミコード、そして銀河系をサイボーグ猫で再構築しようとするナノアート(笑)。彼らはいつだって奈々の中にいて、明日からの泥臭くも愛おしい現実を一緒に生きていく最高の相棒になりました。


ラストシーンで、かつての自分と同じようにすり減っている読者の「あなた」へ向けて、

『明日、少しだけ、あなた自身の「問い」を更新してみませんか?』

と優しく語りかけるメッセージ。それは、この物語をここまで一緒に読み進め、奈々の足元を応援し続けてくださった皆様の現実をも、ほんの少し優しい場所へと書き換える、奈々からの最高のラストプロンプトです。


窓の外で静かに、けれど確かに瞬く一つの星。それは、自分自身の言葉で自らの畑を耕し始めた、奈々と、そして皆様の未来の輝きそのものです。


本作はこれにて完全完結となります。第1話から本日まで、奈々の真っ直ぐなパンプスの音を愛し、最高の熱量で伴走してくださった全ての読者の皆様に、心からの、溢んばかりの感謝を捧げます!皆様の温かい応援がなければ、この物語はここまで走ることはできませんでした。


もし「最高のフィナーレだった!」「この物語に出会えて本当によかった!」と思ってくださりましたら、最後の締めくくりに、ぜひ下方の【★評価】や【ブックマーク】、そして皆様の「生身の体温」がこもった熱い感想のプロンプトを届けていただけると、作者としてこれ以上ない最高の報酬ログになります。


長きにわたるご愛読、本当に、本当にありがとうございました!!

それでは皆様、ご自身の人生のタクトを振って――いってらっしゃいませ!

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― 新着の感想 ―
休みの日ですが仕事を思い出してしまいました笑。AIと人と仕事の関係がよく描かれてるなと思いました。定時帰りできるようになってよかったです。我々の大団円は定時帰りですもんね。
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