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第6.5話3人の試練②ジェイド編

大吾が経験したやり直しのジェイド編です。

彼女は幼少の頃から人の気持ちが分かってしまうタイプでしたが、夢の中で出てきた両親に従いそっと隠してしまいます。

いつの間にかそんな夢のことなんか忘れて天真爛漫に精霊と戯れる彼女に鬼の影が忍び寄る――。

(心配しなくていいよ、ジェイル…何になろうとも君が君であることには変わらないよ)

 マジでやめろーその言葉をそれ以上言うな、俺は鬼だぞ!恐怖が大好きな鬼だ!そうだろ?俺は…俺は…涙が出てくる

「でも待てよ、ふふ、まだ諦めるのはまだ早い、末っ子がいたな」

 こうして鬼は、ジェイドがいる空間へと移動した。


 ***

 ーージェイド視点ーー

 大吾のお兄ちゃんは霊界に行ってしまったあの日ー。

 どうしてもあの時のお兄ちゃんが【何か別のもの】がどうしても拭えなかった。


 連絡が来て元気そうと思ってもまだなにかありそうな、まだなにか隠していそうなあの目はどうしても忘れられない私。

 そんなときに、スローンさんが現れた。最初は冷たそうでどこか人間味のない人だと思ったけれど、健堂お兄ちゃんのスローンお姉さんの一言で印象ががらりと変わった。


 そして私も心の奥底では大吾お兄ちゃんを守りたいけどどうして彼は避けるの!?その思いでいっぱいだった。

 そんなときに、大吾お兄ちゃん一人では勝てないという話を聞き、これならすぐお兄ちゃんと合流しても大丈夫そうかなと思いきや、スローンさんの言葉がささる。


「自分自身しっかりと向き合いなさい」

 その言葉の意味がどうしてもピンとこなかった。


 そして霊界の門をくぐると、スローンさんの姿はいつの間にか消え、もう一人の巫女の姿をした完全に雰囲気が私なもう一人の自分がいた。そして容赦なく私に語りかけてきた。

「あなたは人の本当の気持ちを読み取ることができるのに、なぜそれに怯えているの?」

「え…そんな力は私にはありません

 私は精霊さんとーー。」

 そう、私は精霊が大好きでいつも精霊さんと一緒に遊んで島の至る所を探検するのが大好きだった。

 そしてそれをいつも大吾お兄ちゃんに聞かせていたっけ。

 もう一人の自分は変なことを言い出す。そんな人の気持ちが読めるならこれほどまでに苦労することはないじゃない。

「それはあなたの思い込みです。

 あの時からあなたは怯え封じてきたーーこの家のしきたりだと思いこむことで

 さあ、本当の自分を思い出して行きなさいーーそうでないとあなたの兄たちを本当の意味で救うことはできません」

「それってどういうーー。」

 どことなく突きつけてくるもう一人の私。あの日がなんのことだかわからないまま、私はもう一人の自分に押され、ワープゲートの中へくぐった。


 ーー千のお面にて

「健堂、お前が当てた福引でゲームするぞ!…ん?健堂??」

「……。って兄貴、今日何曜だっけ?」

「土曜日だ…まて」

 大吾は健堂を再度抱きしめた。

(お前は何を見たかわからない、けどお前が不安なのはわかるーほんの少しだけ気分を切り替えて楽しもう)

 大吾は健堂に志の布を見せる。

「あ、、兄貴…」

「ほら、ジェイド起こしてこい」

「わかったよ」


「ジェイド、起きてるか」

「おはよう、健堂お兄ちゃん」

 私はいつものようにお兄ちゃんに挨拶をする。

 すると頭の中から健堂お兄ちゃんの声でーー

(ああ、なんで昨日はクラスメート2人が亡くなるところを見たんだよーーまじで勘弁してほしいーーでも、兄貴は違うよな…俺も将来あんなふうになりたい、あの布見てるとなんか落ち着く)


 待って、【これは何?】


「ほら、ジェイドゲーム10時間コースだ!」

「わーい、お兄ちゃんたちとゲームだ!!」

 健堂お兄ちゃんは、昨日福引で大人気のゲーム機とゲームソフトを当てて返ってきた。もう手に入れられないから半分諦めていたけどすごく嬉しかった。あのときの健堂お兄ちゃんの目は輝いていた。

 ゲームもいいところまで進み3人で仲良くしていたら、大吾お兄ちゃんと健堂お兄ちゃんの声が私の頭の中に響いてきた。

(やばっ、俺明日友達の漫画返しに行かないと)

(やっぱ昨日の出来事って忘れたほうがいいよな、どうやったら忘れられるんやろーーああ、教えてくれるツールとかないかな)

 目ではゲームの画面に集中しているのにこの2人が考えていることはゲームとは全く別のことだった。この頃の私は泣き虫でなにかあったらすぐ泣いていた。

 そして涙が勝手に溢れてきた

「うぅ…うぇぇぇぇぇぇぇん」

 すると2人のお兄ちゃんはコントローラーを置いて私の方へよってくる。

「ジェイド」

「ジェイド」

 見るとゲームオーバーの文字が虚しく表示されていた。

「お前また妹泣かせたな」

「俺じゃないって!兄貴こそ心当たりあるんじゃないのか?」

「言ったな」

 そうこうしているうちに、祖父が遊んでいる部屋まで上がってきて。

「ん?どうしたジェイド…またお兄ちゃんたちにやられたのか」

「違うの…あのね…おじいちゃん…今…ゲームしてたんだけどね…お兄ちゃんたち…別のこと考えてた…」

 そう言ったら、おじいちゃんは何を察したかよくわからなかったけど、すぐに大吾お兄ちゃんと健堂お兄ちゃんを別の部屋に連れて行った。



「全くお前たちと来たら!いつも言ってるだろ!ちゃんと集中しなさいと!!

 どうせゲームしているときに別のことを考えて心ここにあらずだったんだろ?

 まったく、お前たちは流されたい人間になりたいのか!仮面一族はそんなもんには流されない!!いいな!ジェイドを見習いなさい!!!」

「はい…」

「はい…」

「わかったなら、ゲームに一点集中しなさい!!その間は他のことは一切考えるな」

 こうしてしばらくすると大吾のお兄ちゃんたちが戻ってきた。

「ごめんな、ジェイド、俺完全に他のこと考えてたわ、せっかくゲーム楽しんでたのに、楽しみたかったんだよな、雰囲気壊してごめん」

「ごめん、ジェイド俺も別のこと考えてた。せっかくゲームしているのに本当にごめん、さあもう1戦やるか」

「うん」


 ──その夜の夢の中──

「ジェイド……」

 優しい声が聞こえる。お父さん? お母さん?

「お父さんお母さんからお願いよ。あなたは他人の気持ちをすぐに読み取ってしまうわ。とてもお利口さんだけど、この先お友達にいっぱい嫌われちゃうわ」

 お父さんとお母さんの姿が見える。でも、どこかぼんやりしていて──輪郭がはっきりしない。

「そんなことはしてはいけないよ、いい子だからいうことを聞いてね」

 私は頷いた。お父さんとお母さんが言うなら、きっと正しいんだ。

「わかった、お父さん──お母さん──」

 でも、目が覚める直前──一瞬だけ、その姿が歪んで見えた気がした。

 まるで、何かが人の形を真似ているような──。

(気のせい……だよね)


 ──そして翌朝、日曜日──

「おじいちゃん、昨日夢の中でお父さんお母さんが出てきて、人に嫌われるからやめなさいって言われたから、ジェイドいい子だからはいって答えちゃった」

 お父さんとお母さんの面影は薄っすらとしか覚えていなかったが、雰囲気がそれに非常に似ていた。

 するとおじいちゃんはものすごく青ざめていた。

「ジェイド…それはーー」

 おじいちゃんが何かを言おうとしたけど、なぜか聞き取れなかった。私は朝ごはんを食べに台所へそのまま向かった。大吾お兄ちゃんと健堂お兄ちゃんがすでにいた。

 そして──昨日まで聞こえてきた頭の中の声が、一切しなくなった。

 私はこれで内心ホッとしていた。いつもの私じゃない、そう思えてきた。


 ***

 その日の午後──


 私たちお兄ちゃんたちと近所の川へ遊びに行った。すると、あの水の精霊がいた。

「うわぁ、かわいい!お名前はなんていうの?」

「水の精霊って滅多にみれない存在じゃーー」

「見ろ、俺らその水の精霊に囲まれてる」

「うわぁーたくさんいる~」

 私たちはたくさんの精霊たちに囲まれていた。でもその精霊たちはどこか悲しそうな表情をしていた。今にも涙を流しそうなそのつぶらな瞳ー。

 頭の奥で聞こえてくる精霊の声。

「ジェイドーどうしてー親のいうことをーきいたの」

「あれはー君のー両親じゃない」

「君がーそのことをー思い出すまでー」

「本当の自分をー取り戻すまでー僕らはやってきた」

 この頭の中の声は、どうやら私だけではなかったみたい。後で話を聞いてみたら大吾お兄ちゃんや健堂お兄ちゃんにも聞こえていたらしい。しかも内容も違っていたみたい。

「大吾ー全部背負い込むのをやめるまでー」

「健堂ー己の本当の能力に気づくまでー」

 そしてふと目線を精霊の方にやると、その精霊さんたちは消えていた。しかし心にはどこか温かいものが澄み渡っていた。



 ***

(え!?私ってそういう能力持っていたの!?これが仮に両親からの思いを振り切ってそのままあったとしたらあの時のお兄ちゃんはーー)

 そう思っていると画面がぱっと切り替わった。幼少の頃から大きくなった自分が映し出されていた。気がついたら、私は水の精霊を抱いていた。


「ジェイド…大吾に…僕の目を…向けて」

 私は精霊さんの言う通りに、水の精霊を抱っこした状態でお兄ちゃんの方に目を向けた。

 すると、目の前の空間が歪み──まるでスクリーンのように、映像が映し出され、私もその中に溶け込んでいた。


 あの地下施設だ。私がお兄ちゃんの裏の顔を知った、あの──。大吾お兄ちゃんが、独り言のように呟いている。


『もうすぐ悲願の達成だ──やっとだ、やっとこれで答えが知れる』

 その声と重なるように、別の声が聞こえてきた。まるでお兄ちゃんの心の奥底から響いてくるような──。

 《いいぞ、大吾!そうだとも、お前の知りたい答えは全て霊界にある。もうお前は何もしなくてもいい! 辛ければ降りればいいのだよ!理解しようともしない弟と妹のことなんてほっとけばいい、この辛さは──私が理解している》


(ぇ……お兄ちゃんの中に、もう1人いる!?)

 映像の中のお兄ちゃんは、外見は変わらない。でも、その目には活力がなく、まるで全てを投げ出しているかのような──以前のお兄ちゃんとは違う目をしていた。

 それはあの地下施設で、精霊を私から取り上げたときに見たお兄ちゃん。別の何かが混じった存在に、あまりにも酷似していた。


(あの時のお兄ちゃんは、もう──)


「ジェイド…大吾に…声を…今なら…まだ」

 精霊さんたちが今日はいつもに増して指示を出してくる。いつもならカワイイ鳴き声しか聞いていないのにー自分が情けなくなってくる。あの子達はいつも私を見守ってくれてただけじゃない、思い出してほしかったー。


「待って!お兄ちゃん!!」

「ん…?ジェイド…?」

 感覚は現実に声をかけるのではなくて、その心の奥底に声を掛けるといった感じだった。お兄ちゃんは振り向いてくれた。

「本当に、お兄ちゃんの欲しいものは霊界にしかないの!?私たちと過ごした楽しい時間全部忘れちゃったの!?

 霊界には何もないんだよ!!お兄ちゃんわかってるの!!!」


 すると、何かに妨害されたようにーーあの禍々しい声が聞こえてきた。

「誰だ、邪魔するのは!ほう、仮面一族にも私と同じ能力を持っている者がいるとはーーしかし甘いな、もうこいつは俺の餌だ!お前も見ただろ?

 この兄貴の顔をーー」

「…っ!!」

 私は、この顔を2度も見た。一度目はあの時のお兄ちゃんが仮面を完成させたとき、そして2度目は今ーー。

 どうして、どうしてこうも私の思いは届かないのだろうかー。


「大吾…こいつはまがい物の妹だ!こんな薄っぺらい言葉に乗せられるお前じゃないだろう?」

 この大吾ではない別の何かは、お兄ちゃんに追い打ちをかけるように言葉巧みに操ろうとしていた。そしてその言葉が言い終わる前に、お兄ちゃんの何かが壊れていく音がした。

「ああ、そうだな…お前のいうとおりだ、ここに妹のジェイドがいるわけがない

 お前は誰だ?俺の邪魔をするな」

 こうしてお兄ちゃんの声は聞こえなくなり、お兄ちゃんと別物の何かは姿を消していた。


「どうして…なぜ信じてくれないの…」

「ジェイド…悪くない…」

「ごめんね…いつも楽しく遊んでいるのに…こんな不甲斐ない私で…ごめんね

「もう嫌だよ…こんなの…」

「ジェイド…それは…違う」


 精霊の声が聞こえる。でも、私にはもう何も響いてこない。


 ──その時。暗闇の奥で、何かが蠢いた。

 ジェイドの背後、彼女が気づかない闇の中で、影が形を成していく。鬼だ。


 《末っ子はこの娘だな……いい味出してる》

 鬼は、ジェイドの絶望に満ちた表情を見て、口元を歪めた。


 《こう身内から突き放された恐怖の顔をしている。長男や次男よりいいじゃないか、最高のご馳走だよ》

 一歩、また一歩と、鬼はジェイドに近づいていく。彼女は全く気づいていない。

 《よくあるよな、長男や次男よりかは末っ子のほうが一番ひどい。もう最高のシチュエーションだ、たんまりいただくか》

 しかし、鬼は気づいた。次男に化けて大吾を操る手口は、この娘には通用しないだろう。ならば──

 鬼の視線が、ジェイドのそばにいる精霊に向けられた。

 ──そうだ、あれを使えばいい。


(ジェイドは、まだ何も気づかない)


「ジェイド…それは……違わない…君は……中途半端だ…がっかりだ」

 精霊さんの声が、いつもと違う。途切れ途切れで、まるで何かに引っ張られているような──。


「…っ!!ぇ?」

 精霊さんの目が、一瞬だけ私を見た。その目は──助けを求めているような。

 でも次の瞬間、精霊さんはまた別の言葉を紡ぐ。

「見損なった…もう君は……必要ない…別の人……探す」

 精霊さんはトコトコと歩いて、真っ暗な空間へと姿を消していった。

 私には全く聞こえなかった──精霊さんの本当の叫びが。

『いいや…違う…ジェイド…鬼が…助けて…!』

『この鬼…出ていけ! ジェイド…ジェイド…!!』

 精霊は必死に抵抗していた。でも、鬼に取り憑かれた体は、精霊の意志に従わない。

 ジェイドに届かない叫び。

 精霊の姿が闇に消えた後も、その叫びは暗闇の中で響き続けていた──誰にも聞こえることなく。


 ***

「なんか、もうどうでもいいや、笑うのも怖がるのも何するのも面倒になってきた」

 私の感情が消えていく。音を立てて被っていた仮面が崩れていった。

 そのまま私は目をつむり、どうにでもなれという思いが先行して、全てを投げ出してしまった。全てをやめた──。そこにあったのは、なにもない空間。

 昔聞いたことがある。こういうのを「無」っていうんだったかな。それに近い状態になってしまった。


 ***

 ──その時、鬼は愕然とした。

 《おい、何だよこの娘は! 本当に感情を放棄しただと!!》

 鬼が叫ぶ。獲物であるはずのジェイドから、恐怖の感情が完全に消えた。

 《どこにいった、ご馳走が! 俺のご馳走が!!》

 笑うのをやめるところまでは予想通りだった。しかし──

 《怖がるのも止めたのかよ!! 人間ってそんな感じじゃないよな? 嫌なものだけ止めるんじゃなかったのかよ!!》

 鬼の計算が狂った。恐怖を糧とする鬼にとって、感情そのものを放棄した人間は──何の価値もない。

 《ご都合主義って聞いてたのに、もうこの仮面三兄弟なんなんだよ!!》

 《ぐあああああああああああああっ!!》

 鬼の叫びは、虚空に消えていった。


 ***

「……」

 ジェイドは、何も聞こえていない。

「……」

 何も始まらない、そして何も終わらないー。

 もうどれくらいの時間が経ったかなんて本当にどうでもよくなった。

 私はその暗闇をじっと見つめていた。

 そしたら奥の方からーー私が忘れていたものが溢れ出した。

 その光に吸い寄せられるように奥へ…また奥へと進んでいった。

 いつの間にか、私は精霊たちに囲まれていた。

 水の精霊を始め、見たことのない精霊たちが一同に集結していた。

 先程の空間とは逆にものすごく温かいそんな空間に私はいた。

 その精霊たちは浮かび上がり、人の形を成して行った。


「ジェイド、私たちからあなたにお願いがあります。

 あなたは決して中途半端ではありません、そのような言葉に惑わされないでください。

 あなたには、人の本質を見抜き、その穢を祓う力があります。でもあなたは、人からの言葉に反応しすぎて自分から封じ込めてしまったのです。

 今のあなたは全てを壊してしまいました。空っぽの人形みたいなものです。でもあなたはここでは終わる人間ではないと信じています。

 それはあなた自身がよくわかっていることです。空っぽになってしまえはそこで終わりではありません、新しく始めればいいのです」

「新しく…始める?」


 この人の言葉がどこか温かく、どこか重みがある。まるでずっと私たちを見守ってきたようなーそんな感じ。

 そのお姉さんの話はまだ続いていた。

 そして衝撃的な事実をつきつけられることになる。


「私は皆さんの心の奥底にいます──いえ、正確には、かつてそこにいました」

 精霊のお姉さんの声は、温かくて優しい。

「人は成長するにつれて、いろんな仮面をつけていきます。『強くあらねば』『弱みを見せてはいけない』『人に嫌われないように』──そうやって、本当の自分を隠していくのです」

 私は聞き入っていた。


「そうすると、心の奥底にいた本当の自分──純粋だった頃の自分は、どんどん忘れられていきます。私たち精霊は、その『忘れられた本当の自分』の声なのです」

「忘れられた……本当の自分……?」

「そう。だから私は、あなたでもあり、大吾でもあり、健堂でもあるのです。皆さん一人一人の中に、忘れられた純粋な心があるから」

 精霊のお姉さんが微笑む。


「さあ、目を瞑って。そして思い出して──あなたが仮面をつける前の、本当のあなたを」

 私は言われた通り目を瞑った。心も何もかも全部放棄したのに心の奥底から熱いものが込み上げてくる。楽しかった兄たちとの思い出、精霊さんたちとの思い出、その中から温かい言葉が私に声をかけてきた。


「ジェイド、ありがとう助かった!お前のお陰で問題が解決したよ」

「ジェイド、いあ~ありがとう!振られて良かったわあの女最悪やったわ」

「ジェイド…好き♡…ジェイド…みんなを…助けてる」

「お兄ちゃん…精霊さん…みんな…」

「わかったらお行きなさい、そしてこのことを伝えるのですそれが唯一の救いへの道です」

 そして向かっている途中、もう少しで出口のワープゲートに辿り着く寸前──


 私の頭の中に、別の映像が流れ込んできた。

(これは……誰かの記憶?)

 ***

 ──ジェイドが見た、ジェイルの記憶──

 何もない草原に、一人の少年が立っていた。

 幼い顔には涙の跡。震える肩。そして──絶望に満ちた目。


 そこへ、声が聞こえてくる。優しそうで、でもどこか冷たい声。

 《やあ、家を追い出されたんだって? ひどい親もいるもんだ》

 少年は顔を上げる。でも、誰もいない。

 《大好きな兄にも助けてもらえなかった、一人ぼっちか? 可哀想に》

「…誰?」

 少年が震える声で問いかける。

 《ねぇ、僕と一緒に遊ぼうよ。楽しい世界に連れて行ってあげる》

 その声に誘われるように、少年の目から光が消えていく──

 でも同時に、別の声も聞こえてきた。少年の心の奥底から、必死に叫ぶ声が。

『やめろ、俺はまだ兄貴といたい!! 兄貴だけが…兄貴だけが味方なんだ!』

(これが……)

 私は息を呑んだ。この少年が、あの鬼になったの?

 この子から何かが失われそして鬼へと変貌しゲートにくぐっていった。しかしこの声は最後の叫びが聞こえてきた。

(誰か聞いてたらお願いーー助けてーー僕は、ジェイルだよ)

 この胸の痛い声、鬼に成り果ててもなお諦めのない純粋な心。

 今さきほど味わったあの絶望感そのものだった。しかし物語はこれで終わらなかった。

「ジェイル!…ワープゲート…まさか…」

 家族の誰かなのか、ワープゲートの前に落ちている布を見て、握りしめて泣いていた。

(ん?志!?)

「ジェイル…ごめんよ…お父さんお母さんから秘密に抜け出して探しに来たけど…遅かった…こんな兄を許してくれ、ジェイル…!!!」

(今兄と言ったならあの子はこの子の弟になる)

 兄に視線を映すとどことなく大吾お兄ちゃんと健堂お兄ちゃんを足して2で掛けたような容姿─

 この志の布は紛れもなく大吾お兄ちゃんが持っていたものと同じ布であることがわかった。あの温かさはこの時から続いていたものだったと。

 そして次になにをすべきなのかもわかってしまった。

「あの子もあの子で兄のもとに戻りたかった…鬼に成り果ててまでも届かなかった思いーー絶対に助け出すわ」

 そう誓って私はワープゲートを後にした。

 するとスローンさんともう一人の私が立っていた。

「こちらからの働きかけも全く応じなかったーーあの空間は私にもわかりませんが、ともあれあなたは自分の能力を思い出しました」

「ほんと危なっかしい兄妹だわ」

 私は健堂お兄ちゃんとも合流し、大吾お兄ちゃんのいるもとへ駆けつけた。


 ***

 ーージェイル視点ーー

「もうあの三兄弟と来たら、俺の力が…!!!!!!ない!!嘘だろ…!!!」

 でも、よく考えてみれば恐怖の感情なんて欲しくはなくなっていた。

 あれだけ渇望して意志の力ではどうにもならなかったものがいつの間にか消えていた。

「もしかして、俺…人間に…戻れる!?」

 容姿はまだ鬼なままだけど、奥底で何かが変わっていくのを感じていた。温かい何かーー。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

実はジェイドの設定には苦労しました。

健堂はすっと決まったけどどうしよう、どうしようと悩んでいたら、健堂とは真逆の方法で鬼を取っ払う方法になりました。

次はいよいよ本編に戻ります。

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