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第6章

途中先にこのあと上げる6.5話の①と②を読むと流れがスムーズに理解できると思います。

というのも、ここの全部入れ込もうとしたら文字数がとんでもないことになってしまうので

分けました。


「まさか、このタイミングであの連中が出てくるとは想定外だわ」

「あの連中は一体何を企んでいるのだ?」


 兄妹に連絡をつけてから、俺はスローンが管理する実験室にいた。 それにしてもあの連中──

 ジョーンズたち黒塗りの組織は、ゼロポイントで何をしようとしているのか全く見えてこない。


 一番気になるところは、鬼から人間に戻る過程を気にしている点だ。確かに人間から鬼になる話はごまんとある。

 しかし、その逆は俺もこの目では初めてみた。


「もし今から言う仮説が正しければの話ー霊界自体の存在が危うくなるわね」


 スローンはとある仮説について述べた。


「ここはね、霊界なのよ。霊界は思った以上に自由が効く。 もし連中がそれを狙っているのだとしたらー」


 俺はハッとした。思った以上に自由が効くならー俺なら間違いなく自分の好きなようにする。


「この世界自体を欲するはずよ。 人間の世界には、思った通りにはならないし、争いは耐えない。

 なにか行動してもその結果を得るには時間がかかる。

 うまく行ったとしてもどこかうまく行かない不安定要素があるわね


 ーしかし、霊界はそうじゃない」


 俺は迂闊だった。ここが霊界だということを忘れていた。霊界は、現実よりも思った以上のことができる。極端な話だが、一流の人間になりたいと思った時点でもうその姿になっている。


 しかし現実では、一流の人間には血の滲むような努力が必要なのは火を見るより明らかだ。


「あなたの助けたい衝動もわかるわ、今のままじゃただ敗北するだけでは済まないわ…それでもあなたは行きたいんでしょうけど」


 スローンは俺の気持ちをすでに見透かしていた。 ただ最初は鬼についてはただの昔話とかそういった類のものだと思っていたが、堕ちてはじめて鬼は誰のそばにもいることが痛いほどわかる。 まるで餌をぶら下げこまねいているかのように。


「改めて聞くわ、それでもあなたは本当に行くの?」

「ああ。このまま見殺しにはできないなーどんな事実を突きつけられようとも」

「そういうと思ったわ、じゃあ武器を持たないと、ちょっと待っててすぐ戻るわ」


 スローンはそう言うと、どこかへ出かけてしまった。 ワープゲートを使ったところをみるとまさかとは思うが現実世界へいったのだと思われる。


 俺はしばらく暇になった。

 暇つぶしになるようなものがないのと、この止められた映像の続きを見たいと思ったが操作方法がわからない。

 普通なら再生、停止ボタンは世界共通だと思っていたが全然違っていた。


 長い間沈黙だけがそこにあった。


 ***


 ーースローン視点ーー


 一方、スローンは現実世界783の鬼の島にワープしていた。


「大吾にはああいったけど、彼には自分でも気づいていない懸念点が1つあるわね」


 私は大吾が兄妹たちに見守っててくれと連絡したときどこか違和感を感じていた。なんとなく兄妹たちを巻き込みたくないのはわかるけれど、不安要素の一つでもあるのかしら。


「まあ、彼なら大丈夫でしょ」


 そう自分に言い聞かせ思考を切り替えた。 武器を提供するにも彼だけでは無理だと判断し、策を練ったら結局他の兄妹たちをここにつれてくることが一番確実で終止符も打ちやすい。


 しかし、ただ連れてくるだけじゃ霊界で喧嘩になるだけだもの。 しっかり自分に向き合わせないとねー


「彼の体格からして持てそうなのは剣あたりかしら。まああのお兄さんとそろえるのもいいけど……いえ、それはダメね」


 霊界での出来事は、現実世界の過去に影響を及ぼす。もし大吾が一族の武器を持って現れたら、あの兄は【未来の一族の誰か】だと気づくかもしれない。


 そうなれば歴史的改変が起こる。 ある程度の改変は許容範囲だけれど、変えすぎると現実世界全体が歪む。

 このバランスがイマイチ難しいのよね……。


 私がそう考えていると、誰かに声をかけられた。

 見たら一発でわかったわ。大吾の弟と妹ねー。


「あの、大丈夫ですか?その、お姉さん」


 この男ときたら私のことを、(え?今私のことをお姉さんっていった?)

 なかなかやるじゃない。

  そういうのは嫌いではないわ。

 誰だって一度はそう思われたいでしょ。

 特に年を取ったら余計に。いつからかしらね、年をとると特に小さいガキからはおばちゃんって言われるし、おばちゃんって言われたら行動もおばちゃんになってくるから実に腹ただしいわ。


「私のことはスローンでいいわ、ええとー」

「俺は健堂、こっちがジェイドだ」

「あら、イケメンの健堂はどうしてそんなに顔が冴えないのかしらね」

「え?そういうふうに見える?」


 見えるに決まってるじゃない、なぜなら私は霊界から来たのだから。

 あの阿修羅像の大吾よりかは洗練されているわ。そうでないとだてにゼロポイントを長きに渡って守護してないもの。


「…大吾…あなたのお兄さんのことでしょう?」

「なぜ、兄貴のことを…」

「そしてあなたはあなたでどうしようもない絶望的な状況をシミュレーションし続けているってところかしら」

「(スローン心読みすぎ)ぇ…」

「そして今心読みすぎって思ったでしょ?

 まあいいわ、話は簡潔にしましょう。

 率直に言ってあなたたちのお兄さんにサポートするためについてきてくれる?」

「それは霊界に行くってことですか?しかしー俺らは行く手立てがありません

 そして兄貴のことは確かに助けたいですが見守れと言われここの時間も止まっているはずです」

「大吾のことは任せなさい、それに大吾一人で勝てる相手じゃないわ」

「それはどういう…」

「それは霊界に行ってちゃんと話し合ったらわかるわ、霊界に行く手立てなら私がもってる、安全に送り届けるから心配しないで」

  「俺らも兄貴を助けられるんですか?」

「それはあなた達が変わるかで話は変わってくるわね」


 こうして健堂とジェイドは、私の指示通りに霊界につれてくることができた。


 でもまずは、自分自身しっかりと向き合いなさい。

 真っ白なゲートにうっすら映る2人とそしてもう一人の自分が影でそびえ立っていた。


 ***


 ーー大吾視点ーー


「おまたせ~戻ったわよ」


 霊界は時間の経過が今ひとつよくわからない。表現しようがないから遅いか速いかすらもわからなかった。

 しかし俺は時間がかかると思っていたが、想像以上の速さでスローンが見慣れた2人を連れてきていた。

 して俺は彼らを呼んだー


「健堂!ジェイド!」

「兄貴!」

「お兄ちゃん!」


 久しぶりの兄妹の再会だ。 霊界に行ってから話したいことがたくさんあった。


 しかし一つだけ違ったのは、俺から見る健堂のどことなく遠慮して何も言い出せない雰囲気と、ジェイドのどことない不安な様子が、完全に消えていたことだ。


 それを見て俺も悟った。


(ああ……彼らもあの試練を乗り越えてきたのか)


(第6.5話①②に続く)


 俺が霊界で自分の内面──阿修羅像の姿をした、もう一人の俺と向き合ったように。

 健堂とジェイドもまた、自分自身の何かと対峙してきたのだろう。

 健堂の目には、以前のような迷いはない。ジェイドの表情には、確かな決意が宿っている。

 輝く目が、不安を払拭していた。


 これなら──これなら勝てるかもしれない。


 


「感動の再会で悪いところだけど、それぞれやってもらいたいことがあるわ」


 スローンがそう言うと、背後のテーブルに三組の武器と仮面が現れた。

 一組目は、剣と縄。 二組目は、錫杖とアミュレット。 そして三組目は── 水晶と─ (……スマホ!?)


 俺は目を疑った。剣や錫杖はわかる。

 しかしスマホが武器とは一体どういうことだ。


「まず大吾には、剣と縄ね」


 スローンが説明を始める。

 剣を手に取ると、透き通るような白さが俺の手に馴染んだ。

 この形──どこかで見たことがある。仏教の……不動明王? 

 いや、違う。俺が何か言おうとした瞬間、スローンが目配せで制した。


(言うな、ということか)


「剣で悪い心をぶった切って、縄で強引に魂をキャッチする。シンプルだけど、あなたには一番合ってるわ」


「次にジェイドには、精霊を召喚するための錫杖とアミュレットを用意したわ。

 この精霊たちが貴女の思いに応じて力を貸してくれるはずよ」


 ジェイドが錫杖を受け取る。アミュレットが淡い光を放った。


 となると──

(このスマホは健堂が持つのかよ……)

 俺は隣を見た。

 健堂も同じことを考えていたのか、すでに泣きそうな顔をしていた。


「で最後に健堂、あなたはスマホと水晶ね。そんなに泣かないで」


 スローンが笑みを浮かべる。健堂は本気で泣いていた。


「このスマホはあなたのシミュレーションを客観的に分析してくれる、良き相棒となるわ。

  聞くけど、あなたがなぜ毎回毎回同じようなシミュレーション結果が出るのか気づいているかしら?」


 健堂の表情が変わった。


「……まさか」

「そう。あなたのシミュレーションは、あなた自身の恐怖と不安が作り出した未来なのよ。客観的な分析ではなく、主観的な予測──いえ、予言の自己成就ね

 せっかくの能力も感情が入るとズレるのよ、己を徹底的にコントロールしなさい」


 健堂は息を呑んだ。


「…ぁ、そういうことか」


 俺にも健堂の問題が見えてきた。

 彼は未来を予測できるが、その予測には彼自身の感情が混ざっている。

 だから最悪の未来ばかりが見えてしまう。


「このスマホは、あなたの感情を排除して純粋にデータだけを分析してくれる。そして水晶は──」


 スローンが水晶を健堂に手渡す。


「あなたに応じた武器を提供してくれるし、ちょっとばかり冷静に感情をコントロールしてくれるわよ。

 それにあなたが本当に客観的に分析ができたら──それはお楽しみってことで」


 それにしても、このスローンには非の打ち所がない。言うことなすこと全てに反論できないのだ。


 武器が揃い、スローンは思っていもいないことを行ってきた。

 見るからに透き通りどこまでも透明な武器だけでも威厳と心の底がどこからか燃えてくる炎のように何か〝思い〟が伝わってくる


「仕上げはこれからよ」


 武器が揃い、スローンは思ってもいないことを言ってきた。 俺たちは顔を見合わせた。


「今からちょっと瞑想して、この武器にありったけの思いを込めなさい。

 武器はただの道具じゃない。 あなたたちの意志が宿って初めて、本当の力を発揮するの」


 見れば、透き通りどこまでも透明なこの武器からは、すでに威厳のようなものが感じられる。心の底からどこからか燃えてくる炎のように、何か〝思い〟が伝わってくる。


「目を閉じて。そして、あなたが何のために戦うのか──誰のために戦うのかを、武器に語りかけなさい」


 俺たちは目を閉じた。 静寂の中、確かな息吹だけがそこにあった。


(俺は……俺自身のために。そしてジェイドと健堂のために)


 大吾は剣を握りしめる。


(俺は……俺自身のために。そして兄貴とジェイドのために)


 健堂はスマホと水晶を手に取る。


(私は……私自身のために。そして健堂お兄ちゃんと大吾お兄ちゃんのために)


 ジェイドは錫杖を胸に抱く。


 それぞれがそれぞれの思いを込める。 特に何ら変化は見えない。しかし、武器を握った瞬間──温かい、何者にも負けぬ思いが伝わってくるのがはっきりとわかった。


「さあ、準備は整ったわ」


 スローンが目を開く。


「行きましょう。ジェイルを──そしてこの世界を救うために──この因縁を終わらせるために」



ここまでお読みくださりありがとうございます。

このあとのサイドストーリーで健堂とジェイドの本当の能力がわかります。

いつかは向き合う本当の己自身と。

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