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第5話

大吾の両親を追い詰めた鬼の正体がついに暴かれる!

鬼も鬼で苦しんでいた。

まさかの展開に――。


「仮面一族に執着し渇望で悩んでいるそこの鬼よ、貴様だ 本気で終わらせたいのならついてきなさい」

 仮面を被った武士風の男は、その鬼を招き入れ、その仮面を外した。そして驚愕なことをいいはじめた。


「よく見たら、弟ではないか……お前を探しに来たよ。まだ人間の心を持っていたんだなそんな姿になってまでも」


 俺の理解力が正しければ、この武士風の男もそして目の前にいる鬼も仮面一族だということになる。なぜこの鬼は俺の両親を平気で奪うようなまねをしたのだろうか、一族でなにかあったのだろうか、俺は可能な限り昔話を思い出し始めた。するとかすかにではあったが祖父から聞かされた話があった。


 ──むかし、遠い昔のことじゃ。2人の兄弟がおった。兄弟同士仲が良くお互いを支え合っていた。

 しかし、彼の両親は弟を受け入れなかった。いつも兄が慰めてくれるが、弟は次第に周りを疎むようになった──


 祖父の言葉がよみがえる。そして、目の前の光景が重なった。

 先ほどまで俺の両親を奪った憎き鬼が、自分の衝動が抑えられず満たされることのない永遠の苦しみを感じている。

 終わらせたいと思いながらも、終わらせ方がわからないまま──

  俺は目を疑った。しかし、こういう描写は見たことがないがそろそろスローンに連絡したほうがいいのか、

 ーこのままスローンに転送してもらうのも頭が拒否していた。俺の脳内では見ろといわんばかりに。

 だが話はまだ続いてた。


「未来をシミュレーションするガキなんてうちの一族には不要だろ!!

 気味の悪い存在ゆえに一族破滅なんて予言されてみろ、たまったもんじゃない。

 由緒ある家系でゼロポイントの守護者という大役を承っているのにとんだ泥だ!

 あの恥さらしにはもううんざりだ。

 この大役は以後は長男にだけ継がせる!この恥さらしは捨ててきなさい」


(ああ、これが……祖父が語らなかった真実か)

 俺の中で、昔話と目の前の現実が一本の線で繋がった。

 それをすべて聞いていた弟は、自分の部屋に戻り泣いていた。自分の能力のせいで不幸になると強く思い込んだ。

 その思い込みは自分の兄にまで迷惑をかけてしまうのではないかと思った。涙を流しながらその弟は眠りについた。

 弟が目を覚ましたら、なにもない草原地帯だった。自分の部屋もなく大好きだった兄と離れ離れになった。す

 るとまもなく、弟に異変が起きた。弟の頭の中から囁く声がしていた。


<<やあ、家を追い出されたんだって?ひどい親もいるもんだ。

 大好きな兄にも助けてもらえなかった、一人ぼっちか?

 可哀想に、ねぇ僕と一緒に遊ぼうよ

 楽しい世界に連れて行ってあげる>>


「一人ぼっちは悪いことじゃない」

 弟の目からどす黒い何かが一瞬覆った。

 身体が勝手に言われた方向へと足が進む。やがてその弟は連れて行かれ一族では神隠しということになっている。

 弟はどこかへ消え去った。


(これはあの時の俺…じゃないか)


 もしこの話が本当なら、まるで、今の俺と健堂そのものだ。

 昔から一族の次男が生まれてくるときは謎に未来予知ができるやつばかりだと聞いていた。次男が生まれたらまもなくその両親はすぐに鬼の餌食になっていたとも聞いていた。これを知ったのは祖父が亡くなる少し前、俺が成人したときだった。

 仮面の兄弟の会話は続いていた。


「弟よ、やっと会えた。弟の件についてゼロポイントの守護者からどうやったら人間に戻せるか聞いてきたよ。

 そしたらこの仮面をくださった」

 その仮面は黄金に輝いており、よく見ると見覚えがあった。

 俺は腰につけてある金の仮面を取り出す。

(この金の仮面はあの弟の仮面だったのか)

 ただただ祖父からこの2つの仮面を身に着けなさいと言われ何も疑うことなく腰にぶら下げていた。

 あまり気にすることもなかったせいか、気にもとめていなかったが、よく見ると金の仮面には小さな文字で名前が掘られていた。

(JーAーIーL)

「ありがとう、兄貴。俺もう一度やり直したい、心を取り戻したい、満たされないこの渇望を終わらせたい

 どうすればいいの?」

「…。俺から言えることは、終わるまで繰り返せ…残酷だけどこれしかない、繰り返してその間に人間の心について学び直せー

 本当は俺で終わらせたかった、後世にまで残したくはない…

 わかってくれ俺はそろそろここを出て次へ行かなければいけない、

 もうお前には会えなくなる」


(次とはなんだ?もしあの兄の仮面が弟と同じ霊界の守護者からもらったものなら、現実と霊界を行き来できるのであれば、会えないことはない。

 本当にどういうことだ?

 戻ったらスローンに聞いたほうがはやいなこれは)


「兄貴…」

 弟は涙で溢れていた。こんなシーンを見せつけられると俺も胸が痛くなる。自分の健堂を見ているようだ。一族の昔話はただの昔話ではなかった。俺は決意した。俺が終止符を打つよ。もしまだお前に人間の心がーゼロポイントがあるならまだ可能性はゼロではない。

「もし辛いことがあったらこれを見て思い出して」

  兄が差し出した小さな布切れに書かれた文字は、"志"だった。

 その布は、かなり古びている。何百年も前から一族に受け継がれてきたものだろうか。

 仮面一族の長男が代々守ってきた、希望の証──。

 俺はこれを見て、さすがは兄だなと感心した。志は希望を生む。そして行動の原動力にもなる。

 どれだけ絶望的な状況でも、志さえあれば人は立ち上がれる。

(そうか、この布はただの布切れじゃない。一族の呪いと戦い続けてきた、兄たちの意志そのものなんだ)

 そう思って俺も涙ぐんだ瞬間だった。

 突如として物語とは全く関係のない声がした。


「ここに興味深い鬼がいると聞いた。

 通常なら人から鬼になる話は山ほど聞いたことがあるのにその逆が成立するとは…面白いね。

 ぜひ研究室に持ち帰りたいものだ」


 響いた声に、俺は振り返った。

 その男の服には八卦が刻まれている。俺はそれを見て瞬時に理解した──ゼロポイントを研究対象として狙う、黒塗りの得体のしれない組織。

 そしてその男の顔は、俺の島(現実783)で今まさに砕け散ったゼロポイントの破片を回収しに来ているあの男だった。

(ジョーンズ……こんなところにまで)

 やつらは現実だけでなく、霊界にまで手を伸ばしていたのか。

「何者だ!弟には手を触れさせん」

 兄は、剣を抜き弟の前に出た。その剣は白銀に輝き、現実で使うものとはどこか違っていた。透き通るような白さはこの兄の心を反映しているのかもしれない。

「悪く思わないでくれよ、俺だって仕事なんだ

 この原理がわかれば、このループを破壊することだってできるかもしれない

 俺らも囚われの身なんでね…」


 ふと手元を見ると、スローンからもらった通信機が、アラート画面で埋め尽くされていた。

 話に見入ってしまい、スローンからの連絡も完全無視状態だ。

 これは怒られる。でも致し方ない。

 これはもう完全に範疇外だ。


 俺の心の中では、まだ人間の心を持ったあの鬼を──否、あの弟ジェイルをなんとしてでも助け出したかった。

 ジェイルの姿が健堂と重なる。

 次男という理由だけで疎まれ、能力ゆえに捨てられた弟。

 俺と健堂も、もしかしたらこの一族の呪いに囚われているだけなのかもしれない。

 ジェイルを見捨てることは、健堂を見捨てることと同じだ。

 そして、この呪いの連鎖を断ち切れないまま、次の世代へと引き継いでしまう。


(今目の前に助けられる人間がいるのに……見殺しにするのか……俺は)

  しかし、この状況下では部が悪い。ジョーンズの仲間もいる。一人で乗り込んだ俺には、彼らを相手にする力はない。


 震える拳を握りしめたそのとき、通信機からスローンの声が聞こえてきた。

「大吾、今すぐ帰還しなさい!!!!!」


「あら、いい度胸といいたいところだけど、最近実験室もおかしいのよね、意図しないものを不意に見せる。

 あなたを呼んだのは黒塗りの連中がきてからーにしてもあの男は……呆れるわ」

 スローンがいう、あの男とは、鬼を回収しに来たジョーンズのことであろう。確かにジョーンズのいうとおり、通常人から鬼になる話では俺も昔話から怪談話でよく聞いてきた。


 しかし、今回のように鬼から人間に戻る話は一度も聞いたことがない。一度鬼になったら最後とさえ思うのが世の常だ。

「ほら、大吾ここをみて!あなたはあの兄弟に夢中だったと思うけど弟の背後にジョーンズの仲間がいるわね…またしてもあの男はまだセブンと組んでたわけ…呆れて…涙が…でてくるじゃないの!」

 スローンはジョーンズのこととなると、話す熱量が倍になっているような気がする。その熱量はどこかジェイドに似ていた。

 なんだか人間味があってかわいらしく思えてきた。


「あら、大吾!いま変なこと考えていたでしょ?

 いいわ、あなたが問題を解決して現実の世界で会えたら、考えてあげてもいいわ」

 俺は内心ドキッとした。どうやら考えていたことが筒抜けということをすっかり忘れていた。

 まさかこれは――。これ以上考えるきりがないので俺は改めてモニターを見た。

 スローンのモニターには、弟の背後にはジョーンズの仲間らしい仲間がいたのだが、ジョーンズの黒塗りの組織とはまた違うようだった。

 ジョーンズには戻ったら灸を据えないと、本当に取り返しがつかなくなってしまう。ゼロポイントは容易に手を付けていいものではないのだから。


「スローン、ちょっといいか。ひとまず、現実783の兄妹たちに連絡をつけたいんだが…可能か?」

「いいわよ、好きにしてちょうだい」

 スローンは、現実783と通信を行った。そこにはゲートの前に弟の健堂と妹のジェイドが俺を探し回る様子が映し出されていた。


 ***


 一方、大吾が霊界にいったあと現実783の鬼の島では、健堂とジェイドが兄の行方を探していた。

 ドラゴンのポータルを頼りに探していもなかなか見つからなかったが、中央付近のポータルの前にて健堂が落とし物を拾った。

「…これは(この期に及んで諦めるなってか……兄貴、どの口が……)」

「何か?見つけた?健堂お兄ちゃん」

 健堂はこれを見てワープゲートの先を見ていた。やはり兄は霊界に行ってしまった。自分ではもうどうしようもできない不安とそして目の前にある志と書いてある布を見て大吾の兄貴のものだと確信する。

「この布、大吾お兄ちゃんの…ものだよね」

「ああ、そうだ…」

「うわぁ~懐かしい、よく諦めかけてたときに大吾のお兄ちゃんがそっとこの布を見せてくれたっけ」

 健堂とジェイドは昔のことを思い出した。


「もうやだ、できないよ」

「ギブアップ、量が多すぎてしにそう」

 何をしたかは覚えていないが、もう嫌だ、ダメだ、無理だと言ったときにそばに兄の大吾がいた。ただ何もせず何も言わずそして無言で布切れを差し出した。

 その布切れは、かなり古びていた。しかし文字ははっきりと”志”と書かれている。その布はもう何百年も前から存在していたかのように。


「……。」

「どうしたの?健堂お兄ちゃん」

「…俺、あの夜兄貴にとんでもないこと言って殴ってしまった」

「そういえば私もずっと引っかかることが……あの夜のあの大吾のお兄ちゃんは――形・姿は大吾お兄ちゃんだけど、なにか別の〝何か〟が混ざっていたかもしれない」

 ジェイドがそういったときに健堂はハッとなりなにかに気がついた。そして兄貴が一人で霊界に乗り込んだことがどれだけ恐ろしいことかも理解した。

 するとワープゲートの光が太陽を覆い尽くすほどに光りだした。このような眩しい光を見たのは初めてだ。そしてその向こうにはかすかに健堂とジェイドが知る大吾が映し出されていた。


「自分勝手ですまない、俺は大丈夫だ。

 ただ問題が大きくなりすぎたー今からお前たちは動けるが周りの時間を止める

 今、健堂が見たあの怪物の力を弱める、俺が戻るまで見守っててくれ

 そして、自分の感情には飲まれるなよ」


 ***


「そういえば、スローン。ジェイルの兄貴らしき者が変なことを言っていた」

「ん?なんて?」

「弟に仮面を渡しておきながら、もう自分は探せないと。この仮面もそうだが、もしこの世界と現実の世界へ行き来できるなら、いつでも探せるはずなのに……なぜ探せないのか?」


 俺はどうしてもそこだけが非常に気になった。いても立ってもいられず、スローンに問をぶつけてみた。


 そしたらスローンはまた衝撃的なことを言った。


「霊界はゴールではないのよ」


「……え?」


「つまりね、お兄さんが霊界でのミッション――魂の導きや因縁の解消、ゼロポイントの守護――そういった務めを全部完了させて、次の場所へ行くの」


「次の場所……」


「ええ。ここよりもっと次元が高い世界。そこへ進むと、地上との連絡もつかなくなるわ」


 俺は言葉を失った。霊界でさえ現実とは隔絶された世界なのに、さらにその上があるのか。


「あのお兄さんは、もう地上には戻れない領域へ進んでしまったのよ。だから弟に会えなくなる――物理的にも、次元的にも」


 俺は腰の銀の仮面を見た。何百年も前から受け継がれてきたこの仮面――。


(そうか。この仮面を残した歴代の長男たちも、みんな次元を超えて旅立ったのか)


 代々の長男が弟を救おうとし、そして高次元へ旅立つ。残された者たちは、その意志を受け継ぎ、また次の世代へ繋ぐ――。


 それが仮面一族の宿命なのか。


「でも、だからこそあの仮面を渡したのね。自分が直接会えなくても、誰かが――」


 スローンは俺を見た。


「あなたのような人間が、その意志を継いでくれることを信じて」


 俺は銀の仮面を握りしめた。


(わかった。俺が継ぐ。この意志を――ジェイルを、そして健堂を救うために)



ここまでお読みくださりありがとうございます。

第5話ではいよいよあの日のやり直しとなってます。

ここでは鬼は、自身の渇望を満たすために動いています。しかし何回やっても満たされないのです。

この残酷な謎は後ほど明らかになります。

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