第3章
霊界に来てから、まさかの弟の健堂との再会。現実との健堂とは印象が真逆。そこで大吾は健堂のある秘密について知ってしまう。そして自分が追い求めていたゼロポイントの衝撃の真実が明らかになる。
ー人の心がわかる道具かなにかあればいいのに…そしたら誰が自分に対して好意的であるかそうではないかが瞬時にわかる、どうだゼロポイントを手にしたらそれが可能になるぞー
悪魔の囁きが聞こえてきたが、すかさず健堂の声で瞬間的になくなった。
「ああ、今の声ね気にしなくてもいい。嘘だから。ゼロポイントが欲しいということはその人の心が欲しいのであり、更に行きすぎるとその人自身の心を踏みにじるようなものだから」
この言葉で俺はふと我に返った。この意味を知るまでは周りが当たり前のように言っていたことだ。
何だったら心を研究している研修者でさえも相手の心の内の情報を欲しがる。
心の正体を必死に追い求めしかしたどり着かない。
このことを聞いてから、俺はゼロポイントは迂闊に手を出すべきではないそしてその全容がうっすらとだが理解した。
そしてますますこのゼロポイントは敵に堕ちてしまえば取り返しがつかないことになる。
しかし、これだけ聞いてもまだ疑問が残る。わからないことはこの瞬間、そして今聞かないとわからない。未来にも過去にも答えはなく今にしかないのだから。
「健堂、色々聞いていいか?」
俺は健堂にそう聞いたら健堂は先程の悲しげな表情から少し和らぎ落ち着いた表情をしていた。そして深く頷いた。
「いいよ、むしろそうこないとアイツのビジョン通りに破滅的な未来が待っている」
「そういえば、健堂お前は歴代の魂の継承者と言っていたがどういうことだ?」
一番俺が気になるのは健堂の言う歴代の魂の継承者ということだ。まるで健堂が何人も存在するような言い方だが、俺の知っている弟の健堂は一人しかいない。
「口でいうより見たほうが早い。こういうことだよ」
健堂はまたリモコンで操作し、別の映像を映し出した。そこにはありとあらゆる世界と健堂が映し出されていた。数え切れない世界と健堂。俺は少し困惑していた。
「つまり、これ全部俺なわけよ兄貴。いや俺だけじゃない、今はわかりやすく俺のチャンネルを全部映し出していると思ってくれ。兄貴もこれくらいいるし、ありとあらゆる人間はみんなこうだ」
弟よ、そんな衝撃的なことを言われてもすぐには追いつかないが、継承者というのはたとえだということがわかった。そして一つだけオレンジ色のピンで指している健堂が映し出されていた。
「このオレンジ色のピンは俺が選択したてことね。それ以外は可能性とは存在しているけど俺は選んでいないということでそれ以後の未来は表示されない。 そしてあいつの力のうちの一部が、すべての可能性を一瞬のうちにシミュレーションすることだ」
つくづく俺は健堂について理解不足だと認識した。時々彼は話が飛ぶことが多かった。特に可能性の話をしているときは、できるけどできる、できないけどできると意味のわからないことを言っていた。次の瞬間彼のシミュレーションの様子が映し出され、今まで合わなかった話がつなぎ合わさる。◯できるけどこういった事態に遭遇して一時的は転ぶけど△という対策をすれば徐々に日にちはかかるけどできる。そしてそれらの現象がアニメーションのように流れてきた。これらを一瞬で理解して一瞬で結果を導く、わからなかったがいつも結果は理にかないそのとおりで1ミリもずれることなく正確だった。
さらに健堂はまた興味深い話をしてきた。
「これらの可能性は、人間からみると決まっているように見える。あらかじめ結果が決まっておりそれ以外の結果にはならないと。しかし、それは大きな間違いだ。結果は人間が観測するまで決まらない。それが人間とそしてこの霊界も含まれる絶対的なルールだ。だから観測されるまでは無数に俺がいて、俺がいる分だけ思考も違ってくる。やることも趣味も違ってくる。悪いことをしている俺がいれば、いいことをしている俺もいるそしてそれらが同時進行に動いている、観察した瞬間一つに絞られる、それがオレンジの俺ってわけ」
この話を聞いたときに無碍に人の可能性を否定するのはやめておこうと固く決心した。俺も昔は当たり前のように言われていた。特に物事の長けているやつから、先生から、そして親から。今からそれを勉強しても君には無理だやら、君には才能がないからやめとけと。もしこの可能性が本当にあるなら、この健堂の言う通り俺の弟は、思い込みのせいで選択肢を狭めすぎていることになる。そうなると健堂の思い込みすぎの問題に矛盾が生じてくる。
「では、俺の弟の健堂の思い込みはどうなるんだ?」
「いい質問だ。矛盾やろ?人間には考える力と思い込む力と忘れる力がある。考える力はプラスの力に換算され、思い込みは一部を除きマイナスの力に換算される、そして忘れる力は相殺され手放していることになる。ここで重要なことを一つ。この霊界にいる悪いやつが一番恐れるのが人間の考える力。自分で順序立てて仮説を立て検証して様々な角度から考え成長していくやつは取り憑く隙がない。そして一番厄介なのが思い込む力。今の人間の段階から考えて、プラスに働くことはごくまれだ。それは兄貴も考えたらわかる」
俺はあらためて思い込むことについてどういったときに使うか考えた。そしたらマイナス要素がわんさか出てくる。相手に対してそれは違うときに口調がきつくなりそれはお前の思い込みだが一つ。情報を見て勝手に判断してこの人は思い込みの激しい人だ…思い込みはよくないよ、もっと現実をみな…俺は返す言葉を失ってしまった。そして一つの結論にたどり着いた。思い込みもなんだかんだで視野が狭い結果を選んでいることになる。だから何度も同じシミュレーションに悩まされるということか。
「兄貴、そのとおりだ。思い込むことは考えずに視野を狭めもう結果を選んでいるということだ、そして本人がそのくせに気づいていない
ではもう一つ、ここにいる俺は何者か 答え言うとつまらなくなるが、言うわ。映画鑑賞兼映画監督みたいなものだ だから、ここにいるすべての健堂の行動を観察してどの選択肢を選ぶか見てその先を見る人が俺。 全部の魂と記憶を全て持つから継承者ということだ、ちなみに兄貴もジェイドもいるけど見る?……でも兄貴は……」
健堂がクスッと笑った。
「いやなんでもない、自分で自分見るのは勇気のいることだ……ハハハハハ!」
そうして、健堂は俺が答えるのも待たずにリモコンを操作してどうやら俺らしき俺を映し出す。モニターから現れたのは確かに俺の雰囲気を身にまとっていたが人間ではなかった。どちらかというと社会の歴史の教科書で見るような仏像だった。
「ここにたどり着く人間はそう多くない。どちらかといえば多くの人間がこれより下の層に放り込まれてる・・・ しかし、ここにきたら姿、形自由に変えられる。それでも思いつかない場合は自分に相応しい格好に自動的に変わる
けど兄貴、阿修羅像はないわーどうしたん?俺むっちゃ気になるわ 兄貴がくる前は、そっちの兄貴の姿が見慣れてるから人間の兄貴見て感動したくらい」
モニターに映し出された阿修羅像の姿をした俺は、ただ黙々と瞑想をしている。確かに俺は幼少の頃から祖父から瞑想を教わった。瞑想はただただリラックスするための手段ではなく、霊界でも様々な邪悪な存在から身を守るため、心を人に執着も依存もしないフラットな状態を保つための修行の一環として行っていた。そして俺自身も自分に言うのは失礼だが、どうか何も言わずにそのまま黙々としてほしいと切に願った。
が、俺の期待は虚しくも裏切られた。モニターからもう一人の俺がこちらを向いてきた。健堂は相変わらず床に転げて笑っている。こんな弟の姿を見るのは初めてだったが、どこかわだかまりが溶けるようでもあった。
「ああ、若かりし頃の俺か…今の俺とそっちの健堂とジェイドはチグハグだ…健堂は健堂で俺が悪いと思い、ジェイドはジェイドで私が悪いと思っている。その根本的な原因は、お前が何もかも背負い込みすぎるからだ。一人で背負い込むのは仏の仕事だ。人間ごときが厚かましい。 瞑想のやりすぎで過信するなとあれほど訴えてるのに効果なし」
阿修羅像の姿をした俺は、今の俺に痛い話を突きつけてきた。何もかも見通し嘘がつけないこの状況。そういえば、俺自身も昔の出来事を思い出した。
「大吾、瞑想するのはいいが、やりすぎは厳禁だもうやめなさい」
「だって、俺お兄ちゃんだからしっかりしないといけないんでしょ?健堂とジェイドを守り抜くために俺がしっかりしないとダメなんでしょって……夢の中でお父さんとお母さんが……。」
「待ちなさい、それはお父さんとお母さんじゃない!」
とすごい剣幕で怒られたのを覚えている。祖父から瞑想や基礎知識は教わってあの時なぜかわからないがのめり込むようにやっていた。好きという感覚というよりは、やらされている感覚に近かった。できなかったら嫌だからやっていた。
あるときには……夢の中で俺の両親が――。
「もっとちゃんとしないとそれでも仮面一族の長男か!こんな出来損ないはみたこがない!」
「お母さんもがっかりだわ、どうしてもっとちゃんとできないの!?この調子なら健堂とジェイドを守りきれない、一族が滅ぶわ」
色々浴びた罵詈雑言。あとで祖父が教えてくれたが、この夢に出てきた両親は実際の両親ではなく形どった鬼だった。そして俺の両親は鬼に惑わされその魂ごと食い尽くされた。その事実が俺を恐怖に駆り立てた。ミスったら命取りどころの話ではなくなる、そこから俺はさらに焦りが先行した。気がついたら健堂やジェイドから「兄貴、焦りすぎ」「お兄ちゃんそんなに必死にならなくても」と言われても俺は聞く耳を持たなかった。
モニター越しの俺は更に続ける。
「お前が背負い込みすぎた結果、お前は鬼に取り憑かれる。焦りや恐怖は鬼や霊界の悪い連中が洗脳に使う常套手段だ。 それで人を堕落させ自分が出来損ないと思わせる。次にできないから理想を追い求めてもっともっとやらないと足りないと思わせる、この2つにかかった人間は、俺は足りない存在だと勝手に思い込んでくれる。 そうしたら鬼や霊界の悪い連中に食い尽くされて終わりだ、お前の両親みたいにな」
ありがたく思え、今この瞬間鬼になっていないのは俺が時間を止めているからだ。時間を動かしたらこのままだとお前は鬼にいいようにされて終わる。ジェイドがお前を助けようとして心ごと持っていかれる。そして健堂が暴走してどうしようもなくなる」
俺は健堂のシミュレーション結果のことを言っているのだと瞬時に理解した。このままいくと俺は息絶える。ジェイドも健堂もやられてどうしようもなくなる。この絶望的な状況をなんとかしたい焦ってもまたモニター越しの阿修羅像の俺がそうはさせてくれないことは威厳の雰囲気だけで伝わってくる。そのおかげでもあるか俺はいつもにまして冷静だった。
「さて、ここからが肝心な話だ。お前がその恐れをどうやって手放すかだ。……その前に、1つ問おう。鬼とは、一体、何を糧として在るものだと思う?」
俺は考える。鬼が人を襲うとき、そこには何がある?
「……人の、命か?」
「それも喰らうだろう。だが、もっと好むものがあるはずだ。奴らが、なによりも美味だというものだ、お前も感じたことがあるものだぞ」
俺も感じたことがあるもの……。俺は、両親が殺されたあの日の光景を思い出す。母の顔に浮かんでいたもの。俺自身が、襖の奥で感じていたもの。 「……恐怖、か?」
「ほう。では、問おう。もし、その最大の好物である『恐怖』を、目の前の獲物が、全く差し出さなかったとしたら? 腹を空かせた狼の前に、ただの石ころが転がっていたとしたら? 狼は、どうする?」
狼は、どうする……? 石ころは、食えない。興味を失い、その場を立ち去るだろう。あるいは……。
「……興味を、なくす……?」
「あるいは、それ以上だ。もし、その狼の存在そのものが、獲物の恐怖心によって成り立っているとしたら? 餌がなければ、己の体を維持することすら、できなくなるとしたら?」
そこで、俺ははっとした。そういうことか。奴らの力は、俺たち自身の心から供給されていたのか。
俺自身もなんだかんだで流されて何も試みようとはせずいつの間にか俺が全部やらなければという思いだった。
霊界と聞くととんでもない呪文や一発逆転で奇跡や魔法のようなことを期待していたが、それら自身は確かに存在するにしても都合のいい世界ではないことがわかった。 俺が探し求めていたものは、その答えがゼロポイントだと思っていたがまさか阿修羅像をした俺自身だったとは驚きを隠せなかった。
阿修羅像の俺は、俺の表情の変化を見て、静かに頷いた。
「……どうやら、若かりし頃の俺でも、答えにはたどり着いたようだな。ならば、もう、俺が言うべきことは何もない」
笑い転げていた健堂もいつもにまして真剣に阿修羅像姿の俺の話を聞いていた。そして彼は俺に向かって最悪の状態を回避するための作戦を立てることになる。
「さて、講義の時間は終わりだ。ということで実践してこい 自ら背負い込むことになったあの時間からやり直してこい」
もう一人の俺は俺に向かって指を指し、何やら唱えている意識が遠のいていった。途中から薄々感じていた。話が終われば実践でなにかをやらされるんだろうなと…
まさかもう一度人生そのものをやり直すことには思わなかった。何だったら鬼になった状況から打開してこいと時間を動かされると思ったからだ。後から気づくことになるが、これが阿修羅像の姿をした自分自身の最大の優しさだった。
「兄貴、なんで時間を動かさなかったんだ?時間を止めた状態でまた別の時間軸を動かすのはバグのもとでしょうに」
「健堂、お前もいずれお前自身がここにくればわかるが、自分自身には甘くなってしまうものだ。
自分を痛めつけるのは少々抵抗する、だから安全策を取ったまでだ。
それに、このまま時間軸を動かしあいつを鬼から脱却させても……あいつだけ変わっても意味がないのでな」
ここまでお読みくださりありがとうございます。
霊界によくある高次元との自分との対面。大吾の阿修羅像はノリです(ぁ
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