第2章
仮面を完成させ霊界のポータルを渡ってしまった大吾。
開始5分で闇堕ちしかけた彼を助けたのは、まさかの――。
俺との境界線が曖昧になっていく。仮面が鬼に、鬼に取り憑かれる奇妙な感覚……落ちていく感覚だけがリアルに残る。
そしてどこにいるかわからない真っ暗な空間にポツンと1人。何が起こるかわからない恐怖ー。
そしてテレパシーのように頭に声が響いてくる。先ほどとは違い聞き慣れた声が頭をよぎる。
(そんなわけがない……なぜ……)
そうして俺はその場で考え込み、どうしたものかとふと思考を巡らせていたら今度は耳元ではっきりと声がした。
「兄貴!もしもーし?塞ぎ込んでるところ申し訳ないけどそろそろこっちむいてくれ」
どう考えてもこの声の主は紛れもなく俺の弟。正直この姿を見たら驚くだろうと思いつつも後ろめたい気持ちがそこにはあったが、
どういう状況かもわからないので俺は答えることにした
「健堂!!なぜお前がここに?」
すると、健堂は予想外の答えを返してきた。
「ああ、今の兄貴の視点からはやっぱりそう見える?ハハハ……半分正解で半分違う」
俺の目からは明らかに健堂そのものなのに、この健堂はわけのわからないことを口にする。
ふと、元々そういったやつではなかったような気もするが。
そして若干癪に障ることも言ってくる。
「兄貴、今もしかして俺鬼になるとか思ってた?
こいつ何わけのわからないことをって思ってる?」
さらにこの健堂の話はまだ終わる様子がない。いつの間にか真っ暗な空間から見慣れた千のお面の前にいた。懐かしいがそれは現実のものではないことがわかる。まるで時間が存在しているようで存在しておらず、過去自分のものや弟の健堂のもの、妹のジェイドのものが小さい頃から今までの分だけ全て存在していた。
「ここは現実783とは違う、兄貴が思っていた霊界の世界。
そして俺はね……わかりやすく言うと、健堂の魂を継承している者と名乗っておこうか、だから健堂であり、健堂ではない。
しかし歴代の健堂の記憶はしっかり継承している。
――にしても今、兄貴のもとにいる彼は本当にもったいないことをしている。
このままいくと、思い慕ってるホープにも思いは届かないし自分が何者かも忘れてしまう、そして肝心なときに何もできなくなってしまう。
あの最強の仮面一族がここまで堕ちるとはね」
俺は健堂の行動を振り返る。
自分からはあまり行動するのが得意ではない。しかし眼の前の健堂は、何もかも知っているような素振りで話している。
そこまでわかるならあいつに直接はたらきかけたらいいのにとさえ思う。
「今、健堂に直接働きかけたらと思った?
ここは霊界だ。働きかけができるのは、きっちり目標を立てて真っ直ぐな心で進んでいる者だけだ……
今のアイツには届かない。
日に日に届かなくなってきているが正解かな。兄貴もひどいや、寝言の一言で片付けるのだから」
そういえば数年前、健堂から話があると言われ、相談に乗ったことを思い出した。
「兄貴、昨日変な夢を見た。なんか誰かに怒られているような気がして、癪に障ることばかり言ってくる、俺どうしたらいい?」
健堂によると、その夢で見た声はこういってきたらしい。
【このままお前は何もしないつもりか?待ってるだけでは結果は得られない!
何をためらっている!?
お前が何もしなければこの力は失われる、失われたら肝心なときになにもできなくなる
兄も妹もーでもこうなったのは兄貴の……。】
このときに、俺は疲れているだけだろ?気に病むことはない。悪い寝言だ。何かあったら俺がなんとかするからと返した。
今のこの健堂の話を聞いてこれは誤りだったことに気づく。
このときにもっと話を聞いておけばと後悔した。
霊界の千のお面の前に戻り、目の前の健堂はどこか悲しげだった。さらに話は続く。
「このままいくとかなりまずい状況だ。
特に人のマイナス思考は闇の存在のエネルギー源になる。
吸いつくされたら、闇の存在の力が増し、ゼロポイントもろとも暴走して砕け散る」
俺は思った。鬼たちはゼロポイントの欠片をこちらの世界に持ってきているのにゼロポイントの暴走があるとしたらなぜ彼らはそんな危ないものを欲しがるのか意味がわからない。どうせくだらないものに悪用するのが落ちだとは思うが…。
「兄貴、覚悟できてる?この続き、今見ないと後悔する」
健堂はリモコンのようなものを取り出し、ホログラムの映像の再生を始めた。
それは健堂視点で語られた近い将来起きるであろう出来事だった。
***
「あ………………にき………………」
鬼の仮面をつけ自分の前に現れた俺の兄貴。そしてさらなるビジョンが俺を苦しめる。
兄貴がボロボロになっていく、なすすべなく一方的にやられ息絶える。そのビジョンで俺の呼吸が荒くなり、呼吸困難を引き起こそうとしていた。しかし、目の前にいる兄貴はいつもの兄貴だった。
「……う、健堂?」
俺は兄貴の声で我に返った。そしてどこか兄貴にわけもなく遠慮して。
「いや、なんでもない」
本当は何でもよくない、おそらくこれは、近いうちに起こる。しかもそう遠くない未来で、この通りに起きてしまう。
でも自分には力が不足している。もっと行動しなければ――しかしどうすればいいのか検討がつかない。
何をしたら兄貴を変えられるのか。
何度やっても同じ答えが返ってきてしまう。
布団に入って頭をうずめたくなるくらいに、もう日がない……どうすればいいんだ…。
また今日も、何事もなく過ぎ去っていく。時間が残酷に思えた瞬間だ。
「ねぇ、健堂見て?この子かわいい~❤」
水の精霊を抱えたジェイドが、俺に声をかけてくる。そのときにまたあのビジョンの再生が始まった。
「大吾!どうして!!なぜ間違ってしまったの!?イヤァァァァァァーッ」
ジェイドの断末魔が頭に響いてくる。
「仮面の一族もここまでか、やはり人は脆いものー
一人は何でもできると過信し、もう一人は己の無力さを嘆き、そしてお前はその2人の前には力も発揮できまい・・・
貴様らのゼロポイントを砕け散り、闇の存在がはびこる世界になっていくのだ
憎むなら己を憎め、己の心の弱さが全ての敗因だ
もう1人残っていたか」
「・・・・・・っ!!もう終わりだ・・・何もかも兄貴もジェイドも…俺のこの力のせいで…うわぁああああああああああああっ!!!!!!」
「健堂・・・お兄ちゃん?」
ジェイドの声にふと我に返った。適当にかわいいとかえしておけばよかったが、俺の頭はそうはさせてくれない。ジェイドが心配そうにこちらをのぞいてくる。
「健堂お兄ちゃん、顔真っ青だよ?大丈夫?」
ここでリモコンの一時停止らしきボタンが押され、健堂が更に続ける。
「はぁ、このシミュレーションアイツはもう何千回もしているがいまだに答えが同じだ。これあと1ヶ月しかない…」
健堂から絶望的な状況を告げられこのときは俺も絶望を感じざるを得なかった。
しかし、このあと健堂は興味深いことを教えてくれた。
「これはあくまでもシミュレーション。
でもアイツの思い込みのせいで申し訳ないけど現実にならざるを得ない状況だ。
ただし、これを覆すにはアイツ自身がこの能力の正体と自分が持っている恐れを手放さいといけない。そうでないとこうなるから」
健堂は、更にリモコンを操作して何やら気味が悪い球体を映し出した。
その物体は人が呼吸するのと合わせて動いているようだった。そしてその物体の360度四方にスピーカーが取り付けられており、そこから何やら声がした。
その声の主は、俺の知る健堂そのものの声だった。
「俺、兄貴ほどじゃないし、何の取り柄もないな」
この思いと同時に謎の球体はきれいな形から徐々に形を崩していき、色も白から薄いグレーに変わっていく。
「ああ、また失敗してしまった」
謎の球体は健堂の思っていることに対して反応し、薄いグレー色から一段階濃いグレーへと変貌していった。
「兄貴、あのさ……やっぱりなんでもない、邪魔してすまない」
その球体は一気に濃いグレーから黒へと変わり、もとのきれいな球体からドロドロとしたどこか禍々しい球体へと変わっていた。
俺はこれを見たとき我が目を疑った。まるで健堂が考えていることに対して反応しそれに応じたものを返しているかのように見えた。
「これね、人の思考したことがマイナスになるもしくは他人からマイナスなことを言われると色が段階と追うごとに黒へ近づく。
だが、人に対して後ろめたい気持ちや自分も含め嘘をつくとその色は一気に黒く濁っていく、これが人の心の正体。
その黒く濁ったもの――最初は心だけにしか影響を及ぼさないがこれが徐々に肉体にも影響がで出す。
この現象を人間の話で言うと病気であり、霊界にすんでいる悪い連中に絡まれやすくなる。
アイツの場合は一族の守護があるから悪い連中にとりつかれないだけマシだが、普通だったらもうとっくに……」
あの球体は人の心そのものー
そして人に言われたことや自分に対して思っていることに反応し、最初は心、最終的には肉体、さらに悪化すれば悪い連中に絡まれて持っていかれる。
俺はふと、ホープのことを思い出した。確か彼女も予言をする力を持っていた。
前々から不思議と思っていたが最初健堂とあったときにこっそり後で言われた。
「あなたのその弟さん……目から黒いモヤみたいなものが出てるわ
でもなぜ何も影響がないのか不思議ね、よくみてあげて」
ホープのこの言葉が気にかかったがこれで点と点が線となってつながった。
健堂の心の状況はあまりよくなく、それ以上に悲惨な状況を自分の能力を使ってさらに最悪な未来を引き寄せていたことになる。
あの健堂の説明で目から出ている黒いモヤの正体がわかってしまった。
「黒いモヤは、もうどうしようもないね。
ここまでくると一般的な人なら狂気の沙汰だ!
人間らしいところはどこもない。
友達もいなくなるし、絶えず裏切り、嘘、欺瞞で生きることになる。
最終的には鬼よりひどい存在に成り下がる、払う代償もひどすぎる
そしてこの球体兄貴も持ってるし、ジェイドも持ってるというか人間なら全員持ってる」
俺はこの言葉を聞いていて驚いた。この球体は健堂によると誰でも所持し、常時変動しているようだ。
実際に反応しているところをみると、言葉には気をつけろとはこのことだったかもしれない。言葉はときに人を救うがときに人を破滅に追い込んでしまう。
自分にも健堂にかけてきた今までの思いが溢れかえった。
健堂はこの後衝撃的なことを言ってきた。
「この球体が――人の心でもありゼロポイントだよ」
この球体そのものがゼロポイントだったのだ。
俺が読んできたゼロポイントに関する書籍には載っていなかった。
ゼロポイントはときに味方となり、ときに悪となりその心を蝕みそれに近い存在を生み出すとされていたからだ。
そしてその球体は普段では見えない人の心でもある。
これを聞いたとき俺がゼロポイントを欲する理由がちっぽけに思えてきた。
言い換えれば人の心が欲しいとなる。
人の心は目には見えない、聞こえない、挙句の果てには何を考えているのかもわからない。
そんな中でときには何を信じていいのかわからなくなったとき、悪魔の囁きが告げる。
――人の心がわかる道具かなにかあればいいのに……。
そしたら誰が自分に対して好意的であるかそうではないかが瞬時にわかる。
どうだゼロポイントを手にしたらそれが可能になるぞ――
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