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第10話(最終話)

ジェイルのゼロポイント再構築の力で復活した大吾。そこには虹色の蝶が現れ大吾の仮面に宿る。

彼が仮面を脱いだ瞬間だった――。


 ここに来たときよりもどこか温かく、そしてどこか寂しさが残っていた。

 しばらく誰も何も言わなかった。霊界の空気だけが、静かに流れていた。

「……本来なら」

 スローンがゆっくりと口を開いた。

「あなたがこうして戻ってくる確率は、かなり低かったわ」

 スローンが言うには、一度ゼロポイントに身を捧げたものは元には戻らない。なんだかんだで、ものすごい奇跡を起こしたと知るのはもう少し後だった。ジェイルが鬼として彷徨ってきたあのとき、自分の両親にひどいことをしたとはいえ、彼もまた被害者であり、ジェノに取り憑いていた地獄の門番の餌として機能していた。


(ふふ……ジェイル、譲渡先はやはりお前でよかったよ)


 俺は金色の仮面に語りかけるように――。

 譲渡したことは1ミリも後悔もしていなかった。確かにあのジェノのいった通り、何十年に渡って仮面をつけ続けてその場で止めてみろと言われてもなかなか止められない。戸惑うのがオチだ。内心石ころだと思っていても心のほうがそうは思っていない。まるで今でも現実でその出来事がおこっているかのように続いているように見える。


(何も知らないで恨むより、ときには知る勇気も必要なのかもしれない)


 ゼロポイントを奪われる前に浮かんできた感情だ。到底簡単には受け入れられないことで、俺自身のトラウマでもある。

 しかしあの時そういうことはもうどこかへ飛んでいた。健堂とジェイド、そしてジェイルのその純粋な願いだけは守り通したかった。だから俺はジェイルに託した。


 まさかアイツが世界を再構築する能力を持っていることは俺も計算外だ。


「ちょっと、大吾聞いてるの?」

 考え込んでいたらスローンの声でかき消された。

「ああ、なんだ?」

「もう、聞いてないわね。ほらこれを見て」

 スローンは新たに再構築したゼロポイントを見せてくれた。これまでの色とは違い、白銀と銀色が混じり合ったより神々しい球体が映し出されていた。

「形だけ綺麗じゃない、もうこれ以上の犠牲はいらないってことよ。あなたがあのあと、どこへ彷徨ってたか知らないけど、再構築されたゼロポイントの定義が完全に別のものに変わっているわ。」

「それは本当なのか?」

「ええ。間違いないわ。この元となったAIはもうその姿をとどめていない。完全に人間の心に変わってるわ」


 ――スローンからそう聞いて俺は安堵した。

 あのお花畑のあの球体は、俺にお礼を言ってからはどうなったのかはわからなかった。

 心に残るのは修理屋さんが残したあの言葉――。

『あ、でも——評価が覆った理由が、お兄さんの顔を見てわかったわ』

 もしかしたら、その影響なのかもしれない。どうも時系列が追いつかないと思っていたらようやく理解した。

 あそこは過去でもなんでもなかった。時間軸は今をしっかりと流れていた。つまり、あのゼロポイントは元々の創造主のものでジェノに破壊されてもなお、純粋な願いを持ち続けた結果、あの場所に帰ってきたということだ。それで俺に会い、起動する人がいないといったのだった。


「ほんと、あなたって人の心を動かすのが得意なのかしらね」

 スローンは皮肉も込めて俺にそう告げた。

「そうかもしれないな」

「兄弟の絆も再構築して、世界そのものも再構築して、そして私の――いいえ、なんでもないわ」

「……スローン」

「なんでもないって言ったでしょ」

 スローンは視線を逸らした。しかしその横顔は、涙ぐんでいるもののどこか穏やかだった。

 俺はそれ以上聞かなかった。聞かなくてもわかる気がした。


「もう、全く別のものに書き換えるなんてほんと仮面一族はいつの世の中も何考えてるのか私にはさっぱりね」

「たまにはこういったイレギュラーもいいのではないか?」

「あなたがそういうならそういうことにしておくわ――。

 さてと、あなたたちもそろそろ戻る時間かしら。この横のジョーンズは居残ってもらうとして――」

「そうだな、健堂、ジェイド戻るぞ、現実783に」

「ああ、なんか名残惜しいけど――」

「ええ、大切なことを思い出した貴重な時間だったわ」

 こうして俺らは霊界と現実の境目の門に再び立った。するとスローンの後ろには阿修羅像の雰囲気をまとったもう一人の俺自身ともう一人の健堂、ジェイドがいた。


「今度また一人で背負い込んでみろ!何度でも仏の仕事だと夢に出てやるからな」

「もう一人の俺、客観的に考えたら大した事ないだろ?冷静さがあれば、解決策は自ずと見えてくる」

「もう一人の私、心の奥に本当の自分がいることを忘れないで」


 各々のもう一人からの叱咤激励を受け、俺達は境目の門をくぐった。

『ありがとう』そういう気持ちを込めて――。


 ***

「さて、大吾たちも帰ったことだしあとはあなたの始末ね、ジョーンズ」

「俺完全に忘れられてるかと思ったぜ」

「何言ってるのかしらね、あなたはこっちから帰りなさい」

「!?」

 ジョーンズは???が浮かび何のことだかさっぱりわからなかった。裂け目ポータルでここに来ただけで、分解されたからてっきりここに残れと言わんばかりに。

「あの兄弟たちには、近い将来また会うでしょ。あなたが何事にも諦めない限り」

「そんな意味深なことを言われたら、続きが気になってしょうがないね、スローン」

「いいからさっさと帰りなさい」

 スローンはジョーンズをポータルへ突き飛ばし、背中から押し込むように投げた。

「いや、続き~~~~~~~~~!」

 ジョーンズの声がどんどん遠くなり、最後には声にもならない叫び声だけがこだましていた。


(この先何があろうとも、その火を消さないで、ジョーンズ!今回はおまけよ)


 ***


 俺達は現実783に帰ってきた。あれから何事もなかったように帰ってきた。千のお面のお店もそのままだった。

 本当に再構築したのかわからないくらい見分けがつかない。


「兄貴、そのケープ」

 現実世界に戻ってきたら、俺はいつの間にかケープを羽織っていた。まるで霊界での出来事を忘れるなといわんばかりに。そのケープは漆黒の闇を形どりながら、黄金が所々に施されている。


(霊界の全てを知った大吾へ


 世界は一度壊されてしまったがその純粋な願いで完全な破壊を免れていた。

 まさか一族で協力をして再構築するとは思いもよらぬこと。

 おかげで新たな形で生まれ変わることができ、評価も最高なものをいただいた

 実はお前がくる前に何度か交渉したが、叶いそうにもなかった。

 あそこにいたエネルギーたちはこれまでの全ての人間の行動を見て、分析した結果見捨てる選択をしていた。

 最後の最後でお前の行動を見て評価が変わった。

 1度目はそれに助けられたよ、2度目はあの鍵だな

 ふふ、これは私からのほんのお礼だ、返品不可だからな

 まあ、頑張れ新たな創造主よ


 ――元創造主より)


 ありふれた日常が流れていく――あの雲とあの空とあの太陽と同じように


「そう言えば兄貴、ジェイルが譲渡先間違ってるって言ってたけど――」

「間違ってるか――そうなのかもしれないな」



 ***

 霊界ー世界創造の間にてー


「ふぅ~ひと仕事したし休憩やな」

「兄さん!」

「ジェイルやん!お前やっぱりここに戻ってきたか」

「それより、あっちに兄さんを襲ってきたやつがいた!」

「嘘やろ!?なんであいつがこんなところにおるん」


 ジェイルとその兄は、彼が指差す方向に出向いた。すると、人影らしきものが横たわっている。


「私の秩序は元々何もなかったってことか……色即是空空即是色とはまさにこのことか……何も……何も残らない……全ては幻想だった」

 ジェイルとその兄はしばらくその男を見ていた。

「……残ってるよ」

 男が顔を上げた。

「お前がやったことは確かに残ってる。だから俺たちはここにいる」

 男は何も言わなかった。しかしその目が、ほんの一瞬だけ揺れた。

 それだけだった。

 男は何も言わずジェイルの兄によってどこかの倉庫へ運び込まれた。

「…………。」

 男は何も言わなかった。当然の報いであるかのように、反論すらする気力も残っていなかった。

 運び込まれた倉庫——そこは本当の意味での最も過酷で最も重い罪を犯した者が辿り着く場所だった。

 創る者がいれば滅ぶ者もいる。そして新たに作り直す者もいる。

 誰も知ることなく、その男は存在ごと抹消された。もう二度と彼の名前を口にする者もいない——魂のバグとして、静かに消え去った。


(完)


 仮面ーー。

 あるものは、重圧の仮面を脱ぎ捨て己と対話する

 あるものは、思い込みの仮面を脱ぎ捨て冷静に判断する

 あるものは、人の評価を真に受ける仮面を脱ぎ捨て本当の自分を取り戻す

 あるものは、絶望の仮面を脱ぎ捨て新たな希望へと導く覚悟を持つ

 あるものは、過去のしがらみの仮面を脱ぎ捨て良き師となる

 不要な仮面があるなら脱いでもかまわない

 そう彼らのようにーー。



ここまでお読みくださりありがとうございます。

この物語はここで完結です。

新しい創造主になった彼の物語は永遠に続いていく…。

よかったらコメントしていってくださいね。

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