第7話
いよいよ元々は鬼として脅威だったジェイルが人間に戻り、彼を救出する作戦に向かう4人。
これでうまくいくと思ったら不穏な雰囲気が漂う――。
俺たちは、鬼――ジェイルの救出を最優先に、健堂のスマホでシミュレーションしていた。
俺は物理空間で使うよりも、精神的な空間で使うほうが効果が高い剣と縄。
健堂は、この空間でシミュレーションを行いながら指揮するスマホと水晶。
ジェイドは、人の本音を引き出しそこから特異点を見つける錫杖とアミュレット。
これらの能力が使えるようになったのは他でもないスローンのおかげだ。
そして忘れてはいけないのが各個人がそれぞれの試練を乗り越えた副産物的なものだった。
「う~ん……このままズカズカと入っていったらワンちゃんこのお兄さんに俺らの正体がバレてしまう。
スローンのお姉さん的にはこれはまずい」
「そうね、だいぶまずいわね」
「兄貴の剣と縄は、正直物理的な空間よりかは、ジェイルの精神的な空間にダイブしてから使うもの。
俺はこのスマホから縄を取り出し兄貴を縛り付ける――
ジェイドは、その力で特異点を見つけられたら兄貴が中に入る」
「それなら、あなたたち二人はここから大吾のお兄さんに指揮するか、それとも敵に見つからない場所でそれをするかね」
「そんなことができるのか!?スローンお姉さん」
「当たり前じゃない、ここをどこだと思ってるのかしらね」
最終的に立てた作戦はこうだ。
まずは俺が、スクリーン越しの世界に飛び、ジェイドにジェイルの特異点を見つけてもらい、その座標を健堂に送る。
俺は、その特異点をこの剣で開け、その奥にあるジェイルのゼロポイントを取ってくることだった。
その後はすぐに退却――。
俺は視線をスローンに移すと、彼女がモニター越しで"何か"を真剣な目で見ていた。
「スローン……?」
「何?」
「ポータルを開いてくれ、行ってくる」
「……ええ、わかったわ」
スローンの表情が一瞬曇った気がした。でも、それは気のせいだと思うことにした。
「しっかりやってきなさい――私も、ちょっと確認したいことがあるから」
そう言って、スローンは別のモニターに向かった。
「ジェイド、頼む」
「任せて」
「先に俺の水晶で兄貴を縛っとくわ」
健堂は、水晶から透明な光でできた縄を取り出し俺に縛り付ける。
この縄は不思議なもので、サイズはフィットしているしそれにどこまでも伸び、制限がない。
そして縛られているのにそんな感じは微塵もせず、動くにも全く支障がない。
改めて霊界に俺は関心していた。本当に何でもできるのだなと。
「大吾お兄ちゃん、特異点見つかったわ。準備はいい?
健堂お兄ちゃんのスマホに送るね」
ジェイドは特異点を見つけ健堂のスマホに送った。
そして健堂のスマホは座標を受け取り、ポータルに座標が設定され俺はそのまま飛び込んだ。
あの兄貴と弟ジェイル、黒塗りの組織と対峙しているところまで無事飛んだ。
***
「ここに興味深い鬼がいると聞いた。
通常なら人から鬼になる話は山ほど聞いたことがあるのにその逆が成立するとは……面白いね。
ぜひ研究室に持ち帰りたいものだ――。」
俺は、なるべく黒塗りの組織、ジェイルの兄、ジェイルの背後を取る形で様子を伺った。
俺が受けた試練と同じような展開をしており、影響もさほどないように見受けられる。
しかし、途中で返ってしまったのでこのあとどう展開するかがまったく読めない。
ここで後悔しても意味はないのだが、この先も見ておきたかった。
「あなたのような欲深いものに、弟は渡さない!お引き取り願おうか」
「こっちもはいそうですかと引き下がるわけにはいかないんでね。」
ジョーンズは何やら取り出した。ここからは距離があるせいかそれが何かわからない。
ジェイルの兄をそれを見て動揺している雰囲気だけが伝わってくる。
そう思ったときに健堂のスマホからオペラグラスが再生された。
(これで見ろと)
俺はオペラグラスでジョーンズを見た。
すると彼は何やら緑色の液体が入ったカプセルを持っていた。
(薬か何かか? 眠らせて連れ去るつもりか)
でも、何か違和感がある。あの光り方――まるでゼロポイントのエネルギーに反応しているような……。
(いや、今はジェイル救出が先だ)
俺は考えるのをやめた。
そしてスクリーン越しのジェイドが、侵入の合図を知らせてくれた。
俺は剣を振りかざし、切れた空間から新たなフィールドが出現していた。
同時に周囲の時間が止まっていた。
俺はそれに迷うことなく飛び込み、ジェイルの精神世界に侵入した。
そしてそれと同時に小さい音がしたような気もするが、おそらく剣で切り裂いた残響だったのだろう。
「意外と綺麗だな――」
まだ鬼だった彼の心の中は想像以上に穢が少なかった。本当にあとも一踏ん張りで人間に戻るくらい白く輝いていた。
しかし、奥に進むと黒い影が道を塞ぎ霧のようなものが立ち込めていた。
するとジェイドが、ゼロポイントの具体的な位置を示してくれた。同時に健堂のシミュレーションで最短距離が青色で表示されていた。
しばらくすると崖になっており、そこは暗黒のような霧で奥がどれくらいかわからない。しかしうっすらゼロポイントらしき光が漏れ出ているのが確認できた。
「これか」
すると暗黒の霧のようなものが俺めがけて襲いかかってくる。
「……くっ!!」
その暗黒な霧のようなものは鬼の姿に似ていた。もうダメだと思った瞬間、剣がひとりでにブラックホールのように邪悪な力を吸収していた。
「……ッ!!」
俺はあまりに驚いた。すると身体が勝手に動き出し縄を持ち出しその霧めがけて投げていた。すると、その縄は何かを捉え、瞬間に消えてなくなっていた。
(これオートで動くのかよ!?)
俺は驚愕した。剣と縄が、まるで意志を持っているかのように動く。いや――これは俺の「思い」に反応しているのか?
(スローンが言っていた、"思いを込めろ"ってこういうことか……)
改めて、この武器の凄さを実感した。
しかし目の前には先程の黒い霧は完全に消えており、奥には光り輝くゼロポイントそのものがあった。
俺は健堂に指示を出し、ロープの長さを一段と長めてもらった。そして縄をゼロポイントに掛けた瞬間。
ゼロポイントが眩しく輝き出し、俺は目をそらした。大きな光の柱が形成され、俺はジェイルの精神世界から弾き出された。
そして時間が動き出した。
「ジェイル!!」
「お兄ちゃん!!」
ジェイルの兄は、人間に戻った弟と熱い抱擁を交わしていた。
俺はその光景を、少し離れた場所で見守っていた。健堂とジェイドはスクリーン越しにその様子を見ていた。
(良かった……本当に良かった)
兄が弟の頭を撫でる。弟が兄の胸で泣いている。
俺はそっと、その場を離れることにした。これ以上ここにいては、歴史に干渉してしまう。
ポータルに戻ろうとしたとき――ふと気になって、ジョーンズがいた場所を見た。
そしてそこにいたはずのジョーンズの姿が見当たらなかった。
(あれ?ジョーンズは……いつの間に?)
不思議に思ったが、ジェイルが人間に戻ったことが最優先だ。細かいことは後で考えればいい――そう思った。
でも、どこか引っかかるものがあった。ジョーンズは何のために来たのだろう?
鬼を捕獲するつもりだったはずなのに、あっさり引き下がるとは思えない。
(まさか……)
これ以上俺は考えるのを止めた。今は、戻ろう。
***
「兄貴!」
「お兄ちゃん!!お疲れ様!!」
元の霊界に戻ると、健堂とジェイドが喜んでいた。
俺はホッとしていた。ジェイルは救えた。でも――スローンがどこにも見当たらない。
彼女は一体どこへ行ってしまったのか……。
すると、まもなくまた別のポータルが開き、重傷を負った彼女がよろめきながら現れた。
「スローン! 何があった!?」
「……スローンお姉さん!!」
「スローンさん!! しっかりして!!」
スローンの体には、見たことのない傷が刻まれていた。血が滲んでいるが、致命傷ではなさそうだ――いや、霊界の住人である彼女にとって、この傷が何を意味するのかは分からない。
彼女は震える手で俺に何かを渡そうとした。それは――小さな記録装置だった。
「これを……見て……奴らの……目的が……。
私は…………大きな………………過ち」
そのまま、スローンは意識を失って倒れ込んだ。
***
ー黒塗りの研究室ー
暗い研究室の中、白衣を着た女性がジョーンズを出迎えた。
「……ジョーンズ、うまく任務は遂行したようね」
その声は冷たく、感情の欠片も感じられない。
「ああ、完璧だ! あのタイミングであんたのカプセルを投げ込んだら、案の定、影で誰かが動き出した。救出作戦ってやつだな。
お陰で鬼のゼロポイント回収の全プロセスが記録できた――良いデータのおまけ付きだ」
その女は、ジョーンズが採取してきたデータを受け取った。すぐさまPCらしきものに読み込まれ、先程大吾たちが行ってきたことが一部始終記録されていた。
「……鬼は捉えられなかったがこれで勘弁してもらいたいね」
「捉えなくてもこれだけあれば十分よ、鬼から人間に戻る過程も把握したわ――。この仕組みがわかれば、ジェノ様も完璧というお墨付きでかなり喜ばれることよ――。」
完成まで間近よ――おめでたいことにあなたの出世も約束されるわね」
ここまでお読みくださりありがとうございます。
次はまた前後しますが、3人の試練の3人目の話につながります。
健堂、ジェイドに続く3人目はなんとスローン博士です。
仮面一族のために懸命に尽くしてくれていたことが最後らへんで明らかになります。




