何でそうなった
美しいシャンデリアを見上げながら、舞踏会でありながら誰とも会話せず、誰とも踊らず、メイジー・ロッソは溜息をついた。
胸元を開けてチョーカーで飾っているが、アクセサリーがないのが悲しい。扇子すらないことが壁の花になっている理由である。
グラスを口に当てワインを傾けて舐める。
「ヴエッ」
変な声を上げて変な顔をするメイジーに、笑い声がした。
「ククク」
いつの間にかいた男性にメイジーはハッとする。男性は笑いのツボにはまったのか、肩を震わせる。メイジーは顔を真っ赤にさせて顔を伏せる。
「いや、すまなかったな。無礼を許してもらいたい」
「いえ……気になさらないで下さい」
「ワインは初めてかな?」
「はい。いつもはお茶を飲んでます」
男性はおや、と思う。最近話題になっている飲み物で、王都でも品薄が続くほどの人気の飲み物を飲んでいるということは、貴族の中でも限られてくる。
「あの。どうなさいました?」
男性が黙り込んだことで、メイジーは眉を下げた。何かしらの失礼があったのではないかと不安になる。
「失礼を承知で伺うが、ご令嬢はロッソ男爵令嬢か? 今話題になっているお茶の」
「ええ。はい。そうですわ。公爵様。あの。記念に公爵様のサインを頂いてもよろしいですか?」
「え? 何だって?」
「男爵家の家宝にしますわ」
胸元から木の棒とメモ帳を取り出したことに、男性は目を疑う。淑女がすることではないからだ。
「持ってきてよかったですわ」
渡された木の棒とメモ帳に男性は目を丸くする。
「何だこれは? ペンか? それに荒いが、紙の束だと? これも男爵家の物なのか?」
「ペンの方は鉛筆と呼んでおりますの。気になるようでしたらそれはを扱っている商会を紹介いたしましょうか?」
男性はメモ帳に名前を書いた。
アレックス・フォルタール、と。
「インクがなくとも書けるとは……凄いな」
感心するアレックスに、メイジーはエヘヘと頬を緩める。
「それは何回も試作を重ねましたので」
二人は時間が許す限り鉛筆について盛り上がった。
メイジーは満足して、父親に報告するのを忘れて眠りについた。
平穏だったある日、女嫌いで有名な公爵様からメイジーに恋文が届いたことに家族全員が驚愕した。
アレックスのことを慌てて報告する娘に父親は頭を抱えた。
「何でそうなった」
父親の言葉にメイジーも何でそうなった、と頭を抱えるのだった。




