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異世界召喚されて王子の「偽婚約者」にされたけど、本命に恋してしまった  作者: 妙原奇天


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第16話 王城炎上、黒き報せ

 その夜、王都は赤く染まった。


 城下町の屋根の上を、風が走る。

 次の瞬間、爆ぜるような轟音が響いた。

 王城の尖塔から、炎が吹き上がる。

 鐘が鳴り響き、人々の叫びが夜を裂いた。


 ――反乱だ。


 王の間にいたエリナは、震える手で扉を押し開けた。

 階下から駆け込んできた近衛の顔は、煤で黒く汚れている。


「報告します! “黒の紋章”を掲げた者たちが南門を突破! 城内へ侵入!」

「黒の……紋章?」

「はい! まるで地獄の影のように……!」


 エリナは息を呑んだ。

 ――セドリック。


「陛下は!?」

「玉座の間です! 近衛を集結させています!」


 エリナはスカートを掴み、燃える廊下を駆けた。

 扉の向こうから剣戟の音。

 白煙の中、兵士たちが次々と倒れていく。


「エリナ、下がれ!」


 王――レオニードの声が響く。

 彼は剣を振るい、迫り来る黒装束の敵を斬り伏せていた。

 その背中は、かつての“王子”の面影を残している。


「陛下、敵は――」

「セドリックの兵だ。

 王都の地下に潜んでいた修道団の信徒どもが、一斉に動いた」


 王は剣を構えたまま振り返る。

 その瞳は鋭く、それでいて深く悲しかった。


「……あいつは、王座を取り戻す気ではない」

「え……?」

「“国そのもの”を作り変えるつもりだ」


 床が揺れた。

 天井のステンドグラスが砕け、赤い炎が降り注ぐ。

 燃え落ちる破片の中、王は静かに呟いた。


「――これが、あいつの“神の国”か」


 *


 一方その頃、王都の北西、修道院跡。


 吹雪の止んだ夜、カインは雪原を歩いていた。

 足跡の先に、古い祭壇がある。

 その上には、小さな光の粒が舞っていた。


 風が頬を撫でる。

 遠く、誰かの声が聞こえた。


 ――カイン、急いで。


 胸の奥が熱くなる。

 リュシアの声だ。


 カインは剣の柄を握りしめた。

 その刃に、かすかな赤い光が走る。

 まるで炎のように、血が呼応していた。


「……これは」


 刃の中に、王都の光景が映った。

 燃える塔、崩れる城壁、叫ぶ兵士たち。

 そして、エリナの姿。


 彼女は、王の隣にいた。

 剣を握り、炎の中で立っている。


「エリナ……」


 その瞬間、カインの胸の傷が疼いた。

 セドリックの剣が突き立てた場所。

 そこから、黒い煙が立ちのぼる。


「……あの男」


 怒りでも憎しみでもない。

 それは、宿命を認めるような静かな熱だった。


 風が強くなる。

 雪が舞い上がり、空に光の帯が走った。


 北の空が裂ける。

 そこから黒い鳥たちが飛び出した。

 王都へ向かって、まるで運命に導かれるように。


 カインは剣を抜いた。

 刃の音が、夜を裂いた。


「――行くぞ。まだ間に合う」


 雪を蹴り、彼は駆け出した。

 その足跡を、白い風がすぐに消していく。


 *


 王城の塔。


 炎の中で、セドリックは立っていた。

 黒い外套を翻し、ゆっくりと玉座に近づく。

 玉座の前には、剣を構えた兄。


「……やはり来たか、セドリック」

「兄上。これでようやく、王国は浄化される」


 兄弟の瞳が交錯する。

 燃える光の中で、その影は重なり、そして決裂した。


「お前が求めた神の座に、民はいない!」

「だからこそ、私が導く! 彼らは信仰を失った羊だ!」


「ならば俺は、羊の王でいい。

 影の神よりも、痛みを知る王でありたい!」


 剣がぶつかる。

 火花が散る。

 兄弟の戦いは、国の運命そのものを裂く音だった。


 エリナは震える手で見つめていた。

 どちらを止めることもできない。

 どちらも、この国の“正しさ”を信じていたから。


 そのときだった。

 塔の上空が、まるで夜を裂くように光った。


 ――雷鳴。


 そして、その光の中からひとりの男が降り立った。


 黒い外套を翻し、手には銀の剣。

 顔に走る傷。

 けれど、その瞳は確かに生きていた。


「……兄弟喧嘩は、まだ続いていたのか」


 カイン。


 エリナの唇が震える。

 レオニードが息を呑み、セドリックが驚愕に目を見開いた。


「お前……死んだはず――」

「何度でも立つさ。あんたたちを止めるためにな」


 雷鳴が再び響いた。

 カインの剣が光を放つ。

 その刃に映る三人の影が、ゆっくりと交差した。


「兄弟も、神も、理想も……

 それでも、この国を守るために剣を振るう。それが俺の答えだ」


 炎が揺らめく。

 風が吹き荒れる。

 三つの運命が、ついに同じ場所に集った。


 誰もが息を呑む。

 そして――次の瞬間、世界が弾けた。


 雷光が塔を貫き、炎が夜空を裂く。

 その光景は、まるで神々の審判だった。


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