プールの底に、知らない階段が見える
夏休み明けの始業式の朝、校舎裏のプールには水が張られていた。
掃除の時間、何気なくフェンス越しに中を覗いた私は、そこで異変に気づいた。
プールの底に、階段が見えていた。
普段のプールは、端にある梯子が上下する唯一の出入り口。
でも、その日は違った。
底面中央から、斜めに沈み込むようなコンクリの階段が続いていた。
誰かのいたずらかと思った。けれど水面は、誰も入っていないほど静かだった。
次の日も、その階段はあった。
教師に言おうとしたけれど、誰も信じてくれない。
「お前、そんなの見えたのか?」
放課後、友人と2人で再び覗いた。
そのとき、友人が小声で言った。
「……なあ、今、下から誰か上がってこなかったか?」
確かに、ゆらりと水が揺れた。
目を凝らすと、階段の中腹に“影”がある。
逆光で見えないけれど、それは明らかに“ヒトの形”だった。
階段を、一段ずつ、こちらに向かって昇ってきている。
慌ててフェンスから離れた。
次の日、学校中が騒然とした。
深夜、誰もいないプールで、生徒がひとり行方不明になったという。
彼の荷物は、プールサイドに残されたままだった。
今もプールの底には、階段が続いている。
そして今朝、私は気づいた。
影が、前より上に来ている。
あと数段で、水面に届く――