表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢だけが何も知らない世界~無理やり婚約させられたのに、一方的に婚約破棄ってありですか~  作者: 白根 ぎぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/50

34、ベッファの過去―――ベッファと???②

 



 ハンナの焦りは日々強くなっているようだった。教会での祈りの途中で、荒れた言動が頭上から多く聞こえるようになり、アイリスは祈るような気持ちで窓を見上げていた。


 そんな中、数年聞いていなかった声が扉の外から聞こえてくる。アイリスの世話をしているスージーと話す声は、記憶にある声より低くなっており、足音が近づくにつれ恐怖心が膨れ上がっていく。扉がゆっくりと開かれ、見えた姿にアイリスは体を震わせた。


 ベッファが初めてアイリスを閉じ込めている地下の部屋を訪れたこの日、アイリスは本当の絶望を知ることになる。



―――なぜ、殿下が……? 一度も来ていなかったのに、まさか……。



 扉を開けたまま少しだけ話すと、スージーを下がらせ、その扉は閉められた。スージーが毎日掃除をし、花を活けている部屋をぐるりと見まわし感心したように笑みを浮かべた。


『アイリス、相変わらず美しいな』


『殿下、どのようなご用件でしょうか』


 ベッファはアイリスに冷たい視線を向けた。その目にはハンナを見つめていた時のような、優しく愛情溢れる瞳ではない。学生だった頃のような瞳でもない。幼少期から知っている、周りの人間は全員が自分の言うことを聞く人形とでも思っている目だった。


『お前はいつも冷めた顔をしているな。折角この私が会いに来てやったんだ、喜んだらどうだ?』


 明り取りの窓の下で、入り口へと顔を向けているアイリスを見つめるベッファの双眸は、強く支配的な光を宿していた。アイリスは息をすることすら忘れ、ゆっくりと歩いてくるベッファから、逃れることはできないと悟っていた。


『…………』


 ベッファは窓から入って来る光の下で、歪んだ笑みを浮かべた。ソファに座っているアイリスの元へたどり着くと、顎に指をあて上を向かせた。


『ここの窓は不思議だろう? この城には多くの隠し通路に部屋があるんだ。その中で、ここは私たちの住む部屋から新しく建てさせた教会に行くまでの通り道にあるのだが、ハンナの声がよく聞こえるだろう? 最近の声も聞こえていると思うが、子ができなくてなぁ……それで思い出したんだ、アイリス、お前の存在を』


 アイリスの唇を親指で触れた。


『なにを……なにを言われているのですか』


 ベッファはアイリスを見下ろした。その視線には愛情などの優しさは欠片もなかった。アイリスに向けられていたのは、ただ支配欲に満ちた肌を這うような視線であり、それはぞっとするほど不快なものだった。


『もう二年だ。最初に夜を共にしたのは、四年前だったか……アイリス、お前をこの部屋に連れて来たその日に私は初めてハンナを抱いた。その時にどうしてもとせがまれて、満たしてやったが子はできなかった。その次は結婚してから、義務のようにほぼ毎夜していたが……未だにできていない』


『まだ二年ではございませんか。主治医は殿下もハンナ様も、どちらもお体に問題はないと言っておられたと聞いております』


『……スージーか。ふん、その通りだ、だが……それでもできないのだから、次の策を考えるのは当然のことだろう? アイリス、私はお前の体で試すことにする』


『……は? なにを……それは、それはハンナ様を裏切る行為です!』


『喜べ、アイリス。お前が子を孕めば、私のためにも、国のためにもなるのだからな』


 それは、命令だった。

 アイリスは顔面から血の気が引いていくのが分かる。ベッファの指が触れている、顎が、唇が、肌が、全てが不快な感覚に染まっていく。


『何を仰っているのですか……! そんなことは許されません! 私は、私はただ、ただ……ハンナ様の幸せを願って……』


 アイリスが抵抗の言葉を口にすると、ベッファは静かにその細い手首に嵌められた腕輪に触れた。魔道具の力が発動し、アイリスの体に今までに経験したことのない、激しい衝撃が走る。


『あっ……ぁああっ』


 その衝撃は一瞬であり、すぐに停止された。アイリスはソファに背を仰け反らせるように体を倒した。離れた指先を見るだけで、その衝撃と痛みを思い出し喉が締め付けられる。


 ベッファの双眸は弧をかいており、見下ろす姿は悍ましいものであった。その瞳は笑っておらず、アイリスに見せつけるように腕輪をもう一度撫で、抵抗しても無駄だということを無言で脅していた。


『ハンナの幸せを願っている? よく言えるな、そんなことが。お前、私が分かっていないと思っているのか? お前はハンナに押し付けたのだ、王太子妃の座も、国の未来も全て、お前がただ私から逃げ出したい一心でな!』


 ベッファはアイリスの耳元に顔を近づけるとそう囁いた。その声はアイリスの心が傷つくことに、心底喜びを感じているかのようであった。


『……ああ、私が愚かでした』


『そうだ、お前が愚かだったんだ。何も考えず、あのまま謝罪をしていれば公妾としてでも使ってやったものを……面倒な手間をかけさせた罰だと思え。まあ、あの時は私もなぜか、お前を排除しなければならないと思い込んでいたのもハンナのせいだろうがな』


『やめて、ください……ハンナ様をこれ以上傷つけないでください』


『傷つける……か。だが、お前は今から私と共犯になるのだ。アイリス、お前が私に抱かれていると知ったら、ハンナがどうなるのか想像してみろ。きっと、もっと壊れていくだろうな?』


『…………』


 アイリスの目から、大粒の涙がいくつも溢れた。抵抗する意思などすでになく、この男から逃げることなどできないということを分からせられたのだ。



―――私が、私が逃げたいと思ってしまったばかりに、この方を愛してくれる方がいることに感謝すらした私がいけなかったのだわ……決められた道を歩めば良かった……! こんなことになるくらいだったら……誰かを傷つけてしまうことになるくらいだったら、この方から離れたいなんて思うんじゃなかった……。



 自分が幸せになりたいがために、犠牲にしてしまったハンナの幸せのためなら、今度は自分の全てを犠牲にできる。今も昔も、アイリスは無力だった。


 これ以上、ハンナが苦しむ姿を想像することすら耐えられなかった。ベッファは薄々勘付いていたことを口にして、アイリスに自覚させたのだ。他者を犠牲にして得られた幸せは良かったか、と。

 その最も弱い部分を的確に突いて、罪悪感によってさらに支配を強めていく。


『来い、アイリス。すぐに楽にしてやろう』


 ベッファはアイリスの手首を掴むと、寝台まで連れていき投げ飛ばすかのように押し倒した。


『お前を愛したことはハンナと出会う前から考えても一度もなかったが、駒としては最高にいい女だとは常々思っていた。役に立てることを感謝しろ』



 ベッファの手は遠慮などすることもなく、アイリスの飾り気のない服を脱がしていった。

 アイリスはただ、この悍ましい行為が早く終わることを願うばかりであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ