1、始まりはここから
豊穣の女神より愛され、加護を受けし国グリンカント王国。
300年余の間、他国からの侵略や自然災害、食糧難など数多の危機とは無縁だったこの国では、王族が豊穣の女神に深く愛されていると考えられている。
初代国王の血脈が今も国を治めていることに、誰も異を唱える者はいなかった。
王族も、聖職者も、貴族も、民も、女神は王族の血に加護を授けている、と信じ、幼い頃から教えられてきたのだ。
誰も疑わないほど、国は昔から豊かであった。
この世界で豊穣の女神より加護を受けし国はただ一つだけ。今までもグリンカント王国以外にも加護が授けられていた国はあったが、その国は300年ほど前に何らかの理由で女神に見捨てられた。
理由は誰も分からず、女神の加護がなくなると、今までの負の要素を取り込むように国はすぐに廃れていった。ゆっくり、などという優しいスピードではなかった。
空気は淀み、作物は枯れ、病が蔓延り、人がいなくなる。
そして、近隣諸国の格好の的となり、国は分断され、今は国名も残っていない。
「それはそれは恐ろしい光景だったと私も聞いております」
女性が寝物語にと、国の歴史書の読み聞かせをしている。
この国では貴族から平民まで、識字率は高く、国の歴史を寝物語に聞かせることはよくあることだった。祖父母から両親へ、両親から自分の子供へ。分かりやすく聞かせることで、国の生い立ちと、いかに女神に愛されているのかを知り、女神への感謝を忘れずに深く信仰することを教えるのだ。
「あら、眠くなりましたか」
「……少しだけね」
「まあ、では続きはまた明日にいたしましょう」
「うん」
「おやすみなさいませ、ベアトリーチェお嬢様。女神の深い愛に包まれますように」
そういうと額にかかる前髪を優しくよけて、侍女は上掛けを引き上げるとベッドサイドの火を魔法で起こした風で吹き消した。
明日は初代王妃様のお話だわ、とふわふわした頭で少女は考え、眠りについた。