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公爵令嬢だけが何も知らない世界~無理やり婚約させられたのに、一方的に婚約破棄ってありですか~  作者: 白根 ぎぃ


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14、婚約者となって初めて聞かされる話



 王太子妃としての教育が始まったその日のことだった。ディエゴがこの日は街に出ているということで、国王ベッファと王妃アリアから三人だけの茶会をしようと声がかけられた。


「まあよく来てくれました、ベアトリーチェ!」


 王妃アリアはベアトリーチェの返事も待たずに力強くベアトリーチェの手を握ると、国王ベッファと王妃アリアだけが今は使用している部屋へと案内した。


「国王陛下、王妃陛下、ご機嫌麗しく。本日はお招きいただきありがとうございます」


「やだわ、もう娘も同然なのだからこのような場では王妃ではなく、アリアと呼んでほしいわ。そんなに畏まられたら悲しくなってしまいますもの、ね、陛下」


「そうだな、ベアトリーチェはディエゴの妃になるのだから、私たちのことは本当の父と母と思って接してほしい」


「はい、ありがとうございます」


 ベアトリーチェは促されるままソファに座ると、アリアは正面のベッファの隣に腰を下ろした。そしてさっと二回手首を揺らすと控えていた全てのメイドが退出していった。ベッファとアリア、そして自身のみのシンと鎮まる空間に、ベアトリーチェは気まずさを感じていると、その場の空気を換えるようにアリアの高い声が響いた。


「陛下と私はベアトリーチェ、貴方に謝らないといけないと思ってるの」


「謝る…ですか?」


「ええ、今回の婚約のことについてよ」


 その一言にベアトリーチェは身を固くする。


「アリア、私から話そう。シルヴィアのことについてはお前も知らないことがあるだろう」


「左様でございますね……私がお茶の準備をしますからその間にベアトリーチェにお話をお願いしても?」


「アリア様、私が……!」


 慌てて立ち上がろうとするベアトリーチェにアリアは微笑み首を振った。そして座っているベッファを見やった。


「ベアトリーチェ、この話は本当に難しい話なの。だから真剣に聞いてちょうだい」


「……は、い」


 座りなおしたベアトリーチェにベッファもアリアも頷いた。そしてベッファは顎に指を触れながらひどく愛おしそうに目を細め、ベアトリーチェを見やった。


「まず、ベアトリーチェの両親についてだ」


「お父様とお母様……」


「ああ、馬車で山崩れにあって亡くなったが、戻ってきた馬車も体も綺麗であったろう?」


「はい。山崩れで死んだとは思えないほど綺麗で、おじい様もそのことに気付いていろいろと調べていらっしゃいましたが、その……」


 ベッファはソファから立ち上がるとベアトリーチェの横に行き座りなおす。そしてベアトリーチェの肩を骨ばった大きな手で触れて、自分の胸元へと引き寄せた。突然のことでベアトリーチェは身を固くしたが、気にすることなくベッファは口を開いた。


「前公爵夫妻は社交シーズンの終わりに、再度お主を跡継ぎにするように書類を提出してきた。私もディエゴの手前、夫妻に婚約者の打診はしていたがあれはお主らを守るためだったんだ」


「守る?」


「ああ、これはここだけの秘密にしてほしいのだが、ベアトリーチェの祖母のソフィアと王家は誰も血が繋がっていないのだ。ソフィアは前国王である私の父が平民の男と駆け落ちした令嬢と関係を持ったのだが、その令嬢と前夫との間にできた子でな。父との間に子は生まれなかったが令嬢を可哀想に思い、父がソフィアを自分の娘として引き取り王女として育てたのだが……この話は今はもう私とアリア以外知る者はいない」


 ベッファの言葉にベアトリーチェは驚きのあまり動くことすらできなかった。ビスチェドレスを着ていたため素肌の肩に触れるベッファの手に更に力が込められたが、そのことにすら気が付かないほどだった。

 祖母のソフィアはベッファと同じ美しいブロンドの髪だったが、グリンカント王国では王族にしか見られない特に珍しい髪色だった。国民や貴族にもブロンドの髪はいたが、くすみが強く王家同様の髪色の者はほとんどいなかった。


「ソフィアの母の実家は元々は伯爵家だったのだが降爵され子爵家になった。ただそれ以前に王家出身の者が嫁いだこともある家系だったから、恐らくソフィアの美しかった髪色などは先祖返りだったのかもしれないな。ただそれももう何代も前の話だ。ソフィアの母は平民と駆け落ちしたことで貴族籍は抜かれていたが、その後はいろいろあって子爵位を褫爵され今は家名は愚か一門もこの国の歴史には残っていない」


 ぎゅっと抱き寄せられた力がまた強くなり、ベアトリーチェはベッファの胸に体を押し付けるような形になり身を強張らせた。ふにゅとベアトリーチェのやわらかな胸が50を過ぎても衰えていないベッファの鍛えられた厚い胸に押し付けられて形を変えたが、ベッファは特に気に留めている素振りもない。


 ふとアリアのことが気になり、先ほどまで準備をしていた場所に目をやると、そこにアリアの姿はなくなっていた。明るく整えられた部屋にベッファと二人だけという状況がベアトリーチェを何とも言えない気持ちにさせた。


「でもベッファ様はおばあ様のことを大変可愛がっておられ、父にも良くしてくれていたと聞いております」


「勿論だ。ソフィアとは血の繋がらない兄妹ではあったが、あの子は天性の愛らしさを持っていた。王妃だった母も私の兄弟たちも皆ソフィアを受け入れて愛していた。それにリカルドのことだってそうだ。リカルドはソフィアにとても似ていたから」


 ベッファはベアトリーチェの形のいい頭に自身の頬を擦り寄せた。


「リカルドの嫁だって本当は私が選んでやろうと瞳の青い令嬢を見繕っていたのだが、まさか帝国から留学に来ていたお主の母になるイザベラと出会い恋に落ちるとは……フ、そこもソフィアに似ていて驚いたし嬉しかったものだ」


「そうだったのですね。私は父と母の出会いを聞いたことがなかったので」


 少しだけベッファの口調に棘を感じた。そして頭上にあるせいか確認はできないが、嘗めるような視線を感じるのは気のせいだろうか。


「だから私としてはディエゴとベアトリーチェの血が近いということは絶対に違うと言えるのだが、ソフィアのためにも出自を明かすことも躊躇われてな。子爵令嬢との間にできた娘ということで王家には迎えられたのだが、実は貴族籍を抜けた女性と平民との間の娘と知れば、エルマンノやリカルドがどう思うか、私はそれが怖かったんだ。信じてあげれなくてすまなかったと今でも思っている」


「おじい様も父もきっと気にしなかったと思いますわ」


「ああ、そうだろうな。それでも怖かった。だが、ディエゴのことを考えると可哀想でシルヴィアには打ち明けたのだ。するとシルヴィアは私が嘘をついていると怒り狂い不安定となった。その後は皆が知っている通り、シルヴィアは私の子を胎に宿していたのだが不安定にさせてしまってそのまま……」


「……」


 幼いころにタウンハウスに遊びに来ていたシルヴィアは優しく明るい女性だった。ベッファが話すシルヴィアと自身の覚えているシルヴィア像が一致せず奇妙に感じた。


「シルヴィアに伝えても埒が明かないことから、あの山崩れがあった年に書類を直接持ってきた前公爵夫妻に私から話した。勿論驚いてはいたが、そういうことならと婚約者としての話を考えると言ってくれた」


「そ、そうだったのですか」


「だが公爵家を継がせたいと言う気持ちもあるだろうから、ベアトリーチェが子を幾人か産んだ際にはその子を跡取りにしてはどうかと話すと、持ち帰ってお主に話すと。私からも今の話を約束するために保持効果が付与されていた祝福石をリカルドとイザベラに渡したのだ。しかし領地へ戻る道中であのようなことに。ただ綺麗な状態でお主が二人を見られたのだったら保持効果が役に立ったのだろう、それは良かった。山崩れは本当にひどいらしいからな」


 ベッファに預けている体は強い力で抱き寄せられていることもあり、ベアトリーチェの腹部から上は左に捻られ左腕はベッファの背中側に自然と回す形になっており、ベアトリーチェの胸は完全にベッファの胸に押しつけるような形になっていた。


 ベアトリーチェがその体勢の悪さに体をずらそうと動かすと、ベッファが空いていた左腕をベアトリーチェを抱きしめるようにして背に回した。


「あっ」


 さらに体が密着したことでベッファと自身の体勢がかなり近すぎることに気付き、恥ずかしくなり顔を下に向けた。そこには自分の胸があり、ディエゴが仕立てるドレスよりかは露出が少ないとはいえ、着ていたビスチェドレスでは密着すれば胸は盛り上がりどうしても隠せないものだった。


「そしてエルマンノだが婿を迎えると言っていたと聞いたが、それは違う。アリア、あれをここに」


「はい、陛下」


「あっ違うのです、これは」


 いつの間にか戻ってきていたアリアに気付かず、国王とはいえ男性と抱き合っている姿を見られたことが恥ずかしく思え、ベアトリーチェは心臓が破裂しそうなほど痛かった。

 離れようとしてもベッファの腕が力強く離してはくれず、そのままアリアと見合う形になってしまっていた。


 アリアは人数分のカップをテーブルの上に置くと、ベアトリーチェの向かいのソファに持ってきていた紙を置くのと同時に腰をおろした。


「ベアトリーチェ、いいのよ、分かってるわ。前公爵夫妻の話を聞けば誰だって悲しくなるもの」


 慰められていたのだろうというような目で見られ、ベアトリーチェは目を伏せた。実際は驚きばかりであり、なぜ自身が抱きしめられているのかもベアトリーチェには分からなかった。

 ソフィアの話をするベッファが悲しそうだったこともあり、そのままにしていたらあの体勢になっていたのだ。


「それでこれよ、貴方のおじい様が持ってこられた書類」


 手渡された書類の字はエルマンノが書く文字と同じであった。中を見るとその書類には『孫娘ベアトリーチェは王太子ディエゴの婚約者にすることを承諾する『と記載されていた。公爵家の印もあり、偽物とは到底思えなかった。


「おじい様もディエゴ殿下とのことを了承していたということですか」


「ああそうだ。しかしエルマンノも領地に戻る前に病死した」


「でもあの時、病を抱えているようには見えなかったわ。だから私も陛下もベアトリーチェの意思を無視する形になって申し訳ないとは思ったのだけど、貴方を守るために急いだの」


「私を守る?」


 こくりとアリアは頷いた。


「恐らく公爵家を狙っている者がいるのだと思う。でもまだ少女だった貴方にこの話をしても理解できるとは思えなかった。だから跡継ぎを保留にしていたの」


「そしてディエゴの婚約者になれば私も可愛い妹の孫娘を助けてやることができる。それで多少強引ではあったが手を打たせてもらったのだ」


「私、いえ、我が家一同誰もそのようなことを何も知らず申し訳ありませんでした」


 ベアトリーチェはベッファに抱きしめられていることで頭を下げることもできず、そのまま謝罪をした。そして今後のことについても考える。


「私にできることはありますか」


「なんて良い子なの」


「さすがソフィアに似ているな……ただ、ベアトリーチェ、お主は今はまだ若すぎる。私たちに任せておきなさい。そしてできることならディエゴの婚約者として立派な王太子妃になってほしい」


「そうね。私もそう思うわ。私にも陛下との息子がいるの。でもね、王太子はディエゴ殿下よ。だから安心してこのままでいてほしいの」


 ベッファもアリアも優しい声だった。いなくなってしまった両親も、祖父も、この婚約を正しいと思い行動してくれていたにもかかわらず、自分は何も知らないまま婚約者になることを拒んでいたことをベアトリーチェは恥ずかしく思った。


「今までも大変ご迷惑をおかけいたしましたが、これからはディエゴ殿下の婚約者として精いっぱい頑張っていきますのでよろしくお願いいたします」



 ぽろりぽろりとベアトリーチェは涙を流した。その涙はベッファの胸を濡らし消えていった。

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