11、王太子ディエゴには記憶がある②
キリが悪くなったので夜もう一つ上げたい
ディエゴの前世は、決して悪いことばかりだったわけではない。
確かに小中高と家族の絆は無いも同然だったし、友人もほとんどいなかった。クラスに一人はいる一匹狼タイプと思われていたのかもしれないが、自分から話しかけに行くのもらしくないと思い、卒業アルバムの白紙のページはそのままの状態だった。
高校2年の時に自分のことを馬鹿にしていた女子は大学に進学したらしく、この町を出たと聞いた。
あの日の謝罪もないままだ。
自分はあのことがきっかけで女に絶望したが、そんな女こちらから願い下げだと、忘れてやることにした。
高校を出て働きだした会社は工場だったが、同期も先輩も皆優しかった。初めて充実した毎日を送れていると実感した。男も女も関係なく、気さくで話しやすい人たちばかりだったこともあり、すぐに社会人としての生活に慣れていった。就職し3年が経っても彼女はできなかったが、友人と呼べる人は数人できた。特に仲が良かった隣の製造ラインにいる女子とは、昼休憩が一緒になることが多く割と話すようになった。
その子がおススメとして紹介してくれたアプリゲームが『愛は執着のみ2』という乙女ゲームだった。
このゲーム、実は高校で女子がハマっていると言っていたゲームの続編だった。結局あの後、馬鹿にされた悔しさと腹立たしさであの女より早く全ルートクリアしてやると思い、自分でゲームをダウンロードした。
家ではずっと一人で遊びに行くこともなかったので、時間だけはあった。
学校から帰ればすぐにアプリを起動し、休日は朝から布団の上でそのままゲームを進めた。全ルートをクリアした後に、再度新規ルートを始めると裏ルートが始められるのだが、そちらも寝る間を惜しんでクリアした。
『愛は執着のみ』はヒロインが攻略キャラから溺愛され、次第にそれが執着となりお互いに愛し合って終わるハッピーエンドの物語だった。しかし裏ルートは大団円ルートでヒロインの尽力があり、攻略対象者は全て元の婚約者の元へ戻るというものだった。
高校生の時はよく分からないまま意地で全ルートをクリアしたが、まさか続編が発売されているとは思わず「え、これ俺がやっていい感じのゲーム?」なんて、知らない振りをしてしまった。
「何言ってるんですか、良いに決まってますよ! 私はヤンデレ系好きなんで、あっもちろんゲームの中だけですけど、でもこのゲームヒロインの愛され具合が超やばくておススメです!」
「そ、そうなんだ……折角おススメしてもらったしやってみるよ」
「これ続編なんですけど、タイトルに2って付いてますけど、1をやってなくてもできるように関連性はあまりないので! 王太子のルートやばいのでおススメなんですけど、あの、乙女ゲー大丈夫ですか?」
ハッと女子社員は今更男に乙女ゲームを勧めてしまったことに気付いたようで、あたふたと挙動不審に動く。好きなものを勧めてもらえる存在になれたことが単純に嬉しかった。
「乙女ゲーってやったことないから、意外と興味あるかも」
「本当ですか! やった、じゃあ招待コード送るんで連絡先交換しません?」
「う、うん」
明るい女子社員と連絡先を交換するとすぐに招待コードが送付され、その後もいろいろとメッセージのやり取りなどをした。終業後にネタバレは大丈夫ということ、近くの飲食店でお気に入りのルートなどを聞いてあっさり別れた。
もう変な夢は抱きたくなかったが、女性からの優しさが心に沁み渡った。
家に帰りゲームをダウンロードすると、懐かしい絵柄ですぐに前作を思い出せた。キャラクターの立ち絵からスチルまでかなり力が入れられており、ずっと見ていたいほど綺麗で声優も豪華だった。スタートボタンを押すと名前を入力させられ、ヒロインとしてゲームが始まった。
内容はシンプルでよくある令嬢もので、魔法の才能があった男爵令嬢が学園に入り様々な出会いをし、攻略対象キャラクターから愛されていくゲーム。
王道中の王道だ、その辺は前作と変わっていないようだった。
ヒロインが婚約者がいる王太子や子息たちと仲良くなり話を進めていくのだが、どのルートに進んでもヒロインは監禁されたり、しつこく付きまとわれたりする。ヒロインの真摯な態度と攻略対象者の溺愛っぷりに男爵令嬢をいじめていた婚約者たちは心を入れ替え、二人を応援するようになり、最後はヒロインと攻略対象者を祝福し二人は結ばれるというハッピーエンドの話だった。
攻略対象者は四人いるのだが、その中でも分岐ルートは二つ。全部で8ルートと思われがちだが実際は違う。
「あ、今回は大団円じゃなかったんだっけ。攻略サイト見なくても余裕だろうから、裏ルートまでやっちまうか」
攻略対象者のルートを全て終わらせトップ画面に戻る。『愛は執着のみ2』の画面に戻ると王太子のストーリーの横に赤い光マークがついていた。前作であった大団円ルートはなく、裏ルートと言われているものらしく、それをやるべく再度攻略を進めていった。




