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公爵令嬢だけが何も知らない世界~無理やり婚約させられたのに、一方的に婚約破棄ってありですか~  作者: 白根 ぎぃ


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10、王太子ディエゴには記憶がある①

ディエゴの話が長くなったので分けます



 王太子ディエゴ・グリンカントには、前世と言われる記憶があった。


 家は貧しく両親に愛された記憶もほとんどない。両親は共働きで常に家にはおらず、食事はスーパーで割引になった総菜を自分が買いに行くことになっていた。両親が共働きにもかかわらず家が苦しい理由は父親の借金だった。友人に騙され連帯保証人になって逃げられその返済に追われる。まるで小説やドラマで見るような理由だった。


 母親は中学3年の受験シーズン中に家を出て行った。今考えてみれば普通の家族だったはずが、突然借金を抱え8年も返済するための金を稼ぐ生活をしていれば、逃げ出したくもなるだろう。けれど当時の自分は自分を置いて逃げ出した母親を相当恨んだ。受験シーズン中だったから尚更だった。


 ある日突然離婚届を机の上に置いて息子である自分にも何も言わず出て行った母親。それ以来父親は家に寄り付かなくなり、月に一度だけ学校から帰ってくると一人で生活するには足りるだけのお金が封筒に入れられて机の上に置かれていた。父親に見捨てられていないだけでもマシだったのかもしれない。



 高校受験は無事合格し、晴れて高校生となった。



 借金はどうなったのか知らないが、恐らく自分には関係ないようにしてくれたのだと思う。アルバイトをしろなど言われなかったから。

 また、学費の無償化とは縁がなかったので、奨学金をもらい高校に行くことになった。必要な書類の準備や記入などは全て父親とは会うことなく、机の上だけでやり終えた。


 高校2年の時、何かと気にかけてくれる隣の席の女子に、すぐに好意を抱くようになった。話下手で、見た目も悪く、友人もいない自分にも優しく接してくれる委員長タイプの女子だった。クラスのお調子者の男たちから押し付けられる雑用を一人でやっていると、どこからかやってきては一緒に手伝ってくれたり、教師に頼まれた冊数の多いノートの提出も手分けして手伝ってくれたのだ。


 彼女も自分と同じ気持ちなのかもしれないと思うのに、時間はかからなかった。


 他愛ない会話の中で、彼女がハマっているものが携帯のアプリゲームだということを知った。

 高校入学と同時に周りに置いて行かれないようにと、家にいつ帰ってくるか分からない父親に向けて携帯電話がほしい旨を書いた手紙を机の上に残した。すると、手紙を読んだと思われるその日のうち、手紙の返事の代わりに新しい携帯が置かれていた。


 今までも親しい友人などはおらず、連絡先はクラスのグループのみで、新しい機種になっても同じだった。


 話す口実にすぐにアプリをダウンロードするか迷ったが、連絡先を聞きつつダウンロードの仕方などを教えてもらえるかもしれないと、ダウンロードするのはやめておいた。そんな夢を見てしまった自分を次の日、殴りたくなる。


 隣の席の女子に連絡先を聞くことができないまま、押し付けられたゴミ捨てを終わらせ、教室にカバンを取りに行く途中の階段で複数人の女子の甲高い声が響いた。足音からして3人はいるようだった。思わず階段横のトイレとの柱に体を隠し、階段を下りてこない女子生徒たちが通り過ぎるのを待つ。


「そう言えば隣の席の男子ずっと見てるじゃん、あんたのこと」


「分かるー! てかさ、いかにも惚れてますって感じで超ウケる」


「ちょっと、そういうこと言わないでよ」


 制止するその声に聞き覚えがあり、ドキリとした。


「なーに良い子ちゃんぶってんの」


「そーそー、で実際どうよ」


「もう……無理に決まってんじゃん、根暗だし、話しかけてもなんかモゴモゴ言ってて聞こえないし、先生の評価上げるためだけに手伝ってるだけだから」


「やっぱりね、そうだと思ってた。私もそれで内申あげようかな」


「ちょっとマネしないでよ、でも……おススメではある!」


 あはは、と一切悪気のない声とゆっくりと階段を下りる複数の足音が響き渡った。隠れていた体に力が入らず、へたりと座り込んだ。あんなに良くしてくれていた女子ですら、こうなのだ。自分は誰にも好かれることはないのだと絶望した。

 翌日からは話しかけられても必要以上は返さず、提出物も自分一人で持って行くようにした。急に態度を変えたことで、女子のグループからあからさまに悪口を言われるようになったが、どうでもいいことだった。


 結局、友人も恋人もできないまま高校を卒業すると、父親との縁を切れた。



 自分から縁を切ったのか、父親から縁を切られたのかは分からなかったが、この後、死ぬまで連絡が来ることはなかった。もちろん自身が死んだ後のことは分からないので、本当はどうなったかは知らない。



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