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ザマァすべきか、ザマァ返しに持ち込むか、それが問題だ。

作者: 櫻井入文

宜しくお願い致します。

 キラキラした金髪の令嬢たちがドレスを翻し、イケメン貴公子たちが意味深に微笑む、ここは異世界ファンタジーのお約束な舞台、王立魔法学園。


 すべては、この魔法学園の旧校舎の図書室から“ザマァすべきか、ザマァ返しに持ち込むか、それが問題だ。”という一冊の古書が見つかったことが始まりだった。



 ◆◇◇◇



 わたくしは、ヴァリエガート “ローザ”・ディ・カステルフランコ。


 自分の人生に平成がスッポリ入ってしまった事に慄きつつ、令和ちゃんが気象取扱いに慣れる前に天に召された悲しき日本人ですわ。人間、運って大事。


 このヴァリエガート。

 生まれた瞬間から美しかったらしく母は産みの苦しみがすっかり癒えて、父はわたくしの美の前に崩れ落ちたそうよ。んなわけあるかい。


 ま、単純明快に絵に描いたような溺愛ですわね。


 そしてわたくしは、この世界……に、ものすごーく類似した恋愛系ノベルゲーム『ブルーフラワーと虹の王国』に出てくる『悪役令嬢』という者らしいのですわ。


 らしい。というのはわたくしも良くわかりませんの。学園で見つかった一冊の古書、“ザマァすべきか、ザマァ返しに持ち込むか、それが問題だ。”という説話集の中の一編、『ブルーフラワーと虹の王国』という話に起因します。


 写本が出回っていたのでわたくしも興味本位で読んでみたのだけど……そこであら不思議。わたくし、前世なるものを思い出しましたの。とはいえ、軽く靄がかかって薄ぼんやりしたものですし、強く頭に残ったことくらいしか覚えてませんから転生チート最高みたいなことにはならず。


 人間、転生者だからって何でもかんでも対応できるわけではないってことですわね。勉強になりました。


 さて。両親や身内から美の申し子みたいな扱い受けておりますヴァリエガートですが、金髪縦ロール、扇子パチン、傲慢な笑い声付きの昭和中期テンプレ仕様ですの。……クセ強。心が折れそうです。ヴァリエガートのビジュアルの方向性は、アイデンティティを保持しつつ刷新することにしまして。


 取り敢えず、物語の登場人物と名前が似ているし、わたくしも前世でネット小説というものを多少なりとも嗜んでいた身。


 ここは回避一択だろう! と、思いましたので、生き残りをかけての行動を起こすことに致しましたの。


 思い立ったら吉日、と申しますでしょ?


 そんなわけで。

 なんやかやして今、わたくしの目の前には、『ブルーフラワーと虹の王国』のヒロイン、ラブハートに似た名前のベルハートちゃんがお立ちになっております。


 ふわっとしたミルクティー色の髪に潤んだ瞳、貧乏男爵家の出ながら学園一の美男子エンダイブ王子に愛される予定の、いかにもな可憐な主人公です。物語通りなら、わたくしは彼女に嫌がらせをし、エンダイブ王子に「ローザ、君は最低だ!」と糾弾され、最後は破滅エンドとなる転生前のわたくしが散々読み倒した王道テンプレですわね。


 にしても。と、肩にずっしりと重さを感じます。悪役令嬢は、努力しても報われず、みんなに嫌われ、最後は崖から落ちるとか国から追放されるとか、そんな展開ばかり。


 わたくしも生きた人間ですから、そのような悲劇が待ち受けているとわかっていて人生を突き進むとかとても難しく。


 と、いうことで。心機一転、わたくしがヒロインになってしまえばいいのでは? というコチラも王道テンプレで対抗することに致しましたの。


「あの、なにか?」


 ついつい行く手を立ち塞がるようになってしまったわたくしを訝しみつつ、ベルハートちゃんが図書室から借りた本を胸に困り顔で立ち止まっております。


「ねえ、あなたって本当に可憐よね」

「は?」


 あらやだ、いけないわ。そんなつもりは無くとも悪役仕様の台詞回しになってしまうのかしら。

 イメージ向上、好感度アップを目指さないと。


「わたくし、あなたのことを応援しておりますの。殿下との恋、頑張ってくださいませ」


 オホホホと続いてしまうのは、オプションならオフりたいわね。


 ま、兎に角。目を白黒させている彼女の手を取り、満面の笑みで握手。これで彼女の警戒心はゼロになったはず。


「あの、え、あの……は?」

「ポカン顔も可愛いなんて反則ね、ごきげんよう。オーホッホッホッ」


 御免遊ばせ〜〜〜という言葉とともにベルハートちゃんの前から立ち去りました。


 断罪回避の第一歩、順調ね!


 さらにエンダイブ王子には、「わたくし、ベルハート・ズッチェロ男爵令嬢のような純粋な人が大好きなのです。彼女と殿下が結ばれたらお伽噺のようで素敵だと思うのですが」とかなんとか、爽やかにアシスト宣言。


 裏では、学園中の噂を操作しまして「ローザ様って実は優しい」や「ローザ様って実は犬派」や「ローザ様って実はエンダイブ王子が大好き」というイメージを植え付けていく。イメージ戦略大事。

 完璧でございましょう?


 そして迎えた運命の舞踏会当日。殿下がベルハートちゃんに告白するはずのシーンで、わたくしがドレスの裾を翻して颯爽と登場いたしました。

 本日のドリルは一段と気合が入っていて、髪の中にパールをあしらい、小花もたくさん咲いておりますの。あら可愛い。妖精みた〜い。侍女たちの自信作ですわ。


「殿下。もし、僅かでもわたくしに気持ちがお有りでしたらベルハート嬢ではなく、わたくしと踊っていただけませんか?」


 懇願の困り眉、か・ら・の、うるみ目っ!


 会場がざわつく中、王子はちょっと戸惑いながらも、「う、うん、ローザなら……」って手を差し出して下さいました。よし、ヒロインの座、GET!


 順調ですわ〜〜〜オーッホッホッホッホッ。


 で、ベルハートちゃんがどうしたかと申しますと。 彼女、隅っこで拍手しておりましたの。「ローザ様、すごい。私には無理だと思ってたから、代わってくれて嬉しいです!」って、ニコニコと……。おや?


 え、待って。怒りませんの? 悔しがりませんの? いやいや、普通ここで「私の王子様を奪わないで!」とか叫ぶシーンでございませんこと!?


 解せぬ。


 その後、わたくしが殿下とイチャイチャしてる横で、ベルハートちゃんは平然とケーキ食べておりました。


 …………解せぬ。


 ヒロインの座を手に入れましてもアフターケアは欠かさない。

 それがわたくし、ヴァリエガート “ローザ”・ディ・カステルフランコですわ。


 学園の図書室で静かに本を読まれているベルハートちゃんの傍らの椅子に腰を下ろしましたら、彼女ははにかんだ笑顔でわたくしを迎えてくださいました。


「私、実は恋愛より本が好きで……」


 新情報ですわね。

 ベルハートちゃんは寮暮らしということで、部屋の広さには限りがあります。多くを持ち込むことは出来ないので図書室が第二の自室のようなものなのだとか。

 確かに、彼女を捕まえるのに図書室前の廊下で待ち伏せるのが一番でしたわね。


「こ、今度、我が家の馬車で隣町まで出掛けませんこと」

「え?」

「隣町にはこの国一の大図書館があると聞きますから」


 だんだん小さくなっていくわたくしの声と反対に、ベルハートちゃんの目は大きく見開かれていきます。


「……はい、是非!」




 結局、王子とわたくしが婚約して、わたくしは見事に『ヒロイン』の座を奪取。ベルハートちゃんは学園を卒業後、田舎で本に囲まれた生活を始めて、「理想とする読書空間。これが私の究極の幸せです」と、自身が追い求めた環境に浸り、満喫するさまを手紙にしたためて送ってきてくださいました。


 ……なぜでしょう。私が悪役令嬢からヒロインにジョブチェンジしましたのに、ベルハートちゃんの方が幸せそうに思えるのですが……。


 こうしてわたくし、ヴァリエガート ・ディ・カステルフランコは、ヒロインの座を奪ったはいいけど、拍子抜けして終わるという、なんとも微妙な勝利を手に入れたのでした。


 めでたし、めでたし……なのかしら?





 ◇◆◇◇



 こんにちは、ベルハートよ。

 ベルハート・ズッチェロ。


 男爵家の三女で、なんとか奨学金で王立魔法学園に入った、わりと平凡な子。茶髪で目がちょっと大きいくらいが取り柄かな。まぁ、そんな私が学園で注目されちゃうなんて、びっくりよね。

 だって、エンダイブ王子って超イケメンが、私に興味ありそうな感じでチラチラ見てくるんだもん。いやいや、私なんか貧乏だしドレスだって借り物なのに、何!?


 で、噂によると、私って『ヒロイン』らしいの。なんか、この世界って物語みたいになってて、私が王子と結ばれてハッピーエンド、みたいな筋書きがあるっぽい。

 そこには『悪役令嬢』っていう障害があって、ローザ様って金髪縦ロールのキラキラお嬢様が、私に意地悪してくる予定なんだって。


 意味わからないし。で、噂の出どころを調べたら旧校舎の図書室から見つかった“ザマァすべきか、ザマァ返しに持ち込むか、それが問題だ。”という一冊の本だった。


 本と聞いたら読まずにはいられない。実際に本を読んだことがある生徒を見つけ、その子の伝手で写本を所有している生徒まで辿り着き本を貸してもらう事に成功した。


 黙読。


 ふーん、そうなんだ。


 それが、読み終わった時の最初の感想。


 ベルハート、ラブハート。ヴァリエガート “ローザ”、ヴァリエガータ“ルシア”。エンダイブ、エンディヴィアス。

 似てると言ったら似てるけど……。ねぇ?


 まぁ、私、意地悪されてもあんまり気にならないタイプだし。本読んでれば幸せだからさ。


 そしたら、ある日、図書室に向かう廊下にローザ様が立ってた。ど真ん中って何気に貴族よね。他人様の邪魔になるって考えてないのかな。考えてないだろうなぁ〜、あのツインドリル、強化系のバフついてそうだし。


 退いて欲しいって言いたくて、言葉選んでいたら「あなたって可憐よね」って初手褒め殺し食らってしまった。


 脈絡なさすぎじゃない?

 その後も「あなたのことを応援しておりますの」からの「殿下との恋、頑張ってくださいませ」とか続くし、びっくりしてマヌケ顔を晒してるうちに握手されてしまった。


 え、応援? 意地悪じゃないの?


 なんか拍子抜けしちゃったけど、「御免遊ばせ〜」って立ち去っていく背中に、「あ、ありがとうございます」って返しといた。

 聞こえていたかは謎。


 なんっつーか、悪い人じゃなさそう。


 それから、ローザ様がすごい勢いで動き出したのよ。王子に「ベルハート嬢との恋を応援致しますわ」とか言ったらしくて、無駄に王子に絡まれて読書時間削られてウザかった。

 あと、学園で「ローザ様は優しい」って噂を広めたり。

 まぁ……『ローザ様優しい』は、ズレてるところ込みで、あってるとしてもよ。

 との、って何。との、って。一応、意思確認しよ? 私、私、当人わたしね?


 で、舞踏会の夜には、私が王子と踊るはずの場面で、ローザ様が「わたくしと踊っていただけませんか?」って王子とワルツを踊り始めちゃった。


 会場がざわついたけど、私、隅っこでケーキつまみながら「へえ、すごいなー」って拍手してた。だって、私、ダンス苦手だし、王子と踊るなんて緊張するだけだもん。


 正直、王子とくっつくのって、私には荷が重いなって思ってたの。だって、王子と結婚したらお城で暮らすんでしょ? ドレス着てかしこまって、毎日お茶会とか……ムリムリ窮屈過ぎて心の過労死一直線。図書室で紅茶飲みながら本読んでる方が、100倍幸せだよ。ローザ様がヒロインやりたいって頑張ってるの見たら、あ、じゃあどうぞどうぞって譲りたくなるじゃない。だから譲っちゃった。王子もローザ様と楽しそうだったし、win-winじゃん?


 結局、ローザ様が王子と婚約して、私は学園卒業後に田舎に帰ったの。実家近くに小さな家借りて、何度か読んでそれでも手元に置いておきたいと思った本を集めつつ、貯めたお金で稀覯書を一冊ずつ買い集めて。

 本棚いっぱいの本に囲まれて、毎日まったり読書三昧。ローザ様からも卒業祝いとして本をたくさんいただいてしまった。ローザ様、私たち同級生です……。


 本人、「多いと床が抜けると心配されていましたから……」と、手紙で控えめにしましたのアピールされていたけど、168冊って少しじゃないよね? ドリル? ツインドリルだから? 本人の金銭感覚がバグってるんじゃなくて?


 御礼状を兼ねてローザ様には「祝ヒロインスライド。たくさんの本に囲まれて、私、とっても幸せです」って手紙送っといた。

 返事で「そ、それは良かったわ」って困惑してたみたいだけど、まぁ気にしないでよね。


 そんなわけで、私はヒロインの座をローザ様に押し付けて、……いや、譲って、気ままに幸せを手に入れたのでした。


 物語の主役? いやいや、私には本があれば十分。めでたし、めでたし!





 ◇◇◆◇




 やあ、僕はエンダイブ・シコレ・アンディーヴ。王立魔法学園に通う、第一王子にして次期国王候補。金髪碧眼で剣術も魔法もそこそこ得意、いわゆる『絵に描いたような理想の王子様』ってやつだ。

 国民からも『完璧な貴公子』とか持ち上げられてる。しかし、正直、期待が重いんだよね。


 そんな僕が最近気になってるのは、ベルハートっていう明るい灰みのある茶髪の女の子。男爵家の出で、奨学金で学園に入った頑張り屋さん。控えめだけど笑顔が可愛くて、なんか癒されるんだ。


 で、どうやらこの世界って物語みたいになってて、僕がベルハートと恋に落ちてハッピーエンド、みたいな流れがあるらしい。


 そこには『悪役令嬢』としてヴァリエガート “ローザ” ・ディ・カステルフランコが出てくる予定。金髪縦ロールで扇子パチン、いつも高笑いしてるあの令嬢だ。物語だと、彼女がベルハートに嫌がらせして、僕が「ローザ、君は最低だ!」って糾弾するらしい。ふーん、そういう展開か。まぁ、ベルハートを守るためなら頑張るよ。


 でもさ、事が進むにつれて、なんか変なんだよね。まず、ローザがベルハートに「あなたの恋、応援しております」とか笑顔で絡みに行ってて、全然意地悪しない。


 逆に僕には「ベルハート嬢と殿下が結ばれたらお伽噺のようで素敵ですわね」とか言うし、「最近、わたくしベルハート嬢とお話する機会が多いのですのよ」とか「殿下、なにかございましたらおっしゃって下さい。協力致しますわ」とか爽やかに宣言してきた。え、協力? 悪役令嬢の仕事放棄? 学園中でも「ローザ様って優しい」って噂が広まって、僕、完全に混乱中。


 そして舞踏会の夜。僕がベルハートに告白して踊るはずの場面で、ツインドリルにいっぱい花を咲かせたローザが僕の前に現れて「ベルハート嬢ではなく、わたくしと踊っていただけませんか?」って告白してきた。


 すごいな、どうやって花留めてるんだろう。


 僕は「え、う、うん、まぁローザなら……」って手を差し出しちゃった。だって、彼女、めっちゃ世紀末覇者みたいな気を背負って迫ってくるんだもん。花咲いてるし。

 ベルハートは隅っこでケーキ食べてて「素敵です!」とかなんとか拍手してるし。待って、ベルハート、怒らないの? 僕と踊りたかったんじゃないの?


 その後も、ローザが「王子、私と婚約しましょう」ってグイグイ来て、僕は「え、まぁ、いいけど……?」って流されるまま婚約。ベルハートはそれでいいの? って聞く前に「私、田舎で本読んで暮らすんで幸せです」って手紙が送られてきた。


 いやいや、ちょっと待て。僕が愛を誓うはずだったヒロインが、本に夢中で退場? ローザはローザで「ヒロインの座、頂きましたわ」って勝ち誇ってるけど、なんか僕、置いてかれてる感がすごい。


 結局、僕はローザと結婚する流れになって、王宮でキラキラ生活が始まった。彼女、意外としっかり者で頼りになるし、まぁ悪くないんだけど……。でもさ、ベルハートのあの穏やかな笑顔が時々頭に浮かぶんだよね。あの子、本当に僕のことどうでもよかったのかな。僕、ちゃんと気持ち伝える前に終わっちゃったじゃん。


 こうして、僕エンダイブはヒロインが入れ替わる混乱を乗り越えて、いや、流されて、ローザと新たな物語を始めるのでした。


 めでたし、めでたし……でいいのかな?


 なんかモヤるけど!





 ◇◇◇◆




 俺はトレビス・キオッジャ。王立魔法学園に通うエンダイブ王子の側近で、黒髪メガネの地味キャラだ。仕事は殿下のお世話と、彼の無茶な行動にツッコミを入れること。普段は「王子、書類はこっちです」とか「剣術の時間ですよ」って地味に支えてる俺だけど、最近の学園の騒動には、さすがに呆れ果ててる。


 いや、なんじゃこの茶番は!?


 まず、状況を説明すると、旧校舎の図書室から“ザマァすべきか、ザマァ返しに持ち込むか、それが問題だ。”という一冊の古書が見つかった。

 この本の中の一つに殿下たちと良く似た名前の登場人物が出てくる物語があったんだ。


 そして、その物語を踏襲するように殿下がベルハートって茶髪の奨学生に惚れて、「彼女と結ばれる運命なんだ」とかキラキラ目を輝かせてた。


 で、そこに悪役令嬢のローザ様が絡んで、ベルハートをいじめて、殿下が「君は最低だ!」って糾弾する予定だったらしい。


 ……予定ってなんだ?


 いや、考えてはいけない。考えたら負けだ。


 ここまでの流れとしては、うん、よくある話だ。俺は後ろで「王子、かっこいいですよ」とか適当に褒める役割でいいと思ってた。


 ところが、ローザ様が予想外の動きを見せる。目撃者の証言によると、ベルハート嬢に接触した彼女は、二言三言言葉をかわしたあと、にこやかに握手を交わして去ったそうだ。そして立ち去るローザ様の背にベルハート嬢がお礼を言っていたとか。

 一体、どんな会話が交わされていたと言うんだ。

 そして王子には、ベルハート嬢を応援したい。と、爽やかに絡み出した。


 は? 悪役令嬢がヒロインを応援? 学園中が「ローザ様って優しい!」って騒いでるけど、俺には「あいつ、何企んでるんだ?」としか思えん。


 そして舞踏会。王子がベルハートと踊るはずが、ローザ様が「わたくしと踊っていただけませんか?」って割り込んでくる。


 王子は「え、うん、まぁ…」って流されてワルツ開始。ベルハートは隅でケーキ食いながら「素敵です!」って拍手。


 いやいや、お前ら何!?


 王子はヒロインに振られた顔してるし、ローザ様は「ヒロインの座、GET! ですわ〜〜〜オーッホッホッホッホッ」って勝ち誇ってるし、ベルハートは「あ。本読む時間が勿体無いんで、じゃ!」って田舎に帰っちゃうし。


 俺、ただ眺めてるだけなのに、頭痛がしてきたぞ。


 結局、王子とローザ様が婚約して、ベルハートは本に囲まれたスローライフ満喫中。王子は「ベルハートの笑顔が……」とか時々ボヤいてるけど、ローザ様に「王子、会議のお時間ですわ」とか「午餐会の招待客は確認されまして?」とか「外遊先での〜」とかとか、引っ張られて尻に敷かれてる。


 で、俺は書類抱えて後ろで「はぁ……」ってため息つく日々。いや、誰も不幸じゃないっぽいけど、このグダグダな展開は何!? 物語なら編集者に突き返されてるレベルだろ!


 こうして、俺、トレビスは、王子の恋やらローザ様の野望やらベルハートのマイペースやらを眺めて、ただただ呆れながら仕事を続けるのでした。


 めでたし…って、めでたくねえよ!

 誰か脚本直してくれ!



春ですね。


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