ターフに描く漆黒の飛行機雲
2017年に日本で生を受けた馬、海外から来日した競走馬は7,262頭。
この世代の頂点を決めるレースに出走できる競走馬、18頭。
いついかなる時も日本競馬の頂点に君臨する競馬の祭典「日本ダービー」
いつからか言われるようになった格言。
「皐月賞は最も速い馬が勝つ。菊花賞は最も強い馬が勝つ。ダービーは最も運のいい馬が勝つ。」
ダービーは勝つ馬に運がなければ勝てないと言われる。その格言に、皐月賞を制した無敗の皐月賞馬コントレイルと、2年前に福永洋一から続くダービー制覇の悲願をかなえた福永祐一が挑む。
皐月賞で鮮やかなまくりをもって外からサリオスをねじ伏せた走りは本物。ここでは単勝1.4倍の一本被り。1984年以降では4番目の単勝オッズとなり、1強の様相を呈していた。
2番人気に支持されたのは皐月賞からの逆襲を期すサリオス、ここでも鞍上にダミアン・レーンを迎えて巻き返しの牙を研いでいる。
3番人気はワーケア、クリストフ・ルメールが騎乗する。ホープフルSでコントレイル、ヴェルトライゼンデの3着に敗れたのちに弥生賞2着から皐月賞を早々と回避し、ここに向けて照準を合わせてきた。府中は新馬、アイビーSと連勝を飾っている舞台。初めての重賞制覇をこの日本ダービーで飾るか。
日本ダービーの前哨戦は皐月賞のほかに青葉賞、京都新聞杯、プリンシパルSの3つが存在する。しかしながら青葉賞を制したオーソリティは回避、京都新聞杯は皐月賞で10着と大敗したディープボンド、プリンシパルSは同じく皐月賞14着のビターエンダーが制するなど、あまり他路線組の台頭なく、皐月賞組が優勢という見方が例年にも増して強かった。
東京優駿当日は曇り空ではあるものの馬場コンディションは良、速い時計が出る芝で15:40分、世代の頂点を決める第87回東京優駿日本ダービーが発走を迎えようとしている。
1-1 サトノインプレッサ 坂井
1-2 アルジャンナ 浜中
2-3 ワーケア C.ルメール
2-4 レクセランス 石橋脩
3-5 コントレイル 福永
3-6 ヴェルトライゼンデ 池添
4-7 ブラックホール 石川
4-8 ビターエンダー 津村
5-9 ダーリントンホール M.デムーロ
5-10 コルテジア 松山
6-11 ガロアクリーク 川田
6-12 サリオス D.レーン
7-13 ディープボンド 和田
7-14 マイラプソディ 横山典
7-15 サトノフラッグ 武豊
8-16 マンオブスピリット 北村友
8-17 ヴァルコス 三浦
8-18 ウインカーネリアン 田辺
1人のファンもいない府中の杜にG1ファンファーレが吸い込まれていった。
そしてゲート入りが始まる。奇数各馬も順調に入っていきコントレイルもゲートの中、偶数各馬も入っていく。最後は18番のウインカーネリアンと田辺がゲートに入る。
体制が整って、2017年に生を受けた7,262頭の中から選ばれた18頭が織りなす伝説が始まる。
各馬横一線のスタートを切った。始まる先行争い、内からアルジャンナ、ワーケア、コントレイル、ヴェルトライゼンデ、コルテジア、ガロアクリーク、ウインカーネリアンの7頭横一線の並びになるが、ここはウインカーネリアン田辺が盛んに手綱を動かして先頭に立つ。
その外にコルテジアがつけ、コントレイルは先行策、内の3番手を取りきった。その真後ろにアルジャンナ、外にヴェルトライゼンデがいて1コーナーに入っていく。その外からディープボンドがポジションを上げて4番手に上がる。アルジャンナの後ろ7番手に3番人気のワーケアとガロアクリーク、大外にヴァルコスが続いてコントレイルからヴァルコスまでが固まって先行集団を形成。
その後ろで脚をためているサリオス。その内にサトノインプレッサ、ビターエンダーにダーリントンホールが続き、その後ろに弥生賞馬サトノフラッグが構える。レクセランスが続きマイラプソディがやや外に出しながら追走、3馬身ほど置かれて最後方がマンオブスピリット。
この隊列で向こう正面に向いた。ペースはそこまで速くない。このまま淡々と流れるかと思った刹那にレースは急展開を見せる。
馬群から大きく離れた外に持ち出してマイラプソディが後方集団から先行集団の後ろ、いや先頭を伺うか、ものすごい勢いで加速していく。前半1000mは61.7、このペースで後方からの競馬はまずいと判断したか横山典弘、一気にマイラプソディを押し上げていく。一気に先頭を奪った。先頭を奪われる形になったウインカーネリアンはこれに抵抗せずマイラプソディが単騎逃げの形になって勝負の3コーナーに突入する。
マイラプソディが先頭、外の2番手にコルテジアが進出。内に下がったウインカーネリアンがいて外ディープボンドが4番手、その後ろにヴァルコスがいる。コントレイルは先ほどのまくりでウインカーネリアンが引いた分位置が下がり6番手のインコース。コントレイルを外からぴったりマークするホープフルS2着のヴェルトライゼンデがいて、外遅れてガロアクリーク、内にアルジャンナ。サリオスは依然好位集団を外から見る位置で脚をじっと溜めている。
レースの動きが激しくなってきた。
大ケヤキを通り過ぎて外からディープボンド、ヴァルコスが2番手をうかがうように進出を開始、マイラプソディ、コルテジア、ディープボンド、ヴァルコスの4頭が前横一線となって3.4コーナー中間、その後ろにコントレイルがいる。コントレイルの外にヴェルトライゼンデが上がり、外から手ごたえ十分にサリオスが上がっていく。
4コーナーを回り、一生に一度の直線に向いてくる。
コーナーワークで先頭はマイラプソディ。外からコルテジア、ディープボンドが追ってくる。
さらにその外、4番手に上がってきたのが皐月賞馬コントレイル。鞍上福永は持ったままで前に接近して残り400mを通過する。その外からはヴェルトライゼンデ、大外に出してサリオスも追い出して末脚を伸ばしてきている。コントレイルはここで福永が徐々に外に持ち出してゴーサインを出した。残り300を切った。
馬場の真ん中に出されたコントレイルがあっさりと先頭に躍り出た。その外1馬身半遅れてサリオスがやってくるが末脚の差は歴然。
コントレイルに鞭が入る、内の各馬を一瞬で置き去りにして残り200を切った。漆黒の馬体が飛ぶように、飛行機雲の軌跡のように突き抜けていく。サリオスが大外懸命に追う、ヴェルトライゼンデが必死に追いすがるがコントレイルはその遥か彼方先にいる。
そうして父以来2005年ディープインパクト以来の無敗のクラシック2冠制覇が果たされた。
くしくもコントレイルが背負った3枠5番は2005年に父が背負った馬番と同じ。2019年の夏に亡くなった父を思わせる末脚をディープインパクトが躍動した府中の2400mで解き放って見せた。
2着は大外から追い込んだサリオス。朝日杯の勝ち馬だけあって距離への懸念があったものの、距離を克服し上がり3ハロンはコントレイルに次ぐ34.1 、しかしながらコントレイルに3馬身離されたように世代トップレベルの実力を有しつつも、コントレイルとは力差があるのは疑いようのない事実でもあった。
引き上げるところ、無人のスタンドに向かい福永騎手はヘルメットを取り深々と頭を下げた。
無観客で行われたダービーであり、テレビで見つめるファンに捧げる勝利であったのだろう。
インタビューで福永が語るにはコントレイルは直線抜け出すと遊んでしまう瞬間があったと語っており、精神面にまだ甘いところがありながらも無敗で2冠を成したという事実が彼の強さを際立たせる。
同一年に2冠馬と2冠牝馬が並び立つというのはままある話だろう。しかしこの2頭はいずれも無敗である。そしてかつて1度も同一年での三冠達成というのは果たされていない。
デアリングタクトとコントレイル、この2頭の名馬が果たして三冠馬になることができるのか、それも無敗での三冠となるのか。この問いと大きな期待は秋の淀に持ち越されることになった。