エピローグ
「…………?」
ゆうに数拍意味を取りかねてから、リャニャはクラシュ師匠を見上げる。
「じょーきゅーまほーし?」
「魔女でなく、魔法師を目指すなら、すぐだろう」
そんな馬鹿なと、リャニャは困惑顔だ。
「俺は十七で上級魔法師になった。アガードは十八のときだ。俺がもっと早く見つけてやっていれば、アガードはもっと早く上級魔法師になれていただろう。その点、リャニャはまだ十四だからな。俺の記録くらい簡単に塗り替えられるだろう」
「わたしは」
「上級魔法師資格の基準はザルだ。なにせ単独で精霊王召喚ができれば上級だからな。簡単だろう?なぜこれが基準なのかさっぱりわからん。そのうち変更されるかもな。だから、簡単なうちに資格は取っておけ」
それを簡単だと言うのは師匠くらいですよと、サトラ先輩がいたらリャニャに代わって指摘してくれただろうに。
長い足を存分に活かして歩くクラシュ師匠の歩く速度が早過ぎて、サトラ先輩もアガード先輩も、すっかり置いてけ堀にされていた。
否。あえて、追い付けないほど速く、歩いてくれているのかもしれない。リャニャに話す内容が、誰にも訊かれないように。
「魔法式を使わなければ、呼べるだろう、精霊王」
「いえ、精霊王は、」
「ん?そうなのか」
「面識がないです」
「作るか?面識。俺なら喚べるぞ」
「いえ」
そんな、初孫を親戚に自慢したいおばあちゃんみたいなノリで、喚んで良い存在ではないと思う。精霊王は。
「まあ、わざわざ喚ばなくても、そのうち向こうから来るかもしれないか」
そんなことはないと、否定しきれないところがリャニャとしては痛いところだ。
「あの」
リャニャは話題を変えようと、クラシュ師匠に問い掛ける。
この四ヶ月、ずっと、問うことのできていなかった問いを。
「師匠は、どうして、わたしを弟子に?」
リャニャの幼馴染が、ピクシーであることを、クラシュ師匠は知っていた。だからリャニャだったのか、それとも、リャニャを弟子にと考えて身の上を調べ、そこで知っただけなのか。
「魔法使いを育てるためだ」
「え?」
思わぬ言葉を言われて、リャニャは目を見開く。
「俺は特級魔法師で、魔法師としては頂点と言って良い地位だ。特級魔法師はほかにもいるが、そいつらに劣る気はない。だが、魔法使いには敵わない」
クラシュ師匠らしい不遜な言葉に続いた、らしくない言葉。
「始めは俺自身が魔法使いになることを目指していたが、魔法師と違って、魔法使いは才能がすべてだ。俺には魔法使いになる才能はなかった」
「魔法使いに、なる才能」
「魔法を行使するありとあらゆるものを見、言葉を交わし、好かれる才能だ」
気付けばいつもの研究室で、リャニャは椅子に降ろされる。
「俺は、闇の精霊には好かれやすいらしい。だが、だからこそほかの精霊や妖精には好かれない。魔法式を使えば協力はしてくれるが、好き好んで近付いては来ない。だから姿を見せて貰えることも少ないし、言葉も交わせない」
近くにいれば見えはするがと、クラシュ師匠はリャニャの肩のモフに手を伸ばし、シャ!と威嚇されていた。
「この通りだ。嫌われている。リャニャ、お前のように、妖精から魔法式を習えはしない」
「魔法行使者から、魔法式を習うことのできるものが、魔法使いだと言うことですか?」
それなら確かに、ピクシーから魔法式を習ったリャニャは、魔法使いと言えるのかもしれない。
でも、リャニャがクラシュ師匠より秀でるかと言えば、そんなことはない。
「俺はそう考えている。そして、俺自身が魔法使いになれないなら、魔法使いに魔法式を習える立場になれば良いと考えた。だが、魔法使いなんて、そうそう出会える存在ではない」
「だから、自分で魔法使いを育てようと?」
クラシュ師匠は頷いた。
「アガードは、魔法使いになる素養のあるものとして、探し出した。サトラも、やつは常に風の精霊をくっつけている」
ああ、だから、立派な魔法師になったアガード先輩は、自分を普通の人間で、失敗作だと、言ったのか。
クラシュ師匠の目が、リャニャを見る。
「わた、しは、」
「俺はお前にも、魔法使いになる素養があると考えている、リャニャ。ピクシーが幼馴染だからではない。お前自身の素養を見込んでだ。だからお前を、弟子に望んだ」
言って、クラシュ師匠の大きな手が、リャニャをなでる。
「とは言え、強制するつもりはない。お前はお前のなりたいものを目指して良い。師匠として指導はするが、それは師匠に名乗り出たものとしての役目を果たしているだけだ。だが」
にこりと笑ったクラシュ師匠の顔は、指名会でリャニャが弟子になると行ったときと同じように、無邪気で無垢な、少年のような笑みだった。
「それはそれとして、リャニャが魔女ではなく、魔法師を目指すと言ってくれたことは嬉しい。お前がしっかり一人前の魔法師になれるよう、師匠として尽力しよう。改めて、よろしく頼む、リャニャ」
「はい。よろしくご指導ご鞭撻のほど、お願いします、クラシュ師匠」
ああ、と頷いて、クラシュ師匠はもう一度リャニャをなで、
「では、その第一歩としてまず、一週間の成果を聞こうか」
リャニャの対面に、どっしりと腰を落とした。
見習い魔女リャニャの最後の憂鬱な木曜日が終わり、見習い魔法師としての日々が、始まった瞬間だった。
つたないお話に最後までお付き合い頂きありがとうございました!
リャニャさんが見習い魔女でなくなったので
このお話は一段落です
時期は未定ですが
見習い魔法師なリャニャさんのお話を
次は書けたら良いなと思っています
そのためにいろいろ
未解決な謎を残したままにしてあるので
もし見かけた際には
またお付き合い頂ければ幸いです
また
このあと番外編として
サトラ先輩視点のお話を数話上げる予定です
そちらもよろしければお付き合い下さい
ただし間に合わないのでおそらく数日間が空きます




