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初級魔法師たちとリャニャはソフトクリームを、アガード先輩はコーヒーをお供に、しばらくゆっくりする。
と言っても、アガード先輩は、ようやく打ち解けて来たらしい初級魔法師たちに質問攻めにされていて、ゆっくりはしていなかったけれど。
「アイス美味しいね、リャニャちゃん」
「はい」
リャニャとサトラ先輩は、そんな様子をはたから眺めてまったりだ。
「アガード先輩ってさ」
「はい」
「僕と違って、初級魔法師をしてた時間がほとんどないんだ」
初めて聞く話に、リャニャは耳を傾ける。
「と言うか、見習い期間もほとんどなく魔法師になって、すぐ中級魔法師まで上がってるんだよね」
「えっ」
三年で上級課程に上がったリャニャだって、かなり早い方なのに、それ以上に早かったのか。
「入学が遅かったらしくて。そもそも、師匠が弟子として連れて来て入学させたんだって」
「最初から、クラシュ師匠の弟子として?」
「そう。だからいろいろ特例で飛び級?みたいな感じでね。それで、歴代二位の若さで上級魔法師になってるんだけど、そのせいで、近い年の魔法師とは、あんまり親しくないんだよね。ほら、上級魔法師って、そこそこ歳の行ったひとが多いからさ」
アガード先輩に話し掛ける初級魔法師たちのなかには、アガード先輩と同じくらいの歳のひともいる。けれど、その初級魔法師がアガード先輩に向ける目は、同輩ではなく上の立場のものを見る目で。
「同年代は、やっと中級に上がったひとが出たくらいで、ほとんどはまだ初級や下級、下手すれば見習いのやつだっている。もう、教え導く相手なわけ」
アガード先輩が実際に言ったわけじゃないけどと、サトラ先輩は続ける。
「結構、寂しい立場だったんじゃないかなって。上級魔法師とは、上手くやってるし、下からは慕われてるけど、同等な相手って、たぶんいないんだよ、先輩。僕も頼ってばっかだし」
だから、とサトラ先輩がリャニャを振り向く。
「リャニャちゃんといるときの先輩見るの、ちょっと好きなんだ」
「わたしですか?」
どうしてだろうと、リャニャは疑問を抱く。
「そう。自然体と言うか、打ち解けてる、感じ?リャニャちゃんといるときの先輩は、呼吸が楽そうに見える」
「そう、ですか?」
「うん。リャニャちゃんは気付かないだろうけどね。僕から見ると結構あからさま。だからまあ、良い機会だったかなって」
「良い機会?」
どう言う意味だろうか。
「リャニャちゃんが隣にいると、雰囲気が柔らかいから話しかけやすいんだよ、アガード先輩。だから、あいつらも打ち解けられたんだろうなって。それでもまだ緊張が抜けてないけど」
ああ、サトラ先輩は、アガード先輩が同年代と話していることを、歓迎しているのか。リャニャは理解して、初級魔法師たちと話す、アガード先輩を眺める。
「先輩って、あの顔面でしょ?それで、笑ってはいても雰囲気が硬いと、もう、高位精霊か精霊王かな?って感じで、下級魔法師からは話しかけにくいらしいんだよね。でも、リャニャちゃんと一緒だと、精霊が人間になるって言うのかな。笑顔も自然で、空気も和らいで、かなり話しかけやすくなってると思う」
リャニャはアガード先輩の笑顔が自然でないと思ったことはない。確かに、無表情だと冷たく見える美貌だが、いつもと言って良いほどに、その顔には柔らかい笑みが浮かべられている。
「あはは。リャニャちゃんにはわからないよね。大丈夫。良いんだ、リャニャちゃんはそれで」
口に押し込んだコーンのしっぽをサクリと噛み砕いて、サトラ先輩は笑う。
「さ、そろそろ研究室に行かないとね」
リャニャは頷いて、溶けかけたソフトクリームを胃に収める。甘くて、冷たくて、美味しかった。
リャニャが食べ終えるのを待ってから、サトラ先輩が声を上げる。
「せんぱあい!僕ら、もう行きますけどお?」
「私も行きます。すみません、続きはまたの機会に」
コーヒーを飲み干したアガード先輩が立ち上がり、初級魔法師たちも、名残惜しげながら立ち上がる。
「ソフトクリーム、ごちそうさまでした、アガード先輩」
リャニャが言えば、はっとして、口々にお礼を口にする。
「どういたしまして。美味しく食べて頂けたなら、良かったです」
答えて微笑む顔に、やっぱり不自然さはない。
少し首を傾げたリャニャの肩を、笑って軽く叩いて、サトラ先輩が、じゃ、行きましょ、と言いかけたところで。
「こんっなところにいたか!リャニャくん!!」
大声でリャニャを呼びながら、ユイ先生が駆けて来た。
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