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「いや、リャニャちゃん、あの短い音でそこまでの情報量だったの?あと、アガード先輩もなんでそんな、あっさり受け入れてるの?そして、リャニャちゃんを守るひと認定に僕は入れて貰えなかったあああ!」

 リャニャとアガード先輩のやりとりを見ていたサトラ先輩が、叫んでくずおれる。ちょうど学食に着いたところだったせいで、なにごとかと注目されてしまった。

「こらサトラ、こんなところで大声を出さない。座り込まない」

「そりゃ、僕じゃ頼りないかもしれないけどさ」

「ほら、拗ねていないで。サトラの好物がありますよ」

「えっ?あ、ほんとだ!リャニャちゃんこれ、僕のオススメ!」

 サトラ先輩が、さっと二人分の食券を買って、一枚をトレイと一緒にリャニャに渡す。

「研究棟の学食は初めてだよね?主菜で値段が決まっててね、主食と副菜ひとつは好きなの選べるんだ。麺類の場合は、主食の代わりに副菜ふたつね。追加料金を払えば、副菜を増やしたり、デザートを付けたり、飲み物を付けたり出来るよ。あ、でも、飲み物は付けなくても、コーヒーか紅茶は一杯付くし、お水は自由に飲めるからね」

 サトラ先輩が選んだ主菜は、鮭のソテーだった。温野菜で彩られたお皿の真ん中に、鮭の立派な切り身がどーんと鎮座し、上に輪切りのレモンとハーブを混ぜ込んだバターが乗っている。

「美味しそう」

「でしょでしょ。これをね、フォカッチャと一緒に食べるのが好きなんだあ。リャニャちゃんもフォカッチャで良い?」

「はい」

 にこにこ笑いながら、サトラ先輩がリャニャのトレイにフォカッチャを乗せる。

「おや、サトラ、副菜に、エルミ教授のトマトが使われたトマト煮込みがありますよ」

「嘘、え、僕それにする。あ、リャニャちゃんの分もあるよ、鶏のトマト煮大丈夫?」

「好きです」

「じゃあ絶対食べた方が良いよ。エルミ教授って、魔法で野菜の改良しててね、実験で出来た野菜をときどき学食に卸すんだ。美味しい野菜ばっかりだから、見付けたらめっちゃ幸せだよ」

 サトラ先輩がリャニャと自分のトレイにトマト煮を乗せる。アガード先輩もトマト煮を取って、それでトマト煮は完売だった。

「ギリギリだったね。ラッキー。あ、リャニャちゃん、コーヒーと紅茶はどっちにする?」

「温かい紅茶が、あ、でも、自分で」

「いいよいいよ、僕が取るから。はい、どうぞ」

 リャニャがなにもしないうちに、リャニャの食事が出来上がる。サトラ先輩が紅茶を置くと、アガード先輩がカトラリーを乗せてくれて、そして、

「サンソン教授の果物も、あったら食べた方が良いからね。生なら絶対」

「え、あの、」

「今日はあたしの奢り。もう払ってあるから、遠慮しないで食べて」

 アミラ先輩が、くし切りにされたプラムが乗ったお皿を置く。

「ここ、サラダも美味しいから、良かったら。あ、お金は払ってあるよ」

「おいお前抜け駆け」

「後輩にオススメ教えただけだろ」

 さらにサラダまで置かれて、しかもリャニャは全くお金を払っていない。

「食後に、アイスも買ってあげますからね」

 その上、アガード先輩からそんなことを言われては、リャニャは恐縮しきりだ。

「あの、わたし、お金、」

「大丈夫大丈夫。いつもご飯作ってくれてるお礼だよ。アミラたちは、可愛い後輩に好かれたいだけだし」

 サトラ先輩はあっさり流してリャニャの背を押す。

「ほら席取ろ。良い席空いてるかなあ」

「窓際の一角が空いているようですよ」

「あ、ほんとだ。さすが先輩めざといっすね。行こ、リャニャちゃん」

 リャニャの左右にアガード先輩とサトラ先輩、サトラ先輩の前にアミラ先輩が座り、ほかの初級魔法師たちは、アガード先輩を囲うように座る。

 本当に、アガード先輩と交流したかったようだ。

「え、やば、若、可愛い。俺、こんな可愛い子の前座ってメシ食って許される?」

「なに馬鹿なこと言ってんの?あ、リャニャちゃん、ここパスタも美味しいの。ひとくち食べてみて。お皿の端っこに、乗っけて良い?」

「あ、ありがとうございます」

 リャニャの主菜のお皿の端に、アミラ先輩の手で、くるりと綺麗に巻かれたトマトパスタが乗せられる。見るからに美味しそうだ。

「トマトパスタ好きで、あるとつい選んじゃうんだよねえ。ひどいと週三回トマトパスタ」

「トマト、好きなのですか?」

「そう。火を通したトマトが好きなの」

「なんにでもケチャップかけるもんな、アミラ」

「なんにでもはかけてない。合うものだけ」

 そう言うアミラ先輩の選んだ副菜はオムレツの乗ったサラダで、さっそくケチャップをかけている。

 火を通したトマトが好きなら、トマト煮も好きなのではないだろうか。

「アミラ先輩、良かったら、わたしのもひとくち食べませんか」

「えっ、良いの?貰う貰う。あー」

 鶏肉をひとつフォークに刺して、お皿に乗せようとしたリャニャに、アミラ先輩が口を開く。

 えっ、と思いつつも、リャニャは開いた口に鶏肉を差し込んだ。

「んー!美味しい!!ありがとうリャニャちゃん」

 パクリと豪快に鶏肉を頬張ったアミラ先輩が、幸せそうに微笑む。

「おい正面差し置いて斜め前がいちゃつくな」

「あんたがやったら犯罪だからね、絵面的に」

「やれねぇよ。サトラに締められる」

「リャニャさん、これも美味しいですよ、どうぞ」

 向かいの言い合いをなきものとして、アガード先輩がフォークで刺したお肉を差し出して来る。アガード先輩の選んだ主菜は、ビーフシチューだ。

 どうしようと戸惑うリャニャの口元に、アガード先輩は、にこにことお肉を差し出している。

「い、いただきます」

 控えめに開けたリャニャの口に、フォークが差し込まれる。リャニャが食べやすいようにだろう。小さく切り取られたお肉はほろほろで、よく味が染み込んでいた。色々な具材や調味料が混ざり合った、手の込んだ味だ。リャニャが作ると具材も調味料も単純になるので、この味は出ない。

「美味しいです」

「ふふ。そうでしょう。たまにはお店の味も良いものですよね。学食は学院が支援しているので、値段の割に上質なものが食べられますよ」

 言って、同じフォークで自分でもひとくち食べたアガード先輩が、ついもれた、と言う様子で呟く。

「リャニャさんのシチューを食べた後だと、物足りなく感じますね……」

 どうやらアガード先輩も、リャニャと同じように、このシチューとリャニャのシチューを比べたらしい。

 驚いたリャニャが顔を見上げると、アガード先輩は照れたようにはにかんだ。

「あ、ごめんなさい、つい。いつもリャニャさんの作る美味しいごはんを食べているせいで、口が贅沢になってしまったみたいです」

「えっあの、そんな、わたしのは、ただの家庭料理で」

「それが良いのです」

 アガード先輩が優しく目を細める。

「不特定多数の誰かではなく、顔の思い浮かぶ特定の相手のために作られた食事だから。リャニャさんの料理は、優しい温もりがあって美味しい」

 つまり、家庭料理に飢えていた、と言うことだろうかと、リャニャは思う。兄妹弟子兼、第二の師匠でもあるアガード先輩だが、あまり、個人的な事情を聞いたことがない。お祖母さんの作ってくれたオムライスが好き。リャニャが知っているのは、それくらいだ。

「おかしい。アガード上級魔法師って、俺より年上のはずなのに、少しも犯罪臭がしない」

「顔と人徳の差だろうな」

「さすが、魔女科ナンバーワン人気」

 前に座る下級魔法師たちが、小声で言い交わしている。

「ああー!わけっこずるい!僕おんなじ料理だから出来ない!!」

 そんな声を吹っ飛ばす、サトラ先輩の元気な声。

「えっと、サトラ先輩、サラダちょっと食べますか?」

「えっ、良いの?」

「はい。わたしには少し量が多くて、フォカッチャも半分、貰ってくれませんか?」

 リャニャの昼食は普段、サンドウィッチやパンをひとつ食べるくらいだ。

「貰う貰う!ありがとう!お皿に適当に乗っけちゃって良いよ」

「ありがとうございます」

「いやいやこっちこそ、気を遣わせてごめんね?」

「そんなことありませんよ」

 言って、サトラ先輩のお皿にサラダとフォカッチャを分けてから、リャニャは鮭のソテーをひとくち食べる。口に入れた途端に広がるバターとハーブの香り、ふっくらとした鮭の食感に、リャニャの顔が綻んだ。

「すごく、美味しいです」

「ほんと!?口に合ったなら良かったあ。野菜もね、鮭の味が染みてて、美味しいんだよ」

 温野菜を頬張って、リャニャは頷く。鮭から出た脂が野菜にからんで、ただの温野菜よりずっと美味しくなっている。次いで頬張ったトマト煮も、味は濃いのに酸味は強過ぎず、びっくりするほど美味しかった。

つたないお話をお読み頂きありがとうございます

続きも読んで頂けると嬉しいです

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