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リャニャは満面の笑みで、魔法を発動する。
『みんなおいでよ、いっしょにあそぼう!いちばんじょうずに、いたずらできたこが、いっとうしょう!!』
リャニャの周りがきらきら輝く。ピクシーが大挙して、集まって来たからだ。
『いたずらのあいては、しるしがついたこたち。きかんはまんげつが、はんぶんになるまで。ころしちゃだめ。けがさせちゃだめ。びょうきにさせちゃだめ。まわりにめいわくかけちゃだめ。できる?』
今夜は満月。半分になるのは、半月後だ。
集まったピクシーたちは、まかせろ、とでも言うように、拳を突き上げて見せた。
『まりょくはすきに、つかっていいよ。それじゃ、はっじめー!』
リャニャの周りのきらきらが消える。散ったピクシーたちが、それぞれの担当を決めに、姿を隠して見習いたちの方に行ったのだ。これから細かい悪戯を仕掛けつつ、効果的な悪戯はどんなものかを探って、とびっきりの悪戯をぶつけるのだろう。
「すっごい量の魔力使ったけど、不発?」
「いえ、ピクシーが集まって、頷いてから一斉に消えたので、リャニャさんの指示を受けて、なにかをするために散ったのでしょう」
「なるほど。つか、リャニャちゃんの魔法式展開が速過ぎて、全く魔法式読めなかったんすけど、先輩読めました?」
「最初と、途中いくつかは」
「うっわ、さすがあ……」
「ピクシー特化の魔法式のようでしたよ。短い魔法式を、ひとつずつ理解させることで、複雑な条件付けを行っていました」
サトラ先輩が、驚いたように目を見開く。
「え、ピクシーってあの速度で魔法式理解出来るんですか?めちゃくちゃ能力高いじゃないすか」
「ピクシーは、幼いだけで馬鹿ではありませんよ。ただ、理解出来たのはリャニャさんの魔法式が秀逸だったからでしょうね」
「リャニャちゃんもさすが。でも、ピクシーの利用はなあ。リャニャちゃんも言ってたけど、遊び方向以外は無理だろうから、あ!ねえ先輩、同じやり方で、いままで簡単な魔法式しか駄目だった妖精相手に、もっと複雑なこととか」
「無理ですね」
サトラ先輩の提案は、アガード先輩にばっさり切り捨てられた。
「ピクシーがある程度賢いから出来る方法で、自我や思考の曖昧な妖精相手には難しいでしょう。ふたつめの魔法式を理解する頃には、ひとつめを忘れてしまっていますよ」
「あー、そっすね、駄目かあ」
「目の付けどころとしては、悪くないと思いますよ。そうですね、例えば、魔法式だけでなく、命令する相手も分割してしまうとか」
「それだ!」
そんな風に、サトラ先輩とアガード先輩が仲良く議論する横では、
「ピクシーとは言え、あの量を?中級見習いが?」
「それより魔法式の展開速度!あの短時間で、何回展開した?」
「最初のとこ、魔法使いの方の飛行にちょっと似てた気がするけど、効果なんだったんだ?」
「いや、魔力量、えっぐ。けろっとしてるけど大丈夫か?魔力欠乏で倒れるんじゃ……」
ユイ先生が連れて来た研究科の魔法師たちが、リャニャの魔法に驚いていた。
彼らの前では、ユイ先生が、猛然と紙にペンを走らせていて。
「相変わらず、湯水のように魔力を使う」
同じく紙にペンを走らせながら、ぼそりと呟いたクラシュ師匠は、くしゃりと顔をしかめていた。
「うっわ、もしかして全部覚えたんですか師匠。バケモンすね」
「未知の魔法だ」
すごい勢いでペンを走らせながら、クラシュ師匠が答える。
「見逃す手があるか」
「いやだって」
相手が書きもの中だろうがお構いなしに、サトラ先輩が言う。
「展開早いし、わかる文言ほぼないし、もう模様にしか見えなくて。てか、そんな必死に書かなくても、師匠はリャニャちゃんに訊けるでしょう」
「即興だった。訊いても細部まで完全には覚えていないだろう」
「えっ、即興であの速度だったの??ええっ!?」
「基本の形はあるだろうが、細部は即興だろう。でなければ、学長の付けた条件に添えない」
「言われてみれば、そうですけどお……」
そんな会話に笑って、リャニャがユイ先生に声をかけようとした、そのときだった。
「リャニャぢゃん゛!!」
{びっ}
リャニャの顔が、柔らかいものに埋まる。
モフがシュバッと、空中に逃げた。
「ごめ、ごめんねっ、あたし、もっと早く、助けられなくてっ」
「アミラ落ち着け、リャニャちゃん窒息するから」
ぐいっと助け出されて、見えたのは、済ましていれば凛々しい顔を、べしょべしょにして泣いている、アミラ先輩だった。
「先輩なんて、呼んで貰っといて、少しも、役に立たなかった」
「そんなことありませんよ」
リャニャはきっぱりと否定する。
「ずっと、魔女を目指すのなんてやめてしまえば良いって思っていて、でも、決心がつかなくて、いままで、ずるずると悩んでいて。アミラ先輩のお陰で、ユイ先生と出会えて、魔法式について学べたから、新しい道が見えました。だから、やっと決断出来たのは、アミラ先輩がいたからです。ありがとうございます」
「辛くない?無理してない?」
「まったく辛くないかって言ったら、嘘になりますけれど」
両肩を包むアミラ先輩の手に自分の手を添えて、リャニャは微笑む。
「大切なひとを、守れる自分になりたいって、軸は変わっていないから、大丈夫です。アミラ先輩の、お陰ですよ」
「リャニャちゃんっ!」
ドンっとリャニャの胸に、アミラ先輩の胸が当たる。さっきリャニャの顔を埋めていたのは、この胸だったのだろう。
ギュッとリャニャを抱き締めたアミラ先輩が、涙声で言う。
「今度は、守るからね。気付くからね。辛いこと、ひとりで我慢しなくて良いからね」
「ありがとうございます。アミラ先輩」
「ずっと気付かなくて、アミラ以上に情けないし、頼りないかもしれないけど」
そんなリャニャとアミラ先輩を見て、サトラ先輩が少し情けない顔をした。
「僕も守るからね、リャニャちゃん。なんでも、相談してね」
「はい。あの、サトラ先輩」
リャニャはアミラ先輩に抱き締められたまま、サトラ先輩を見上げる。
「いままで、自分が、信じられなくて。胸を張って、クラシュ師匠の弟子も、先輩たちの兄妹弟子も、名乗れなくて。だから、相談も、出来なくて、ごめんなさい」
「そんな、リャニャちゃんが謝ることじゃないよ」
サトラ先輩に首を振り、リャニャは言う。
「胸を張って、わたしはクラシュ師匠の弟子ですって、言えるようになります。わたし自身が、自分の価値を信じられるように」
その、第一歩は。
「だから、そろそろご飯を食べて、午後に備えたいかなって」
今日の午後は、リャニャの一週間の成果をクラシュ師匠に報告する日だ。気晴らしをしつつも頑張ったから、リャニャとしては万全の状態で臨みたい。
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