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※引き続き、残酷な描写があります
朦朧とした意識のリャニャをよそに、会話がすべって行く。
「これは、どう言うことだ」
「リャニャくん!?待っていろ、準備室に緊急処置用の薬液がある」
痛い。寒い。
「答えろ。ラトリシア・ウィルキンズ上級魔女。俺の預けた弟子に、お前はなにをした」
「師匠、問い詰める前にリャニャさんを。ウィルキンズ教授、治療出来ますか?」
身体が震える。寒気がする。
「っ、ここまで、広範囲に壊死が進んだ傷は、わたしでも治せません」
「見習い魔女から利き手を奪うと?あなた方の過失で?」
「言葉もない。わたしの、監督不行届です。そもそも弗化水素酸の使用など、見習いの上級課程に許した覚えはありません。なぜ、そんな危険な調薬をしているのか」
寒い。寒い。寒い。凍えて、死にそうだ。
{たすけて。おかあさん}
うわごとのようにリャニャは呟く。
小さな声だったが、身を寄せてリャニャを支えていたサトラ先輩には伝わったらしい。
「リャニャちゃんなにか、え……?」
不意に、身体を苛んでいた寒気が消える。痛みもなくなり、代わりに、温かくて柔らかいものに身体を包まれた。
{やっと、母に助けを求めましたね、わたくしの愛しく可愛い娘}
まばゆいひとが、リャニャを抱き上げ、頬擦りする。
{あなたと来たら、わたくしに少しも頼らないのですもの。母は寂しいです}
{ごめんなさい。おかあさん}
{おや、怒ってはいませんよ。あなたは今は、ヒトの世で生きる子。簡単に母を頼れないことは、理解しております}
ころころと笑って、まばゆいひとはリャニャの額に口付けを落とす。
{でも、母は心配です。娘はずいぶん、無理をする。少し、加護を強めておきましょうね。それから}
ヒトではないそのひとは、ゾクリとするほど冷たい顔をして見せた。
{可愛い娘。愛しい我が子。あなたを虐げたもののことを、母に教えてくれますね?記録しているでしょう。見せてごらんなさい}
逆らう、なんてことは、出来るはずもなかった。
{はい。おかあさん}
リャニャは頷き、右手を上げた。
{りにー?}
ぽわぽわと、小さなモフがひとつ、調薬室の天井から、リャニャの右手へと降って来る。手のひらに収まったモフに、額を寄せる。
{あなたのきろくを、みせて}
{ぷるすあ!}
小モフがプルプルと震えて、パッと光を放つ。
現実に重ねて。走馬灯のように早送りで映し出され声が響くのは、四ヶ月、リャニャがこの調薬室で体験した、地獄のような時間の記録。ひとりの少女が寄って集って嘲られ、貶められ、いたぶられ続ける記録。
実際にその仕打ちを受けて来たリャニャですら客観的に見て、これはないなと思うほどに、ひどい記録だった。
{すあー}
{ありがとう}
今日、今までが映し終わって、リャニャの手から飛び上がった小モフが天井へと戻ると、まばゆいひとが頷いた。
{なるほど。よくわかりました}
微笑んで、リャニャの頭をなでながら言う。
{母は怒りましたよ。眷属に、このものたちへ二度と手を貸すことのないよう、触れを出しましょう}
{おかあさん、それは}
{わたくしの可愛い娘にとんでもない仕打ちをしてくれたのです。ほんとうであれば、同じ仕打ちを受けさせたいところですよ?}
これは譲歩なのだと言いたげに、まばゆいひとはリャニャを見下ろす。
{わたしが、いじめられたの、おかあさん}
リャニャはそんな視線としっかりと視線を交わせて、言った。
{やりかえすけんりは、わたしにあるでしょう?}
{…………母は、怒っているのです}
{わたしのために、おこってくれてありがとう、おかあさん。でも、ね、おねがい。わたしにやらせて?}
まばゆいひとは、しばし、じとっとリャニャを見下ろしたあとで、不服げながら頷いた。
{可愛い娘のお願いですから、特別ですよ。もし、今後、同じモノが同じ過ちを犯すなら、次は許しませんからね}
{ありがとう、おかあさん、だいすき}
{誰です、可愛い娘にこんな手管を仕込んだのは。可愛いではないですか}
ぎゅ、とリャニャを抱き締めて、まばゆいひとはぼそりと言う。
{このまま連れて帰ってしまいたい}
それは困る。
{また、こまったら、たすけてね、おかあさん}
{困っていなくても、いつでも呼んで良いのですよ。可愛い娘、愛しい我が子のためなら、母はどこへでも駆け付けます}
{ありがとう、おかあさん}
ぎゅ、とリャニャからも抱き締め返せば、どうにかまばゆいひとは諦めを付けてくれたようだった。
{わかりました。母はもう行きます。可愛い娘。愛しい我が子。いつでも呼ぶのですよ。母は待っていますからね。愛しています、リニー}
リャニャの頬に口付け、最後にもう一度抱き締めてから、まばゆいひとはリャニャを下ろして消えた。
つたないお話をお読み頂きありがとうございます
作中随一のヤバイヒト(ヒト?)です
つたないお話をお読み頂きありがとうございます




