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「これで行けるかな……」

 呟くリャニャに気付いて、サトラ先輩が寄って来る。

「どしたのリャニャちゃん」

「サトラ先輩。ちょっと、そこに立ってじっとして貰えますか」

「ここ?これで良い?」

「はい。そのままで」

 壁際に立ったサトラ先輩の顔の前に白紙を掲げて、リャニャが魔法式を展開する。まるで鏡のように、紙へとサトラ先輩の顔が写し出された。色はなく、白黒だったが。

「あ、そっか、これだと鏡写りになっちゃう」

 白黒でサトラ先輩の顔が写し取られた紙を見て、リャニャが眉を寄せる。

「これをさらに鏡写しにする?それとも、浸透?」

 紙を見つめて考え込むリャニャ。はっと我に返ったサトラ先輩が、声を上げる。

「え!?いや、待って、どう言うこと!?!?」

 サトラ先輩の大声に、議論していたクラシュ師匠とアガード先輩が気付いてやって来た。

「どうした」

「今度はなんですか?」

「これ!」

 リャニャが持つ紙を指差して、サトラ先輩は訴える。

「サトラの肖像画?本物のように写実的ですが、鏡写りで……まさか」

「リャニャちゃんが、魔法で」

「……どう言うことだ、リャニャ」

 呼ばれて顔を上げたリャニャは、知らぬ間に囲まれていたことに気付いて、目を見開く。

「あ、え、あの」

「風景を、写し取る魔法、ですか?」

「は、い」

「そんな発想、どこから」

「ピクシーが」

「またピクシーか!」

 額を押さえたクラシュ師匠の声に、リャニャはびくりと肩を揺らす。

「ちょっと師匠、リャニャさんを怯えさせない」

「すまん。大丈夫だ。怒ってはいない。それで?ピクシーが?」

「悪戯で、壁にヒトの顔を写し出したりしていたのを思い出して、同じことができないかと思って」

「やったらできたと」

 サトラ先輩が、規格外過ぎると呟く。

「式を見せて貰えますか」

「は、はい」

 リャニャが紙に魔法式を書き出すと、取り上げたクラシュ師匠とアガード先輩が、顔を寄せ合って食い入るように見る。

「わー、魔法馬鹿って感じ」

 それには付き合わずに、サトラ先輩はリャニャの持つ紙を覗き込む。

「ほんとに僕だ。すごいね」

「でも鏡写りで」

「僕自身は自分の顔、見るときはいつも鏡写りだから、むしろこっちの方が見慣れてるけど」

 解決の方法も、思い付いてるんでしょ?と問われて、リャニャは頷く。

「鏡写りをさらに鏡写しにすれば、元の像に戻ります。もしくは、水単独の転写魔法の時のように、裏まで浸透させてしまえば大丈夫です」

「なるほどね。ところで、どうやって風景を写し取ってるの?」

「水は鏡になるので、それで立体を平面に落とし込んで、そこからは転写魔法の応用です」

 ふんふんと頷いて、サトラ先輩は笑う。

「貴族名鑑の作成が楽になるね。縁談の釣書は、盛れないから駄目かな」

「?」

「貴族って、なりすましができないように、数年に一度肖像画の提出が義務付けられてるらしいよ。師匠も名誉爵位持ってるから提出してるんだけど、肖像画を書かせるのが面倒だってぼやいてるから、この魔法で数秒で肖像画を作れるなら楽だろうなって」

 貴族だとそんなことをしているのかと、リャニャは感心する。

「縁談の釣書も貴族だと肖像画付きが普通だけど、こっちは実物より美化して書かせるのが主流らしいから、そのまま写っちゃうこの魔法だと、都合が悪いだろうね。でも、受け取る方は真の姿が知れるから、こっちを指定するかもね」

 なんにせよ、発表して実用化されたら世界が動くよと、サトラ先輩はリャニャの髪に手を伸ばした。

「師匠がぐちゃぐちゃにしたから、大変なことになってるよ、頭」

「あ」

「直してあげるから、じっとしててね」

 リャニャの背後に回ったサトラ先輩が、優しくリャニャの髪に手櫛を通す。

「んー…………」

「そんなにひどく絡まっていますか?」

「あ、ううん。髪は大丈夫だよ。ただ、転写魔法もだけど、いまの、風景を写し取る魔法もね。発表の仕方が、難しいなって」

 リャニャの髪をなでつけながら、サトラ先輩は言う。

「リャニャちゃん単独で出しても、師匠や先輩を共著で出しても、たぶん、疑われると思う。魔法師でなく魔女の、それも見習いに、こんな魔法式が作れるはずがない、箔付けのために師匠かアガード先輩が、自分の手柄を受け渡しているんじゃないかって」

 息を吐いて、サトラ先輩は続ける。

「師匠と先輩は嫌がるだろうけど、どっちかを筆頭著者にして、リャニャちゃんは共著者でおさめておく方が、波風は立たないだろうね。悔しいけど」

「弟子の手柄を横取りしろと言う気か?」

「リャニャちゃんのためを思うならその方が良いんじゃないかって話ですう!魔女を目指すなら、魔法師としての実績はなくても良いでしょ。筆頭著者にして余計なやっかみ買ったり目を付けられたりしたら、利より害が大きいですよ」

 確かに、現時点でも嫉妬されまくっているリャニャに、クラシュ師匠やアガード先輩から実績を譲って貰っているなんて悪評が立てば、風当たりは余計強くなるだろう。

「ちゃんと見れば、私や師匠の魔法式とは明らかに手跡が違うことがわかるでしょうに」

「正式に魔法式登録をするとなれば、審議会の答弁で実力は示せるでしょうけど、バレちゃいますよ、リャニャちゃんが天才だって」

 むう、と、クラシュ師匠とアガード先輩が不服顔になる。師弟は似て来るのか、その表情はそっくりだった。

「リャニャが天才なのは事実だからバレようが問題はない、と言いたいところだが」

「才能が知られると、要らない横槍が入りそうですね」

「絶対、リャニャちゃんに師匠の鞍替え提案するやからがわきますよ。師匠に喧嘩売っても、弟子にする価値があるって」

 リャニャ自身は自分にその価値があるとは思わないが、どうやら三人は違うらしい。リャニャとしてはサトラ先輩の言う通り、魔法師としての実績は求めていないのだが。

 けれど前にサトラ先輩は、権利には責任が付随すると言った。

 リャニャが考えたことの責任を、クラシュ師匠やアガード先輩に押し付けることは、果たして正しいことだろうか。

「わたしは、筆頭著者でなくて良い、のですが」

 考えながら、リャニャは話す。

「自分のやったこと、には、責任を持ちたい、です」

 魔女を目指す以上、受け止めたくない結果に直面することもあるだろう。命を扱う仕事だ。なくしたいこととは言え、力及ばず、となることはあり得る。

 そんなとき、結果から目を背ければ、次に繋げられなくなる。死をただの死として、見過ごしてしまうことになる。

 それは、嫌だ。どんなに辛い結果であろうと、それを受け止められる魔女で、リャニャはいたい。

「……そっか」

 サトラ先輩は言ったリャニャに、優しい笑みを向けてくれた。

「じゃ、その方向で良い方法を、師匠と先輩に考えて貰おうね。課題もこなしながら改良するなら、発表できる形になるまで時間はあるだろうし。ああ、いっそバルツザット教授も巻き込むってのも、良いかもしれませんね。なんせ、転写魔法の発案者だ」

「え、あの」

 結局いろいろなひとに、負担をかけることに、なっていないだろうか。

「大丈夫大丈夫。これからいくらでも選択肢を示されるリャニャちゃんに、選び続けて貰うために、師匠も先輩も有能さを示さないとだからね。喜んで知恵をしぼってくれるよ。ですよね?」

「ああ」

「もちろんです」

 クラシュ師匠とアガード先輩は迷いなく頷き。

「じゃあ、ふたりがソレ考えてるあいだに、僕らは魔法式の改良を考えよっか。リャニャちゃんが考えた魔法式について、僕に教えてくれる?」

 サトラ先輩は笑ってリャニャに言って。

「おい抜け駆けしようとするな」

「なに良いとこ取りをしようとしているのですか」

 クラシュ師匠とアガード先輩に睨まれていた。

つたないお話をお読み頂きありがとうございます

続きも読んで頂けると嬉しいです

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