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※暴力描写(いろんな意味で)があります

「うわ、よりにもよって鉛丹えんたん……大丈夫?」

 うん。大丈夫じゃないね。

 リャニャに代わってインクを被ったピクシーたちは、憐れ真っ赤に染まって、大激怒している。

{〔{むきぃー!!}〕}

{{{ぴぃぃぃい!!}}}

「あーうんうん、気持ちはわかるけど待って。危ないから先に鉛丹落とそう。きみたちにも害でしょうそれ」

 気付かれにくい魔法と思って、ピクシーに護衛をお願いしたせいで、可哀想なことになってしまったピクシーたちを、リャニャは水魔法で洗う。

「はい綺麗。大丈夫?目とか口に入っていない?具合悪くなっていない?ごめんね」

{{{{{{ぎょきぃぃぃぃい!!!}}}}}}

 怒っている。とてつもなく怒っているが、身体は大丈夫そうだ。

「ほどほどにね」

 怒ったピクシーにリャニャがかけられる言葉は、それくらいだ。義理もない。

「だ、いじょうぶ、なのか?」

「あ、はい、大丈夫です」

 妖精や精霊は、見えるひと見えないひと、聞こえるひと聞こえないひとがいる。とくにピクシーは大人には見えにくい妖精で、だからハタから見ると、リャニャは空中で止まったインクに話しかける、怪しい人間に見えただろう。

「なにかされるかもと思って、防御用の魔法を、発動してあったので」

 調薬実習の担当教師オルレイは、あれで中級魔女なので、そこそこに実力がある。魔法関知が得意なようで、リャニャが魔法を使うとここぞとばかりに叱責して来るのだ。だから調薬の実習では、防御魔法が使えないが、そうでなければリャニャも馬鹿ではないので、魔法で自衛くらいする。

 悪戯大好きなピクシーは、悪戯への対抗策には持って来い、なのだが、今回はちょっと、行為が悪質過ぎた。

 鉛丹は鉛を含んだ顔料で、鉛は毒性を持つ金属だ。ピクシーにとっても毒になる。毒を浴びせるなど悪戯の範疇を越えている。しかもピクシーは金属嫌い。金属かつ毒を浴びせられたなど、ピクシーから見れば明確な悪意を向けられたも同義。つまり逆鱗である。

「そうか良かった。済まない。私がついていながら」

「いえ、その、済みません」

 ピクシーは、どこまでを敵認定するだろうか。

「?、リャニャくんは被害者だ。謝ることはない」

 インク壺を拾って、アルマン教授が顔をしかめる。

「本当に鉛丹なのか。おい、なにを考えている。口にでも入れば、急性の鉛中毒で死んでもおかしくないものだぞ」

「うっかり落としただけよ。わざとじゃないわ」

「そんな言い訳、」

「その言い訳が」

 アルマン教授の言葉を喰って、リャニャは実行犯を見上げる。ピクシーはアルマン教授を、敵とはみなさなかったらしい。それならもう、どうでも良い。

「通じると良いですね。アルマン教授、大丈夫です。行きましょう」

 怒ったピクシーはタチが悪い。その、怒りの矛先にされて、彼女らが無事とは思えない。

「いやしかしリャニャくん」

「わたしが使ったのは防御用の魔法ですが、そのせいで鉛丹を代わりに浴びたのは、ピクシーです。だいっきらいな金属をしこたまぶつけられて、非常にお怒りです」

「え?」

「わざとじゃない、でしたか」

 わたしがピクシーに護衛を頼んだのは、寮を出た時点で、だ。ピクシーは精神こそ幼いが、頭は良い。リャニャがアルマン教授以外の魔女から悪意の視線を向けられていたことも、さきの会話も、すべて理解しているだろう。

 現にピクシーが怒りを向けているのは、実行犯だけでなく、集団の魔女全員だ。集団心理が犯行に走らせたと、気付いているのだろう。

「ピクシーが、その言葉を、信じてくれると良いですね」

 言い置いて、あとは知らないと、リャニャはアルマン教授の背中を押す。

「待ちなさ、きゃっ」

 リャニャたちを呼び止めようとした魔女たちが、いっせいに床に転がる。報復の狼煙のろしとして、ピクシーたちはまず靴のかかとを折ったらしい。そのあと聞こえるビリビリバサバサと言う音は、服を破いて身ぐるみを剥ぐ音だろうか。こんな冬に、避難場所もない廊下で、女性の服を。

 クラシュ師匠すら畏れるだけあって、怒れるピクシーは本当に容赦も遠慮も慈悲もない。

「さすがに命までは、取らないと思いますが」

 自業自得だがつい同情して、リャニャはアルマン教授に告げる。

「わたしはひとりで帰れますし、助けに戻っても」

「いや。見習いではないのだ。自分の行いの後始末くらい、自分で着けるべきだ。悪いがリャニャくん、今回のことは、上に報告させて貰う」

 拾ったまま持っていたインク壺をリャニャに見せて、アルマン教授は言う。

「リャニャくんが自衛してくれたから無事だったが、毒性のある液体を故意にかけるなど、魔女として許される行為ではない。まして、リャニャくんはまだ見習いで、未成年だ。大人としても、あり得ない行いだ」

 これくらい、いままで受けた仕打ちに比べれば、大したことではない。

 喉まで出かかった言葉を、リャニャは飲み込む。弱い立場だからリャニャが狙われたが、彼女らはアルマン教授やウィルキンズ先生にまで悪意を向けていた。次の標的が、リャニャとは限らない。

「はい。わかりました」

「ありがとう。それで、相談だが、ピクシーの件についてはどう、」

「リャニャさんっ」「リャニャちゃんっ」

 アルマン教授の言葉の途中で、焦った声が響く。

 ちょうど、魔女の研究棟から出たところ。闇夜にも目立つ銀髪と金髪を揺らして、アガード先輩とサトラ先輩が、こちらへ駆けて来ていた。

つたないお話をお読み頂きありがとうございます

続きも読んで頂けると嬉しいです

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