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月曜日の午後をみっちり使ってサトラ先輩と試行の考察をして、夜に魔法式の改善を考えた。その間の夕食では、アガード先輩とクラシュ師匠とも顔を合わせたはずだが、魔法式で頭がいっぱいのリャニャは上の空で、ふたりとも話しかけることを断念していたと、火曜日の朝にサトラ先輩から言われた。
「今日僕、午前中は空いてるから、良かったら日曜の続きをしない?」
「えっ」
寝て起きても、リャニャの頭は魔法式でいっぱいだ。
「おんなじことばっか考えてると、逆になんにも思い付かなくなるよ。ちょっと気分転換しよ」
ちょい、とリャニャの額をつつき、サトラ先輩は笑う。
「朝から難しい顔、よくないよ。案外、ほかのことやってみた方が、良い案浮かんだりするからさ」
確かに少し、鬱屈した思考になっていたかもしれない。
「確かに木曜に報告だけど、経過報告で良いんだから、そんなに根詰める必要ないよ。まだ見習いなんだしさ、気楽に行こう、気楽に」
アガード先輩がいたら、サトラは気楽過ぎですよなんて、お小言があったかもしれない。でもきっとそう言うアガード先輩だって、サトラ先輩のこう言うところに救われている。
よどんだ空気を吹き飛ばす、一陣の風のような軽やかさに。
リャニャは、真夏に涼風を浴びたような心地で、ほ、と息を吐いた。
「そうします。ありがとうございます」
それから、サトラ先輩と午前中いっぱい文献を読み漁り、昼食も共に摂った。昼食後、クラシュ師匠の授業補佐に行くと言うサトラ先輩を見送って、リャニャは考える。
気分転換は済んだと、昨日の続きに手を付けても良いけれど。
薬学の予習復習や、サトラ先輩と読んだ文献のおさらいもしたい。まだ未完全な転写魔法も気になるし、せっかく条件付きで及第を貰った魔法式についても、ちょっと考えてみたい。
根詰める必要ないよと、サトラ先輩が言ってくれた言葉が過る。
{りにー}
泳いだ視界の端で、馴染みのモフが顔を出していた。
リャニャは特別待遇で、授業のほとんどを免除されている状況だ。けれどだからと言って、勉強をサボって良いわけではない。授業を受けない分、クラシュ師匠とアガード先輩からしっかり知識を授かることを条件とした授業免除だ。
だからリャニャは授業を受けている生徒以上に、きちんと勉強をしないといけない。けれど。
「勉強を、しないわけじゃないから、良いかな」
モフを持ち上げながらリャニャが呟くと、モフはモフっと身を膨らませて言った。
{りにーあ!}
「そっか、ありがとう」
膨らんで、いつも以上にモフモフなモフに頬を寄せ、リャニャは微笑んだ。
サトラ先輩の代わりにモフを横に座らせて、リャニャは思うままにやりたい勉強に手を伸ばす。根を詰めず、気楽に、移り気に。
そうして不意に、手を止めた。
「あ」
{りにー?}
声を上げて動きを止めたリャニャを、モフが見上げる。
「できたかも。でもどうかな。やってみないとわからない」
やってみないとわからないけれど、昨日の今日で、サトラ先輩なしにクラシュ師匠の研究室に行くのは気が引ける。かと言って、ほかに頼れる相手も、
「あ」
駄目かもしれない。けれど、最初から駄目だと諦めたくない。
「頑張ってみるよ」
{にーあ}
モフの声援を受け、リャニャは意を決する。散らかし放題に広げていた勉強道具を片付け、モフに手を振る。
「行って来るね」
{りにーあ}
モフはポフポフと跳ねて、リャニャを見送ってくれた。
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