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※少々お口の悪い会話が出ます

「えと、その」

 机の上に覚書を置いて、リャニャは話し出した。昨日詰め込んだ知識が、さっそく日の目を見るようだ。

「ウルスラ・アグナとその弟子たちにより、同じ階位の精霊でも、好む魔法に違いがあることは、提唱されています。精霊にも人間と同じように、個々の性格や好みがある。だから、より効率的に召喚魔法を行うためには、目的に合致した精霊を喚び出した方が良い。ここまでは、良い、ですか?」

 すでに学説として一連の論文がある内容だ。当然のように、クラシュ師匠もアガード先輩も頷く。

「ウルスラ・アグナの学説はここまででしたが、精霊の個体差を生む要因は、個々の性格以外にも存在しています」

「ほぅ?なんだ」

「年齢、です」

「年齢?」

 クラシュ師匠の眉が寄る。

「人間のように画一的に育つわけではないので、精神性の年齢換算、つまり、精神年齢と言った方が良いかもしれません。こころや知識の、成長度合いです」

「それは、階位の差として現れるものでは?」

 アガード先輩の発言に、リャニャは首を振った。

「妖精が精霊になることがないように、階位の低い精霊が上の階位に上がることはありません。どんなに頑張っても、階位の壁は破れません。そう言う、ことわりのなかに、彼らは存在しています。ですから、中位精霊は生まれたときから、中位精霊です」

「だとしたら、精霊召喚で生まれたての精霊が喚ばれることもあるのか?そんな話は、聞いたことがないが」

「人間だって、幼いうちは大人の庇護下にありますし、生まれたときから言葉を話せたり、文字が読めたりはしないでしょう?精霊も同じです。幼い精霊は基本的に、保護者が人間には関わらせませんし、魔法式を理解できません。だから、生まれたての精霊が精霊召喚に応じることはありません」

 実際は、小妖精向けの魔法式くらいは理解できるだろうが、そんなものが届く範囲にはそもそもいない。召喚魔法ならば生まれたての精霊のところにも届くだろうが、生まれたてには難しい文言の羅列なので、届いても理解できず、反応もしない。

 結果として、いくら魔法式を使おうと、生まれたてが反応することはない。

「ならば、その話をする意味はなんだ。魔法式で喚び出せない存在についての知識が、なんの役に立つ」

「実験して証明したわけではないので、あくまで憶測ですが」

 トントン、と問題の魔法式を指差す。

「上位精霊が喚べたにしては、消費魔力が少なかったのは、喚ばれたのがまだ未成熟な上位精霊だったから、ではないでしょうか」

「喚べないのでは、なかったか?」

「大人用の魔法式ならばそうでしょうね」

 さっきは意味を言えと言われたので、意訳して意味を伝えたが。

「この魔法式は、言ってしまえば幼児語、なのです。子供向けの絵本みたいな言葉だけ、使っていて」

 魔法式を考えることに行き詰まり、自分の語彙力のなさに苛立って、やけっぱちになったリャニャが、ならばいっそもう、とことん語彙力を下げた魔法式にしてやれと、八つ当たり気味に考えたのが、くだんの魔法式なのだ。

 一般的に知られている魔法式を、公的な文書用の堅い書き言葉とするならば、リャニャの作った魔法式は、スラングまみれの日常会話用の話し言葉。公文書用の言葉しか習っていない人間には、理解できなくて当然である。

「ああ」

 リャニャとサトラ先輩から、ユイ先生とのやり取りについて聞いていたアガード先輩が、納得したように頷く。

「ピクシーの」

「ピクシー?なんの話だ」

「ほら、魔法使いの飛行魔法、あるでしょう」

 いぶかしげな顔をしたクラシュ師匠に、アガード先輩が説明する。

「ああ、あの、ピクシーが呼ばれるやつか。文言の意味はわかってないが」

「その文言の意味、リャニャさんはご存じなんですよ」

 クラシュ師匠の目が、リャニャに向く。

「…………」

「…………」

 語る言葉を持たないリャニャと、問い詰めたくて仕方ないが、さっきのこともあって問い詰めない方が良いと言う意識があるらしいクラシュ師匠が、無言で見つめ合う。

 折れたのは、負い目に負けたクラシュ師匠だった。

 良識のある鬼だ。

「なるほどな。お前はピクシー用の魔法式がわかる。ピクシーは至るところにいる、精神の幼い妖精だ。魔法式も幼児語のようなものだろうな。本来、ピクシー用の魔法式を使えば、どこにでもいるピクシーの方が先に反応するはずだが、お前は対象を中位以上の精霊に限定することで、幼い精霊用の魔法式に改変したわけか」

 良識があって、頭の回転が神速の鬼だ。

「はい」

 クラシュ師匠が深々と、それはもう深く、深ぁーく、息を吐く。

「なるほどそれは、おいそれと軽々に話せはしないな。くそが」

「師匠、口が悪い」

 リャニャさんの前ですよと、アガード先輩が苦言を呈す。

「悪態吐かずにいられるかこれが。せっかくの知識を、迂闊に訊けもしないんだぞ?やってられるか、ど畜生が。よりにもよって、ピクシー」

「えと、あの?」

 机に突っ伏して嘆くクラシュ師匠に、きょとんとしたリャニャへ、アガード先輩が説明する。

「ピクシーはなかなかタチの悪い妖精でしょう?精神こそ幼いですが、妖精にしては力も強く、頭も回る」

「そうですね」

「気まぐれで、人間におおむね好意的ではありますが、機嫌を損ねたり恨みを買ったりすると、とんでもない報復が返ることもあります。その報復は、子供のように無慈悲だ」

 そうだ。だからリャニャもユイ先生に警告した。ピクシーに向けた魔法式の研究は、控えた方が良いと。

「だから師匠も、ピクシーに関する知識を無理に聞き出すことはできなくて、悔しがっているのですよ。とびきり仲良しのお気に入りだから、特別に教えてあげたことだった場合、思い切り機嫌を損ねかねませんから」

 なるほど、とリャニャは頷く。

 この知識の出元がピクシーだと気付いたから、クラシュ師匠は嘆いているのだ。せっかく未知の知識を抱えている人間が目の前にいるのに、その知識を、開けて見ることが叶わなくて。

 落ち込むクラシュ師匠の姿は、誕生日を祝って貰えなかった子供のような悲愴感が漂っていて、同情を誘う。

 リャニャは目を泳がせて、迷ったあとで、口を開いた。

つたないお話をお読み頂きありがとうございます


本格的にストック切れの危機を迎えていますやばい


続きも読んで頂けると嬉しいです

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