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 恐ろしい速度で、魔法式が展開されて行く。

「却下、却下、不発、却下、要改善、却下、不発、不発、暴発、却下」

 リャニャが考えた魔法式を次々に展開し、クラシュ師匠が無慈悲に判定を下して行く。見ているリャニャも遅れぬよう、必死に結果を書き留めた。書き留めることに必死過ぎて、却下や不発暴発の多さに嘆く暇もない。

 否。

 一昨日の推敲では、その数倍の却下を下したから、いまさら大部分却下されたところで変わらない、と言う思いもあるからだろう。さらに言うなら、自分の語彙の不足を、推敲で痛感したこともある。

 むしろ見ただけで全部却下と言われなかったことで、自分を褒めたいくらいかもしれない。

「却下、却下、要改善、不発、不発、不発、ん?」

 不意に、怒涛の勢いだった試行が止まる。

 まだ、リャニャが候補に上げた魔法式の、半分程度だ。

「どうしました?まさか魔力切れですか?」

「いや、魔力はまだ問題ないが。なんだこの式は」

 クラシュ師匠が険しい顔で、紙面を睨み付ける。

 そんなにおかしな式を作っていただろうかと、手元の覚書を確認したリャニャは、しまった、と身を震わせる。

 クラシュ師匠が睨み付けているだろう魔法式は、思考が行き詰まり、自分の語彙のなさに嫌気がさしたリャニャが、やけっぱちで考えた魔法式だ。

「そ、れは、試さなくて良いです!候補から外し忘れていただけなので!」

 慌てて声を上げるが、片目をすがめたクラシュ師匠は、リャニャの声を無視して魔法式を発動した。

「……まあ、俺では不発だな。来い、リャニャ」

 犬でも呼ぶように指で招かれて、リャニャは身をすくめる。

「早く」

「はっ、はいっ」

 返事は若干震えた。転びそうになりながら歩み寄ったリャニャに、クラシュ師匠が、くだんの魔法式を示す。

「展開してみろ」

「で、でも」

「早く」

「はいっ」

 鬼に逆らう度胸は、リャニャにはない。

 ビクつきながら、魔法式を展開する。

{呼んだ?}

{よんだあ?}

{良いよ遊ぼう}

{おどろう!}

 数体の風の精霊がリャニャの周囲を取り巻いて、髪や服を舞い上げる。ふわりとリャニャの身が、浮き上がった。

「待て、連れて行くな」

 クラシュ師匠が顔をしかめ、長い腕をリャニャの腰に回す。

{うわ、闇の愛し子だ}

{こわあい}

{逃げろ逃げろ}

{逃っげろー}

 ぐるぐるとリャニャの髪を乱して、精霊たちは逃げ去った。

 急に重力を戻されたリャニャを、クラシュ師匠が抱き止める。

「……やっぱり軽い」

「あ、えと、すみません」

 ぐしゃぐしゃ頭で、リャニャは呆然と呟く。

「いや……」

{ボサボサね、愛し子の弟子}

{直してあげる}

 不機嫌顔のまま考え込むクラシュ師匠は、リャニャを離さない。寄って来た闇の精霊が、リャニャの乱れた髪を梳いた。

「あり、がとう……」

「はぁ」

 お礼を言ったリャニャが、精霊に魔力を渡したところで、クラシュ師匠のため息が響き、リャニャはビクリと身を跳ねさせた。それで腕の中のリャニャを思い出したクラシュ師匠の、漆黒の瞳がリャニャを睨み据える。

「なんでこれで発動するんだ。しかもこの空間に、複数喚び出しやがって」

「ぴゃっ、わ、わかりません、すみません」

「謝るな。成功はしているだろう」

 もう一度、深々とため息を吐いて、クラシュ師匠が首を振る。リャニャはまだ、捕まえられたままだ。

「制御は甘いが簡潔だ。使う魔力量もほかの式より段違いに低い。制御の甘さも、式が一部だから起こっているもので、完成すればおそらく落ち着くだろう。文句なしに、お前に出せる最適解に近い魔法式だ」

 文句なしの顔とは思えないしかめ面で、クラシュ師匠が言う。

「でも、クラシュ師匠が展開しても、発動しなかった、ので」

「そうだな。アガード、来い。試せ」

 クラシュ師匠がリャニャを捕まえたまま、アガード先輩を呼ぶ。

「試すのは良いですが、いつまでリャニャさんを抱き上げているのですか、師匠」

「誘拐防止だ。連れ去られかけたぞ、こいつ」

「この状況なら闇の精霊が阻止して下さるでしょうに。それで?私はどの式を試せば良いのですか?」

 クラシュ師匠が黙ってひとつの式を示す。

「ええ?これを、リャニャさんは発動させたのですか?」

「そうだ」

「短い式なのに、半分も理解できないのですが」

「お前でもか」

「ええ。私でも」

 ふたりぶんの視線が、無言でリャニャに注がれる。

 思わずリャニャは、そばにいた闇の精霊にすがった。闇の精霊は、くすくすと笑ってリャニャを抱き返す。

 アガード先輩が、息を吐いて首を振る。

「まあ、やるだけやってみましょうか」

 言って魔法式を展開するも、結果は不発。

「少し魔法式を間違えていたな」

「そうでしたか?では、もう一度」

 やはり不発。

「その下のみっつも試してみろ」

「こちらですか?」

 アガード先輩が頷いて、魔法式を順番に展開した。不発、不発、暴発だ。

{ちょっとあなた、髪を束ねた方が良いんじゃない?}

{そうね。やってあげる}

 ケラケラ笑った闇の精霊が、またぐしゃぐしゃになったリャニャの髪を編んでまとめる。

「ありがとう……」

「リャニャ」

 もう一度、闇の精霊に魔力を渡したリャニャに、クラシュ師匠が声をかける。

「やってみろ」

 アガード先輩が試した三つを、と言うことだろう。

 このまま、だろうか。

「ほら」

 アガード先輩の手から取った紙を渡され促される。

 このまま、らしい。

 降ろして欲しいなと思いつつ、リャニャは魔法式を展開する。

 そよ風、そよ風、つむじ風だった。

「……なるほどな」

 頷いたクラシュ師匠が、魔法式をそれぞれ指差して言う。

「条件付き採用、却下、要改善、要改善だ」

 言ってようやく、リャニャを降ろしてくれる。

「条件付き採用は使える人間を選ぶ。ソレならサトラでも使えるだろうが、ほかの属性もとなると、ひと握りの人間にしか使えなくなるだろう。お前専用の魔法式として組み立てるなら、無駄もないし魔力効率も高い。多少の手直しで実用に足るものになるだろう」

 褒められているのか、貶されているのか、わからない評価だった。

「汎用性で考えるなら、これとこれの中間辺りを目指すのが、ちょうど良い魔法式になるだろう。下がれ。残りも試す」

 言うだけ言って、クラシュ師匠は、シッシと手を振る。

 また捕まえられるのも困るので、リャニャは素早くクラシュ師匠から距離を取った。覚書に、言われた内容を書き込む。

 そのあとの魔法式もほとんどが却下となり、試行は終了した。

つたないお話をお読み頂きありがとうございます

続きも読んで頂けると嬉しいです

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