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なんちゃって専門知識が出ていますが

なんちゃって専門知識なので広い心で見逃して下さい

 月曜日の午前中は、調薬の座学がある。

 ウィルキンズ先生の直弟子である、ロイ・アルマン上級魔女が教鞭を振るう授業だ。

 調薬の座学に関しては、リャニャは中級課程の時点で上級課程の授業もかなり受けていた。月曜日の午前中の座学は、必修科目の都合上、リャニャがまだ履修できていなかった授業で。

 だから、上級課程に上がったいま、こうして受けに来ている。

 ウィルキンズ先生の弟子だけあって、アルマン教授はオルレイのように、誰かを理不尽に虐げたりはしない。けれどやはり、微妙なリャニャの立ち位置に、思うところがない訳ではないようで。どこかよそよそしいような、腫れ物に触れるような扱いは、ひどく居心地の悪いものだ。

 リャニャが当初の希望通り、ウィルキンズ先生の研究室に所属できていたら、この授業はとりわけ楽しみなものになっていただろうにと思うと、リャニャ自身も複雑な気持ちになる。

 それでも与えられる知識は素晴らしいもので、だから、木曜日と違って月曜日は、リャニャにとって憂鬱なものではなかった。

 しかも今日は、午後に待ち望んだ時間がある。一昨日机上で試行錯誤した結果を、実際に試行できるのだ。しかも一昨日自分の力不足で悔しい思いをした部分に、稀代の天才の、助言が貰えるかもしれない。鬼の目は恐ろしいが、魔法式をより良いものにするためなら、言葉の礫くらい軽いものだ。だって師匠の言葉には、悪意も理不尽もない。言葉は厳しいが、言葉だけで、手が出たことはない。

 先輩方も折に触れ言っているが、良い師匠なのだ。鬼のように厳しいだけで。

 午後に向けてそわそわしながらも、リャニャは授業に身を入れる。最初は遠慮して後ろの方に座っていたが、後ろの方だと周りから地味な嫌がらせを受けるので、今では開き直って教壇の真正面に座っている。下らない嫌がらせで、授業をちゃんと聞けないのは馬鹿らしいし、さすがに教壇の目の前で、嫌がらせのできる生徒はいないからだ。それに、教室の前方に座るのは真面目な生徒が多くて、嫌がらせに時間を使ったりしない。

 リャニャと違ってウィルキンズ先生の研究室に所属する彼女らに、言いようのない気持ちを覚えたりはするが。

 昨日はいつの間にか眠っていた。朝起きたら着替えもしないで寝台にいて、あれ?と首を傾げた。

 寝る寸前、闇の精霊に浄化を受けた記憶はある。誰かが浄化して、寝台まで運んでくれたのだろう。

 闇の精霊と言うことは、もしかして。

 慌てて謝罪しようとしたが、クラシュ師匠は朝食の場におらず、夕食の残りがあるから朝はそれを食べるようにと言う書き置きだけがあった。

 夕食の残りはそれなりの量があって、これでも大部分は昨日食べたのだと、サトラ先輩は笑っていた。学長はクラシュ師匠とその弟子たちを可愛がっていて、ことあるごとに大量に食べさせようとするらしい。いままでリャニャがそれに立ち会わなかったのは、学長がこのところ出張続きで、こちらも忙しいクラシュ師匠と顔を合わせる時間がなかったからだそうだ。

 さすがに学長の用意するものだけあって上質で、今日は思いがけず豪華な朝食になった。

 と言うわけで満腹だが、たっぷり眠ったせいで眠気はない。今日の授業は危険な素材についてだ。毒も魔物も、使いこなしてこその魔女。危険な素材とその扱いについては、中級課程の授業でも散々教えられている。今回は中級課程の内容に加えて、実際の毒の症例や曝露ばくろ時の対処法を説明してくれている。今後、調薬で触れることや、毒を浴びた患者を対処する可能性が、あるからだろう。

「このように、弗化水素酸の事故は悲惨な症例も多い。中級見習いに使わせることはないが、卒業課程や見習いでなくなってからは、触れることもあるだろう。また、きみたちのなかでは将来、弗化水素酸の事故被害者を診ることになる子も、いるかもしれない。扱うときは、事故のないよう細心の注意を払うこと。浴びることはもちろん、揮発性分も危険だ。必ずガスマスクとゴーグルを装着の上、専用の排気設備のある場所で扱うこと。そして、患者を診る場合は、落ち着いて、しかし迅速に対処すること。弗化水素は、簡単に命を奪う。少しの対処の違い、対処の遅れで、手遅れになりかねない」

 弗化水素は工業利用されているから、事故の起こる可能性も高いと、アルマン教授は語る。

「化学熱傷の場合は、通常の火傷とは異なる対応も必要とされる。弗化水素、あるいは、弗化水素酸による熱傷患者の対応時、注意しなければならない点はわかるか」

 中級課程で学んだ内容を思い出して、リャニャは頷いた。弗化水素の対応で、ほかの物質に比べてとくに注意しなければならない点はふたつだ。

「中級課程の内容ではないから、難しいか」

 教室を見渡したアルマン教授の言葉に、リャニャは首を傾げた。中級課程のときに習ったように思うけれど、中級課程向けの授業では、なかったのだったか。

「ああ、きみはわかりそうだな。と、きみか……答えられるか、リャニャくん」

「はい」

 頷いて、リャニャは答える。

「粒子が小さく、流水で完全に洗い流すことが難しいので、魔法での洗浄が推奨されています。また、体内のカルシウムイオンと結合する性質があるため、血中カルシウム濃度低下による、低カルシウム血症の対策が必要です。一般的には、グルコン酸カルシウムの塗布や皮下注射、静脈注射が多く用いられます」

「うん」

 アルマン教授は頷くと、ひどく複雑そうな表情でリャニャを見下ろした。

「模範解答だ。よく学んでいる」

 褒め言葉を、告げる表情ではない。

 答えに迷ったリャニャをそのままに、アルマン教授は表情を切り替えて顔を上げた。

「リャニャくんの言った通り、弗化水素や弗化水素酸の粒子は細かく、反応性も高い。完全に除去できない場合の対応としても、グルコン酸カルシウムの投与は有効だ。逆に言えば」

 厳しい顔をして、アルマン教授は教室を見渡す。

「弗化水素、弗化水素酸による化学熱傷の患者に、カルシウムの投与を怠った場合、低カルシウム血症で患者を殺すことになる。良いか、化学熱傷を絶対に甘く見るな。なにを浴びたのか、どこに浴びたのか、どれだけ浴びたのか。しっかり確認して、迅速に適切な対応を取ることが、必要不可欠だ」

 言葉を切って、アルマン教授は息を吐く。

「では、化学熱傷を起こす薬物の代表的なものについて、それぞれ特徴と対処法を整理して行こう。薬物によって対応は異なる。混同することのないよう、しっかり覚えるか、覚えられないなら、表にして常に携帯するようにしなさい」

 アルマン教授は、絵図以外の資料を配らないひとだ。参考文献は教えてくれるが、教科書の指定はない。すべて自分の手で板書して、生徒に書き写させることを信条としている。

 アガード先輩がサトラ先輩にさせているように、読んだだけ、目を通しただけでわかった気になることを、防ぎたいのだろう。

 命に関わる内容を教えている教員の態度として、その厳格さは信頼に値する。

 しっかり、学ばなければ。

 リャニャは改めて集中して、残りの授業に臨んだ。

つたないお話をお読み頂きありがとうございます


こ、まかく切ったのが悪いのですが

50話突破するつもりは全然なかったので

やっちまった感がすごいです

もっとコンパクトにまとめる予定でした

おかしいな


続きも読んで頂けると嬉しいです

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