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「うへぇ……もう無理……文字が頭に入んない……」
夕方、サトラ先輩はそう言って本を押しやり、机に懐いた。
昼食やおやつの休憩を挟みつつ文献を読み続け、気付けばすっかり日が暮れている。
弱音を吐いているのはサトラ先輩だが、リャニャも疲れて、頭がぼーっとして来ていた。
「これ六冊目で、先輩が最低限ここまではって指定してた三冊を越してるし、続きは今度にしよ!今度!」
「はい」
これ以上は誤訳や誤理解が増えそうだと、リャニャは大人しく頷く。古代魔法語や古語の文献、それも論文を、一日でこんなにたくさん読んだのは、初めてだった。授業を受けたり、課題を解くのとは、また違った頭の使い方で、酷使された頭がくらくらして、熱でも出そうだ。
ぽすん、とソファに身を預け、はふ……と息を吐く。
「疲れたねえ」
同じようにソファへ身を預けたサトラ先輩が呟いた。
「はい」
するりと素直に、リャニャの口から同意の言葉が出た。取り繕う気にもならないくらい、疲れ果てていた。だが、確かに知識が増えた、達成感のある疲れだ。
これで、この分野でだけは、リャニャも昨日のような失敗をせずに済むだろう。
でも、もう今日はなにも考えたくない。このまま目を閉じて、眠ってしまいたいくらいだ。
「おや」
そんな落ちかけの意識が、扉から聞こえた声で浮上する。
「食事にしませんかと呼びに来たのですが、ちょうど体力切れでしたか」
「せんぱい」
「サトラはともかく、リャニャさんまでそんな風になっているのは、珍しいですね。立てますか?片付けて、手を洗っていらっしゃい」
「はあい。リャニャちゃん、ごはんだって」
へろ、と起き上がったサトラ先輩が、机の上の文献に手を伸ばす。
「本はしばらく、談話室の棚に置いておいて良いですよ。この訳も、束ねて一緒に置いておきましょう。んん?これは?」
アガード先輩が机に散乱した紙を拾って、その一枚に目を止める。
「私の字、ですよね、これ」
「あー……」
頭の働いていない声で、サトラ先輩が答える。
「リャニャちゃんが転写してくれたやつですそれえ」
「転写?ですがこれ、インクの字では?」
「水魔法の転写なのでえ」
要領を得ない会話を聞き流しながら、リャニャものっそり身を起こし、文具や白紙の紙を集める。
「……詳しい話は後日聞きましょうか」
話にならないと気付いたらしいアガード先輩が、手早く本も紙もまとめて、壁際の棚にしまってしまう。
「ほら、片付けは終わりましたから、自分の荷物を部屋に置いて、手を洗いなさい」
言って、ぽん、と背中を叩かれると、不思議と背筋が伸びる。
「ありがとうございます」
「ありがとーございますー」
「部屋に戻って、そのまま寝たら駄目ですよ。荷物を置いたら、すぐ戻りなさい」
確かに今、寝台に飛び込んだらそのまま朝までぐっすりだろう。
「はーい」「はい」
面倒見の良い先輩に良い子の返事をして、サトラ先輩とリャニャは談話室を後にした。
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