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「次は、あ、ここ、古語訳がないところだ」
第二部も擦り合わせが終わったところで、サトラ先輩が呟く。
「ふたりで一緒に訳そうって言ったけど、どうしよっか、一冊しかないから、ちょっとやりにくいけど一緒に見る?」
古語訳の冊子に栞を挟んで閉じたサトラ先輩の言葉に、リャニャはちょいと首を傾げ、
「すこし、試したいことがあるのですが、良いですか?」
迷ってから、サトラ先輩に問い掛ける。
「えっ、うん、なに?」
「昨日の、ユイ先生の魔法で、考えて」
失敗するかもしれないから、いきなり本番はしたくない。
リャニャは自分が訳を書き込んだ紙一枚と、白紙の紙、それからインク瓶を揃えて、机に置いた。
訳を書いた紙を一番下に。それから白紙を重ねて置いて、紙の横に蓋を開けたインク瓶を置く。
「なにを……って、もしかして、写本魔法?」
「はい。水魔法で、できるんじゃないかって」
頷いて、考えた魔法式を発動する。紙のこちらから見える面は、白いままだが。
「でき、てない。だめだ、鏡文字になっちゃった」
ぺらりとめくった紙には、確かにリャニャの字が写っていた。版画のような鏡文字が。
「うーん……だったら、こう、かな?」
新しい紙に変えて、もう一度試す。
今度は紙の見えている面に、文字が浮かび上がった。
「できた」
頷いて紙を持ち上げると、裏面にはしっかり鏡文字で裏写りしていた。
「あー……」
また失敗だと、リャニャは眉を寄せる。
「いやいやいやいや?」
額を押さえたサトラ先輩が、ちょっと待ってとリャニャに乞う。
「え、リャニャちゃん、先輩に転写魔法習ったの?」
「いえ」
昨日の今日で、昨日は風の魔法式で頭がいっぱいだった。
「習ってはいません」
「じゃあなんでできるの?」
「えっと」
なぜか、と問われれば。
「昨日、ユイ先生が使っているところを見たので、それで覚えて?」
ユイ先生もクラシュ師匠ほどではないが、揺るぎなく美しい魔法式展開をする。まして転写魔法はユイ先生が開発者なので、魔法式に無駄がなく美しい。
複数回見られたのもあって、ユイ先生の転写魔法は見て覚えられたのだ。
「目と記憶力の良さ化け物かな?いやまあそれは置いておいて。でも今のはバルツザット教授考案の魔法じゃないよね。だって」
リャニャは頷いて、答える。
「インクがあれば、水魔法で出来るかもしれないと思って」
「やったら出来ちゃった?」
「いえ、最初に考えていたのは鏡写りになったし、次は裏までインクが染みてしまったので、まだ未完成です。インクの減りも、想定より激しいですし……」
要改善だとため息を吐くリャニャに、サトラ先輩がくるりと目を回す。
「いや、十年大きな改善案が出なかった魔法を、一朝一夕で改良されちゃったらみんな立つ瀬がないからね?しかもまた、省魔力化されてるし」
うつむいて、うう……と唸ってから、ぱっと顔を上げたサトラ先輩は、気を取り直したように言った。
「今は写本じゃないから、裏写りしても大丈夫だよ。改良は今度、アガード先輩と相談しながらにしよう!今日は勉強!進めないと!写しが作れるの助かるから、お願いして良い?」
「は、はい。わかりました」
頷いてリャニャは、冊子のページを写す。見開き一頁ずつしか写せないし、インクもどんどん消費する。やっぱり、まだまだ改善が必要だ。そんなリャニャの思考を断ち切るように、サトラ先輩が声を上げた。
「ありがとう!すっごく助かった!じゃあ、僕はこっちの写してくれたやつ借りるから、リャニャちゃんは冊子の方見て訳してくれる?」
「はい」
「うっわあ、先輩の字、そのまんまだ。やっぱすごいね、転写魔法」
無意識かそんな感想を口にして、それを境に文献に集中する。そんなサトラ先輩を見て、リャニャも意識を切り替え、冊子に目を落とした。
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