表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/88

43

 アガード先輩が用意した本は、うち二冊が古代魔法語で書かれた本だった。簡易製本の手書き本。筆跡から、もしやとリャニャが思ったと同時に、サトラ先輩が声を上げる。

「これ!アガード先輩の字じゃん!」

 ハッ、として、別の本も開く。

「こっちの古語のも!」

 なら現代語訳もしといて!と叫ぶサトラ先輩に、パラパラと軽く見たリャニャは言う。

「散逸したものを、ひとつの学説だと提唱したとおっしゃっていたので、複数の文献を書き写して、ひとつにまとめたもの、ではないでしょうか。ここに、写本場所と日にちが書いてあります」

 有名な書物ではないとも言っていた。有名なものならば、古代魔法語でも写本は多く作られるが、そうでないならば当時の原本くらいしかない場合もある。古代魔法語が現役で使われていた時代の本だとしたら、持ち出しはもちろん、閲覧ですら許可が下りるか怪しいくらいのものだろう。

「日にち順には製本されていないので、たぶん、ひとつのまとまった論文になるように、アガード先輩自身で考えて並べて製本したのだと思います」

「な、るほどお……まあ、先輩は古代魔法語も古語も、僕よりずっと得意だもんなあ」

 うんうん、と頷いて、サトラ先輩がリャニャの顔を覗き込む。

「どう?それ、リャニャちゃんは読めそう?」

 言われて、開いた頁に目を落とす。

「専門用語が多いので、辞書を引きながらになりそうですけれど、読めなくはないです」

 古代魔法語は装飾性が高く、書き写すのも難しい言語なのに、アガード先輩は狂いなく綺麗に写していて読みやすい。活版印刷のように、大きさや形まで整った文字列だ。

 当然ながら、古代魔法語の活版印刷なんて、存在しないけれど。

「そっか、それじゃあ、僕が古語の方読んでみるから、リャニャちゃんは古代魔法語の方読んでみてくれる?それで、すり合わせして行こう」

「あ、でもこれ」

 リャニャは本のとある頁を指差す。

「"古語訳では欠落"って書いてあります。そちらの冊子にはないのかも」

「えっ?」

 目を見開いたサトラ先輩が、パラパラと冊子を繰る。

「あ、こっちは"原典未発見"って書いてあるとこがある……」

 サトラ先輩が、頭を抱えて呻いた。

「親切で古語訳付けるようなこと言って、どっちも読ませる気満々だったじゃん……っ」

「ええと」

「良いよわかった。片方しかないのは、ふたりで一緒に読もう。どっちもあるのは、古代魔法語をリャニャちゃん、古語を僕で。専門用語なら僕の方が詳しいかもしれないから、もし古代魔法語の専門用語で詰まったら言って」

 諦めの滲んだ顔で言うサトラ先輩。よほど、古代魔法語が苦手らしい。

「わかりました」

「うん。じゃあとりあえず、頭から読んでみよっか。んーと」

 パラパラと頭から軽く見て、サトラ先輩は頷く。

「アガード先輩が第一部って分けてるとこまで読めたら、すり合わせしよう。あ、もちろん、そこまででなんか行き詰まったら相談してね。論文だから、知識がないとわからないとこあるかも」

「はい。ありがとうございます」

「古代魔法語で役立たない分、それくらいはね。じゃあ、始めよっか」

 お互い、無言で書面に目を落とし、カリカリと訳した内容を書き留めて行く。パッと見では完璧に書き写されていると思えた写本は、ところどころ、虫喰いや汚れ、掠れで判読不能と書かれて欠落していた。

 なるほど、論文があるのになぜ意味が伝わっていないのか不思議だったが、こう言うことだったようだ。

 少し迷って、ペンの色を変えて、リャニャの予測を書き込む。この流れなら、この内容が入るはず、と。

 何度か辞書を引きながらも、なんとか第一部の内容は訳すことができた。意味もおおむね、理解できたと思う。

 ふと、喉の渇きを覚え、せっかく淹れたお茶を忘れていたことに気付いて、保温ポットを手に取る。

 お茶をマグカップに注ぎ、飲んで一息吐いたところで、サトラ先輩が顔を上げた。

「よし、たぶん、これで、良いはず。って、リャニャちゃんもう終わってた?ごめん、待たせて」

「いえ、わたしも、ついさっき終わったところです」

 答えて、リャニャはサトラ先輩にもお茶を注ぐ。ありがとうと受け取ったサトラ先輩は、お茶を飲んで目を丸くした。

「あれ、酸味はないんじゃなかったっけ」

「それは、アガード先輩用の方ですね」

 酸味のある飲み物を好まないアガード先輩に対して、サトラ先輩は酸味のあるお茶も好んで飲む。だから勉強のお供には、酸味と清涼感のあるすっきりとした味のハーブティを用意した。

「僕、ミントティが好きだって言ったことあったっけ」

「言われたことはないですけど、居間の窓際のミント、サトラ先輩が育てているものですよね?」

「あーうん、そう。水とか植物系の魔法の練習用に」

「ちぎってお茶にしているところを何回か見たので」

 なんならそのままかじっているところも見た。お茶はともかく、そのままかじるのはよほど好きか、よほど眠気を飛ばしたかったかだろう。少なくとも、嫌いならやらないとリャニャは思う。

「あはは、見つかってたんだ、はずかし」

 照れたように笑って、サトラ先輩は頭を掻いた。

「うん。好きなんだよね、ミント。だから好きな植物を育ててみましょうって言われて、真っ先に思い浮かんだの。で、授業が終わったら捨てちゃう奴も多いんだけど、そのまま育てて使ってる」

 リャニャちゃんはすごいなあと言われて、首を傾げた。

「ちゃんと、ひとを見て、そのひとに合うものを作れるんだ。きっと、良い魔女になれるよ、リャニャちゃんは。頑張って」

つたないお話をお読み頂きありがとうございます

続きも読んで頂けると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ