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「独自調合のハーブティ、ですか?」
「はい。口に合えば良いのですが」
リャニャからカップを受け取って、アガード先輩は目を細めた。一口、口へ運んで、表情もまとう空気もほころばせる。
「美味しい。それに、気分がすっきりしますね」
「眠気を払って、疲れが取れるように、調合しました」
「そう言った効果のハーブティは、いくつか試したことがありますが、こんなに美味しいものはありませんでした」
それはきっと、眠気を払うハーブの多くが、清涼感や苦味を感じるものだから、ではないだろうか。
「メントール系のハーブを避けて、えぐみや酸味の出にくい調合にしたからだと思います。眠気を覚ますお茶って、刺激の強い調合が多いので、苦手な方は苦手ですよね」
眠気を覚ます飲み物の筆頭と言えば、珈琲が挙げられるだろうけれど、珈琲は苦くて飲めないひとも多い。
アガード先輩の場合は、苦味は大丈夫のようだが、えぐみや強い酸味がある飲み物は好まないようだった。また、飲み物に限らず、辛味や清涼感と言った、刺激の強いものは苦手。
せっかく、決まった相手のために調合するのだから、口に合うものの方が良い。そう思って調合し、入れ方も工夫したお茶だった。
「……味の好み、お話ししたことがありましたっけ」
「いえ、ですが、毎日いっしょに食べているので」
珈琲より、ココアが好きで。好物はオムライスで。どんな食べ物なら食が進むのか、嬉しそうな顔をしているのか。たくさんの言葉よりきっと、そんな日々の積み重ねの方が、多くを知れる。
「だから、リャニャさんの作る料理は、いつでも美味しいのですね」
「どうせなら、美味しい方が良いですから」
ポットを食卓に乗せて、笑う。
「ポットにまだ残っているので、良ければ飲んで下さい。この量なら、全部飲んで大丈夫ですから」
「ありがとうございます」
「本当は、しっかり休むのがいちばんなので」
どんな良薬も、本人の生命力なしには実力を示せない。投薬と養生を、併用してこそ効果があるのだ。
「毎日は良くないですが、休めないときもありますよね。そう言う時は言って貰えれば、また作ります」
「えー、先輩だけ、ずるうい」
すかさず入ったサトラ先輩からのブーイングに、リャニャは苦笑する。
「もちろんサトラ先輩にも作りますよ。今日もほら、勉強のお供に」
お茶を入れた保温ポットを持ち上げて見せる。求める効能が違うので、味も調合も違うが、リャニャか作ったハーブティであることに違いはない。
「え、ほんと?やったあ。じゃあ、やるかあ。リャニャちゃんの作ってくれたお茶があるなら、古代魔法語とも戦える気がするよ……」
ふらりと立ち上がったサトラ先輩が、アガード先輩に目を向ける。
「僕の机に山積みされてたやつですよね、今日の課題図書」
「ええ。厳選したので、最低限のものだけですが。お望みでしたら増やしますよ?」
「いや!あのなかに古代魔法語の本があるんですよね?そしたらあんな量、理解するのに何日かかるか……」
頭を抱えて見せるサトラ先輩に見て、アガード先輩は無慈悲に告げた。
「優先順位を振ってありますから、その順に。今日中に最低でも三冊は読み込んで頭に入れて下さい。月曜には、誰かに訊かれるかもしれませんから」
「ううう、頑張りまあす。リャニャちゃん、談話室に本持って行くから、勉強道具持って来てね。あ、ポットは重いでしょ?僕が持って行くよ」
「いえ、このくらいなら大丈夫です」
薬の調合には力仕事もあるので、見習い魔女は腕力が鍛えられている。お茶の入ったポットとカップを運ぶくらい、大変ではない。
「そ?落とさないように気を付けてね」
そしてサトラ先輩は、わたしの出来るをむやみに否定しない。無理をしている時には踏み込み、そうでない時は応援してくれる。その、加減が巧いひとだ。
「はい。気を付けます」
まずはお茶を運んでしまおうと、片手にポット、片手にマグカップふたつを持って、談話室に向かう。
「はい、どうぞ」
ほら、こう言うところだ。
部屋に戻るついでとばかりに、談話室の扉を開けてくれる、サトラ先輩に思う。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。じゃあ僕は、本取って来るね」
「手伝います」
「ん?大丈夫大丈夫。リャニャちゃんは、自分の勉強道具持っといで」
ひらひらと手を振られて、リャニャは大人しく、わかりましたと頷いた。
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