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「え?」
思わぬ水の向けられ方に、リャニャはきょとんと首を傾げる。
「いやほら、リャニャちゃんも可愛いからさ、なんか絡まれたり、してない?あー、つっても魔女科の教授はほぼ女性か。でも、共通科目は男性教授が多いし」
「わたしは、そんな、見た目で得をするような外見、では」
「ええ?いやいやいや、自覚なかったの?めちゃくちゃ可愛いって、リャニャちゃんは!入学して来たときなんか、専科でまで噂になってたよ?精霊みたいな美少女が来た!って」
リャニャが、精霊みたい、なんて。
「精霊は、もっと綺麗ですよ」
「あー確かに、精霊って言うよりは妖精かな?アガード先輩みたいな、近寄り難い美人じゃなくて、可愛くて、儚げで、大事に守りたくなる感じ」
「そんなこと、初めて言われました。ありがとうございます」
お世辞にしても言い過ぎではないかと思いつつ、リャニャはお礼を口にする。故郷では、同年代の女の子はいなかったから、比べられることもなかった。学院に来てからも、周りは歳上が多くて、そんな雑談をするような友人は出来なかった。ウィルキンズ先生の研究室では、勉強や調薬に関する話ばかりしていたし。
「うっそお。こんなに可愛いのに?ねえ、アガード先輩、リャニャちゃん可愛いですよね?」
本人を前にそんなことを訊かれたら、否定しにくいだろうに。
「容姿の優劣をとやかく言うのは、好きではないのですが……」
いまだ気怠げなアガード先輩が、リャニャを見つめる。
「好ましい容姿だと思っています。そうですね、見た目の印象としては、愛らしい、かと」
「そう言えばアガード先輩も、他人の見た目を気にしないひとでしたねー。リャニャちゃんと、似たもの同士だ」
「リャニャさんの魅力は、そんなところではないですからね」
言って、パンペルデュを口に運んだアガード先輩が、ふ、と顔をほころばせる。
「美味しい」
「なんか僕がすっごく俗物みたいになった。あーでも、リャニャちゃんに自覚がないってことは、そう言う嫌味は言われてないってことだよね。良かった。煩わしいし辟易するからね、絡まれると」
開き直ったと言っても、悪意を向けられるのは嫌なものだからだろう。サトラ先輩の気遣いを感じ取って、リャニャは頷いた。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
そもそも、もてはやされたり、やっかまれたりするような、秀でた容姿ではないとは、言えばまた否定されそうなので、言わないでおく。
それからアガード先輩に目を向けて、提案を。
「あとでなにか、すっきりする飲み物を入れますね。冷たいものと温かいものでしたら、どちらが欲しいですか?」
「お気遣いありがとうございます。お言葉に甘えて、温かいものを貰えますか?」
「わかりました」
なにかハーブティを作ろうと、調合を考える。ハーブの活用は魔女の基礎なので、中級見習いのリャニャでもばっちり履修済だ。
「外見より、こう言うところですよ、リャニャさんの魅力的なところは」
「それはほんとにそう!優しいよね、リャニャちゃんはさ」
「いつも、お世話になっているからですよ。魔女なら、対価はきっちり払わないと」
魔女の手助けは無償ではいけない。決まりや基準があって、それに応じた対価を求めなくてはいけないのだ。そうでなくては、ひとは、際限なく奇跡を求めてしまうから。
「律儀だね。兄妹弟子なんだから、気にしなくて良いのに」
「それは」
リャニャが見習い魔法師ならば、気にせず甘えていたかもしれない。実際、中級課程の頃はウィルキンズ先生の研究室の先輩に、ご飯に連れて行って貰ったり、課題を見て貰ったりと、いろいろ甘えていた。
いつか立派な魔女になって、恩を返そうと思っていたし、それで良いと、言われていたからだ。
だが、ここで与えられたものは。
「どちらかと言うと、私たちがリャニャさんに親切だと感じる行動すべてが、リャニャさんが研究所に来てくれたお礼、なのですけれどね」
そんなことを、言われても困る。リャニャに、そんな価値はないのだから。
「そんな困った顔しないでよ。先輩はただ、気にせず甘えて良いんだよって言ってるだけだから」
「ええ。リャニャさんに、この研究室は嫌だと思われないように、必死なだけですからね、みんな」
「そうそう!せっかく妹弟子が来てくれたのに、嫌われたくない!!」
アガード先輩はいつも優しく、サトラ先輩はいつも明るい。
やっぱり、リャニャの貰っているものの方が多いと思う。
せめて食後には、美味しいハーブティを作ろう。
ハーブティの調合を考えながら、リャニャは食事を進めた。
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