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「こんな夜中に、どうした」
険しい顔と声に肩を揺らしたリャニャに代わって、アガード先輩が答える。
「談話室で課題をやっていたら、熱が入り過ぎてしまって」
「お前はともかく、リャニャはまだ未成年だろう。あまり夜更かしさせるな」
ますます眉を寄せてアガード先輩を叱るクラシュ師匠へ、慌てて言う。
「アガード先輩は、わたしが集中していたので、気遣ってくれたのです。すみません」
「気遣いの方向が間違っている。子供を気遣うのは年長者の役目だろう。若い脳には、十分な睡眠が必要だと言うのに、大人が寝かしつけてやらなくてどうする」
こう言う面を見ると、クラシュ師匠が教育者であることを実感する。ユイ先生もそうだが、教え導く者としての、自覚と芯がはっきりある。
アガード先輩が頷いて、視線を下げた。
「おっしゃる通りです。以後気を付けます」
「と、監督者が責を問われることになるから、お前も気を付けろ、リャニャ。子供の犯した罪は、大人が責められる」
そしてしっかりリャニャも叱る。
言動が理にかなっていて、理不尽さがない。
「はい。気を付けます」
「新しいことを学んで、没頭する気持ちはわかるがな。バルツザット教授の教えは、身になったか」
「はい」
「そうか。魔法式を試すなら、悪いが月曜の午後まで待て。そこなら俺が立ち合える」
あれ?と思いつつも、リャニャは頷く。
早く試したい気持ちはあるが、明日はアガード先輩が用意してくれた文献で、サトラ先輩と勉強しなくてはならないので、リャニャとしても問題はない。
「わかりました。よろしくお願いします」
「ああ。なら、今日は部屋に戻って速やかに眠れ。間違っても、これ以上起きているなよ」
「はい」
クラシュ師匠が頷いて、ふと、リャニャの頭に手を伸ばす。
「夜食、美味かった。ありがとう」
「あの、サトラ先輩とアガード先輩が、クラシュ師匠のために作って欲しい、と」
「そうか」
頷いて、何度かリャニャの頭をなでてから、言う。
「おやすみ」
「はい。おやすみなさい、クラシュ師匠」
「師匠も早く休んで下さいね。おやすみなさい」
もういちど、早く寝ろよとリャニャに念押しして、クラシュ師匠は自分の部屋に向かう。リャニャも歩き出そうとしたところで、アガード先輩が言った。
「クラシュ師匠が立ち合う必要があるくらい、力ある魔法式を、リャニャさんはもう作れるだろう、と言うことですよ、いまの」
「え?」
「私だけでも、ちゃんと立ち合いは出来るのですけどね。あれで、過保護なんです、師匠は」
言うだけ言って、さあ、部屋に戻って寝ましょうと、アガード先輩はリャニャの背を押す。
「え、あの、それは」
押されるままに歩きながら、リャニャは戸惑ってうろたえる。
「師匠はリャニャさんの成長を信じている、と言うことです。では、師匠の指示通り速やかに寝て下さいね。おやすみなさい」
あの、鬼のように厳しいクラシュ師匠が、リャニャを認めている?
混乱しつつも、自室の扉へ押し込まれれば、それ以上問うこともできない。
「お、やすみ、なさい」
「はい。また明日」
ぱたんとしまった扉を、リャニャはしばし見つめてしまった。
「寝、ないと」
呟くが、眠れる気がしない。
{りにー}
こそ、と顔を出したモフに、息を吐いた。荷物を置きながら、モフへ声を掛ける。
「寝なきゃいけないのに、眠れそうにないの。手伝ってくれる?」
{にーあ}
ベッドに上がったモフが、ポフポフとベッドで跳ねた。
{もるすあ}
ポフンと小モフが飛び出て、ぽすん、とリャニャに当たって消える。
なんだか、眠れる気がして来た。
「ありがとう」
モフに魔力を渡して、ベッドに潜り込む。
{りにーあ}
枕元にモフが鎮座した枕に、頭を埋めた、と思ったときには、リャニャの意識は溶けていた。
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