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「うーん……と、これ、中位精霊の召喚魔法なんすよね?なら、『そよそよと』とか『ゆらゆらと』って、なんでわざわざ使ってんすか?」

「え?そこですか?」

 アミラ先輩が首を傾げて、黒板に目を走らせる。

「あたしはその文言、良いと思います。この魔法式、そよ風みたいですごく綺麗」

「出たよアミラの謎理論」

「いやだって、これ、風の精霊を呼ぶんですよね?なら、風らしさは必要ですよ」

 学生たちが熱く議論しているのは、黒板に書かれた魔法式、リャニャが考えた、風の中位精霊の召喚魔法の魔法式についてだ。

 昼食を終えて戻り、黒板に魔法式を書いて、さあ説明を、と言うところで、ユイ先生の弟子たちがやって来て、指導に参戦したのだ。

「ねえ、サトラ、あんた風魔法得意でしょ。風の魔法行使者は、こう言う魔法式が好みよね?」

「ええ?僕?」

「そうよ。風の魔法行使者なんて気まぐれな相手に百発百中させてるんだから、風の魔法式を考えるの、得意でしょ」

 アミラ先輩に水を向けられて、サトラ先輩が困った顔になる。

「いや風は、教本通りの魔法式で十分使えるから」

 アミラ先輩が、苦虫を噛み潰したような顔になる。

「天賦の才持ちはこれだから」

「いやいや」

 嫌そうに言ったアミラ先輩へ、ユイ先生の弟子のひとりが待ったをかける。

「それ言うなら、アミラの謎理論も大概だから。こっちの方が良い感じだから〜で、あっさり効率化される俺らの気持ちわかる?」

「それは、だって、あるじゃないですか、しっくり来る魔法式と据わりが悪い魔法式って」

「その感覚が天賦の才だって言ってんの」

 ぽんぽんと軽快に交わされる言葉の応酬に、リャニャは目を白黒させる。ユイ先生の弟子は人数が多く、クラシュ師匠のもとで、一対一や一対二の指導に慣れたリャニャにとっては、新鮮なものだった。

「あー、外野が煩くて悪いが、リャニャくん」

 ユイ先生が、ちょいちょい、とリャニャを呼ぶ。

「気にせず行こう。それぞれの文言を選んだ意図と、この順に並べた理由を教えてくれるかい?」

「はい」

 風を起こす魔法式のなかで、大分類すると精霊召喚の魔法式だが、そのなかにも、もちろん部分がある。

「風の精霊は、子供好きなので」

 シン、と、急に室内が静かになった。

 また、なにか失言をしただろうか。

「大丈夫。そのまま続けて」

 ユイ先生は、気にせず続けるよう、促すが。

 助けを求めて目をやったサトラ先輩は、苦笑して頷いてくれた。どうやら失言ではあったようだけれど、止めるほどではないらしい。

「子守唄のような魔法式の方が、反応が良いのです。それから、子供との関わりを肯定するような文言も、喜びます」

「なるほど、歌か。それで、重複や擬態語の多い魔法式なんだな」

「はい。それから、ひとくちに中位精霊と言っても、派手な魔法を好む精霊も、優しい魔法を好む精霊もいるので、」

「リャニャちゃん、ちょっと待った」

 サトラ先輩が、片手を立てて、待ったをかける。

 やってしまった、のか。

「あー……いや、良いや。それ、ウルスラ・アグナとその弟子たちの唱えた学説だね。よくそんな、古い学説まで押さえて」

「その、クラシュ師匠が、目を通しておくようにって、言った書物のなかにあって」

「師匠は古今東西読み漁ってるからなあ。すみません、横槍入れて。リャニャちゃん、続けて」

 周りで聞いていた生徒たちが、ウルスラ・アグナと名前をメモしている。即興の言い訳は、信じて貰えたらしい。

「ええと、精霊召喚する場合は、やって欲しい魔法に合わせた精霊を喚んだ方が効率が良いですよね。今回は、強い魔法や派手な魔法をお願いするわけではないので、できれば穏やかな、優しい精霊に来て欲しくて」

「だから、弱い文言を使ってんのか。いや、でもそれじゃ、来る精霊も弱くなるんじゃないか?中位精霊を呼びたいのに、低位や下位が来てもしょうがないだろ?」

「はい。なので、階位を上げる文言を足しています。ここ」

 リャニャはチョークを手に取り、魔法式の一箇所を丸で囲む。

「この文言を付け加えることで、応える精霊を中位以上に限定しました」

「そんな文言があるのか?ちょっと待ってくれ、なんだ、んん?『命を』……あー、後ろは『大いなる』だな、間がわからん」

 サトラ先輩が目配せで、意味を話すなと言っていたので、リャニャはお利口に黙る。

「その、ええと」

「ど忘れかな?シャルル・ド・ギスタリアの魔法理論だ。これも随分古い論文から拾ったね」

 黙ったは良いがどうしようと思ったところで、すかさずサトラ先輩の補足が入る。

「残念ながら一部紛失されていて、文言の意味は伝わっていないんだったっけ。でも、使い方としてはこれで間違ってない。難しい論文なのに、よく読み込んだね」

「ありがとうございます」

 色々な意味でお礼を言って、リャニャは続ける。

「この文言を追加したことにより、この魔法式には中位以上の精霊しか反応しなくなるのですが、だからこそ、きちんと組み立てなければ不発になります。わたしの目標は、この魔法式をできるだけ少ない魔力で、誰でも発動できるようにすることなので、魔法式が発動するギリギリを狙いたい、です。それには」

「まだ、足りない、な」

「はい」

 ユイ先生の言葉に頷きを返す。

「いまのままでも、魔力でゴリ押しすれば発動はすると思います。あるいは、風の精霊に好かれる人間なら、発動するでしょう。ですがそれでは、クラシュ師匠を納得させられません」

 リャニャ自身も、それでは納得できない。

「発動、するのか?これ」

「んー……僕だったらたぶん行けますね」

「サトラはそりゃ、そうだろうけど。そうじゃなかったらどれくらい魔力が要るのよ、これ」

 どれくらいだろうか。

 おそらく、リャニャならば発動できると思うけれど。

「アミラだと難しいかな。師匠やアガード先輩なら確実に行けると思う。ええとね、リャニャちゃんが元々組み立ててた魔法式の召喚部分の、半分くらいの魔力かな」

「半分」

「まだ、魔力でゴリ押しする感じ」

 つまり、まだ全然駄目ってことだ。

 けれど、教本通りの精霊召喚では。

「うん。リャニャちゃんの目的から言って、既存の中位精霊召喚用魔法式だと、たぶん来て欲しい精霊は来ないね。となると、この方向性で、魔法式を洗練させて行く必要がある」

 と言うわけで、と、サトラ先輩がお集まりの面々を見渡す。

「意見下さい。手当たり次第試すんで」

つたないお話をお読み頂きありがとうございます

続きも読んで頂けると嬉しいです


そして書き貯め分が更新に追い付かれそうになっているので

感想や評価やリアクションで応援して頂けるとなお嬉しいです

日に四回更新に無理があったって絶対……

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