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「……ふぅ」
先に食べ終わって雑談に花を咲かせるふたりの横で、リャニャもようやく食べ終える。結局、半分以上サトラ先輩に食べて貰った。
少しぬるくなったマシュマロココアは、マシュマロがとろけきって、スチームミルクのようにふわふわだ。
「足りたかい、リャニャくん」
「はい。お腹いっぱいです」
「そうか……」
どこか信じられないものを見る目で、バルツザット教授はリャニャを見る。
「昼が軽いだけで、朝夕はしっかり食べていますから、そんな心配しなくても大丈夫ですよ、教授」
そんなバルツザット教授を、サトラ先輩がとりなす。どうやらバルツザット教授にとってはそれほどまでに、リャニャの食事量が信じがたかったらしい。
「まあ、基本的に魔法師って男が多くて、とくに教授の周りはアミラ以外男ばっかで、その上、教授もアミラも大食いだから、女の子の食事量に驚くのはわかりますけど、いつまでもそんな顔で見られてたら、リャニャちゃんも居心地悪いですって」
「そう、だな。すまない、リャニャくん」
「いえ、大丈夫です」
リャニャからしたら、バルツザット教授の食事量の方が驚きだったのだが。サトラ先輩ほどではないが、かなりの量を平らげていた。
「みっちり勉強してくなら、遅くなるだろうから、夜もどこか連れて行こうか。どうせ、午後から来る学生共に強請られる」
「あ、いえ、夜は」
遅くなるかもしれないから、朝のうちに下ごしらえを済ませて来た。
「寮で、アガード先輩と食べるので」
「うん?もしかして、アガードくんが食事を用意してくれてるのかい?」
そうは見えないと顔に書いて、バルツザット教授が問う。
「あはは。アガード先輩にそんな生活力ないですよ。逆です逆、リャニャちゃんが、朝夕は作ってくれてるんです」
「む。下っ端だからとこき使われているのかい?」
「いえあの、わたしが、やりたくてやっているので」
リャニャが食事を作ると言うと、クラシュ師匠は、なら材料費はここから出せと、食費を用意してくれた。言い出したからと休みなくやる必要はないし、続けられないと思えばやめていいと、一言添えて。
アガード先輩ほどの皆勤賞ではないが、クラシュ師匠もリャニャの作った食事を食べて、食べたあとには美味しかったと言ってくれる。
「ごはん、作って食べて貰うの、好きなんです」
だからその言葉は、すんなりと口を突いた。
そうだ。始めはせめてなにか役立てればと思ってのことだったが、今では楽しくなっている。勉強のあいだの息抜きや気分転換でもあって、なにより、誰かと一緒に食べる食事は美味しい。
「リャニャちゃん、すっごく料理上手なんですよ。なにを作っても美味しくって、アガード先輩なんてすっかり胃袋掴まれちゃってますよ」
「言われてみれば、このところアガードくんは肉付きが良くなったな。前はそのうち折れるんじゃないかとヒヤヒヤするくらい細かった」
ふむ、と頷いたバルツザット教授が、リャニャの頭をなでる。
「良い仕事をしたもんだ。素晴らしい妹弟子を得て、アガードくんが羨ましいね。だが、無理は禁物だ。他人より自分。休みたいときは休めば良いし、やめたくなったらやめれば良い。サガン教授もアガードくんも、それで怒るような人間じゃあないからね」
バルツザット教授の言葉に、リャニャはパチリと目をまたたく。
「自分で決めたことを、途中で投げ出しても、良いのですか?」
「まあ、なんでもかんでも投げ出すってのは良くないがね。さすがにそれでは信頼を失う」
苦笑を浮かべて行ったあとで、バルツザット教授は、だが、と続ける。
「状況は常に変化し続けるし、状況が変われば最適解も変わって来る。湿地で雨を降らせるのに召喚魔法なんて必要ないが、砂漠で雨を降らせるなら、召喚魔法が不可欠なようにね。常に最善を考えて、柔軟に答えを出すことは、悪いことではない。むしろ、賢い生き方さね。だからもし、前と答えが変わっても、自分を責めることはない」
もち、とリャニャの頬をこね、バルツザット教授はニカッと笑う。
「なあに、案外、投げ出してもなんとかなるもんさ。開き直っちまえば、どうしようもないことなんざ、意外と少ないもんだからね」
たとえば、とどこか悪戯っぽい顔をして、バルツザット教授はココアを一口飲む。
「指名会で、指名されなければ弟子にはなれないと思うだろう?」
「?」
話題の行き先を取りかねて、リャニャはきょとんとしながらも頷く。
「はい」
逆指名なんて反則技はあれど、それだって相手に受け入れられなければ師事は許されない。パティー・ジンガーさんが、クラシュ師匠の弟子にはなれなかったように。
そう言えば、彼女は結局、誰の弟子になったのだろうか。
「でも実際は、指名会を通さず弟子になることも可能なんさね」
「えっと、ティエジア学派以外の傘下に入れば、と言うことですか?」
ティエジア魔法魔術学院の卒業生を主として形成されるティエジア学派以外にも、魔法や魔術の学派は数多存在する。そのなかには、弟子になる側から志願して師弟になる学派も、存在するとリャニャは記憶していた。
「それもひとつの手だ。リャニャくんは頭の回転が良いね。だが、ティエジア学派のままでも、やり方によっちゃ可能さね。どうするかわかるかい?」
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