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アガード先輩の褒め言葉に、サトラ先輩は唇を尖らせた。
「やっぱり、リャニャちゃんの指導にかこつけて、僕の指導になってるう……こう言うところが恐いんですよ先輩は」
「おや、そう言うことを言うならば、師匠の許可もサトラが取って来ますか?」
「ヒッ……」
アガード先輩の言葉を聞いて、青褪めたサトラ先輩がブンブンと首を振った。
「先輩に言うのもめちゃくちゃ恐かったのに、師匠になんて言えませんよ、殺されたらどうするんですか」
「それは、僕は殺されても構わないと言う?」
「違いますって、先輩の話術を見込んで!リャニャちゃんのためにも!師匠の許可を取って下さい!!お願いします!!このとーり!!」
パンッと手を合わせて頭を下げたサトラ先輩に苦笑を落とし、アガード先輩は頷いた。
「可愛い妹弟子のためですからね。わかりました。師匠への説明と、バルツザット教授への協力要請は、私がやっておきましょう」
「ありがとーございまっす!!」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。リャニャさんのためですからね。これくらい、お安い御用ですよ」
では、善は急げと言いますから、さっそく行って来ます。言って立ち上がったアガード先輩が完全に部屋を離れてから、サトラ先輩がぽつりと言う。
「師匠への交渉がお安い御用だなんて言えるの、アガード先輩と学長くらいだって……」
はーっと深く息を吐いて、サトラ先輩が椅子にもたれ掛かる。
「先輩、めちゃくちゃ面倒見良いじゃん?」
「そうですね」
「だから、なんか師匠に頼みたいことで、でも言いにくいことあったら、まずアガード先輩に相談すると良いよ。僕からでも真面目にお願いすればああやって聞いてくれるから、リャニャちゃんなら、まあ、先輩まで反対するようなことでなければ、師匠の説得に協力してくれると思う」
恐いじゃん、師匠。
投げられた言葉にどう答えるのが正解かわからず、リャニャは曖昧な笑みを浮かべる。
恐いか恐くないかで言ったらめちゃくちゃ恐い。
「いやまあ、良い師匠であることは否定しないよ?指導は鬼だけど丁寧だし、むちゃくちゃ忙しいのに弟子のために大量に時間割いてくれる。危険な実験や訓練の時は、絶対に付き添って、いざとなれば自分を盾にしてでも守ってくれるしね。本当、あの見た目と言動で、中身は恐ろしく過保護で弟子思いな師匠なんだよ。でも、それはそれとして!」
ぐわ!と身を起こして、サトラ先輩がリャニャの方に身を乗り出したので、リャニャはびっくりして肩を跳ねさせた。
「恐いもんは恐いじゃん!?あの見た目と言動だよ?怒ってなくても恐いし、指導は鬼だし、怒ったら余計恐い!!出来るだけ怒らせたくない!!」
怒られたときのことでも思い出したのか、サトラ先輩が自分を両手で抱いて身を震わせた。
「そんな恐ろしい怒った師匠に、平気で言い返せるのが、アガード先輩なんだよ。いや、先輩も先輩で真顔だと恐いけどね?怒った時の恐さは、師匠に匹敵するけどね?本人気付いているから、だいたいにこにこしてるじゃん。師匠とは頼みごとのしやすさが違うよね」
また答えにくい問いを投げられて、賢いリャニャは沈黙を選ぶ。
「とにかく、師匠を怒らせそうな頼みごとなら、直接よりアガード先輩を通した方が良いよって、兄弟子からの助言ね。その時点で、頼むべきでないことなら、止めてもらえるしね。ただ、これは警告なんだけど」
声をひそめたサトラ先輩に手招きされて、リャニャは顔を寄せる。
「あのふたりが、両方喧嘩腰になってるときは、相乗効果で死ぬほど恐いから、やばそうな案件を頼んだときは、ついて行かないのが賢明だよ。恐過ぎて僕は寿命が縮んだから」
確かに、想像するだに恐そうだ。サトラ先輩の言い分に納得して、リャニャは神妙に頷いた。
両方喧嘩腰になったクラシュ師匠とアガード先輩がいる場にリャニャが同席する日が、近いうちに訪れることも知らずに。
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