14
「それで?」
リャニャの手元を覗き込んだ、アガード先輩が問う。
「サトラは良い助言をくれそうですか?」
「まだ、そこまで話が進んでいなくて」
「そうそう。まだ僕が話を飲み込めてません!」
サトラ先輩がアガード先輩に訴える。
「リャニャちゃんまだ見習い上級課程上がって四ヶ月目ですよね?僕の記憶が正しければ、この課題、僕が貰ったのは二年目に入ってからだった!」
「そうですね」
そうなのか。
「でもって僕、確か一ヶ月くらい悩んでた!ですよね?」
「正確には、三週間目で私に泣き付いて助言を聞いて、それからさらに二週間かけていましたね」
サトラ先輩、三週間も自分で考えていたのかと、リャニャは気まずく思った。だって、リャニャは。
「リャニャちゃんが課題貰ったのは?」
「一昨々日課題を貰って、一昨日行き詰まったと私とクラシュ師匠に助言を求めて、昨日師匠に報告しました」
そう、課題を貰って早々に、クラシュ師匠に助けを求めてしまった。根性がないと、思われただろうか。
「早過ぎない?」
「それだけ集中して試行錯誤を繰り返していたのですよ」
リャニャちゃんすごいとサトラ先輩が頭を抱える。
「しかもさ、僕結局、アガード先輩の助言で良い教本教えて貰って、それでこなしたじゃないですか、課題。既存の理論をもとにした、既存の魔法式を、練習して習得して」
「あの理論と魔法式の習得も、センスがないと無理なので、価値あることですよ」
「それは本当にそう。いまだに役立ってるもん、あの理論と魔法式。覚えて良かった」
「半分はそのための課題ですからね。ちなみにリャニャさんは」
こちらを向いたアガード先輩の目が優しくて、リャニャはきょとん、と首をかしげる。
「行き詰まったと相談して来た時点で、私がサトラに教えた教本の内容は理解して習得していて、でもこの方法だと欠点がありそうだと言うので」
ふふ、とアガード先輩が笑い声をこぼす。
「師匠が課題の目標点を引き上げました。リャニャさんの習得の甘い部分を指摘して改善のための助言をするついでに、あの理論と魔法式の欠点についても伝えて、改善するようにと」
以前から師匠は、あの理論と魔法式の有用性は認めつつも、欠点があるから改善したいと言い続けていますからね。アガード先輩は言って、まあほかが忙し過ぎて片手間に考えているだけですがと、苦笑した。
「そしてリャニャさんは、たった一日でその答えを師匠に示して見せたわけです。粗削りではありますが、既存の理論を参考に新たな理論を組み立て、魔法式まで組み上げて」
「それですよ!」
サトラ先輩の上げた大きな声に、リャニャは肩を揺らす。
「魔法理論も魔法式も、一朝一夕で組めるものじゃないでしょ。それも完全に新しい魔法理論と魔法式なんて、上級魔法師が、うんうん唸って考えて、試行錯誤を繰り返して、何ヶ月、あるいは何年もかけて、やっと組み上げるようなものでしょ。それを人生の課題にしてる魔法師だっているくらいだ。なのに」
サトラ先輩がリャニャを見る。その瞳の強さに、リャニャは思わず身を引いた。
「魔法師でもない?中級見習い魔女が?上級課程に上がって半年も経たずに?師匠も思い付かないような理論と魔法式を?数日で組み上げる?そんなの。そんなの」
再び頭を抱えたサトラ先輩が、落ち込んだように背を丸める。
「そんなの……」
丸まったまま黙ってしまったサトラ先輩に、リャニャはどうしようかと戸惑う。
リャニャは凡才なりに必死に頑張っただけで、すごいことなどなにもやっていないのに。
「サトラ先輩?」
「そんなの、めっっっっちゃくちゃ面白いじゃないか!」
「えっ?」
突然叫んで起き上がったサトラ先輩の目は、わくわくできらっきらに輝いていた。
「手伝う手伝う。全力で補佐するよ。どれ。ちょっとリャニャちゃんが組んだ理論と魔法式、説明してみてくれる?」
「は、はい」
ところどころたどたどしいリャニャの説明を、サトラ先輩はうんうんと興味深そうに聞いてくれた。時折投げられる質問は的を射たもので、答えることでリャニャの理論がより鮮明になった。それだけでも、十分ありがたいことだったが。
「そんで、師匠の助言がこれなわけね。うんうんなるほど。あー……魔法式の、効率化、かあ……」
わしわしと自分の髪を掻き混ぜて、サトラ先輩は天を仰ぐ。
「魔法式の効率化ねえ……あー……うーん……あの、アガード先輩?」
「ん?私ですか?」
横で事務作業を進めていたアガード先輩が、呼ばれて振り向く。
「ええまあ。アガード先輩にお願いがあって」
「聞くだけ聞きましょう」
「ども」
ふーっと息を吐き、僕的にも釈然としない気持ちなんですけど、と前置きしてから、サトラ先輩は言った。
つたないお話をお読み頂きありがとうございます
続きも読んで頂けると嬉しいです




