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金曜日。
改めて覚書を見返したリャニャは、あまりに多い指摘事項に、やっぱり褒められたのなんて嘘だったのでは?と疑った。
「どしたのリャニャちゃん、獲物だと思って捕まえたのが空っぽの紙袋だったときのジャバウォッカみたいな顔して」
「どんな顔ですか……?と言うか、野生として大丈夫ですか、そのジャバウォッカは」
案山子やカラス避けのデゴイに意味があるから、野生であってもそんなものなのかもしれない。
「拾って欲しかったのはそこじゃないよー」
サトラ先輩に問われて、昨日のことを説明する。昨日リャニャの指導に立ち会っていたのはクラシュ師匠とアガード先輩だけで、サトラ先輩はサトラ先輩で、自分の課題に取り組んでいたのだ。
「と、言うことなのですが、一晩経って覚書を見返してみると、ここまで欠点まみれなのに本当に褒められていたのかなって。やっぱりアガード先輩が、優しさで慰めてくれていただけですかね?」
「いや待って。黙って聞いていたけれど、色々とツッコミどころが多過ぎる」
頭を抱えてしまったサトラ先輩に、やっぱり落ちこぼれが褒められたなんて幻覚だったかと、
「違う。ツッコミどころはそうじゃなくて。じゃあまずそこから行くけど、師匠の『やるじゃないか』はガチで褒め言葉だから、それは疑わなくて良い。と言うか、『やるじゃないか』の上に頭なでて、『楽しみにしている』?ベタ褒めじゃん。僕そんな褒められたことないけど!?やばいって妹弟子が優秀過ぎて僕捨てられないこれ」
「その危機感を持ったなら、もうちょっと頑張りましょうね、サトラ」
「アガード先輩」
コトリと置かれたカフェテリアのココアに顔を上げる。
「どうぞ、リャニャさん、サトラも」
「え、あ、ありがとうございます」
「ありがとうございまあす。リャニャちゃん、これたぶん、先輩のこと気に入ってる教授からの貢ぎ物だから、遠慮しないで飲んで平気だよ」
言いながら、さっそく飲んで、あ、無糖ココアじゃん先輩わかってるう、と呟いているサトラ先輩。
「みつぎもの……?」
「そのうちリャニャさんも貰うようになると思いますよ。話し相手のお礼です。なんでも、研究が行き詰まったときに、優秀な若者の柔軟な発想に触れると、光明が見出だせる、とかで」
「アガード先輩、すごいですね……いただきます」
サトラ先輩の言う通り、アガード先輩がくれたのは、温かい無糖のミルクココアで、ミルクの甘みとココアのコクが、ほっこりと美味しかった。
「美味しい……無糖ココアって、初めて飲みました」
カフェテリアでリャニャが頼むのはもっぱら温かいカフェラテだ。
「おや、そうでしたか。リャニャさん、よく無糖のカフェラテを飲んでいるので、無糖ココアも好きかと思いましたが」
「あ、飲んだことなかっただけで、これ、すごく好きです」
「それは良かった」
にこっと微笑んでリャニャの隣に座ったアガード先輩へ、思い出したようにサトラ先輩が噛み付く。
「そこもツッコミどころだったよ!アガード先輩、なにリャニャちゃんとふたりでディナーとか羨ましいことしれっとやってるんですか!ずるい!抜け駆け!!」
「リャニャさんとふたりで夕食でしたら、いままでも何度もやっていますよ?」
サトラ先輩は夜は友人と食べることが多いらしく、クラシュ師匠がいないときは、基本的にリャニャとアガード先輩のふたりで晩ごはんだ。
「おうちごはんとお洒落なお店で食べる特別なごはんは違うでしょ!」
「お洒落なお店って、近所のレストランですよ。サトラも連れて行ったことがあるでしょう。ベリーのタルトが美味しいところです」
「えっ、ますますずるいじゃん。僕もベリーのタルト食べたかった……!」
リャニャは昨日のベリーのタルトを思い出して、頬を緩める。摘みたてのみずみずしいマルベリーとスグリがたっぷり乗せられたタルトは、酸味と甘みが絶妙で、とても美味しかった。
「昨日のタルトはマルベリーとスグリでした」
「うわあ絶対美味しいやつううう。食べたかったあああ」
大袈裟に嘆くサトラに、リャニャはそんなに食べたかったのかと驚く。
「あそこのベリーのタルトは、使うベリーが日替わりなのですよ」
そんなリャニャに、アガード先輩が説明してくれる。
「店主の奥さまが魔女で、奥さまの菜園で育った、その日いちばん食べごろのベリーでタルトを作るのです。だから、どんなタルトに出会えるか、行ってみないとわかりません」
また行きましょうねと、アガード先輩が誘ってくれるので、リャニャは頷いて、次はどんなタルトだろうかと考える。
「次は!絶対!僕も誘って下さいね!!」
「はいはい。それでは、次はみんなで行きましょうね」
サトラ先輩を軽くあしらって、アガード先輩がリャニャの手元を覗き込む。
「それで?」
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