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「あっ、いたいた、リャニャちゃあああんっ!」

 モフと別れて木陰を出たリャニャが、研究室のある棟に向かう途中、研究科の講堂がある区域との分かれ道で手を振るサトラ先輩に出会う。

「探しに行くとこだったよ。ちょうど会えて良かったあ。ねぇねぇ、もうお昼食べた?」

「はい」

「うああああ。早いよおおお。今日こそ一緒に食べようと思ってたのにっ」

 大袈裟に嘆くサトラ先輩を、一緒にいた初級魔法師たちがペシペシと叩く。

「サトラいつもフラれてないかー?」

「実は嫌われてないか?」

「あんなに妹弟子が出来たって自慢してたのに嫌われたのかよ、お前」

「残念な奴だもんな、サトラ。イケメンなのに」

「リャニャちゃん可愛いし優しそうなのに、嫌われたのか。なにしたんだ、サトラ」

「嫌われて、なあああああい!!朝ごはんは一緒に食べてるもん!ね、リャニャちゃんっ!」

 うがあと吠えた勢いのまま問い掛けられて、たじろぎつつもうなずく。

「は、はい」

 アガード先輩と、たまにクラシュ師匠も一緒だが。

「無理しなくて良んだよ、リャニャちゃん」

「そうだよ。嫌いなら嫌いって言って良いんだよ、リャニャちゃん」

「いえ、嫌いなんて、そんなことないですよ」

「ほら!嫌いじゃないって!聞いたか負け犬ども!つか、なに僕のリャニャちゃんのこと馴れ馴れしくリャニャちゃんとか呼んでんだよ」

「お前のじゃないだろ」

「お前がリャニャちゃんリャニャちゃん煩いから、移ったんだよ」

 ぎゃいぎゃいと騒がしいサトラ先輩たちに圧倒されていると、ついと手を引かれた。錆色の髪をうなじでひとつに結んだ、すらりとした長身の女性だ。

「気にしないで行こ、リャニャちゃん」

「あ、はい」

 手を取られて緊張しながらも、引かれるまま歩き出す。

「実際、大丈夫?やかましいでしょう、サトラ」

「大丈夫です。いつも、気遣って頂いて」

「まあ、性格は良いわよね。それは認める。でもね、リャニャちゃん、あ、リャニャちゃんとか、勝手に馴れ馴れしかったね、ごめんね」

 少し掠れ気味の落ち着いた声は、心地好い気配がした。

「大丈夫です。えと、お好きなように、呼んで頂ければ」

「本当!?」

 そう言って目を輝かせた顔は、青年のような見た目とは対照的に、少女のようで可愛らしかった。

「ありがとう。じゃあ、あたしもリャニャちゃんって呼んじゃお。へへっ、実はちょっと、妹弟子って憧れてて、サトラが羨ましかったんだよね。ほら、魔法師って男性ばっかで、たまに女の子がいても貴族でさ、庶民出の女は肩身が狭いったらなくて」

 はーやだやだと首を振ってから、だからさ、とその魔法師はリャニャの顔を覗き込む。

「もし、サトラたちじゃ話しにくいこととかあったら、遠慮せずあたしに頼ってよ。男相手とか、魔女相手じゃ、言えないこともあるでしょ?」

 目を見開くリャニャに、慌てたように手を振って見せた。

「あ、もちろん強制とかじゃなくて、リャニャちゃんが良かったらね?あたしは周りが男と貴族ばっかで辛いこともあったから、せっかく出来た近い立場の後輩を、助けてあげたくて」

 そこまで言ってから、はっとして魔法師の彼女は口元を片手で覆った。

「やだあたしったら、名乗りもせずに。あたしね、アミラって言うの。アミラ・アスラ。初級魔法師よ」

「リャニャ・ラタンです」

「知ってる」

「そうですね」

「ふふ。かわい」

 にこにこ笑うアミラ初級魔法師の方がずっと可愛い。いや。

「えっと、アミラ、せんぱい?」

「えっ……」

 ぽかん、とアミラ初級魔法師が立ち止まる。

 やっぱり、先輩は馴れ馴れしかっただろうか。

「ご、ごめんさい、あの、」

「いや待って直さなくて良い違うの。あんまりにも可愛過ぎて処理落ちしただけだから。呼び方はアミラ先輩でお願いします。今さらアミラ初級魔法師とか呼ばれたら泣く自信あるから」

「わ、わかりました。アミラ先輩」

「こんな後輩がうちの研究室にも欲しかった……っ」

 先輩って呼んでも泣くの!?

「ちょっとアミラ、うちのリャニャちゃん捕まえてなにやってんの」

「黙れサトラ。いま、あんたへの殺意とリャニャちゃんへの愛しさを押し込めてるところだから。そうだ!ねぇリャニャちゃん、サトラのとこやめてうちの師匠の弟子にならない?まだ間に合うから!そうそれが良いって絶対」

 その申出はいますごく響く。

「なに言ってんの、うちの鬼がリャニャちゃん手放すわけないでしょうが。リャニャちゃんも、揺れた顔しないで」

「いやいやリャニャちゃんだって、男だけのとこより、女のあたしがいるとこの方が良いよね?ね?」

「否定しにくい線から推すのやめて!わかった!遊びに行くのは許すように、師匠とアガード先輩の許可取るから!!」

 リャニャの、アミラ先輩に掴まれているのとは逆の手を握って、サトラ先輩が言うと、アミラ先輩は我が意を得たりとばかりに、にんまりと笑った。

「言ったね?二言はないね?」

 念押しする声に、サトラ先輩が、しまった、と言う顔になる。

「サトラの許可も出たことだし、はい、リャニャちゃんこれ、うちの研究室の部屋番号。いつでも遊びに来てね。寮の区画も、リャニャちゃんと近いから、良かったら今度パジャマパーティーしましょう」

 どうやらサトラ先輩より、アミラ先輩の方が上手うわてらしい。

「はい。よろしくお願いします、アミラ先輩」

「ううっ、可愛い。やっぱり妹弟子に欲しい」

「だぁめだってばあああ!」

 叫ぶサトラ先輩に便乗して、アミラだけずるいとほかの初級魔法師たちが騒ぎ出す。

「黙りな!」

 それを一喝で黙らせるアミラ先輩は、さっきの可愛らしさが嘘のような迫力と格好良さだった。

「同性の特権だよこれは。悔しかったら、あんたたちも女になれば良いんだよ!」

 無茶言う。いや、確かに魔女の秘薬のなかには、性別を変えられるものもあると聞くけれど。

「アミラ先輩、かっこいい……」

「え、リャニャちゃん?だめだめ、あれは真似しなくって良いから。可愛いリャニャちゃんのままでいて!」

 サトラ先輩の慌てた声に、リャニャは午前の憂鬱さを吹き飛ばして笑ってしまった。

つたないお話をお読み頂きありがとうございます

続きも読んで頂けると嬉しいです

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