叛逆の闇雄 魔王聖剣士闇神刀夜
前作の不備を改善し、追加シーンなどを加えた完全版です。
叛逆の魔王の前日談となるお話です。
「くすっ!! ゔぁーーーーん!!! えーーーーーん!!」
これは俺がまだ5歳だった頃の話だ。薄暗い夜の村で、俺はただひたすら泣いていた。周りにある大量の死体がある場所で…… 肉は食い散らかされ、内臓は引き裂かれている、見るに無残な光景だ。その村は、誰かに破壊されたようだった。俺が壊してしまったのだろうか…… あの時の俺にはそれすら分からなかった。
「怖いよ……、寂しいよ……、誰か助けてよ……」
俺はただ一人で泣きながらさまよっていた。
そんな中だった。ズサズサと雨の中足音を立てながら、ある一人の男が声を掛けてきた。
「お前が、闇神刀夜か」
黒色のジャケットに赤いワイシャツを着ていて、下には真っ黒のジーパンを履いていた。赤のラインが入った黒の革靴で音を立てながら、俺に近づいた。
「ようやく会えたな。魔王族と聖剣士の間に生まれた魔王聖剣士」
「うう……! おじさん…… 誰……?」
黒髪に赤黒色で鋭い眼の男は優しく俺を抱きしめてくれた。男の声を聴くと、なぜか安らぐ気持ちになる。
「大丈夫、俺はお前の味方だ」
男は俺にこう名乗った。
「俺はサリエル。サリエル・イェーガーだ」
サリエルの声に、自然と涙が止まっていく。
「俺の弟子になれ。お前はいずれ、最強の剣士になる」
これが、俺と師匠の出会い、そして、俺の魔王聖剣士として戦いの始まりだった。
サリエルと出会ってから5年後、10歳になった俺は日々魔王族を狩っていた。暗い青色の髪に赤黒色の眼をしているのが、闇神刀夜だ。赤の刺繍が入った黒のジャケットにダークブルーのシャツに紺色のベルトを巻いた黒のスラックスを履いていて、人気のない公園で暴れている魔王族と戦っていた。
『アァァァ!!』
刀で魔王族の噛みつき攻撃を防ぎ、一撃を食らわせる。
「はぁ!!!」
魔王族の心臓を刀で斬り、塵も残さず消えた。
「ここはもう大丈夫か」
今ので倒した数は丁度70体ってところだな。
サリエルの忠告通り、俺は確実に強くなっていった。
「用も済ませたし、そろそろ帰るか」
スマホンを取り出しサリエルにメールを送った。
『今日も魔王族を討伐できた。あれからもう5年が経つんだな。こうして俺は強くなれたんだ。ありがとう』
このスマホンはサリエルからもらったものだ。
ある機能が備わっているらしいんだが、それは俺にも分からない。ほかのスマホと違い、分厚いのも特徴だ。メールを送り、、俺は公園を後にした。
日が暮れた時間、不気味な廃墟に着き中に入る。 俺と師匠はこの建物に隠れ住んでいる。俺が魔王族であるということは一般人には誰にも知られてはいけないことらしい。それもそのはずだ。魔王族は人を食べなきゃ生きていけない。どんな物を食べても人を食らわなければいけないのだから。俺はサリエルからもらった人の血を飲んでなんとか凌いでいる。幸いにも、現状はこれだけで生活していけた。奥の部屋に入ると、そこに師匠ことサリエルが玉座のような椅子に座っていた。
「戻ったぜ」
余裕そうな口調で誇らしげにサリエルに話しかける。
「今日も無事に倒せたようだな」
「ああ、魔王族を討伐できた」
「そうか、ほら」
そう言って、俺に血の入ったビンを渡してきた。
「今日の報酬だ」
「ああ、ありがとな」
俺はビンを開け、血を飲んだ。
「やっぱり、これを飲めないと気持ちが抑えられないな」
「どんな気持ちだ?」
「たまに疼くんだ。人の肉が食べたくて仕方なくなる時があるんだ。今は血を飲むだけで生活できるが、いつか人を襲いそうで怖い」
ふと思った悩みをサリエルに打ち明けると、俺にこう話した。
「お前はほかの魔王族とは違うから大丈夫だろう。人の姿を保ち、自分で制御できる強い意志をもっているからな」
「師匠に出会えてよかったよ。俺も、師匠みたいなヒーローになれたらなって」
「お前は必ずなれる。そう信じて、危害を加える魔王族を討伐し続けろ。何があっても人を助けろ、絶対に傷つけるな」
「ああ、そのつもりだ」
(あのメールを送れるようになるとは…… 刀夜も成長したな)
俺はサリエルに気になったことを訊いた。
「なぁ、いつも血はどこで手に入れてんだ?」
「今は言えないな」
「なんだよ、いいじゃねぇか」
「そうだな、お前が魔王族から人を助けたら、教えてやる」
「ああ、約束だぜ」
そう言って、俺は師匠を後にした。
ある公園で俺は刀の素振りをしていた。強くなるためには修行は不可欠だ。師匠によれば、俺の剣術はかなりの実力らしい。常人とは比べられないほどの戦闘力があるようだ。
「98回! 99回! 100回!」
少し休憩にはいるか。 すると、ある少女が突然声をかけてきた。ピンク色の髪で左右に束ねている。制服を着ていて、見た感じ中学生にみえるが……
「ねぇ君、今何してるの?」
「何って、刀の修行だが」
「すごい! 私にもやらせて!」
「いいけど、重いぞ」
「大丈夫だよ」
俺は少女に刀を渡した。
「なにこれ……、重い……」
「だから言ったんだよ」
「でも! いーち! にー!」
少女は俺の刀で素振りをした。
「おい、やめとけって」
「平気だよ…… さーん、しー、ご!」
少女は五回で刀を離した。
「はぁ……、はぁ……、疲れたー でも、生きてる感じがして楽しかったよ。君は何回くらい素振りしたの?」
「そうだな、さっきので100回」
「100!? どうやったら出来るの!?」
「俺は最初から出来たんだが」
「そんなの最初から出来る人なんていないよ。
君がすごいって証拠だね。私も君みたいになれたらなー、なんてね」
不思議な声してるな。自然と安らいでいく。
「そういえば、名前はなんて言うの? よかったら、おともだちになってほしいなって思ったの」
「まだ名乗ってなかったな。俺は闇神刀夜」
「私、鹿目愛理、よろしくね。ねぇ、もっと刀夜のこと教えて!」
「だが……」
「いいでしょ!? もっと刀夜のこと知りたいな」
「愛理がそういうなら……」
すると、スマホンに通知が来た。サリエルからのメールだ。
「やっべ! そろそろ戻らねぇと! 悪い!また今度!」
「ああ! ちょっと! また会おうね!」
そう言って、この場を後にした。
その日以来、俺は毎日のように愛理と話すようになった。俺の修行を見に、いつも会いに来てくれているんだ。
「ねぇ、刀夜ってどこに住んでるの?」
「どこって、あまり言える所じゃねえな」
「詳しく教えて! 刀夜のお家、見てみたいな!」
「……、絶対に笑うなよ」
「うん! 笑わない!」
「廃墟だよ」
「廃墟って、心霊スポット的なアレ……」
(言えない。俺が魔王族だってことは……)
「ああ、俺の住んでる所、貧乏でな。ずっと貧困なんだ。笑いたきゃ笑えばいいさ」
初めて嘘ついた……。こんな罪悪感になるんだな。すると、愛理が突然涙を流した。
「くすっ……! ううん……、あんなにすごいのに……、こんな苦しい思いしてたなんて……、酷すぎるよ……」
「あっ、いや、ごめん。まさか泣くとは思わなくて」
「だったら猶更行くよ! 刀夜の力になりたいの! ほら! 刀夜の家に行こう!」
「おい、俺は行くなんて」
「いいから行くの!」
そのまま押し切られてしまい、俺の住む廃墟へと向かった。
「ここが、刀夜の住んでるとこ……」
「ああ、そうだ」
まだ明るいのに不気味な場所に、愛理は引いているように見えた。
中に入り、サリエルのいる場所へと向かった。
「まさか刀夜が友達を連れて来るとはな。しかも女の子」
「あなたが、刀夜のお父さん……?」
薄暗い部屋の奥に、サリエルが座っていた。
「紹介が遅れたな、俺はサリエル・イェーガー、親って訳じゃねぇが、刀夜の師匠だ」
「師匠は俺の恩人なんだ」
「ねぇ! 刀夜っていつもここに住んでるの!? ごはんとかちゃんと食べてるの!?」
「全部してるさ。お前が言った通りだ」
「だったら、今日私の家に刀夜を泊めさせてよ! あんまり広くないけど、きっと綺麗だよ! お願い!」
「愛理、流石にそれは……」
「ああ、いいさ。たまには違う場所も見てこい」
師匠はあっさり受け入れた。
「おい……、師匠……」
「やった! じゃ、決まりだね」
そう言って、俺を家に連れて帰った。
「よかったね。女の子の家に泊まれて、ちょっと嬉しいかな?」
「いや、よく分からない」
「着いたよ」
「ここが愛理の家か」
三角屋根に白い外壁、至って普通の家だな。
「ただいま!」
「お、お邪魔する……」
「おかえり。あら、その子はどうしたの?」
愛理の母親が出迎えた。
「最近知り合った私の友達。今日泊まってもいいよね?」
「ええ、いいわよ。ただし、愛理がちゃんと面倒みるのよ。見た感じ年下みたいだしね」
「えへへ、はーい」
そうして、俺は愛理の部屋に入る。
「うふふ、ようこそ! 女の子の部屋へ!」
「あっ……、ああ」
「なんか反応薄いなー」
「ごめん、どうもそういう気持ちになれなくて」
「せっかくだし、ご飯ができるまで何か話そうよ」
ベッドに座り、二人で談笑する。
「そっか、刀夜ってエッチなことに全然興味ないんだ。男の子なのに?」
「ああ、全然関心が持てなくてな」
「じゃあ、女の子の水着姿とか見たくないの?」
「まったく見たいと思わない」
「じゃあ、女の子の裸は?」
「なにも思わない。というより、興味が持てないんだ」
「そっか……、私でも、エッチなことに少しだけ興味あるのに。なんだか恥ずかしいなー」
何の話をしているのか全く分からないが、恥ずかしいことなのだろうか?
「二人とも! ご飯出来たわよ!」
「あっ、はーい! 刀夜、夕ご飯だって」
「おお」
今日の夕ご飯は鉄火丼か。俺の好きな魚介系だ。
「今日マグロの特売やっててね、思い切って買っちゃった」
「わー! すごい豪華だね!」
「じゃ、いただきます」
「いただきます!」
「い、いただきます」
椅子に座り、鉄火丼を食べる。
「美味しい……!」
「お母さん! とっても美味しいよ!」
「そういってもらえると嬉しいわ!」
話し合いながら食事を終え、風呂に入っていた。湯舟につかり、疲れを癒す。
「愛理は人がいいんだな。ふぅー」
すると、浴室の扉が突然開いた。
「入るよー」
愛理は浴室に入ってきた。
「!!?」
「一緒にお風呂しよ! ねっ!」
俺に向かってウィンクする。
愛理も湯舟につかる。
「うーん、生で女の子の裸を見るのは初めてかな?」
「ああ、初めてだな」
「その割には真顔だけど……」
「いやそうじゃなくて、恥ずかしくないのか?」
「ううん、10歳の男の子だったら平気だよ」
でも、確かに愛理の体は綺麗だった。胸もやや大きく、体の発育も良さそうだった。
「刀夜って本当に綺麗な肉体美してるよね」
「そう、なのか?」
「そうだよ! 女の子なら誰しもが惚れちゃうよ! しかもイケメンだし!」
よく師匠にも言われていた。整った顔立ちでイケメンだと。
「刀夜の体ってすごいんだね! 腹筋ボーーン! 胸襟ボーーン! だからね! ねぇ、触ってもいい?」
「ああ、別にいいが」
すると、愛理は俺の胸筋を触った。
「すごい…… じゃ、今度は……」
次に俺の腹筋を触る。
「すっごく硬い…… あんなに重い刀が持てるわけだね」
これで満足したのか。
「じゃあ、今度は私の番だね。刀夜、手貸して」
「ああ、っ……!?」
俺は目の前で起きていることが信じられなかった。愛理が俺の手に胸を揉ませた。
「どう? 私のおっぱい、ちゃんと柔らかくて、大きい?」
「あっ、ああ」
「今度はお腹」
もう片方の腕を、愛理のお腹に触らせた。
「私のここで、赤ちゃんができるの。刀夜はまだ知らないと思うけど、ここに、赤ちゃんの部屋があるんだよ」
「そう……、なのか」
なんの話かさっぱり分からない。でも、自然と落ち着いていく。
「はっぅ……!? ご、ごめんね! いきなりこんな話してもよく分からないよね!」
「いや、ありがとな」
「刀夜……」
その後、風呂から上がり、着替えようとすると洗面台で愛理が俺に話した。
「お着替え手伝おっか?」
「それくらい一人でできる」
「もー、いいじゃない!」
「それに、愛理も早く服着ろ」
今はお互い裸の状態だった。
「はうっ……、急に恥ずかしくなってきた……」
そのまま着替えを終えて、愛理の部屋に戻った。
もうすっかり寝る時間になった。
「ねぇ、刀夜はなにか悩み事あるの?」
「悩み事か…… うーん、うーん、特に思いつかないな」
「ええーー!! あんなに悩んでたのに!?」
「いや、特に困ってることも無くてな」
「じゃあ、好きなものとか、夢中になってることとかあるの?」
「まったく無い」
「へ、へぇー……、本当に何にも分からないんだね……」
愛理も引くくらいのことなのか…… ずっと戦いばかりで夢中になったことが一つもなかったんだ。
「そっか、じゃあ、私の悩みを話していい?」
「ああ、いいぜ」
「ちょっと待ってて、部屋の電気消して、ライトつけるから」
そう言うと、部屋の電気を消し、ベッドの横に置いてあるライトをつけた。
「このほうが、雰囲気でるでしょ?」
「あ…… ああ、そうだな」
二人でベッドの布団に入り、お互い向かい合って悩みを聞いた。
「幼いころにお父さん亡くなちゃってお母さんとずっと二人で暮らしてたの。その頃から特別秀でてるものもないし、学校でも目立ってるわけじゃない。成績も悪くないんだけど、どこにでもいる普通の女の子でいるのに、だんだん飽きてきちゃったの。何か私のなんてことない日常を変えてくれる人がいたらなーて思ってたら、刀夜に出会ったの」
「そんなに嫌なのか? 普通でいることが」
「ちょっと退屈してたって感じかな?」
それは愛理の価値観と俺の価値観が真逆だということを指していた。愛理は特別な存在になりたいと思っている。だが、俺は普通の人間としていたいんだ。どこにでもいる人たちと同じ存在になりたいと。そのまま愛理は続ける。
「刀夜みたいに強くて、カッコよかったら、どれだけ楽しいんだろうって、勇気を出して話しかけてみたら、この子なら、私を変えてくれるかもしれないって。本当に凄かったの。あんな重いのを100回も振れて、人々を助けていけるって、君みたいな完璧な人間になれたらな、なんてね」
「……!?」
心苦しくなった。俺は愛理の思うような完璧な人間じゃない。そもそも人ですらない。人食いの怪物だ。俺は強いことに劣等感を抱いていた。努力という言葉を知らない、達成感すら感じない自分に。
「どうかな、私の悩み。というか、そんなに浮かない顔して、どうしたの?」
「あっ!? いや、なんでもない、俺は愛理の言うような人間じゃないぞ。世間の常識もない無礼な者だ」
「ううん、大事なのはそれじゃないよ。本当に凄い人は、人のために何かを尽くせる人だよ。人の幸福を喜び、人の不幸を悲しむことができる。そんな素敵な人が刀夜なの。今まで寂しかったでしょ。今だけは、私に慰めさせて欲しいな。だから……」
愛理は俺を優しく抱きしめた。暖かく包まれるようだった。
「これからは、私が傍にいるからね」
その言葉に、思わず涙が少しだけ出た。俺はずっと一人だった。孤独に戦い、人との接触を避けていた。襲いたくないから、食べたくないから、そう自分に言い聞かせ、戦い続けていた。だがこの時だけは、そのことを忘れていたい。そう思い、愛理に甘えていった。
「私なんかと一緒にいてくれてありがとう」
「俺こそ、抱きしめてくれて、ありがとう」
「じゃ、そろそろ寝よっか、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
一つのベッドで、愛理と一緒に寝た。久しぶりに、ぐっすり眠れそうだ。
俺たちが寝てから一時間くらいが経った頃だった。突然異様な気配を察知し、目が覚めた。
「なんだこれ……、すごく嫌な予感がする……!!」
同時に、愛理も起こしてしまったようだ。
「どうしたの? まだ夜中だよ……」
「愛理はここにいろ! 絶対に一階に来るな!」
「いきなりどうしたの!?」
「詳しい話は後だ!」
俺は刀を持って急いで一階に降りた。そこに行くとすぐに異様な気配の正体を察した。
「この気配、魔王族か……!」
異様な気配のあるリビングに向かうと、俺は悪夢のような光景を観た。
「嘘だろ……!」
不気味な紫色の体をした人型の魔王族が愛理の母親を食い殺していた。愛理の母親は無残にも食い散らかされていた。
「お前……!! 絶対許さねぇ!!」
刀を構えて魔王族に切りかかった。正面から切り裂くように攻撃する。だが、攻撃があまり効いていないようだった。
「オマエ、ツヨイナ」
「こいつ、喋れるのか!?」
「オマエガヒトヲマモルマオウゾクダロ。ナゼヒトヲタベタダケデオレヲコロソウトスル?」
「人を襲う魔王族は討伐する!! それだけだ!!」
正面から一刀両断しようとした。
(今までの奴と同じなら、心臓を砕けば死ぬはず……)
「ソウカ、コンドハコッチノバンダナ」
そのまま魔王族に殴られ壁に飛ばされてしまった。
「がはっ!」
吐血しながらも何とか意識を保つ。
「何でだ? 攻撃してもすぐに再生するじゃねえか……」
「キズノナオリガオソイ。サテハロクニヒトヲタベテナイナ」
「当たり前だろ……、俺は人を助けて、お前らのような悪をぶっ壊すヒーローになるんだからな!!」
そう断言すると、魔王族は俺に問いかけた。
「ヤッパリソウダ、ヒトノニクヲタベテナイカラコンナコトガイエルノカ」
気合を入れて何とか立ち上がるとそこに誰かが入ってきた。
「刀夜、さっきから騒がしいけど、どうしたの?」
「愛理! 来ちゃダメだ!!」
「えっ? それってどういう……」
「コムスメカ、チョウドイイ」
「血!? 何何!? どうなってるの!?」
愛理が恐怖に支配されると魔王族が愛理を掴んだ。
「きゃあ!! 離して!!」
「やめろぉぉぉ!!!」
俺が愛理を助けようとした時だった。魔王族が俺の腕を掴み、そのまま……
「ぐっ!! がはぁ! ぐうわぁぁぁぁぁ!!!! 腕が!!! 腕が!!!」
俺の右腕をもぎ取れてしまった。
「いやぁぁぁ!! 刀夜ぁぁぁぁ!!!!」
「コレデヒトノニクヲタベタクナルダロ」
「人の肉を食べるって刀夜はそんなことしないよ! 普通の男の子なんだから!」
「イヤ、コイツハオレトオナジマオウゾクダ。
オマエノハハオヤモタベタ、ウマカッタ」
「そんな! お母さん!! お母さん!!」
「ソレヨリモダ。コイツヲミテミロ」
「やだ……、なんだこれ……!! 人の肉が、食べたい…… 食べたい……!!」
「何言ってるのよ!! 刀夜はそんなことしないよ!!」
抑えないと…… でも、突然空腹と食欲が俺を襲ってきた。
「耐えないと…… 耐えないと……!」
「マダタリナイカ、ナラ」
「まさか、いや! やめてやめて!」
魔王族が愛理の首を握りしめた時だった。愛理の内臓を引き裂いていった。
「いやあああああぁぁぁぁぁぁ!!!! 痛い!! 痛いよ!!」
「やめろ! やめてくれ!!」
「ホラミロ、ハラカラヒキサイタカラシキュウガデテキタゾ」
風呂の中で愛理が触らせてくれた所なのか……
「んな大事なもんに、汚い手で触んじゃねぇぇぇ!!!」
「ナニモデキナイクセニヨクイウ」
愛理の悲鳴が部屋中に響き渡るが、なにも動けそうになかった。それどころか、内臓をみて、より空腹感に襲われた。
「食べたい……、耐えないと……、食べたい……!! 耐えないと……!!」
誰か、助けて…… 助けてくれ!
「ううっ、うああああああぁぁぁ!!!」
思わず俺は泣き叫んだ。
「ソンナニナカナイデコムスメヲイッショニタベヨウ」
もうだめだ……、そう思った時だった。突然赤い羽が落ちてきた。
「ナンダコレ?」
すると、愛理が握られた腕を切り外した。
「グワァァ!!」
「俺の弟子が、随分と世話になったな……!」
サリエルだった。だが、サリエルの背中には赤い翼が生えていた。
「情けないぞ。こんな奴に腕もろともやられたのか?」
「助けて…… 助けてくれ……」
もう何も考えられなかった……
「まぁ、空腹感に勝ったことだけはほめてやる、あとは任せろ」
「オマエ、マオウゾクダナ! マタヒトヲマモルクズカ!」
魔王族はサリエルに向かって殴りかかる。だが、一瞬をつき、魔王族の心臓を刀で斬った。
「スマネェ、マケチマッタ」
魔王族は塵になって消えた。
「やだ!! 愛理!! 愛理!!」
愛理はもう息をしていなかった。俺も意識が朦朧としていた。俺ももう死ぬのか……
「安心しろ、今助けてやる。二人ともな」
サリエルの言葉を最後に、俺はそのまま意識を失った……
「うう……」
目を覚ますと、もぎ取れたはずの俺の腕はなぜか治っていてた。その手にはスマホンとキーホルダーが12個握られていた。
「俺…… 確か、魔王族に愛理を殺されて……、そうだ! 愛理!」
俺の目の前には傷が完治した愛理がいた。
「愛理! しっかりしろ!!」
すると、愛理が目を覚ました。
「んん…… 私、どうなったの……?」
「よかった…… 死んでなかった……、てっ……!?」
「刀夜、どうしたの? そんなに驚いた顔して?」
俺はすぐに違和感に気づいた。愛理の眼の色が、サリエルと同じ色になっていた。赤黒く、不気味な色だった。
「お前……、その目、どうしたんだよ……?」
「えっ? どうしたって…… ううっ!!」
愛理の様子がおかしくなった。
「おい! どうしたんだ!?」
「肉……、お肉食べたい……!」
「いきなり何言い出すんだよ!?」
「人の……、人の肉!!」
愛理は狂ったかのように、母親の死体の元に向かい、むさぼり食った。グチュグチュと音を出しながら、まるでゾンビみたいに食い散らかしていた。
「おいしい……! おいしいよ……!」
「嘘……、だろ……!」
人間のはずの愛理が、自分の母親を食べている。まるで、俺が倒してきた魔王族みたいだった。骨が剥き出しになるまで食べ終えると、我に返ったかのように俺に顔を向けた。口には血が付いていた。
「刀夜…… 私、何してたの……?」
その目は今でも泣きそうな目になっていた。
「私! お母さん、食べてないよね!?」
「いや、俺の目の前で、自分の母親を食ってたよ」
「そ、そんな……」
愛理は泣くのを必死に堪えているように見える。だが、俺には気になっていることがあった。サリエルの気配がさっきから感じられなかった。キーホルダーを見ていると、刀のようなものが2個と、瓶に入っている赤い液状のものが10個あった。スマホンを確認すると、中に音声メッセージが残っていた。メッセージを再生すると、サリエルの声で言葉が綴られていた。
「これをお前たちが聞いているということは、俺はもうこの世にいないということだ」
「これって……」
「サリエルの声だ」
そのままメッセージを再生する。
「まず、刀夜の怪我が治っているだろう。それは光の刀で治した。刀夜が握っている金色の刀のキーホルダーのことだ。光の刀には一日に一度だけ、怪我を完治できる能力が備わっている。一日に一度だけということをよく考えて使うこと。いいな」
俺の腕は、この刀で治したのか……」
「もう一つ紫色の刀のキーホルダーがあるだろ。闇の刀にはあらゆる命を奪う力がある。攻撃するたびに生命エネルギーを奪い、その刀の力にする、いわばドレイン能力を持つ刀だ。刀夜なら、2本の刀を使いこなせるはずだ。そのスマホンで通常サイズに戻して戦え」
この2本の刀が、サリエルが残した形見ってわけか。
そして、最後のメッセージを聴く。
「愛理、お前に伝えなきゃいけないことがある。刀夜は魔王族だ。人の肉を食べる異形の種族だ。愛理は俺の心臓を食わせて魔王族の力を引き継がせた。これが何を意味してるか分かるな。愛理は人を食べる魔王族になったということだ。お前を助けるには、これしか方法が無かった。残ってる10個のキーホルダーは、人の血が入った瓶を小さくしたものだ。二人で五日ほど持つだろう。刀夜が人を助けたから教えてやる。お前に渡した血は、俺が人を殺した血から採っているものだ。死刑になって始末の対象になった者から殺した死体から採取したものなんだ。刀夜、愛理を守ってやれ。愛理は刀夜の面倒をみてやれ。辛いかもしれないが、強く生きろ。最後になるが、ダイヤナイツという組織がある。魔王族を討伐する唯一の組織だ。その剣士たちに会ってみるといい。その時は、ルシフェルのことよろしくな。俺はお前たちの中で生き続ける。さらばだ」
その言葉を最後にメッセージを終える。
「私が……、魔王族……!? 人の肉を食べる異形の種族って……、もう私、人じゃないの……、そんなの、そんなの! あんまりだよ!!」
愛理の動揺に、俺は何も言えなかった。
「愛理、一回落ち着こう」
「落ち着けるわけないでしょ!! 刀夜も魔王族だったんだ…… なんでそんなこと黙ってたの!?」
「いや……、それは……」
「もう私……、人間じゃないんだよ…… 人を食べる怪物なんだよ! ゾンビにされたようなものだよ!」
「愛理……」
「もう、嫌……、嫌……」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! あぁぁぁぁぁぁ!!!」
愛理の悲痛の叫びは見てられないほどだった。
俺のせいだ…… 俺が愛理と出会わなければ……、せめて何かできることを…… これしかない……
「ああっ……!」
泣き叫ぶ愛理を正面から優しく抱きしめた。
あの時愛理が俺を抱きしめてくれたように。
「これしかできないが、これだけは言わせてくれ。二人で逃げよう。俺が必ず守ってやる」
「ううっ…… 刀夜、助けて……」
「ああ、そのつもりだ」
2人で決意し、その場を後にした。
人気のない森へと行き、ここで一夜を過ごすことにした。今は深夜の1時30分を回っていた。
「刀夜、寒いよ……」
震えながら俺の元に寄り添った。
「二人で抱きしめ合いながら寝るか」
「うん、ありがとう」
そのまま抱きしめ合いながら眠りに着いた。
「ほう、私の刺客を倒すとは、ただの人間ではないな、闇神刀夜、少しは遊べそうだ」
「起きろ、起きろ」
朝6時、愛理に起きるよう促した。
「うーん、まだ6時だよ、もうちょっと寝かせて……」
「いや、早くここを離れるぞ」
「どうして……」
目がまだトロっとしている愛理にスマホンのニュースを見せた。
「これって……」
『昨日、女性が民家で殺害されたとして警察は容疑者の少女を指名手配しました。少女は女性の娘であり、警察が調べを進めると共に行方を追っています』
「分かっただろ、お前は追われる身になってるんだ」
「そんな…… こんなの……、こんなのって……」
「無理もないだろ、魔王族の死体は無いんだ。
証拠すらないし、必然的に同居人の愛理が犯人になる」
「でも……、あっ……!!」
すると、愛理が突然何かを思い出したかのように体が震えた。
(私が……、お母さん食べた……、私が殺したようなものじゃない! 嫌…… 嫌……)
「ううっ……! おゔぇー――!!!」
愛里が突然吐き出した。
「おい! 大丈夫か!?」
愛里は苦しそうに俺を見つめた。
「げほ! げほ! もう私、生きていけないよ……」
「落ち着いて聞いてくれ。血の入ったキーホルダーを入れても五日しか持たない。これから俺たちは人の血肉を食べなければいけない。
サリエルがしたように、始末の対象になった者を殺して食べるんだ。そうしながら、人に危害を加える魔王族を討伐する。いいな」
「うん、刀夜がそうするなら……」
そうして、俺たちは森を離れ、顔を隠しながら町を歩いた。
「愛理ちゃんがお母さんを殺したなんてね……」
「前からおとなしくて優しい子だって思ってたんだけど……」
「人は見かけによらないものよね」
近所の人々が愛理の噂を話していた。愛理の顔を見ていると同様しているかのように冷や汗をかいていた。
「はやく離れるぞ」
「うん……」
それから俺たちは逃亡生活を余儀なくされた。
ごみ溜めどころ、廃墟、スラム街などを転々とし、それと同時に魔王族を討伐し続け、人から守っていた。だが次第に疑問を抱くようなった。ヒーローがいるから俺たちは悪人扱いされ、魔王族だからと倒される。人がいるから、俺たちは差別され社会からゴミ扱いされる。始末の対象になった者を殺しては食べ、血を採取する。まるでゾンビのように、人の血肉を食い漁る日もあった。ヒーローなんて信じた俺がバカみたいだった。人々が憎くてしかたなかった。その日から、俺の善意は壊れていった……
人気のない廃工場で男が暴れていた。
「女!! 女はどこだ!! いますぐぶっ殺してやる! ハハハ!!」
ナイフを振り回す男を、俺は刀で刺し殺した。
「ぐわぁぁ!!!」
「ふん! この世のゴミが」
俺は男の死体を運び、愛理の居る人気のない隅へと向かった。
愛理と合流し、男の血肉をむさぶり食っていた。まるでゾンビかのように、肉を食い散らかしていた。
「こんなことしてるなんて、私たちゾンビみたいだね」
「仕方ないだろ。こうしないと生きていけないんだからな」
思えば愛理と逃亡してから2年が経っていた。グチュグチュと音を立てながら愛理は俺にある疑問を放った。
「ねぇ、刀夜。なんで私を置いて逃げないの? 2年も経ってまだ魔王族のほんの力すら出せてないんだよ。私みたいな弱虫、見捨てればいいのに」
「俺のせいで愛理は魔王族になったんだ。置いて逃げるわけないだろ。サリエルも死んで今の愛理は師匠の忘れ形見でもある。絶対に死なせるもんか」
続けて俺は愛理に言う。
「ヒーローがいるから、俺たちは悪者扱いされて、正義の味方がいるから俺たちは社会から見捨てられるんだ。ヒーローになりたいって思った結果がこれだよ」
「やっぱりそうだよね。だって人を食べるんだよ。やっちゃいけないことをしてるんだよ。
このまま私達で、世界壊しちゃおうかな。このまま魔王族の力を開放して、全部壊しちゃいたいよ…… そうすれば、苦しみから逃れれて楽になれるのかな?」
愛理の苦しみは俺には想像がつかないほど深かった。俺の善意が壊れていくのと同時に、愛理の闇も深くなっていったのだろう。そう思うと、俺は愛理に対し決意を顕にした。
「俺はヒーローになんてならない。悪だけを斬り続ける。正義を否定し、全てをぶっ壊す!
この世から悪を一つも残らず壊し続ける。
俺は、悪にとっての剣士になる!」
「刀夜……」
「一緒に来てくれるか? 愛理」
俺が手を差し伸べると、愛理が俺の手を握ってくれた。
「うん! 一緒に行こう! いつか力を開放できるように頑張るから」
二人で決意し、それから魔王族を狩り続けた。悪人のみを殺し、捕食しながら生活する。
愛理も少しずつだが力を開放できるようになった。ダイヤナイツは何者なんだ……? これから先に新たな運命が待ち構えていることを俺はまだ知らなかった……
俺と愛理がカフェでお茶をしていた。休憩ついでと息抜きで愛理が行きたいと言い出したんだ。
「たまにはここでココアを飲むのもいいでしょ」
「ああ、ココアって飲むと心が落ち着くんだな」
「悩んでて仕方なかった時は、いつもココアを飲んで落ち着いてたんだ」
「愛理にもあるんだな」
「誰にでもあるよ。生きてていいのかなって疑問に思っちゃうことが。でも、すぐどうでもよくなっちゃうんだけどね」
しばらく飲んでいると愛理が言い出した。
「ちょっとトイレいってくる。すぐ戻るからね」
「ああ」
愛理はトイレに向かった。しばらく一人で飲むのかと思うと、突然女が俺の隣に座ってきた。
「お前、中々いい目をしているな」
「いきなりなんだよ」
金髪でショートカットで体型も魅力的な女だった。顔も美人と言えるその見た目とは裏腹に俺は何かの怪しい気配を感じていた。
「いや、お前から強い何かを感じてな。その目は、私の知り合いとどことなく似ている」
「何が言いたい?」
「その知り合いは、魔王族だよ」
「!? どうして魔王族のことを知っている!?」
「私はその人から魔王族を討伐してと誓い合ったんだ。それでダイヤナイツを創設し、魔王族を日々討伐しているんだ」
「なぜその話を俺に……」
(まさか、この女がダイヤナイツの剣士なのか……? ならどうして俺なんかに話しかけた?)
続けて女は俺に話した
「ああ、いきなりそんなこと聞いても混乱するだけだな。単刀直入に聞く。ダイヤナイツに入らないか?」
突然のことに思わず驚く。
「私には分かる。お前は相当の実力を持っているな。間違いなく一級剣士、いや、特級剣士以上の才能はある」
「断る。悪いが、他を当たってくれ」
大丈夫だ。俺が魔王族だということには気づいていない。そう思った次の瞬間だった……
「そうか、なら質問を変えよう。お前は魔王族だろ?」
突然の質問に動揺する。
「!? いや、ちが……」
「見ただけで分かったよ。お前は嘘をつくのが下手なようだからな。お前は相当な人を捕食している。色々な人間の気配がする。その気配が全て薄汚い悪人だけなのが気にかかるが…… それと同時に沢山の魔王族の気配も感じた。相当の数を討伐してきたんだろうな」
「お前……!! 何を知ってるんだ……」
「自己紹介が遅れたな。私はルシフェル・エンジェル、特級剣士だ」
(この女が、サリエルの言ってたルシフェルか……)
「名前は何という?」
「刀夜、闇神刀夜だ」
「闇神……!?」
なんだ…… 闇神って名乗ったら突然顔色を変えた。
「そうか、遂に見つけたぞ、ダイヤ」
「ダイヤって……」
「刀夜、母親についてなにか話せるるか?」
「知らねぇ、顔すら分からん」
「そうか、お前の母親は、ダイヤ。闇神ダイヤだ。刀夜と同じ、赤黒の瞳をしていて、私より幼い姿をしていた。いつか見つけてほしい、そう私に伝え、姿を消した。ダイヤには生きる意味を教えてくれた恩がある。お前の力になりたい」
「だが……」
すると、そこに愛理がトイレから戻ってきた。
「お待たせ、ココア冷めちゃったかなって……、その女の人、誰?」
「愛理……」
「愛理か、2年前の事件で刀夜と一緒に逃げた少女は愛理だったんだな」
「それ、どういう……」
「人が多くなってきたな、場所を変えよう、ついてこい」
「断ったら……」
「愛理は指名手配されている。その気になれば、あとはどうなるか分かるな」
「私達どうなっちゃうの!?」
「先に言っておく。お前たちに拒否権はない。
ついてきてくれたら、身の安全は保障するつもりだ。ダイヤナイツにも刀夜のことは伝えない」
「分かった」
「それでいい」
「……?」
そのままカフェを出てルシフェルについていった。
「因みに代金は私が支払おう」
「ああ、ありがとう」
場所を変え、人気のない街並みに来た。
「ここなら人の目を気にしないでいいな」
「あなた…… 何者なの……?」
愛理の突然の問いにルシフェルは返した。
「他人に訊くのはまず自分からだと学校で習わなかったのか?」
「あっ! ごめんなさい! 私、鹿目愛理です」
「よくできた。私はルシフェル・エンジェル。
よろしくな、魔王族」
「あの! 私、魔王族じゃ……」
「無駄だよ。ルシフェルには全部お見通しだ」
愛理を落ち着かせ、ルシフェルに俺は真っ向に言った。
「お前がサリエルの言ってたダイヤナイツか」
「サリエル……!? ああそうだ」
サリエルと言ったら何か動揺したような顔をした。
「サリエルについて何か知ってるの?」
「お互い隠さない方がいいか。お前たちとサリエルはどのような関係だ?」
「俺の師匠だった。同時に憧れの存在だった人だよ」
「サリエルが助けてくれたの」
「そうか、今はどこにいるんだ?」
このこと、話した方がいいのか? そう思うと、愛理が迷わずルシフェルに言った。
「サリエルは、2年前に亡くなりました。私が、サリエルなんです」
「どういう意味だ?」
「いきなりこんなこと話しても分からないよね!? 実は、私一度死んでるんです。でも、サリエルが私を助けるために、自分の心臓を食べさせて、魔王族の力を引き継いで生き返ったの」
「……ああ、分かった」
ルシフェルはどこか悲しそうな顔をしていた。
俺はずっと疑問に思ってることをルシフェルに訊いた。
「2年前、どうして愛理は指名手配されたんだ? 愛理の母親を殺したのは魔王族だ。それなのに何で……?」
「……、魔王族のことが世間では伏せられているのは知っているな」
「サリエルに言われた」
「あの時魔王族のことを隠すには愛理がしたことにするしかなかった。臆病なバカが愛理がやったことにしたんだろう。すまなかった。私が代わりにお詫びする」
「もう気にしてないから大丈夫だよ」
「そう言ってくれるとありがたい」
疑問が解消した所でルシフェルはサリエルとの関係について話した。
「お前たちにも話すよ。サリエルは、私の同期だった」
「サリエルがダイヤナイツに……」
ルシフェルはうつむきながら語った。
「私の同期に、サリエルとライトナイトがいた。ルシフェルやライトナイトという名前もハンドルネームで、本名ではないがな。私達は並外れた剣士として、3人とも特級剣士に昇格し、日々魔王族を討伐していた」
「サリエルの過去にそんなことが……」
「だが、サリエルが魔王族だとバレて、忽然と姿を消した。さらに、ライトナイトの家族を殺したのがサリエルだったんだ。あの時のライトナイトは失意のどん底にいたのだろう。魔王族との共存を目指していた彼が…… 次第に彼は魔王族の力に惹かれていき、私たちの前から消えた。そして今となってダークナイトと名乗り姿を現した。数千の魔王族を束ねる最悪の剣士としてな。受け入れきれない現実と強大な力が、彼を変えたのだろうな。まっ、これは全て昔の話だよ」
「こんなの、あんまりだよ……」
「サリエルが人を殺した…… そのライトナイトって……」
「お前たちには関係ないことだ。でも、これだけは共有しておこうか」
そこから、近々起こることを話した。
「ダークナイトは1月1日に、秋葉原で数千の魔王族を率いて大量虐殺をするとダイヤナイツに予告した。真実かどうかは定かではないが、あの男は必ず実行する」
恐ろしい未来を語ると、ルシフェルは立ち上がる。
「話は以上だ。邪魔したな。協力してほしい
と思ったが、刀夜が拒むなら仕方ない。じゃあな」
そのままルシフェルは立ち去ろうとすると、
俺はルシフェルを呼び止めた。
「待って! 連絡だけ取れるようにしてくれないか!?」
「私もお願い! 何か力になりたいの!」
「ふん…… そうこなくちゃな」
ルシフェルと連絡先を交換し俺たちはスラム街で一夜を過ごすことにした。
『何かあったらすぐ私に連絡しろ。お前たちのことは誰にも伝えない。いつでも力になるからな』
ルシフェルの言葉には嘘はなさそうだった。
愛理ももう疲れて寝ているし、俺もそろそろ寝るか。そう思った時だった。
「こんなスラム街で一夜を過ごすなんて、魔王族も大変だね」
何者かに声を掛けられた。
「誰だ!」
「私だよ、刀夜」
男が姿を現した。紫色の髪に黒い制服のような服装、腰には刀が装備されていた。
「なんで俺が魔王族だって知ってる? それにどうして俺の名前を……」
「2年前から君のことをずっとマークしてたんだよ。あー、自己紹介が遅れたね。私はダークナイト。剣士をしている者だ」
こいつがルシフェルの言ってたダークナイト…… なんで俺の前に現れたんだ……?
「それで、俺に何の用だ?」
「まぁそう警戒するなよ。戦おうなんて思ってないから。私の傘下に入らないか? 君はとても優秀な魔王族であり、最強の剣士だ。それで、私は最悪の剣士という不名誉な二つ名がつけられている。君が仲間になれば、秋葉原の虐殺が非常にはかどるんだが…… どうかな?」
「今の話を聴いて、仲間になるバカがいるわけねぇだろ」
「うーん、やっぱり断られたか。まぁ仕方ない。でも、今日は争う気はないから、確認だけしに来たんだ。2年前、私の配下を倒した君を是非とも迎えたかったんだが、実に残念だよ」
「お前が……! 愛理の母親を殺したのか……!!」
突然の真実に、怒りが込み上げてくる。
「結構気にいってたんだけどね、サリエルと接触した少女がいるから確認してこいって言っただけなんだけど…… そのまま少女の母親を捕食するなんて、私も驚いたよ。まっ、どうせ生きててもその程度の命だったけどな」
「てめぇぇぇぇ!!!!」
俺は2本の刀を通常サイズにしてダークナイトに斬りかかった。
「そう怒るなよ。今日は争う気はないって言ったじゃないか」
ダークナイトは俺の攻撃を尽く避けていく。
「黙れぇぇぇ!!! 俺たちがどんだけ苦しんだか分かんねぇのかよ!!!!」
「ああ、あの少女のことか。サリエルを引き継いだにも関わらずろくに力を引き出せてないゴミじゃないか。そんなやつ捨てちゃえよ」
「殺す!!!」
俺の攻撃を避けるとダークナイトが高く飛んだ。
「じゃあね。次会うときは敵同士だと思うから。また秋葉原でね」
「待てぇぇ!!」
ダークナイトは高く飛び去って消えていった。
「チッ……! くそ!!!!」
あまりの悔しさに思わす壁を殴った。
「ほわぁぁぁ…… 就寝前の風呂も悪くないな」
ダイヤの実の子供にも出会えて、今日はとても重要な日になった。その疲れを癒すために、湯舟に浸かってゆっくり休んでいた。窓越しの部屋で夜景を見ながら。すると、私のスマホから電話が鳴った。
「こんな時間に誰から……」
スマホを見ると、闇神刀夜のようだ。
「こちらルシフェル、どうした? 刀夜」
「ダークナイトと…… 交戦した」
刀夜の突然の言葉に、思わず驚く。
「何!!? 何か怪我はしてないか!?」
「いや、何も攻撃してこなかった」
「そうか。随分暗いが、何かあったのか?」
「……ダークナイトが、愛理の母親を殺した。
あのクソ野郎のせいで…… 俺たちは2年間苦しんだんだ!!」
「ああ、分かった。明日また会おう。その時に状況を聴く。今日はもう寝ろ」
「ああ、また連絡する」
刀夜からの電話が切れた。
「ダークナイト。お前の因縁は、私が必ず断ち切る……!!」
黒薔薇女子高等学校。表向きは私立の女子高だが、ダイヤナイツの拠点として存在している。私はその高校の教師をしていた。多くの生徒がダイヤナイツに所属しており卒業生の中には特級剣士も在籍し、私もその一人だった。ある気配を感じとり、正門へと向かう。この時間は誰もいないはずだが、目の前にはある男がいた。ダークナイトだ。
「やぁ、久しぶりだね。ルシフェル」
「お前の方からここに現れるとはな」
「昨日闇神刀夜に会ってきてさ、まさに最強の剣士に恥じない実力の持ち主だったよ。今日は宣戦布告をしに来てね」
「お前をここで殺してもいいが……!」
「それはやめといたほうがいいよ。リーダーを失った数千の魔王族が放たれるから。多分数十万人くらいは死んじゃうよ」
「チッ!! 卑怯者が……」
ダークナイトはそのまま続ける。
「1月1日。人々には、ちょっと生まれ変わって貰おうと思ってね。丁度1週間後まで猶予をあげるからそれまでに全力で阻止してこい! これは私とダイヤナイツの殺し合いだからな」
生まれ変わる……? どういう意味だ……
「それだけ。じゃあ、1週間後を楽しみにしてるからね」
一瞬だけ目を閉じると、ダークナイトの姿は消えていた。
「ダークナイト……」
すると、後ろから女子生徒3人が私の元に来た。
「先生!!」
「何かすごい気配を感じたのですが……!」
「ここで何が!」
「すぐに全ての部隊を招集しろ。猶予はあと1週間しかない」
私は生徒にダークナイトのことを伝え、部隊を招集するよう指示した。いよいよ事態が重くなってきた。このことは刀夜に伝えた方がいいか……
俺たちはルシフェルに呼ばれ、最初に出会ったカフェへと来た。
「悪いな。突然呼び出して」
「いや、俺も話したいことがあったからな。ルシフェルが呼び出したってことは、何か起きたってことだろ」
「感がいいな。ああ、ダークナイトが宣戦布告をした。1月1日に、悪夢が起こるだろうな」
「ねぇ、私が寝ている間に刀夜がダークナイトと交戦したって……」
「あいつ、かわすだけで全然攻撃してこなかった」
その後、俺と愛理が頼んだココアとルシフェルが頼んだコーヒーが届き、飲みながら俺たちに話した。
「愛理、お前には魔王族の力を使いこなしてもらう必要がある」
「でも、私にはそんな力なんて……」
「お前はサリエルの力を引き継いでいる。解放できていないだけで、必ず強力なものを持っているはずだ」
「でも……」
「そこでだ」
ルシフェルは愛理にある提案をした。
「私の稽古を受けろ。勿論ただで受けろとは言わない」
「どういう意味だ?」
「私の血を分けてやる」
「ななな、何をいってるの!?」
「私が血液を採取してそれを飲めと言ってるんだ。刀夜にも飲ませてやる」
「本当にいいのか!? 自分が何を言ってるか分かって……」
すると、ルシフェルが自分の髪を靡かせて発言する。
「魔王族は血肉を食べないと生きていけないと聞く。私みたいな美人の血を飲めるんだぞ。ありがたく思った方がいいんじゃないか」
「……!!?」
「ルシフェルさん…… 分かった、やります!」
「愛理が言うなら俺は止めない」
「ただし、私の教えは甘くはないぞ……?」
「望むところです! 強くなりたいから!」
そうして、ルシフェルの稽古が始まった。
黒薔薇女子高等学校の武道場を借り、ルシフェルの猛特訓が始まった。今は刀の素振りをしていた。
「もう…… 限界……」
「まだ50回だぞ? あと150回はしてもらう」
「そ、そんな!」
愛理の稽古を見ていた俺は愛理に対しがんばれと応援していた。
次は弓を的に当てる稽古をした。愛理の弓は的に届かないほどだった。
「全然、距離が足りない……」
「まずは、真ん中を当てるようにしないとな」
その次は武道場を50周走っていた。
「はぁ…… はぁ…… もう無理……」
「何を言っている? まだ25周だぞ?」
一通りの稽古を終え、愛理はぐったりと横たわった。
「もう動けない……」
「頑張ったんだな」
すると、ルシフェルが注射器を取り出し、自分の腕に刺した。
「うっ…… やはりチクっとするな」
そのまま血液を採取して、血の入った瓶を愛理に渡した。
「よくやった。約束通り私の血を分けてやろう」
「あ、ありがとうございます」
愛理はルシフェルの血を飲んだ。
「ゴクッ…… ゴクッ……」
「どうだ? 私の血を飲んだ感想は?」
「な、なんだか胸がざわつきます。戦いたくて、何か高ぶるような……」
今までの愛理からは考えられない気を感じていた。これがルシフェルの血なのか……
「気づいたか? 私の体は少し特別でな」
「特別……?」
「それは…… 私が美人で可愛いからだ。そんな者の血を飲んだら、誰だって興奮するだろ?」
「そうなのか?」
「刀夜に変なこと教えないで!! じゃあ、私興奮して強くなったってことじゃん!!」
愛理のツッコミにルシフェルは思わず吹いた。
「ふふ、ふはは! やはりお前たちはからかいようがある!」
(というのは建て前だが、刀夜と愛理には話さない方がいいな)
「明日も稽古は続くぞ。今日はもう帰れ」
「はい!」
「そうだ、刀夜も私の血を飲むか……」
「俺も稽古に参加させてくれ! ルシフェルの血を飲むのは、愛理と同じ努力をしてからだ」
「やはりお前は面白い。いいぞ、ついてこれるならな」
明日からは俺も稽古に参加することになった。
俺ももっと強くならなければならない。ルシフェルとの稽古なら、さらに強くなれるはず……
12月31日、ルシフェルとの稽古も佳境に入り、愛理もどんどん強くなっていった。
「151回! 152回! 153回!」
「いいぞ! 愛理! 前と大違いだ!」
「598回! 599回! 600回!」
もっとも凄かったのは俺だった。ルシフェルの血を飲んでからは何故か力が沸き上がり、人の血肉も欲さないようになった。やはり、彼女には何かあるのか……
稽古を終えた夜、愛理もすっかりまともに戦えるようになり汗をかきながら愛理とハイタッチした。
「ほら、報酬の血だ」
ルシフェルに血の入った瓶を渡され、ゴクゴクと俺たちは飲んだ。
「刀夜、私強くなれた?」
「ああ、前と大違いだ」
ルシフェルが俺たちに対しこんな事を提案した。
「どうだ? 黒薔薇女子高の大浴場でも入ってみないか? 稽古の後の風呂は格別だぞ」
「でも……」
「俺はいいぞ」
「じゃあ…… 刀夜がいいなら……」
「決まりだな」
ルシフェルに案内され、黒薔薇女子高の大浴場へと来た。早速脱衣所に入ると愛理があることに気づいた。
「あの…… 浴場が一つしかないんだけど…… 刀夜が入る男風呂はないの……?」
「無い」
「えっ……」
「ここは女子高だぞ。男子風呂なんてあるわけないだろ。つまり…… 一緒に入るんだよ!」
「ああ、なるほど」
「なるほどって言ってる場合じゃないよ!!」
「今更何を言っている?」
ルシフェルが服を脱ぎ始める。
「だめ! 刀夜には刺激が強るぎるよ!」
(ルシフェルさんの体、すごくエッチだよ!!)
さっきから愛理がなぜ赤面しているのか俺には理解できなかった。ルシフェルの体を見て何も思わない俺がおかしいんだろうか? 俺も服を脱ぎ始めると、俺の体にルシフェルが興味深々と近づいて見つめた。お互い裸の状態なのだが、愛理がますます赤面していた。
「この肉体美、もはや芸術だな。容姿も相まって、女にとっては至高の領域に到達している」
「もう! その前に状況考えて! ていうか刀夜も何で何とも思わないの!?」
脱衣所を抜け、大浴場へと入った。
「広ーーい!」
「どうだ? 中々のものだろ?」
ルシフェルはタオルを巻かずに浴場へと入っている。俺と愛理は巻いているが……
「気にしたら負けだ……」
俺たちは湯舟に浸かった。
「ほわぁー、日頃の疲れを癒すのは、やはり湯舟だな」
「いい湯加減」
「ああ、いい湯だ」
3人で湯舟に浸かり、裸の付き合いをしている。何か落ち着いてるような気がした。
「ああ、そういえば私の後輩がもうすぐ来るからそのつもりで」
「えっ……?」
ルシフェルが言った次の瞬間だった。
「にょほーー!!」
金髪の男が全裸でルシフェルに飛びついた。
「えええ――――!!!」
「やっぱり美人の裸は魅力的だ!!」
「ふん、それほどでも」
「そんなこと言ってる場合!!? 変態が来ちゃったんだよ!」
俺には何をしているのか、さっぱり分からなかった。
「刀夜はみちゃだめ!!」
愛理が必死に手で俺を目隠している。
「さぁ! 二人でワンナイトしようじゃないか!!」
男がそういった時だった。二人の少女のダブルキックが男を吹き飛ばした。
「「いい年した大人がセクハラするな!!!!!」」
「がはぁ!!!」
赤みがかった白色のショートカットの少女とピンク色でロングヘア―の少女が俺の前に来た。
「ねぇ! 君がルシフェルさんの言ってた最強の剣士!?」
「お姉さんたちとお話しようよ!」
「いいけど、俺男だぞ?」
「いいの! お互い裸なんだし!」
「あわわ! また増えたよ!」
「どうだ、面白いだろ。私の後輩たちは」
状況を整理し、湯舟で自己紹介をした。
「私は梅春志桜里。13歳。まだ3級剣士だけど、いつか特級剣士になる女だよ!」
「私、苺谷フィア。14歳だよ。志桜里と同期で同じく3級剣士。長剣使いしてまーす」
「俺はセイヴァー・シャイニング、24歳。ルシフェルさんの後輩で、一級剣士をやっているものだ」
「あっ、はい」
「よろしく頼む」
3人ともルシフェルの後輩なのか……
「3人には刀夜と愛理が魔王族であることは伝えてある。だが安心しろ。3人とも容認してるからな」
「いやー 悪いね、さっきは興奮して飛びついちゃって」
「あっ、あはは……」
「刀夜はダイヤの子供なんでしょ?」
「親の顔すら知らん」
「闇神ダイヤっていったら、ダイヤナイツの創設者だからね!」
志桜里とフィアが俺に興味深々だった。すると、ルシフェルが俺にある事を告げた。
「刀夜、お前はダイヤさんの血が流れていると言っただろ」
「ああ、そうだな」
「ダイヤさんは魔王族であると同時に、破滅の魔王を倒した聖剣士でもある。つまり、お前には魔王族と聖剣士の血が流れている魔王聖剣士なんだよ」
「魔王聖剣士って……?」
「要するに、刀夜君は最強ってことだよ」
セイヴァーが割って話した。
「明日は何が起きるか分からない。今の内に
皆で笑いあいたいと思ってな。久しぶりに楽しめたよ」
「私も、なんだか楽しかったです」
「大丈夫よ。刀夜と愛理は、私が守るからね」
「それを言うなら私達、でしょ」
するとセイヴァーがある発言をした。
「刀夜、愛理、君たちの力を是非とも貸してもらいたい。だが、ある男には絶対に近づくな」
「ある男って……?」
「レオン、レオン・スターダストだ。俺の同期なんだが、魔王族に対し人一倍恨みをもっているんだ」
「そんな彼も、今では行方不明だがな」
何か重い事情がありそうだな。
「とにかく、明日は一緒に頑張ろうね」
「ああ、任せろ」
この日の夜は6人で混浴をした。明日は死闘になりそうだ。ダークナイトの野望を止めないとな…… それまでゆっくり休むか。
浴場から上がり、着替え終わった後に二人で帰ろうとすると、ルシフェルが俺たちに声をかけた。
「どこへ行く?」
「廃墟だよ。 今日はそこで寝る」
「じゃあ、またね」
そのまま立ち去ろうとした時だった。
「待って!」
フィアが俺の手首を掴んだ。
「そんな暗いところじゃなくて、明るい場所で一夜を過ごしたらどう?」
「そうだよ、私達の部屋が空いてるんだしさ」
志桜里も入り、黒薔薇女子高の寮内で休むと言っていた。
「たまには、廃墟じゃなくて、女子の部屋で寝るのもありだろ?」
セイヴァーの意見にフィアと志桜里のツッコミがはいる。
「「お前はただ女子の部屋に入りたいだけだろ!!」」
「あはは、冗談だよ」
「まぁ、いいじゃないか。私は何も言わないぞ……?」
「だが……」
やっぱり断ろうとすると、愛理が俺よりも先
に受け入れた。
「はい、今日はフィアさんの部屋で寝ます」
「愛理…… 俺たちは魔王族なんだ。さすがにそういう分けには……」
「じゃあ決まりだな。志桜里、部屋を案内してやれ」
「はいはい! じゃあ、お姉さんについてきて!」
「俺は行くなんて……」
「いいからいいから!」
フィアに連れられそのまま案内されてしまった。
「がんばれー」
「やっぱり純粋だな。いい意味で」
女子高の寮に初めて入るな。そう思いながら、
フィアの部屋に着いた。
「どうぞー 丁度二人分空いてるんだしさ」
「お、お邪魔します」
中に入ると、2段ベッドが二つずつ置いてあり、フィアと志桜里の机があった。そして、フィアの机に長剣と、志桜里の机に刀とハンドガンが置かれてあった。
「これは……」
「私達が魔王族討伐に使ってる武器。この長剣がスフィアソード。私って長い剣と相性が良いみたいなんだ」
「こっちが赤桜刀とハンドガン・チェリーブロッサム。どっちも私専用に作られた武器だよ。刀と銃の二刀流なの! かっこいいでしょ!!」
フィアと志桜里は変わった武器を使うんだな。
「ねぇ! せっかくだし刀夜と愛理の武器も見せてよ!」
「えっ!? ご、ごめん! 私まだ弱くて、これといった武器もってないの……」
いきなりの無茶ぶりに愛理は困っているようだ。
「そっかー そのうち強くなれるよ」
「じゃあ、刀夜は?」
「ああ、見せてやる」
スマホンを取り出し、2個の刀のキーホルダーをかざす。
「キーホルダー?」
すると、起動音がなり、スマホンが光って刀が通常サイズになった。
「すごい! キーホルダーが刀になっちゃった!」
「こんなの、特級剣士ですら持ってないよ!」
フィアと志桜里がかなり驚いている様子だった。
「ねぇ、持ってもいい?」
「ああ、いいぞ」
フィアが極光刀を持った。
「うわ! 重!?」
一方、志桜里は極闇刀を持った。
「何これ……!? こんなの私ですら持てないよ…… もしかして、二刀流で戦ってるの?」
「そうだけど、何か?」
『凄っ!!』
「そりゃあんな筋肉付くわけだよ」
愛理がフィアに気になることを訊いた。
「あの、二人は魔王族である私達を嫌いにならないの?」
「うーん、ルシフェルさんが言ってた通り、すっごくいい子だったから全然!」
志桜里がきっぱりと発言した。
「だからさ、あなたたちがダイヤナイツに入ってくれたら、大っぴらに君たちを庇えるの。中には魔王族のことを嫌悪してる者もいるけどさ、分かるんだよね。魔王族の中にも人を守るために戦っているのもいるって」
フィアの言葉に、愛理は思わず涙を流していた。
「あっ、ごめん!」
「もう疲れちゃったよね。今日はもう寝よう」
「うん…… ありがとう……」
愛理はずっと苦しんでいたのだろう。突然魔王族になって追われる身となり、人を捕食してきたんだから。
「じゃあ、明日に備えてのミーティングね」
フィアの言葉で明日の作戦を話した。
「多分、刀夜と愛理は私と志桜里で行動すると思うから、出現する魔王族を倒しながら、首謀者であるダークナイトを制圧する」
「でも、相手は数千の魔王族を従えてる。刀夜の力がないと、倒せないと思う。安心して。
私達が援護するから」
「うん、よろしくね」
「2人がいると心強い」
「私達で、ダークナイトを倒そう!」
4人で決意を顕にした。必ずこの悪夢を壊す。
明日は全員で生き残るんだ……
深夜12時。愛理、志桜里、フィアがもう寝ている中、俺は一人、刀の調整を行っていた。ダークナイトを倒すには、もっと刀を研がなければならない。俺の実力と合わせれば必ず!! すると、後ろから誰かに声を掛けられた。
「眠れないの?」
フィアだった。
「ああ、寝る必要はないと思ってな。それに、俺はもっと強くならなきゃいけないんだ。休んでなんていられない」
「ダメだよ! 少しは休まなきゃ。それに、ずっと戦ってたら、刀夜が壊れちゃうよ!」
「だが……」
「これはお姉さんからの命令です。今日はもう寝なさい。それとも……、私と、ワンナイトする……?」
「ワンナイトって何だ?」
「あっ! ううん! なんでもないよ!」
(私スベったみたいじゃん!!)
何でフィアは顔を赤くしているのかはよく分からないが、恥ずかしい発言をしたのだろうか? 俺はフィアに気になったことを質問した。
「なぁ、一つ質問していいか」
「質問!? エッチなことは答えられないからね!!」
「いや、それではないんだが…… あの大浴場で話したレオン・スターダストについてだ」
「そう、レオン先生のことか…… そうだよね、刀夜はそういうのに興味ないんだよね」
「何で残念がってんだ……?」
「レオン先生はね、本当に可哀そうな人なんだ」
悲しそうに、フィアは語った。
レオン先生は初めて会った時から笑顔を見たことがなかったの。ダイヤナイツに入ったのも、魔王族に殺された姉の復讐のため。
「私、あなたの笑っている顔が好きだな……」
「姉さん! 姉さん!」
レオン先生は姉のことを何よりも大事に思っていた。ずっと差別されてきて、親からも見捨てられたけど、唯一姉だけはレオン先生の味方だった。実はね、レオン先生は生まれつきとんでもないIQを持って生まれたの。頭の良すぎるから、学校でも忌み嫌われていた。
自分なんか死ねばいいんだって思いながらも、何故か姉と一緒にいると、そうじゃなくなる。
私が初めて会ったのは10歳の時だった。レオン先生はまだ18歳で、誰にも心の内を話すことはなかったの。それでも私は積極的にレオン先生に声を掛けた。同じ時期に組織に入った同期として、仲良くなりたいって思ってた。
「お前と話すことは何もない』
「ねぇいいじゃない」
何故か女性みたいな声をしていたの。そんなレオン先生が、私に心の内を明かしてくれたのは、私が剣士を初めて1年ちょっとだった。
「そっか…… 死んだお姉さんの復讐のために組織に入ったんだ」
「何でこんなことお前に話したんだろうな。自分を疑うよ」
「嬉しいよ! レオンさんが私のこと認めてくれたってことでしょ!」
その日から、レオン先生は私に剣を教えてくれた。私なんかよりずっと剣の実力は上だったけど、まだまだ未熟だった私は次第にレオン先生に憧れを抱くようになり、尊敬と親しみの意味を込めて、レオン先生と呼ぶようになった。私が長剣使いになれたのも、レオン先生の支えがあってこそだと思うんだ。
そんなある日、レオン先生の私への教えが評価され、新たに新入りの少女を教えるように指示されたの。その少女は緑色の髪をして、私なんかよりずっと大人っぽくて、少し年上だったの。
「今日からお世話になります! 新海針帆です!よろしくお願いします!」
「今日からよろしくね! 私、苺谷フィア!」
「待て! 私は新入りの育成をするなんて言ってないぞ!」
「まぁまぁ!」
最初はすごく嫌がってたけど、私の後押しもあり針帆の育成を始めた。でも最初は喧嘩ばかりしてたけど、次第にお互いを認めるようになり、一緒に任務をこなすようになった。
私もお姉さんができたみたいでどんどん明るくなった。
「ねぇ、レオンさんって、どうしてそんなに強いの? 一級剣士じゃないのに羨ましいよ」
「私にも分からない。ずっと嫌いだった私の頭脳を活かせてるだけだと思うけどな」
2人はいつの間にか、お互いに悩みを打ち明けるくらいの仲になっていった。私も影からこっそり見守っていたの。でも、あの事故が起こるなんて、あの時は思ってもいなかった……
レオン先生が20歳になった日に、針帆と二人で山に訓練をしに行ったの。その日私は別の任務があったから一緒に行けなかったけど、針帆はとても楽しみししていた。だけどそこで惨劇は起きた。予想外の嵐に見舞われ、通信機の故障。さらに魔王族の出現により、針帆は瀕死の重傷を負った。針帆がまだ戦いなれてない中での突然の魔王族の襲来にはレオン先生でさえも対処できなかった。そのまま山の中で遭難し二人は洞窟の中で救助を待つしかなかった。
「レオンさん…… 寒いよ……」
「大丈夫だ! お前は必ず私が助ける!」
でもレオンの思いも虚しく、洞窟の中に魔王族が現れ、針帆は殺されてしまった。レオンが倒した頃には、もう針帆は生きていなかったの。
しばらくして、私とルシフェルさんとセイヴァーさんで洞窟の中でレオン先生を発見し、そのまま救助した。でも、針帆の姿はなかった。私が恐る恐る訊いたら、魔王族に殺されたと静かに真実を話した。遺体すらなく私はただ見ていることしかできなかった。
あの時のレオン先生の落ち込みは見てられないほどだった。自分だけが生き残ってしまった罪悪感に苦しんでいて、私にもどうする事が出来なかった。それから1週間後、レオン先生は突然姿を消した。ルシフェルさんによると、レオン先生が行方不明になると同時に薬品置き場に置いてあった記憶を忘れる薬がなくなっていたんだって。多分あの薬を飲んで、今頃何処かで暮らしているのかな……
フィアの話を聴いて、心が重くなった。
「もうあれから2年が経つのね。今でもレオン先生の行方は分かっていない。私にできること、他にもっとあったんじゃないかって、ずっと後悔してるんだ」
「フィア……」
「くすっ……! 会いたいよ……! レオン先生に会いたいよ!」
「いつかきっと会えるさ。レオン先生は強いんだろ。きっと戻ってくる。そう信じろ」
「刀夜…… ありがとう…… 私の話を聴いてくれたお礼に、これだけさせてもらうね」
そう言うと、俺のほっぺたにキスをした。
「チュ……」
「……!?」
「ふふっ そろそろ寝よっか。明日は一緒に頑張ろうね!」
「あっ…… ああ」
「お休み!」
その後、俺はすぐにベッドの中に入り寝た。
日頃の疲れが出たんだろう。俺は必ず、魔王族を討伐する!
東京・秋葉原。時刻は12時を回っていた。
多くのダイヤナイツが秋葉原に潜み、魔王族の出現に備えていた。俺と愛理はフィアと志桜里と共にラジオ会館前で待機していた。
「やっぱり人多いね……」
「ダークナイトは狙ってたんだよ」
すると、俺は異様な気配を察知した。
「……来るぞ!」
『魔王結界……!! 暗夜の舞踏会!!』
秋葉原が異様な空間に飲まれた。すると、不気味な姿をした巨体の怪物が出現し、人々を襲った。悲鳴が街中に響き渡ると同時に、斬撃音も聞こえてくる。
フィアは長剣で魔王族の心臓を貫いた。
「はぁぁ!!! 志桜里!」
「おっけー!! えーーい!」
刀で魔王族の心臓を一閃する。
俺も、刀を通常サイズにし、二刀流で魔王族を切り倒していた。
「食らえ!!」
一気に4体討伐できた。
愛理も自らで光の矢を作り出し、敵に放つ。
矢を放たれた魔王族は浄化されるかのように消滅していった。
すると、通信機でルシフェルからの伝達が来た。
「こちらルシフェル! 魔王族が出現した。数は数千とみられる。被害を最小限に抑え、ダークナイトを倒せ!」
『了解!!』
俺は魔王族を討伐しながら、ダークナイトを探した。
「何か面白くないなー まぁ、小手調べはできたか。そろそろ本気だせ、私の下部たち」
突然魔王族が逃げ惑う人々を追いかけた。そう思った直後に、その人々を砕くことなく丸呑みした。
「チッ!! くそーーー!!!」
志桜里が悔しさを叫ぶ。
「何だ…… 急に俺たちじゃなくて逃げてる人を狙い始めたぞ…… しかもかみ砕くことなく……?」
「しかも、さっきよりも固くなった!?」
愛理が光の矢で攻撃するが、今まで浄化できてた者までできなくなっていたようだ。
「どうして!?」
愛理が捕食されそうになったところを俺が間一髪で心臓を刀で貫き倒した。
「刀夜! ここは私達に任せて先に行って!!」
「だが!!」
「後で追いつくから! ダークナイトを倒して!!」
「フィア! 志桜里! すまない! 愛理、行くぞ!」
「うん!」
俺は二人に任せてダークナイトを探した。どこにいるんだ……
「ねぇ、あの白い卵みたいなの何!?」
「……! なんだあれ……?」
街中には白い球状のものが置かれてあった。
すると、目の前に魔王族が現れた。そう思った時だった。突然うめき声を出しながら何かを排出した。白い球状のものだった。
「まさかこれって……!! 魔王族の卵……!?」
『よく気づいたね』
通信機からダークナイトの声が聞こえた。
「てめぇ!!」
「そうだよ。その卵から魔王族が生まれる。丸呑みした一般市民を使ってね」
「あの時言ったよね。人々には生まれ変わって貰うって。これこそが俺の野望だよ! 全ての人々を魔王族に変えるんだよ!」
「そうか…… 魔王族との共存を望んでたお前が、全ての人類を魔王族に変えると……」
「ルシフェル……」
「セイヴァー、私はダークナイトのもとへ向かう。ここは任せるぞ」
「ああ、気をつけろ!」
「まっ、精々頑張れよ、魔王族の裏切り者と私を裏切った女」
通信が切れた。
「どこだ、どこにいる……」
気配を尖らせ、ダークナイトを探る。そしてついに見つけた。
「愛理! ダークナイトの居場所が分かった!」
「どこにいるの!?」
「あいつは、あそこのビルの屋上にいる」
一番高いビルの屋上に気配を感じた。
俺たちは急いでダークナイトの元へと向かった。
「ついに見つけたぞ! ダークナイト!!」
「まさか君が先に私を見つけるなんてね、ルシフェル」
ビルの屋上、そこでダークナイトは人々が魔王族になる瞬間を待ちわびていた。
「見ろ!! 素晴らしいだろ!! 新しい生命の誕生だ! 私が求めていた世界が、ここにある! 魔王族の時代が始まろうとしているんだ!!」
「ダークナイト…… なぜこんなことをするのだ……? あんなに優しかったお前が、あんなに人と魔王族の共存の可能性を信じてたお前が……、どうして、どうしてなんだよ!!」
私は涙を堪えながらダークナイトに訴えかけた。やはり、かつての親友と戦いたくない…… 戦いたくないよ……!
「まさかお前が私情を入れるなんてな。実にブサイクだよ。綺麗な顔しといてブサイクだなんて、臭い涙もしてな。じきに秋葉原は私の手に落ちる。さぁ、殺してみろよ。人々を救いたいんだろ?」
「ダークナイト!!!!!!」
怒りに身を任せ、ダークナイトに斬りかかった。やはり、戦うしかないか!
ビルを上り、ダークナイトのいる屋上へとむかう。階段を上り、遂にたどり着いた。そこには、ダークナイトと、大量の血を流し、倒れているルシフェルがいた。
「ルシフェルさん!!」
「てめぇ!」
「やぁ、刀夜。どうだい。君みたいな魔王族にとっては天国だろ。まさに魔王族の新時代が始まろうとしているんだよ」
「ふざけんじゃねぇ!! 誰がそんなの望むか!!」
「その愛理、前にも言ったけど捨てちゃいなよ。せっかく魔王族になれたかと思いきや、強化前の魔王族を浄化しただけ。生きる価値無いんじゃないかな?」
「私はそんな消耗品じゃない!」
「いーや消耗品だよ。結局はサリエルの操り人形! この世のゴミだよ! 人を捕食することすら抵抗する、それが刀夜にも伝染しちゃったじゃないか!」
俺は怒りを堪えきれず、ダークナイトに斬りかかった。
「もう黙れよクズが……!」
刀のぶつかり合いでダークナイトと対峙した。
「愛理の母親は残念だったね! 私の部下が美味しく頂いたよ」
「おら!!」
火花を散らしながら斬りかかる。
「やはり君は最強の剣士だ!! 全てを支配する器にふさわしい! なぜそれを受け入れない! 同じく剣士の道をいくものとして疑問に思うよ!!」
「はぁぁぁ!!!」
渾身の一撃でダークナイトをひるませようとした。
「さすがに強いな。だが、これはどうかな?」
ダークナイトがナイフを取り出し、俺の腹に刺した。
「がはぁ!!」
「刀夜!!」
「なんだこれ、力が抜ける……」
「それが魔王族の宿命なんだよ。このナイフは天界石で研いだんだ。これを一撃でも食らえば、魔王族は身動き一つとれなくなる。どうだ? 珍しいだろ? 天界石の入手は容易ではないからな」
「やめて……」
「どうだ、刀夜。私の部下になれば、命だけは助けてやる。愛理みたいなゴミにも危害を二度と加えないことを保証しよう」
「やめて……!!」
「さぁ、どうだい?」
意識が飛びそうになり、もう限界だと思った時だった。
「もうやめて!!!!」
突然愛理に極光まとわれた。
「なんだ!?」
「愛理……」
本当はずっと前かた気づいてたの。サリエルが私の中で生きてるって。
「ようやく私に力を貸してくれるの?」
「ああ、ずっと待ってたよ。お前が誰かを守りたいと思う時をな。思う存分使え。魔王族を浄化する力を」
愛理に光の翼が生え、巨大な弓を持っていた。
「全ての魔王族を消し去る願い! それが叶うんだとしたら私だって!」
愛理が空に向かって無数の光の矢を放つと、秋葉原にいる全ての魔王族が浄化され、卵も元の人へと戻った。
「愛理! やってくれたな!!」
「ダークナイト。あなたはずっと苦しんでいるの。安心して。その苦しみから解放してあげるから」
愛理が俺に刺さったナイフを砕き、傷も回復した。
「クッ!! この親バカが!!」
「いいえ、私は刀夜を、愛しているから」
「光翼斬!!!!」
愛理の力を使い、ダークナイトに最後の一撃を浴びせた。
体がボロボロになり出血が酷くても何とか私は生きていた。
「体が維持できない…… このまま消滅するのか……」
「お前も終わりだな」
消滅しかけているダークナイトに駆け寄る。
「ルシフェル、生きてたのか」
「今のお前を見て、サリエルはどう思う?」
「さぁ、考えたくもないね……」
「ダイヤさんはお前を真面目で優秀な子だと言っていたよ。今は…… 合わせる顔も無いがな」
「今更説教かい……? もう戻れない友にこんなこと言うとは……」
「ダークナイト…… いや、ライトナイト。
お前の来世が、普通の人生であることを祈るよ」
「最後に送る言葉がこれとは、ルシフェルらしいな」
「あと一つ……」
私はダークナイトを本名で呼び、言葉を交わした。そう言い、ダークナイトは笑顔で光の粒となり消滅した。
「さらばだ。魔王族と人間の共存は、私が叶える!」
「おい! どうしたんだよ! 愛理!!」
俺に抱かれながら、愛理は消滅しかけていた。
「ごめん…… 力使いすぎちゃって、眠くなってきたの……」
「大丈夫だ! 愛理は俺が助ける!」
「ううん…… もう刀夜はもう私が居なくても一人で戦っていけるよ。全ての魔王族を消し去る願い…… たまたま魔王族として生まれた子も、いつか浄化して普通の人として生きてほしいな……」
「頼む! 逝かないでくれ! 愛理まで失うなんて嫌だ!」
その気持ちも虚しく、愛理は光の粒となり消滅しかける。
「刀夜ならできるよ。今でありがとう。君と出会えてよかったよ……!」
涙を流しながら、笑顔で愛理は消滅した。
「愛理ぃぃぃぃ!!!!!!」
ひたすら泣き叫ぶ。また大切な人を失ってしまった…… 俺のせいで愛理は魔王族になって、俺が出会わなければ愛理はこんな目に合わずに済んだ。そう思った時だった。愛理が消滅した光の粒を誰かがメモリで吸収した。
ルシフェルだ。
「まだ愛理は助かるかもしれない。このメモリを使い、AIとして復活させればな」
「愛理が…… 生き返る……」
「本当はダークナイトに使いたかったが、お前の意思に同情し、これを託す」
ルシフェルは俺にメモリを渡した。それに反応するかのように街中に光が溢れ、壊れた建物も修復され、元の夕焼け空に戻っていた。
「なぁ、ルシフェル」
「何だ?」
「ダークナイトは、ルシフェルが倒したことにしてくれないか? この事件は全てルシフェルが解決したことにする。そうすれば、俺はまた目立たずに生きれる」
「本当にいいのか? この手柄はお前が受け取るべきだろ。なのになぜ……」
「いいんだ。俺の事は、都市伝説程度の噂で済ませてくれ」
「……ふん、ああ。分かった」
最後に俺はルシフェルに対しこう話した。
「じゃあな。また何年後に剣を交える時があったら、その時はよろしくな」
「ああ、約束しよう」
そう言って、俺は秋葉原を後にした。
刀夜と別れ、私はフィアと志桜里とセイヴァーと合流した。
「ルシフェルさん!!」
「ルシフェル!」
「ルシフェルさん! 刀夜と愛理は!?」
「二人は…… 死んだよ」
「えっ……!? どういうこと!?」
「あの二人が死ぬなんて信じられないよ!」
フィアと志桜里は動揺していた。だがセイヴァーはすぐに気づいた。
「いや、死んだんじゃない。死んだことになってるんだろ。魔王族が消滅。球体のものも人へと戻り、壊れた建物も修復。おまけに異空間も解除された。刀夜はルシフェルが全部解決したことにしたんじゃないか?」
「ふん…… 全部お見通しだな。刀夜のことを知っているのは私達だけだ。必ず隠し通すぞ。それが刀夜の願いだ」
「また会えるよね!?」
「刀夜と一緒に戦いたいよ!どこに行ったの!? 場所が分かれば今すぐ……!」
「さぁな。また会えるさ。何年後かにな」
「二人が受け入れれれないのもわかる。また会えることを信じろ。刀夜もきっと戻ってくれるさ。ダイヤナイツにな」
「……うん」
「私、信じてるから!」
そう言い、私たちの秋葉原の戦いは終わった。
被害は0。ほとんどの人々の記憶もなかった。
ただ唯一、魔王族の剣士の噂があった。その剣士は後に『蒼き死神』と呼ばれるようになる。その真実を知っているのは私を含めて4人だけだ。全ては私が解決したことになり、それが評価され、ダイヤナイツの司令官に指名された。この手柄は、本来刀夜が受け取るべきだ。彼らは今どうしているのだろうか?
誰も住んでいないアパートで、俺は起動を試みた。スマホンに愛理のメモリを挿す。
「AIリンク起動。って……、これどうなってるの? 私、確か消滅したはず……」
スマホンに愛理が移された。画面上で動いている。
「成功だな」
「体の感触が無いよ。私はどうなってるの?」
「愛理はスマホンに宿るAIとして新たに生まれ変わったんだ。それだけが、お前が助かる方法。抗った結果だ」
「そう…… ふふっ、助けてくれてありがとう! これからは私が戦闘をサポートしていくね!」
「ああ、これからよろしくな。愛理……、いや、アイリ」
これが、俺とアイリの新たな始まりだった。
魔王族を一体残らず討伐する。俺たちが、悪を滅ぼすんだ。
アイリがAIになってから2年後、今までの持てる力を注ぎこみ、全ての敵を焼き切る極熱刀を完成させた。
「遂に完成した…… あらゆる敵を焼き切る刀だ。だけど、この刀はあまりにも代償が大きい」
「そんな刀使えるの?」
アイリがスマホンの中で心配そうに言葉を刺した。
「2年間戦って分かった。俺にはあらゆる代償に耐えることができるようなんだ」
「じゃあ、刀夜は最強の剣士ってことだね!」
「ああ、そうかもな」
14歳になり、俺は単独で行動するようになった。凶悪な魔王族が現れる気配を察し、美神市へと向かっていた。
「美神市に強い魔王族の反応だよ!」
「ああ、分かってる。こんな田舎の町に現れるなんてな。人に危害を加える魔王族は俺が討伐する!」
「いこう! 刀夜!」
「ぶっ壊してやる……!! この世の悪を滅ぼすまで!!」
俺の戦いは始まったばかりだ。新たな出会いが待っているとも知らずに、美神市へと向かうのだった。
俺は闇神刀夜、それ以外の何物でもない。
ただの剣士だ。
お世話になっております。蒼木美海です。
いかがでしたでしょうか。どうか楽しんでいただけたら幸いです。
もしよろしければ感想などもよろしくお願いします。