今日は宙の先へ渡る
4人の女の子が宇宙旅行に行くお話。
「諸君!突然だが宇宙旅行に行こうではないか!」
部室の扉が開け放たれ、聞こえて来た第一声に私達は驚いた。
「宇宙旅行…ですか?」
「そう!」
ここは宇宙開発部。まあ、部活というよりはクラブだけれど。部員もたった4人だけだ。
部長の雲越 渉先輩。
副部長の月導 鏡先輩。
広報の陽向 咲希ちゃん。
そして記録の私、星詠 空。
「私の発明が完成したのでね?ぜひ皆で行こうと思ったわけだ。」
「博士の発明?どんなやつだよ。」
「そんなの実際に体験した方が早いだろう?」
月導先輩は色々な発明品を作っており、たまに宇宙研究の役にも立っているらしい。そんななので部活内ではよく博士と呼ばれている。
「宇宙旅行楽しそう!行く行く~!」
「う~ん。大丈夫かなぁ。」
「なに、別に恐れる必要は無いとも。そういう訳だから明日私の家に集まるぞ!」
そして翌日。博士の案内によって博士の家に着いたのですが…。
「うわぁ~!」
「でっけ…。」
「すごい…。」
凄い豪邸でした。昔の貴族の家とかこんなものだったのかなぁとか思った。
「諸君。場所はこちらだ。行くぞ。」
敷地内は広大で博士の説明でロケットの模型だったり宇宙ステーションのレプリカがあったりと宇宙関係でいっぱいで、そんな色々を見ていたら目的地に到着した。そこはまた大きい建物で天井も高く、ロケットの部品製造場所と言われても信じてしまいそうな程。そんな建物の中に入ると中心にぽつんと何かが立っていた。
「あれが今回の発明さ。」
近づいてみると、それはロケットだった。上を見上げれば天井も突き抜け空が見えている。
「すげぇ!本格的だなぁ!」
「本当に宇宙旅行に行けちゃいそうだね!」
(ん?)
二人がはしゃいでいる中、視界の隅に映ったもの、台座の上に乗った何か。
(何だろうあれ。金色の何か…あれは四角錐?それに周りには将棋の駒?)
「どうしたんだい?空君。君はもっと近くに行かないのかい?」
「え?あ、はい。行きましょう。」
いきなり視界に入り込んできた博士にびっくりしながら私もロケットの近くへと向かった。
ロケットの前に皆集まると博士は前に出て高らかに宣言した。
「では諸君!これから私達はこれに乗り宇宙旅行に出発する!何も恐れる事は無い故、気軽に楽しんでくれ!では行くぞ!」
その鬨の声を聴いた私達は、博士に案内されるままロケットに乗った。
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気付けば私達は宇宙に居た。無限に広がる星々、後ろを見れば大きな地球が視界一杯に広がっている。
「綺麗…。」
気付けばそう呟いていた。
「いいい息が!…できる?」
「みんなの声も聞こえるよ?」
確かに言われてみれば息もできれば声も聞こえる。宇宙には空気が無いからそんな事あり得ないはずだけど…。
「ふっふっふっ。驚くなかれ!今私達の周りは地球と同じ空気で包まれている。だから息もできれば声も通る。しかし重力が無いから浮遊状態になるのだ!」
浮遊状態。そう、私達は宇宙の中でロケットに乗っている訳じゃ無く、そのまま浮いていた。
「すげぇ!すげぇよ博士!」
部長はその場でバク宙したりと大はしゃぎしていて、咲希ちゃんも部長程ではないけど体を動かして楽しんでいる。そんな二人を見ながら私も体の動かし方を確認する。
皆が慣れてきたころ、博士が皆に聞こえる様に声を上げた。
「それでは諸君!私に着いてきたまえ!けしてはぐれるなよ!」
そう言って博士は宇宙の中を移動し始める。私達も置いて行かれない様に着いて行く。
博士、部長、咲希ちゃん、私の順で移動していると、周りにちらほらと線を描く光が見え始めた。
「これってもしかして流星群!?」
「ふふふっ、正解だよ咲希君。私達は今流星群の中を移動しているんだ。」
「おい博士!前!前!」
「ん?」
博士の斜め前から流星群の一つであろう隕石が飛んできていた。
「博士危ない!」
「安心したまえ。」
博士はそう言いながら前を見ずに進んでいる。そして隕石は…博士に当たる事無く博士の下を通り過ぎて行った。皆がほっとしていると博士が解説してくれた。
「今回のルートは事前に予測を重ねに重ねて選んだルートでね、ちゃんと一定の速度を維持すれば一切問題は起きない様になっているんだ。」
「そういうのは最初に言ってくれ!」
「こ、怖かった~。」
「はははっ!すまんすまん。では引き続き進むぞ。」
しばらく進むと博士から後ろを見るように言われた。博士が止まっているので止まって後ろを振り返ると地球は大分小さくなっており、太陽系の一部が見えるようになっていた。
「すご~い!あれ土星じゃない!?」
「じゃああの真っ赤っかのが火星か?」
「あっ、よく見たら地球の周りに月も見える。」
「ふっふっふっ、楽しんで貰えているようで何より何より。」
再び先に進んでいると視界の隅に何か映ったような気がした。周りを見ても他の誰も気にしていなかった。
(気のせい…かな。)
しかし段々先に進むにつれてその数が増えて来た。
「なぁ、博士。さっきから浮いているこれは何だ?」
「ふ~む。私にもよく分からんな。段々数が増えている様だしこの先に何かあるのやもしれんな。」
「もしかして新発見だったり!?」
「可能性はあるかもしれんよ?」
そしてまた先へ進めば、今までの浮遊物とは明らかに違う物体が浮いていた。
「なんだこれ?ピラミッド?」
「金ぴかだね~。」
部長と咲希ちゃんはピラミッドのような何かに近づいてはぺたぺた触っている。私はそのピラミッドに凄く見覚えがある気がして少し離れて見守っていた。そんな私の元に博士が近づいて来て話しかけて来た。
「空君。何か気になる事があるのかい?」
「はい。このピラミッド、凄く見覚えがあるんです。昔と、つい最近も見た気がして…。」
「…そうか。昔にも見たことがあるんだね。君にはもう難しいかな。あのピラミッドの裏側の下を見てごらん。君の疑問は確信に変わるさ。」
変わらず触り続けている二人を横目に博士に言われた部分を確認しに行くと、金色の中に灰色のプレートが混ざっていた。
「あれ?これって、私が通っていた小学校の名前?」
「そう。これは君が昔通っていた学校の物だ。」
「博士!?いつの間に。」
「今日の為に借りて来たものなんだ。…これから話す事はまだ二人には内緒にしてくれ。」
博士の真剣な表情を見て私は静かに頷いた。博士は一言ありがとうと言って話を続けてくれた。
「この宇宙旅行は本物の宇宙で行われている訳じゃ無いんだ。私が開発したのは仮想宇宙体験プログラムと言ってね、精神に作用させて宇宙空間を味わえるという代物だったんだ。詳しい内容は省くけどこの旅行の始まりと終わりは私達の入ったロケットから離れた位置の台座までなんだよ。」
私はそれがあの時見たあの台座の事だと分かった。
「だからここはこの宇宙旅行の終点。後は戻るだけさ。…ごめんね。こんな騙す様な真似をして。」
「いえ。私は楽しかったですよ。宇宙旅行。」
「…そうか。楽しんでくれていたか。よかった。」
博士は泣きそうな顔を腕でこする。腕を離した後にはいつもの不敵な笑みを浮かべていた。
「それじゃあ戻ろうか。二人も呼んでな。」
博士は二人を呼んで時間が無いと説明して、元来た道を戻ると宣言した。私達は博士に案内を任せて戻っていく。太陽系の一部を眺め、後ろから流れていく流星群の流れに乗り、始まりだった地球が大きく見える地点まで。…その、途中だった。
(ん?左から何か…っ!?)
左から何かが飛んできていて、それはそのまま行くと咲希ちゃんと接触する事が予測できた。
「咲希ちゃん危ない!」
「え?きゃっ!」
考える前に体が動いた。咲希ちゃんを前に押して自分が変わり身になった。吹き飛ばされると思ったがそんな事は無く、何かに掴まれていた。
(一体何が?)
恐る恐る目を開けると羽の生えた昆虫のような何かに捕まっていた。これも博士の演出?周りを見渡すと青ざめた顔の二人と驚愕を浮かべる博士が居た。もしかして私、結構ピンチ…かも?
「空ちゃん!空ちゃん!!」
「大丈夫か!?おい博士!どうすんだよこれ!?」
「馬鹿な…こんなの私知らないぞ…!」
皆パニックになってる。捕まってても私に出来る事は!!
「博士!!」
「!?」
「急いで戻って下さい!強制的に呼び戻す方法があれば実行をお願いします!!」
「くっ!分かった!二人とも行こう!!」
「博士本気かよ!?」
「空ちゃんを置いて行くの!?」
「詳しくは後で話す!!頼むから従ってくれ!時間が惜しいんだ。」
二人は見合って博士に着いていく事を決めたらしい。
「絶対助けるから!!」
「待ってろよ!!」
皆が移動していくのを見送る。私を捕まえている怪物も皆を追う事は無く、私を連れ去る様に反対方向に飛んでいく。今まで見た景色を再度見ながら私はふと呟いた。
「私を…どこに連れて行く気なの…?」
怪物からの返答は無く、黄金に輝くピラミッドを見ながら、私の意識は闇へと落ちて行った。
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「……ちゃん。………空ちゃん!!」
(この声…?)
暗闇の中で聞こえた聞き馴染みのある声、声の方向に見えた微かな光に、私は手を伸ばした。
「咲希……ちゃん…?」
重いまぶたを開けると皆が私の事を覗き込んでいた。
「気が付いた!?」
「無事か!?」
「体に違和感とか無いかい!?思考はしっかりしているかい!?」
「皆…。うん。大丈夫みたい。」
私の返答に安心して緊張が抜けたのか、皆壁に寄りかかったり、地面に座り込んだりしていた。あれからどうなったかについては博士が話してくれた。話によるとあの後無事ポイントに到着した皆は現実に帰還。そしてすぐに博士が私の機械の緊急停止ボタンを押してくれたんだけどすぐには起きず、30分ぐらいは寝たきりだったらしい。その間皆で呼びかけてくれていたんだとか。
「結構心配かけちゃったんだね。ごめん。」
「気にすんな。元々は博士のせいだしな。」
「そうだよ博士!謝って。」
博士は私達に向き直り、ゆっくりと土下座した。その姿に私達は驚愕した。
「此度の件、本当にすまなかった!!君達に嘘を付いただけでなく、空君を危険な目に遭わせてしまうなんて…。」
「なんで嘘ついたの?私本当に宇宙に行けるって思ってたのに。」
「そうだぜ。なんでわざわざ嘘なんか。」
博士は言葉を返す事無く地面に額をつけたままだった。私は二人をなだめる様に口を挟む。
「まぁまぁ、咲希ちゃんも部長も落ち着いて。博士からちゃんと今回の旅行の意図について話してくれるから。」
「空ちゃん…。空ちゃんは知ってたの?」
「私は途中で気が付いたんだ。色々違和感を感じててね。博士がそれに気が付いて少し話してくれたんだ。」
「さすが空だな。状況把握はお手の物か。」
「そんな大したものじゃないですよ。」
少し照れながら私は博士にお願いした。
「では改めて、話して頂いてもいいですか?博士。」
博士は少し頭を上げたが、顔が見えない位だった。
「あぁ。事の始まりは数か月前だ。半年ほど宇宙に行っていた父が帰って来てな、いつもの通りに父から宇宙の話を聞いていたら、今回のアイデアが浮かんだんだ。それから父にも協力してもらってこのプログラムを作り上げた。そして私自身が何回か体験してみて問題無いと判断した。そして3日前にあのピラミッドを借り、最後の確認を終えて昨日君達を誘ったんだ。」
「どうして、私達だったんですか?」
「…一番初めに、君達に体験してほしかったんだ。私と同じくらい宇宙が好きな君達に。だというのに、これじゃあ逆に怖くなってしまうじゃないか!くっ、うぅ。」
博士の俯いた顔から涙がポタポタと落ちる。私は二人を見る。二人も博士の話を聞いて少し留飲が下がった様で部長は頭を掻いてから博士の元に行って膝をつく。
「別に悪気が無かったんならいいさ。実際楽しかったしな。」
部長になぁ?と問われて私も咲希ちゃんも頷いた。
「渉…。空君に咲希君も…。ありがとう。」
皆で博士の元に集まって抱きしめ合う。確かな絆を感じながら。ねぇ皆。今度は本物の宇宙に行こう。少し先の将来に、このメンバーで。
ピラミッド付近の浮いていた物は将棋の駒の文字が反映された物でした。