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私とフィオが泣いていると、レオ様が口を開いた。
『わかりました。貴女方がお互いを想いやる姿には感銘を受けました』
『レオ様……』
『──ですが、僕はミーナと一緒になるためなら悪魔になると決めたのです』
『レオ様?』
『フィオレンティーナ殿、悪魔の僕と取り引きしませんか?』
レオ様がそう言うとフィオは訝しげに聞いた。
『取り引き?』
『ええ。フィオレンティーナ殿、王宮に移り住んでもらえないでしょうか。もちろんお父上もご一緒に』
『殿下、それは……』
『貴女が宮殿に来て下さるなら、貴女はミーナと一緒にいられるはずです。ミーナも求婚を拒む理由がなくなる』
『まあ、殿下。それは素晴らしい取り引きですわ。是非、お受けさせていただきます』
私はあまりの展開に困惑した。
『フィオ……』
『そして、フィオレンティーナ殿、もう一つお願いがあるのです。僕にあそこにある薔薇を一輪くれませんか?』
『薔薇? よくわからないけれど、どうぞ』
すると、レオ様は立ち上がって棚の方へ行き、花瓶から薔薇を一輪取り上げた。
そして、私の方に歩いてくると、私の前にひざまづき──。
私に薔薇を差し出して──。
『ミーナ、これを君に贈る』
私はハッとなった。
まさか今日は──。
『……どうして、この日にお花を下さるんです?』
私はきっとその答えを知っている。けれどレオ様の口から聞きたかった。
レオ様はゆっくり微笑んで。
『僕が、君という、人生で最愛の人と出会えた、運命の日だから』
私は、私は、それを聞いたら、涙が溢れてきて──。
『ミーナ、宮廷は綺麗事だけでは成り立たない場所だ。君が戸惑うこともあるだろう。けれど、僕が全身全霊で君を守る。君が幸せになれるよう全力を尽くす』
『レ、レオさまぁ……』
涙で、涙で前が見えない。
『ミーナ、どうか僕と結婚してほしい』
私にもう迷いはなかった。
『ぐすっ、喜んで、お受けします。レオさま……』
その言葉を聞いたレオ様は、少年時代のように微笑んだ。
『ありがとう、ミーナ。愛してる』
そう言って、レオ様は私を抱きしめてくれた。
『ふふ。殿下、貴方はご自分のことを悪魔と仰ったけれど、私には天使に見えますわ』
フィオが笑ってそう言った。
***
月日は──。
流れて──。
「おかあさま、髪が解けちゃったの。また編んでー」
「はいはい。何度でも編んであげるわ。私、髪を結うのは得意なの。ある人のおかげでね」
「ある人? だれー?」
「私の親友なの。残念ながら亡くなってしまったけれど、私がとっても好きだった人なの」
「わたしよりも好き?」
「ふふふ。同じくらい好きよ。だってあなたの名はその人から貰ったのだから」
「じゃあその人の名前も」
「ええそうよ、あなたと同じよ。私の愛するフィオレンティーナ」
完
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