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 そして冬が来た。


 フィオはどんどん痩せて顔色はいつも蒼白だった。


『……ミーナ、着替えを手伝って欲しいの』


 ある日突然、ミーナが私に言った。以前に比べると声は弱々しい。


『着替え? どの服にするの?』


『黄色のマンチュアを』


『マンチュア! 宮廷の方が着ている服じゃない。なぜ自宅でそれを?』


『実は今日、お客様が来るの。みっともない姿では会えないから』


『お客様? 体調の悪いフィオが会わなければならない方なの?』


『ええ。私にとって特別な方なの。だから客間にもお花を飾りたいわ』


『わかったわ。私がお庭からとって来るから安心して。シクラメンでいいかしら?』


『そうね。もし咲いていれば薔薇がいいわ』


『わかった。見てみるわ』


『ありがとう。ミーナ』


 私はフィオの着替えを手伝うと、急いで庭に出た。


 冬はシクラメンの季節だが、幸い薔薇も咲いていた。私は薔薇を摘むと客間に飾った。


 それからしばらくすると、来客があった。


 私がお客様を迎えようと玄関に向かうと、すでに旦那様がいて、『私が迎えるから君はフィオの部屋で待っていなさい』と言われた。


 旦那様も上等のジャケットを羽織っておられる。お客様はきっと高貴な方なのだろう。


 私は旦那様に言われた通りにフィオの部屋へ行き、フィオと一緒に呼ばれるのを待った。


 そして何分か経った頃、他のメイドがフィオを呼びに来た。私はフィオを車椅子に乗せて客間へ向かった。


 すると、客間にいた人物を見て私は驚嘆した。


『げ! レオ様!』


 客間にはレオ様と旦那様がテーブルの席に着いておられた。


『ふふ、ミーナ、はしたないわ』


『すいません、フィオ』


 すると、目の前のレオ様は立ち上がり、お辞儀をした。


『はじめまして、フィオレンティーナ殿。レオ・ディ・レオナルディです』


 ああレオ様、ラランス語も堪能になって。よほどお勉強されたのですね。


『ようこそお越し下さいました殿下。車椅子のままで失礼します』


『どうか気になさらずに。貴女の体調を第一にお考え下さい』


『ありがとうございます。殿下、どうぞお座り下さい』


『いえ、このままで。まず謝罪をしたいのです』


『謝罪?』


 とフィオが聞くと、レオ様は真っ直ぐ私を見た。


『ミーナ。本当にすまなかった。僕の身勝手で君に迷惑をかけた。もしかしたらもう僕の顔も見たくないかもしれないけれど、クリスティアーニ伯にお願いして、君への謝罪の機会をいただいたんだ。本当に申し訳なかった』


 そう言うとレオ様は深々と頭を下げたので、私は咄嗟とっさに声を上げた。


『レオ様! どうか頭をお上げ下さい! あの時は確かにびっくりしましたけど、私はもう気にしていません』


『いや、謝るだけでは足りない。君は仕事も住処も失ったのだから。君が望むなら何でも賠償しよう』


『お願いですレオ様。私は今、このお屋敷で働いていて満足なんです。どうかもう止めて下さい』


 私達のやりとりは延々と続きそうだったのでフィオが止めに入ってくれた。


『殿下、その話は別の機会にしましょう。今日来て下さったのはミーナのため。ならば、婚約破棄の経緯を教えていただけませんか?』


『わかりました。あの時のことをお話ししましょう』


 そう言ってレオ様は席に着くと、あの時のことを語り始めた。





 "あの時、僕がいた広間ではこうなっていたんだ──。


「ふふふ。父上。その女性は貴族ではありません。一般の方です」


 すると父上は激怒して。


「あり得ん! レオ! お前は王家の立場を軽んじているのか? ラ・フォンテーヌ家への責任をどう取るつもりだ!」


「ご安心下さい。これはララと相談して決めたことなのです」


「ラ・フォンテーヌ嬢と? どういうことだ?」


「私達が婚約してしばらく経った頃、私達は互いに他に意中の相手がいることが分かったのです。私はミーナに。彼女は執事の男性に。

 つまり、このまま結婚を進めてもどちらも幸せにはなれないのです。

 私は長い間考えました。何故王族が一般の方と結婚してはいけないのか?

 実はそこに論理的な答えなどないのです。ただの慣習や伝統に縛られているだけです」


「違う! 政略結婚は政治だ! 国の基盤に安定をもたらすための!」


「いいえ父上。政治は政治で別。結婚という手段に縛られる必要はないのです。私はこの国の繁栄を絶やさないために、他の手段で政治に力を入れるつもりです」


「むむむ……」


「私は、ララが執事の方と一緒になれるよう、ラ・フォンテーヌ家にも働きかけます」


 そう言って僕がララの方を見ると、ララは笑顔でうなずいてくれた。そして僕は広間にいる貴族達に語りかけた。


「みんな聞いてほしい。君達の中にも許されぬ恋に溺れた者はいるはずだ。しかし家の名誉のためにその恋を諦めた。

 果たしてそれで幸せなのか? 私はそうは思わない。

 私が王になった暁には、身分に縛られた結婚の法律は取り払う!」


 僕がそう言うと、広間から拍手が起こった。まあ、ほとんどは次期王の僕についた方が有利だという打算に基づいた拍手だろうが、それも僕の計算のうちだ。


 つまり婚約破棄は、僕が古い慣習を取り払うための演出だったのさ。"




 レオ様は話を終えて私達を見た。フィオが口を開く。


『とても面白かったですわ殿下。経緯はわかりました。では一番重要なことに移りましょう。殿下の求婚について』


 フィオがそう言った瞬間、私はドキッとした。


『殿下、貴方はまだミーナに求婚されるおつもりですか?』


『こんな形になってしまって申し訳なく思っている。けれど、僕のミーナに対する想いは変わらない。ミーナに求婚したい』


 レオ様がそう言うと、フィオは私の方を見た。


『ミーナ、貴女の気持ちはどう?』


 私は戸惑った。


『フィオ、突然すぎて……』


『急がせてごめんなさい。でも、私が生きている間に見届けたかったの』


『フィオ……』


『貴女の気持ちは? ミーナ』


 私は──。


 私は──。


 私は心を決めた。


『……ごめんなさい。レオ様』


 私がそう言うとレオ様は哀しそうに微笑んだ。


『私もレオ様のことが好きです。でも私が結婚してしまったらフィオともう会えなくなります。フィオは不治の病なんです。私はフィオと離れたくないん、で、す……』


 以前と同じように私の目から涙が溢れた。


『ミーナ……。ありがとう。私も貴女のこと好きよ。でも私のことは大丈夫だから……』


 そう言うフィオも泣いていた。


 フィオもきっと私と同じ気持ちなんだろう。私はやはりフィオの人生を見届けたい。一緒にいたい。


 これでいいんだ。

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