出会い
「うーん、それだと出せても10000Gまでしか無理よぉ。」
牛と人間のハーフと思われる獣人のお姉さんは受付カウンターの中から、目の前にいる数人のグループの女性達に金額が高すぎる事を伝える。
「そんな、シュエイさんからは50000Gが適正価格だって言われてるのに。」
このままだと困るのか、目の前にいる冒険者と思われる少女3人は、それぞれ思い思いの表情を浮かべる。
先頭で話しているのはしっぽと耳から獣人である事までは分かるが、何の獣人かまでは判断できない。
胸当てや鎧を見るに戦士と思われるが、茶色い毛に少し丸っこい顔やかわいい耳とどちらかと言えば、戦士のコスプレをしてる獣人の少女、と言った方がしっくりくる。
その後ろでは対照的な外見の少女2人が受付のお姉さんを見つめている。
1人は男の俺よりも背が高い事が見て取れる。
獣人特有であるしっぽをゆらゆらゆらしながら、困ったように目の前の少女と受付のお姉さんを交互に見ている。
伏し目がちなその顔は、愁いを帯びた美少女という言葉がよく似合う。
残りの1人はぱっと見、外見上はただの人間に見える。
他の2人より一回り小さいが、それを補うかのように黒い魔女の様な帽子を被っている。
魔法使いであろう彼女は、憮然とした顔でお姉さんを睨みつけている。
共通して言えるのは、3人共にかなり整った外見をしている事である。
そんな彼女らのやり取りを眺めていると、やがて魔法使いらしき少女が口を開いた。
「シュエイの目利きに限ってそんなミスする訳ないでしょ、あんたの見る目がないだけじゃない。」
今まで喋っていた少女とは打って変わり、商会のお姉さんへ辛辣な言葉を放つ。
さすがにムッとしたのか、負けじとお姉さんも言い返す。
「そんな事言っても、こんな目覚ましに50000G払える訳ないでしょ。」
そういうとカウンターに置かれた不気味な物体を指差す。
それの形状を一言で言い表すと、アーリ〇ンだった。
昔自分のやってたRPGでも、モンスターとしてこいつが出てきた事を思い出す。
目は閉じているものの大きさはちょっとした子供ほどに大きく、見た目のグロさから、少なくとも自分で目覚ましにしようとは決して思わない。
というか目覚ましにしてはデカ過ぎるだろその目玉。
「あ、あの…… 2人とも落ち着いてください…」
ここまで黙っていた高身長の獣人は、場を収めたいのか2人を見比べながら小声で
場を取り繕うとしている。
「納得がいかないなら、他所の商会へ持っていってもらって構わないわよ。」
食い下がる3人にこれ以上譲歩するつもりはないと主張し、全身からいい加減話を
終わらせたい空気を発している。
「見てて可哀そうな気もするけど、あれじゃあ仕方ないよなぁ。」
そう思い改めてアーリ〇ン型のめざましを見たその時、不意に脳内で情報が溢れた。
「そうか。あれってそういう使い方もできるのか…」
自分の今までの常識に照らし合わせてもあまりに非合理で思い至る訳ないのだが、頭の中を電流が流れたかのように、目の前の不気味な物体の機能について閃きを覚える。
突拍子もない思い付きだが、間違いなく正しいと確信があった。
転生する前だったら、同じ状況でも見て見ぬふりをしたかもしれない。
けど今は目の前の美少女や異世界に来た高揚感、それに今までの自分を変えたいという色々な感情がごちゃ混ぜになった結果、気づいたら1歩前に出て受付のお姉さんへ話しかけていた。
「あの~、すいません。ちょっといいですか?」
言葉にはしないものの、周りから浮いた服装をした俺の姿に一瞬眉をひそめる。
「依頼の紹介をご希望ですか?ごめんなさい、ちょっと待ってくださいね。」
話を打ち切るいい口実と思ったのか、すぐさま愛想を取り戻し話し掛けてくる。
「いやそうじゃなくて、その目覚ましっぽいやつなんですけど。」
「多分それ、自動ごみ捨て機です。」
自分で言ってて訳が分からないが、ここまで来たらもう止まるわけにはいかない。
「時間と周期を設定しておけば、燃えるゴミと燃えないゴミ、それに加え資源ゴミも全部自動で捨てて来てくれます。」
受付のお姉さんや3人の少女だけでなく、遠巻きで見ていた冒険者らしき面々も
一様に「何言ってるんだこいつ」と言った顔で俺を見ている。
「えっ? あなた何言ってるの?」
ワンテンポ遅れて、やや小馬鹿にしたような口調でお姉さんが口を開いたその時である。
今まで沈黙していたアーリ〇ンが目を開いた。
「廃棄スケジュール設定モードに移行します。ご希望の時間と対応エリアを指定してください。」
目の前のアーリ〇ンは宙に浮くと、機械的に自身の機能について説明していく。
誰も言葉を発せず、少しの間静寂が包んだ。
沈黙を破ったのはお姉さんの笑い声であった。
「アハハッ、何よそれ。そんな事出来るなら最初に言ってちょうだいよ。」
「これだったら売れ残る事もないだろうし、50000Gの買い取りで問題ないわ。」
「なんなら私もちょっと欲しいかも。朝のゴミ捨て地味にめんどくさいのよね。」
目の前の物体が不良在庫にならないと分かると、奥から持ってきた領収書の様な紙に金額を書き、目の前にいる戦士の格好をした獣人へ渡す。
「はい、これで商談成立ね。」
「大変お待たせしました、次にお待ちの方こちらへどうぞ。」
無駄にした時間を取り戻さんとばかりに、待っていたであろう周りの冒険者へ声を掛けていく。
それを尻目に、俺と残された3人の少女は黙って見合っていた。