冒険者登録
次の話からメインキャラ登場予定です。
「ッッ!! ハァハァ……」
「あの女神様、俺の事ゴミを見るような目で見てたな。」
突然床から落とされる時に見たリスティアの顔を思い出す。
それは怖い夢から目が覚めた時の感覚に似ていた。
「大体セールスマンのスキルってなんだよ。」
魔法や超能力といった分かりやすいスキルだったらと思うのだが、今更文句を言ってもどうしようもない。
「服装もスーツのままか。そういや、アイテムを差し上げるとかなんとか言ってたっけ。」
愚痴を言いながら持ち物を確認すると、餞別なのか見覚えのない少量の金貨が入った袋が1つ増えている。
それ以外には、パッと見では異世界へ来た事を示す様なアイテムは見つからない。
「ギフトに応じてアイテムくれるとか言ってたけど、まさかこれの事じゃないだろうな。」
自分が今置かれている状況の確認が終わり、改めて周りの景色を見渡す。
そこは舗装された道路やビルといったものは見当たらない、見渡す限りの荒野。
「北にあるラタセントの街へ行けとか言ってたな。」
いまいち乏しいままの現実感を抱え、言われた方向へ歩いていく。
どれだけ歩けばいいのか不安だったが、思いのほかあっさりと目的地と思われる街が見えてくる。
途中で止められる事もなく、とりあえず街へ入る事は成功した。
「そういや言葉とかどうすんだよ俺。」
街へ入ってから死活問題に気づいたが、そこはどうやらご都合らしい。
知らない単語もあるが、聞こえてくる限り日本語に最適化されている。
そしてもう一つ驚いたのが、住民の外見である。
半ばそんな気はしていたが、予想通りというかファンタジーでよく見るような獣人が何食わぬ顔で歩いている。
ここにきてようやく、本当に異世界へ来たんだと実感が湧いてくる。
いきなり獣人に話しかけられるはずもなく、道行く普通の人間らしきおじさんへ
冒険者の登録方法について尋ねる。
格好が珍しいからか怪訝な顔で見られたが、冒険者ギルトの場所について教えてくれた。
教えてもらった建物の前に着く。
外観は大きめのログハウスのようになっており、確かに冒険者ギルドと書かれた
看板が掲げられている。
「すぅー、はぁーー よっしいくか。」
覚悟を決め扉をくぐる。
正面の受付カウンターから、金髪の綺麗なお姉さんがこちらを見つめている。
カウンターに近づくとお姉さんから話しかけてきた。
「こんにちは、本日はどういったご用件になりますか。」
こちらの服装を見ても全く表情を変えずに愛想よく接してくるあたり、一定以上の仕事へのプロ意識を持っている事を感じさせ、少し緊張が和らぐ。
「冒険者登録をしたいんですけど。」
「初めて冒険者登録をされるという事でよろしいですか?それではまずこちらの紙へご記入をお願いします。」
お姉さんから差し出された紙には名前や年齢、所持スキルなどを書く欄があった。
最初から日本語なのか、それとも自動で現地語から変換して読めるようになってるのかは分からないが、とりあえずの第一関門突破に安心し、書ける部分について埋めていく。
「浅井怜也さん、28歳ですね。スキルはセールスマン?と中型免許?をお持ちなんですね。」
スキルの部分に聞きなれないような反応を示すお姉さん。
書くだけ書いておけばと思ったけどやっぱりダメか。
ここまでの道のりとお姉さんの反応から、手持ちの資格は今のところ何の役にも立ちそうにない事を悟る。
「それでは、簡単に冒険者ギルドについて説明させてもらいますね。」
「ここ冒険者ギルドはルベルマイン全土にあり、冒険者さんの情報を管理しています。」
「冒険者証の喪失時の手続きや、冒険者ランクのアップはどこのギルドでも出来るので安心してください。」
「ギルドで認められているスキルを持っている方は別なんですが、通常はDランクからスタートになります。」
「次にお仕事についてですが、各街にある商会で自分のランクに合ったものを請け負っていただきます。」
「冒険者ギルドでは基本的にお仕事を依頼する事はありません。」
「ただし気を付けていただきたいのが、依頼の失敗などが増えると冒険者ランクのダウンや、最悪の場合資格がはく奪されますので注意してくださいね。」
つまり、冒険者登録した人間が各街の商会に行って仕事をもらう感じか。
詳しくは分からないが、生きてる時に見てきた現代社会のあれと同じで、色々横の繋がりがあるんだろう。
なんとなくだが、仕組みは理解してきた。
「ちなみにスキルっていうのはどういうのがあるんですか?」
「ギルドで認められているのは、主に属性魔法や神聖魔法になります。」
「それ以外にも古代魔法ですとか、もちろん私も知らない未知のスキルもありますが、残念ながらギルドでは評価の対象外となります。」
「スキルよりも商会で実績を残す事の方が大事ですから、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。」
俺が使えるスキルがないのを気にしてると思ったのか、にこやかにフォローの言葉をかけてくれる。
見知らぬ異世界で人の温もりを感じ、先程までよりやる気が湧いてきた。
説明も終わる頃、お姉さんから冒険者証なる物をいただいた。
お札サイズのそれは、特殊な素材なのか硬度を感じさせるも重さは全くない。
今後はこれが身分証替わりになるだろうし、無くさないようにしないと。
最後にお姉さんは商会の場所を案内してくれた。
「冒険者ギルドを出て50m程右へまっすぐ進めば商会が見えてきます。目立つのですぐ分かると思いますよ。」
頑張ってくださいね、と笑顔で見送ってくれるお姉さんに感謝の言葉を伝えると
まっすぐ商会を目指し歩く。
言われた通り進むと、やがてギルドによく似た建物が見えてきた。
他にそれっぽい建物もないし、あれだろうな。
期待と不安を抱えつつ中へ入ると、女性の言い争う声が聞こえてきた。