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アイズ Eyes  作者: たぬち
ロッククッキー

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闇に堕ちし者たち

今回は飲酒描写があります

 勘太達3人は砂の王撃破の祝勝会をするためにアルメルの行きつけだという酒場へと来ていた。


通りから少し入ったところに見えにくい入り口があり、どうも秘密基地のような雰囲気のある酒場だ。


薄暗い店内の奥には酒樽が並んでおり、どうもここは酒蔵も兼ねていそうであった。


客もどこか目つきが鋭く、表通りで飲んでいる住人達とは異なる危険な雰囲気を放っていた。


アウトロー御用達ということだろうか。


「アルメルじゃねえか、生きてやがったか。お前の組織は壊滅してお前は死んだって聞いたんだがな。見たところ元気そうじゃねえか。また新しい企みでもあるのか?」


店のマスターらしき人物がアルメルへ気さくに声をかけてくる。


「マスターこそもう老いぼれてくたばったかと思ってたぜ。」


アルメルも軽口を叩く。随分親しい様子で、行きつけという話は本当だったようだ。


マスターが勘太とトンチボに気づいて言った。


「お?後ろの2人はお前の新しい部下か?1人は十分そうだが、もう1人はまだ子供だな。そんなんで良かったのか?アルメル。」


「いやいやマスター。この人らは俺が今いるパーティーのメンバーさ。この子供がリーダーで、こっちのおっさんは…多分戦士職だ。」


アルメルの言葉を聞いたマスターは思わず疑わしいという眼差しを向ける。


「この子供が?お前のパーティーのリーダーだって?アルメル、お前入るパーティー間違えてないか?」


マスターの言葉にさすがに勘太は腹が立ち、ガツンと言ってやろうかと思った時、アルメルが怒りを込めて口を開いた。


「おい。いくらマスターだからといってそれ以上の侮辱は許さんぞ。こいつは全力の俺との一騎討ちに勝利したんだ。こいつを侮辱することは俺を侮辱すること以上の大罪と思えよ。」


アルメルはそう言って強くマスターを睨む。


「お、おお。悪かったよアルメル。それにあんた達も、失礼な態度を取ってすまなかった。詫びとして今日はとっておきの品を出させてもらうよ。」


勘太はアルメルがここまで義理堅い人間であるとは思っていなかった。しかし、意外にもアルメルは勘太に仲間としてのリスペクトを持っていることを知り、どこか嬉しい気持ちになった。



席についた勘太達の元へ樽酒が樽ごと運ばれてきた。


店主が樽を指差して説明する。


「これは炎蛇をつけ込んだ蛇酒だ。こっちのは蠍をつけ込んだ蠍酒だな。蛇酒の方は焼けるような感覚を、蠍酒の方は麻痺して痺れるような感覚が味わえる。どっちもロッククッキーの裏市場にしか流れてないから表で飲めるのは醸造所も兼ねてるここくらいさ。」


「へえ、蛇酒とは珍しいな。しかも炎蛇か。蠍酒はちょくちょく見たことあったが蛇酒は数える程しか見たことがない。炎蛇のやつについては初めてだ。」


アルメルが驚いたように話す。


トンチボも


「炎蛇は全身から炎を吹き出す特徴があるんで酒漬けにするのは至難の技だと聞いたことがありやす。一体どんな味がするのやら。」


と蛇酒に興味津々といった様子であった。


「お気に召したようで何よりです。料理の方も酒に合うのを持ってきますのでしばしお待ちください。」


そう言うとマスターは厨房の方へ戻っていった。


「リーダー、じゃあ酒を分配してくれよ。」


アルメルが言う。


「好きに取ればいいじゃないか。」


勘太がそう言うと、アルメルはやれやれと首を横に振って言った。


「あのな、こういうのはリーダーであるお前がすべきことなの。食料、酒、水、あらゆるものの裁量がリーダーに委ねられる。そこにリーダーとしての資質が出るんだ。」


更にトンチボまで


「アルメルの言う通りでさあ。不満が出ないように取り分けられるのは優秀なリーダーでなければ為せないこと。そういう部分を見て仲間はその人についていくかを決めるんでさあ。今後旦那はより多くの仲間を率いることになるやもしれん。その時のために今からその術を知るべきだとあっしは思いやすね。」


などと言い出した。


「そういうものか。なら俺がやるよ。」


勘太は渋々ながら2人の盃と自身の盃に蛇酒をなみなみと注ぎながら自身が巻き込まれたしがらみを実感していた。


「さて、では砂の王撃破を祝って乾杯!」


「「乾杯!」」


盃がぶつかり合い、蛇酒が飛ぶ。


3人は自身の盃をぐいと勢いよく飲み干した。


勘太の喉を蛇酒が通り抜けようかと言う時、勘太の神経という神経が焼き尽くされるかのような熱を感じた。


「ぬおおお!?」

 

まさに勘太の全身を焼き焦がされているかのようであった。


「うおわ!?」


「これは!?」


アルメルにトンチボも勘太同様、そのあまりにもな熱に驚いて声を上げた。


全身が一通り焼き尽くされたかと思う頃、勘太の肉体は確かにそこにまだ完璧に残っていた。


身体や衣服がすべて燃えてしまったのではないかと咄嗟に自身のすべてをくまなく確認するが、そこには蛇酒を飲む前となんら変わらないいつもの肉体と衣服があった。


魔術による攻撃でも受けたかと思わせるほど強烈な炎蛇の力に勘太は少し恐れを抱いていた。炎蛇本体をのみ込んだ訳でもなく炎蛇をつけ込んだだけの酒でこれほどの幻覚を起こせるのであれば本体の炎を受けた瞬間に勘太の身体は灰燼と化すだろう。


蛇酒はしばらく御免被りたいと思ったところであるが、勘太は蠍酒ならばどうかと考えて試してみることにした。


「2人とも、蠍酒の方は飲むかい。」


勘太はトンチボとアルメルにも蠍酒を誘う。


「ああ、さっきのが強烈すぎたんで少し欲しい。」


「あっしは蛇酒のおかわりを。」


トンチボの蛇酒おかわり宣言にアルメルは信じられないといった目を向ける。


「よしわかった。」


勘太は2人の盃に蠍酒と蛇酒を注ぎ、自分の盃に蠍酒を注いだ。


勘太は蠍酒の入った盃を口へと運ぶ。


口へ含んだ瞬間から、いや唇に蠍酒が触れた瞬間から少しずつ痺れが伝わってくる。


やがて口内が蠍酒に沈むころには頬から舌までが痺れに包まれ、それは一向に弱くならなかった。


蛇酒ほどの強烈さは一見ないように思えるが、真に驚愕すべきはその効力の長さと言えるかもしれない。


とうに腹の奥まで行ったであろう頃でもまだ唇の痺れが取れていなかった。


更にその痺れから来る震えは全身へ伝わり、指先はけいれんするかのように震えていた。


全身の筋肉がいつも以上に躍動し、神経が麻痺していくのを感じていた。


これは最早酒ではなく毒ではないのかと思わずにはいられなかった。


トンチボが蠍酒を避けて蛇酒を選んだ理由も頷ける。これでは剣どころか箸やフォークもまともに握ることができない。


盃を持つ腕さえ震えて酒を跳ねさせる始末だ。


小一時間程してようやく震えと痺れが取れた。


勘太は蠍酒を二度と飲むまいと誓った。



しばらくして、


「はいお待ちどおさま。腕によりをかけたこの店の名物、とくと味わってくれ。」


とマスターが熱気立ち込める大量の料理を運んで来た。


「あんたらこっちの出身じゃなさそうだからこっちの名物料理を作らせてもらった。これがハイドフィッシュのフリット、レモンは自由にかけてくれ。こっちがエンドレスシープの香草焼きとドラキュライーグルのグリルだ。イーグルの方はやや癖が強いかもな。ちなみにアルメルはイーグルのグリルが大好物、やっぱ悪党の口には血が合うんだろうな。」


「ちげえよ。イーグルは味が強烈だから酒との相性が良いだけだ。」


マスターはアルメルの言葉を無視して続ける。


「肉ばかりで休みたい時には暴君サソリの野菜スープがおすすめだ。サソリ毒の刺激と旨味でまた食欲が湧いてくるぞ。つまみが欲しくなったらウルフホッパーのかき揚げがおすすめだ。ザクザク食感と濃い味付けで何杯でも酒が飲めるぞ。そんでもってやっぱ最後がこの大鍋に入ってるブラッドスネークの赤ワイン煮込みだな。後にしておくことで全体に血と酒が馴染んで濃厚かつ後腐れのない口当たりになるのさ。最初と最後で味の差を感じるのも悪くない。料理の説明は以上だ。アクアスカッシュのゼリーもあるから一通り食べたら言ってくれ。じゃあ俺は戻るから楽しんでくれよな。」


そう言うとマスターは快活な足取りで奥のバーカウンターへと戻っていった。


「さて、どれから食べようか・・・。」


勘太はテーブルを見回し、無難な香草焼きから手をつけた。


噛み締めた瞬間、大きく育った羊のたくましい肉が口の中へ広がり、肉の旨味が駆け巡る。気合を入れて噛み千切ると豊満な肉汁が喉を潤し、香草の新緑が鼻から抜けるのを感じる。砂漠の枯れた大地であっても、そこに根を張り力強く生きる命があるということを香草焼きは勘太に伝えてくれる。その旨味は終わりを知らず、旨味を飲み込んだ先から旨味が産まれてくるようであった。気づけば勘太の頬を涙が一筋伝っていた。完全に無自覚である。


「なあリーダー、こっちも食ってみろよ。」


アルメルが勘太にワイン煮込みを勧める。


「そうだな。」


マスターによれば最初のまだ煮立っている煮込みの味と落ち着いた頃の煮込みの味は違うらしい。今試さなければもうこの先味わう機会など巡ってこないかもしれない。


そう考えて勘太は煮込みを自分の小皿に取り、食した。


歯を肉へと食い込ませる程にブラッドスネークの体液がにじみ出てくる。極上の一搾りと言うべきだろうか。爬虫類の肉というのは淡泊な味わいになりがちだが、この煮込みはそうではない。この圧倒的なまでの肉々しさが己の古い価値観を塗り替える。またそれでいて生の肉のような弾力が煮込まれているにも関わらず残っている。喉奥へと飛び込む最後までその存在を強く印象づける圧倒的な存在感。まだ生きているのではないかと思うほどの躍動感をもって口の中から煮込みは消えていった。


「次は・・・。」


口を落ち着かせようとサソリスープを飲もうとした時、入り口の方から怒号が響いた。


「てめえどういう了見だ!」


見れば黒衣の集団が入り口近くの二人組とトラブルになっているようだった。しかも二人組の内一人はテーブルに突っ伏したまま動かない。


ならず者どうしの喧嘩かとも思ったがどうにも様子がおかしい。勘太の何かが黒衣の集団に警鐘を鳴らしている。


「どういう了見か、ですか?邪魔だったもので、貴方のご友人が。それでひと眠りしていただいたという訳です。」


黒衣の集団でも少し高級そうな衣服を身にまとう者はそう言った。


「ひと眠りだと?ふざけんじゃねえ!睡眠魔術ならなんで俺のダチが冷たくなってるんだよ!返せよ!俺の親友を!」


男は強く吠える。


「うーん、貴方五月蠅いですね。ご友人のところへ送って差し上げましょう。」


「何を・・・。」


「黒魔術:アビス」


黒衣の男がそう唱えたかと思うと、吠えていた男の身体が足元から黒く染まりだし、次第に崩れ出した。


「うわああああ!なんだよこれ!俺が・・・、俺が消えていく・・・。」


黒く崩れて胴体まで塵となり男は遂に頭のみとなる。


「なあ、許してくれよ。何とかしてくれよ。ダチのことは水に流すからよお・・・。」


そう言って命乞いをする頭を黒衣の男は踏みつけて言った。


「愚民のお前ごときが暗黒と一体になれるのだ。光栄に思うが良い。」


「そ・・ん・・・な・・・・。」


それを最後に男の頭は黒く崩れ、消え去った。

あけましておめでとうございます。旧年中にロッククッキー編を終わらせたかったのに達成できなかったことお詫び申し上げます。


黒衣の集団は大賢者トゥルールが戦った暗黒と関係がありそうな人達ですね。次回をお楽しみに。

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