新たな目覚め
砂の王を遂に撃破し、勘太達はロッククッキーにあるギルド支部へ心臓を持っていった。
ギルドへ戻ると受付嬢が酷く申し訳なさそうにしていた。
なんでも砂の王はS級冒険者のみで構成されたパーティー、あるいは歴戦の兵士から編成される軍隊に依頼して討伐させるレベルの危険なモンスターであり到底初任務でやるような仕事ではなかったらしいのだが、ギルドの手違いで正しい情報が反映されていなかったようであった。
道理で死にかけた訳だ。
「本当に無事で何よりです!砂の王が倒せなかったからと言って落ち込まないでくださいね。」
受付嬢は血まみれの勘太達を負けて帰ってきたと思っているようだ。
「いや、倒してきたんだが。これがその証拠だ。」
勘太は心臓の一部と砂の王が持っていた魔力核を机に置いた。
「こっちもそうだぞ!大変だったんだからな!倒すのも運ぶのも。」
アルメルも荷物から運ぶために切り分けた心臓の残り、それに砂の王の目を置く。
「ええ?ええええええええ!?あの砂の王を倒しちゃったんですか!?」
受付嬢が目を飛び出させて驚く。ギルドにいた人達もその声を聞いてざわめきはじめる。
「あの若さであんなデカいやつを・・・。」
「眼だけでも俺よりでけえ・・・。」
「ロッククッキーの地下深くに巣食う巨大ワームの噂は本当だったのか。」
「あの少年達が倒したのか?」
「いや、一緒にいるおっさんが全部やったんじゃねえのか?」
「よくできた偽物かもしれん。」
「あの怪我も演技か?」
本当に様々な声が聞こえてくる。
「と、とにかく鑑定に回します。待っている間に治療を受けてください。」
そう言われたので、勘太達は鑑定の間に医務室で手当てを受けていた。
治療が終わり、ベッドで安静にしていた勘太達の部屋にギルドの人がやってきた。
「鑑定の結果、あれらのモンスター素材は本物であると結論づけられました。よってこれにて任務達成となります。達成報酬とは別に厄災級魔獣を討伐したことによる特別報奨金も出ますのでそちらもご確認ください。」
「ありがとうございます。」
「では失礼します。」
ギルドの人が去った後、アルメルが呟いた。
「そうか・・・。俺達勝ったんだな。」
「そうだぞ。俺達は勝てたんだ、砂の王に。」
勘太とアルメルは勝利の余韻に存分に酔いしれた。
だが、勘太は砂の王との闘いでひとつ気になっていることがあった。
「なあアルメル。お前が砂の王を磔にした最後の魔法、あれは間違いなく白の魔法だった。あれを使う前、俺に白の魔力を流してくれって頼んだだろ?アルメルには白の魔力適性はなかったはずなのにどうして白の魔力を受け取れると思ったんだ?」
アルメルは答える。
「ああ、最後のやつか?なんとなくだ。あの時、俺にも白の魔力が使えるような気がした。だからリーダーに向かって手を伸ばした。」
アルメルがそう語る時、勘太はアルメルの目に浮かび上がっていたダイヤの紋章について考えていた。
あれは勘太が魔力鑑定をした時に見たスペードの紋章と繋がりがあるのではないかと。
事実、今の勘太はアルメルに対してただのパーティーメンバー以上の何かを感じていた。
遠い遥か彼方から続いてきた繋がりがあるという感覚を憶えていた。
「なあ、アルメル。今の状態でも白の魔力は使えるのか?」
勘太は自身の心の中にある疑問を解決すべく質問した。
「え?今か?どうだろうな…。おっ、できたぞ。」
そう言うとアルメルの指先から白の魔力が溢れて漏れ出してくる。
これで勘太は確信した。
アルメルこそ謎の声が示した勘太の仲間となる存在であると。
その時、勘太の魔力がアルメルの魔力と共鳴し、二人は光に包まれた。
光の中で二人の前には巨大な純白の翼を持ち、透き通る滑らかで白い肌、頭上に金色の輪を持った息をのむほど美しい存在がいた。
そんな存在を見てアルメルが呟いた。
「天使様・・・。」
勘太が驚いて何も言えずにいると、天使様と呼ばれたその存在は口を開いた。
「久しぶりですね。アルメル。そして貴方は初めましてですね。では少し私について話しましょうか。私こそがこの人間界を見守る天使です。普段は神の命令に従って世界のバランスを調整し、世界に危機が訪れた時は顕現して、この世界を様々な方法で導いています。」
なぜそんな存在が勘太のようなただの少年の前にいるのか、勘太はわからなかった。
「天使様はどうして俺とアルメルの前に姿を見せたのですか?」
天使は答える。
「それは、貴方たちに頼みたいことがあるからです。」
「頼みたいこと?」
天使は続ける。
「伝承程度であれば伝わっているかもしれませんが、この世界を分かつ壁ができる頃、大賢者トゥルールに私達はある秘宝を授けました。龍の眼ことドラゴン・アイと天使の眼ことエンジェル・アイです。大賢者トゥルールの没後、その強大すぎる力を持った二つの秘宝は世界のどこかへ消えました。」
そう言うと天使は前髪を捲り上げ、自身の左瞼を開けた。その瞬間、勘太とアルメルは絶句した。なんとそこには眼がなかった。
天使は更に続けた。
「私たちが直接探しに行くのは世界への影響が大きすぎます。そこで人間界に住むもの達に眼を探す力を与えて、探してもらうのです。」
そこまで聞いたところでアルメルが尋ねた。
「大賢者トゥルールなんて神話の時代の話だぜ。なんで今まで見つかってないんだ?」
天使は答える。
「長い間、秘宝の捜索を行うために人間達に力を与えてきましたとも。しかし、多くの人間はその力を正義をなす為ではなく、己の私欲を満たすために使いました。その結果として人の世には争いが増えることに・・・。私達が与えた力こそ貴方たちが使っている白の魔力であり、それを邪なことに用いようとすると闇の者が契約を持ち掛け、それに応じると黒の魔力へと変質します。この世界に溢れる黒の魔力の使い手は皆、白の魔力で過ちを犯し悪魔に魂を売った者なのです。」
天使の口ぶりからは人間の愚かさに失望している様子が見てとれた。
「貴方たちが持つ白の魔力は特別です。ダイヤ、スペード、ハート、クラブの魔力を持った4人が揃うことで白の魔力が秘宝の場所を示してくれます。一人で持つにはあまりにも強大な力であっても四つに分けることによって人間の体になんとか収まるのです。アルメルはダイヤ、貴方はスペードの魔力を持っています。残るクラブとハートの力を持つものを仲間とし、4人で秘宝へと辿り着くのです。」
勘太は天使へと尋ねる。
「残りの二人はどのように見つけるのですか?」
天使は微笑み、答える。
「案ずることはありません。貴方の心が赴くままに旅を続ければその先に必ず現れることでしょう。」
勘太がこれまで同様に旅を続ければ勝手に残りの二人にも出会えるらしい。世界を救う、とかに匹敵しそうな使命かと内心嫌になっていたが、やることが変わらないと分かり、勘太は少し安堵した。
「では、頼みましたよ。」
そう言うと天使は消え、光も消えていった。
光が消えた時、勘太とアルメルは元の医務室に戻っていた。
「おっ、いたいた。旦那にアルメル、二人ともどこ行ってたんで?これからお楽しみの報酬確認だってのに。」
トンチボが元気に話しかけてくる。
「ああ、実はむっ・・。」
勘太がトンチボに起きたことを話そうとした時、アルメルに口を塞がれた。
アルメルは勘太に耳打ちする。
「おっさんに話すことじゃないだろ。おっさんは天使から力を授かった訳じゃない。秘宝の力を前にしたおっさんがどういう行動に出るかは予想がつかない。それにこの先秘宝を巡ってどんなことが起こるかはわからないんだ。いくらおっさんが強くても無制限に巻き込む訳にはいかないだろ。」
アルメルの言葉に勘太はトンチボ自身が旅に同行している目的が実は不明であることに気づかされた。
表向きはマギー村からの依頼で勘太に同行してサポートをするということになっているが、マギー村にとってトンチボは最高レベルの戦力だ。それは本人も十分承知しているはずだ。それなのにトンチボは勘太に同行した。
そもそもなぜマギー村に襲撃が起きた時トンチボは戦っていなかったのだろうか。彼が戦っていればあの戦いの犠牲はもっと少なく済んだはずだ。力を村民には隠していたとでも言うのか?もしやトンチボには別の狙いがあるのではないか。
考えるほどトンチボへの疑いは強くなる一方であった。
「どうしたんだ?アルメル。急に旦那の口を抑えたりして。」
いつも頼りになったトンチボの声が、今ではとても恐ろしく聞こえてしまう。彼の底知れない考えが勘太の不信感を募らせていく。
「なんでも。リーダーと俺の秘密を急に喋り出そうとするもんだから慌てて抑えただけさ。」
アルメルが苦しい言い訳をする。
トンチボは訝しむような表情を見せる。
「すまないアルメル。迂闊だったよ。さて、そんなことより討伐報酬を確認しよう。」
トンチボの関心を報酬へ向けようと、勘太は足早にギルド受付へと向かった。
受付で今回の報酬を確認したパーティーは喜びの声で包まれた。
「うおおお!凄え!こんなに貰えんのかよ!」
「いやはや、これで当分は困りやせんぜ。」
そこに記されていたのは勘太の想像を超える程多い金額であった。
正直かなり贅沢な生活をしても向こう10年くらいは生きていける額だ。
「厄災級の魔獣倒すのって儲かるんだな。」
勘太は呟いた。
しかし、勘太の目的は魔獣の生態を記録し図鑑を作成することであって、報酬ではない。
それに天使様に頼まれた件もある。これだけあれば旅の道中について心配することもなさそうであり、存分に旅が出来そうであった。
「なあリーダー!せっかくこれだけの金があるんだし今日は勝利を祝って盛大に宴をしようぜ!」
アルメルが嬉しそうに話してくる。もう既に小躍りしているようにもみえた。
「おおいいねえ。あっしもアルメルに賛成するぜ旦那。こんだけあるんだからパーッと使っても十分に余りやすぜ。」
トンチボもアルメルの提案に乗る。
勘太としても宴会をやることはパーティーの結束を強める上で悪くないことだ。
それに砂の王との闘いは命がけだった。何か楽しいことをして気晴らしをしたいという思いも勘太にはあった。
「いいよ。せっかく砂の王を倒したんだ。こんだけ金があればどんなものでも食えるだろうさ。」
「よっしゃあああ!さすがリーダー、そうこなくちゃ!」
アルメルの喜びの声があがり、勘太の背中を何度も叩く。
「ははは、痛いぜアルメル。」
勘太はアルメルの無邪気さを嗜めるように言う。
「ははは、すまねえ。リーダーはこういうのに乗ってくる性質じゃないと思ってたからよ。嬉しくてつい。」
「そんな風に思ってたのかよ。」
「ああ、リーダーってどことなく良いとこの坊ちゃんみたいな雰囲気があるからよ。」
「こいつ~。」
アルメルの頭に拳を擦りつける。
「まあ、それはそうとしてせっかくならゴールドストリートに行ってみないか?あっちなら美味いものが食えると思うんだ。」
「ええ~。ああいうところだと色々厳しくて俺みたいなのは楽しく食えねえよ。」
アルメルが不満そうだ。それを見たトンチボが嘲るように言う。
「ほーん、元棟梁様が聞いて呆れるねえ。」
「うるさい!」
アルメルが即座に噛みつく。
「おーこわ。まああっしも庶民的な酒場でパーッとやる方が性にあってるんですが。」
「おい。なら今のはいらないだろ!」
トンチボに無駄に揶揄われたことを知ったアルメルは声を荒げた。
「まあまあ落ち着いて。わかったよ、なら今回は酒場で楽しくやろう。」
勘太が二人の衝突を防ぐ。
「中心街に俺の行きつけがあるんだ。そこにしようぜ!飯も美味いし酒も樽で頼めるんだぜ!顔見知りだから隠しメニューなんかも出してくれるだろうし。」
「なるほどな。じゃあそこにしようか。トンチボはどうだ?」
アルメルの提案を受けて勘太は聞く。
「あっしもそこで構わんですぜ。樽酒を干す程に飲むのは久方ぶりで今から楽しみでさあ。」
「よし、決まりだな。今日の日の入りまで結構時間があるから一旦解散して、暮れてきたらそこへ向かおう。」
こうして三人は宴をすることになったのだった。




